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この国、アウィン国は今の国王が即位して十数年戦いは無い。
だが周辺国での小競り合いは続いており、もしも私が使う魔法を知られた上で攫われれれば、間違いなく戦争に利用される。
だから私の能力は公にすることが出来ず、一人の簡単な治癒魔法をするだけで体力を奪われるという事になっていた。
私は101回目の転生では幸せに過ごしたいと願った。
だが私の魔法はどう考えても戦争で使用しかねない能力なのは何故なのか。
それを考えるとこの転生した世界でも気が抜けないのではと、100回殺された身としては警戒心が湧いてしまう。
目の前に小さなグラスが差し出され、私はその差し出した相手に顔を向ける。
「少し喉を潤されてはいかがですか」
にこりと微笑むハーディスに何故か酷くホッとした。
彼は今までもこうやって寄り添ってくれた。
両親ですらわからない私の心の機微をすぐに感じ取ってフォローしてくれる。
受け取った飲み物を口にすれば、甘いフルーツジュースが私の気持ちを落ち着かせた。
「いつ見ても良い男だね君は」
「ありがとうございます。
お嬢様に気に入って頂くため、毎日肌の手入れは欠かせません」
思わず飲んでいたジュースでむせた。
ハーディスはキメ顔で訳のわからないこと口走ったが、ヘリオドール公爵は笑っている。
なんなの、この変態執事の発言と行動に対して皆寛容すぎるのでは無いだろうか。
「ティアナ様、そんなに私を熱く見つめないで下さい。
ご要望とあれば夜伽でも如何様にでも伺いますので今はご辛抱を」
「貴方は少し黙って」
胸に手を当て真面目な顔で言ってきたハーディスを冷めた目で言えば、周囲は楽しそうに笑っている。
うん、幸せで穏やかな世界だけれど何か違うのは無いだろうか、これ。
その後も祝いを言いに来てくれる出席者に父親、母親と一緒に挨拶をして回り、その後ろをハーディスが護衛のようにピタリとついて回る。
最後は二階に上がるその階段の途中で多くの参加者を前にし、両親と供に私はその横に立つと笑顔を浮かべた。