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「やぁやぁ100回目の生贄、大変お疲れさまでした!」
ふと目を開けると真っ白な場所にいた。
右を見ても左を見ても何もかも白の世界。
自分の身体を確認しようにも何も見えない事に、あぁここは死後の世界なのだと理解した。
「身体は無いよ、君の魂だけがここにあるのだから」
「あなたは誰?」
白い世界に声だけが聞こえる。
その声はもの凄く軽薄そうな男の声だった。
声だけ聞けば若そうに感じるが何も見えないのでわからない。
「そうだねぇ、君の死を見守ってきた者、かな」
「単に見守ってきただけなのね」
「いやぁ、流石は生贄のプロ!魂の強さが違う!」
なんだ、生贄のプロって。
「君はね、生贄のプロとしてこれまで転生を繰り返し100回殺されたのだよ」
100回。
思わず自分の口の中で小さな声が漏れた。
私は生まれ変わる度に100回も殺されていたのか。
どのときも16歳を迎えられず、酷いときは赤ん坊の時にも殺された。
いわゆる、一族根絶やしパターンだ。
全てを覚えてはいないが、かなりのパターンを味わって殺された気がする。
「ところで生贄のプロって何?」
「やっぱ気になっちゃう?気になっちゃうよねぇ?!」
くい気味の男の声に腹の底からイラッとした。
今、自分に腹があるのかは知らないが。
「世界というのはどうしても人々の悪い感情が溜まればひずみが生まれてしまう。
その際に人々は、無意識に生贄を差し出して調和させた」
「確かに崇高な生贄といわれる儀式もあったけど、ただ殺されたってのが多かった気がするのにそれが意味を持つわけ?」
私の突っ込みに、まぁ待ちたまえよ、と妙に演技チックな声が返ってくる。
「君が殺されたのは全て世界を調和させる為だ。
それも君は過去から100回という訳じゃ無い。
世界というのはいくつもあって、君は色々な世界に転生している。
先ほど言ったように各々の世界で人々はその世界から消されないために生存本能としてなのか生贄を世界に差し出し、歪みをただす。
その為にはそれが調和できるほど能力の高い者が必要。
で、君に白羽の矢が立った。
おかげで今、色々な世界はかつてないほど落ち着いて動いている。
これは君の為したことだよ」
「ちょーっと待った!」
「質問する場合は挙手をお願いします」
「そもそも手が無いのよ!」
「あ、そっか」
メンゴメンゴと笑い声がして、本当に苛立つ。
殴りたいのに殴れない、もの凄いストレスだ。
「さっき言ってた内容を聞くと、私は世界を守るための能力が高いから生贄にされたと言うこと?」
「そうそう」
「で、誰が私に白羽の矢を立てたの」
シン、と空気が無くなったのかと思うほど静かになった。
空気が在るのか知らんけど。




