打上花火_3
「いった! あ、すみま――」
「いってぇなハゲ! 気ぃつけろやっ!! ラブアンドピースだぜっ!!」
「あ! なっ! ハゲてねーよっ! てっ! ぁあぁああぃぃいいてててっ!!」
思った通りケズバロンの中はさながら休日の夢の国の如く、大勢のヒトで溢れ返っていた。
いつも以上に溢れるヒトゴミに呆気に取られていた俺は今まさにチンピラとぶつかり、格好悪く尻もちをついたというわけだ。
あげく去り際にハゲ呼ばわりされて、いきなりカーズの洗礼をもろに喰らい、俺はひっくり返ったゴキブリみたいにカサカサともがき苦しんでいた。
「ち、くっそ……。ナタさえありゃこんな目になんて……。覚えてやがれあの野郎――」
そうして負け犬の遠吠えと共にチンピラの憎たらしい背中を見送ったのだが――
いててて……ん? アイツの後頭部、薄くね――
「あっ! クソ! アイツの方がハゲじゃねーかぁっ!! いてっ! ててて……。」
「もう何してんの? かっこ悪いなぁ……。大丈夫? ちゃんと着いてこないと迷子になるよ? ほら。」
え? 別に俺が悪いわけじゃないんだけど……。
ファラは呆れた顔で俺の前にしゃがみ込むと、顔の前に右手を差し出してきた。
て、おい――
「あのなぁ、そーゆーのは普通逆なんだぞ……。」
そう言ってこっちはこっちで呆れながらもファラの手を借り、俺は腹痛に耐えながらヨロヨロと体を起こした。
「え~? だって、しー君アタシより弱いじゃん。」
「たくっ、かわいくねぇな。」
そうして柄にも無く、なんだか可笑しくなって2人して笑ってしまった――まさにその瞬間だった。
あまりの音の大きさに心臓が飛び跳ねそうになる――
そして爆音に覆いかぶさるように、幾重にも折り重なる光の花束は盛大に街の夜空を彩る。
そこにいた全てのヒトの心が一様に、空を彩ったたった一つのその灯に奪われていた。
ー おおおおおおおおおおおぉ~!! ー
腹に響くほどの爆音も止まぬうちに、大きな歓声が湧き上がる。
花火が弾けるたびにあちこちに笑顔が咲く。
次から次へと空へ上がっては消えていく、一瞬の命だ。
けど――それを精一杯謳歌するかのように、空から落下してくる儚い轟音と絢爛の大輪。
これ程とは――いや、これ程だったのだろう……。
焼き付けられるように、目に光が宿った気がした。
全身の毛が一斉に逆立ち、驚きと懐かしさで胸がいっぱいになり、感動で、言葉を失う。
ふと花火に見とれていたファラが俺の方に振り返った。
「花火綺麗だねっ。しーくんっ!」
…………。
あれ、こんなこと――
前にも――




