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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第一部 4章 ホールディングアブセンス
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In Circles_4

「お爺さん……? 何かあったんですか?」


 いや、お前もな……。どうしたそんなズタボロになって……。

チトさんの顔を見た途端、ズタボロのアスがその異変に気付く。

正直色々と気になることもあったが、今ここで口にすることだけははばられた。


「ん、なに、ちと目にゴミがの……。」


「え……。」


 ウソが下手。

いやベタだった……。

チトさんは涙で赤らんだ顔をわざとらしく拭った。


「そうですか、随分厄介だったみたいですね。」


「それな。」


……。


「クッキーとアイス買ってきました。

 ダーティリトルシークレットのシュガーハニーアイス、お爺さん好きでしたよね。

 沢山ありますし、溶けちゃうので早く食べましょう。」


「アス、いま少しハンターさん方から話は聞かせてもらったでの。」


「お爺さん、違います。いま僕はナツです。」

 

「アス。」


 それまでの何とも言い難い空気から一転、急に嫌な沈黙が訪れる。

いびつな空気、ゆがみ、ひずみ。

心が不安で濁る。淀む。

ピリピリと空気が痺れているのを感じる。


「あの、折角のアイスも溶けてしまうと勿体ないので、ひとまずお茶にしませんか?」


 俺は割って入り、平静を取り繕ってお茶を濁す。

この空気は入れ替えないといけない――そう感じた。


「そうじゃな。ナツ、テーブルにお茶菓子の用意をしてくれ。すぐにお茶が入る。」


「あ、俺たちも手伝います。」


 チトさんは湯呑に注いだお茶をそのまま捨てると、代わりに紅茶を入れ始めた。

俺とファラは食器の用意を。

別にたかだか4人分用意するのに2人も必要ないが、やはり気まずい。

一度綺麗に整え直すためにも、必要な行為。

そうしてしばし、いびつな4人は甘い菓子を囲んで談笑にふけった。

砂糖と蜂蜜を混ぜたような甘ったるいこのアイス――正直俺の好みではない。

ファラにとってもそれは同じだっただろう。

それでも今の俺たちには必要不可欠だった。

と思っていたが――


「うぅ~んましぃ~……。」


 ファラは気に入ったのか、先ほどの事など無かったかのようにアイスに夢中だった。

それを見て呆れる反面、少し安心した。


「それで、ナツ君の降霊術なんですが――」


「あれは本物じゃよ、疑いようのない正真正銘の降霊術だ。」


「けれど、俺はガンジーを呼んだのに、出てきたのはガン爺という全くの別人で……。

 どう考えても、納得のいくものではないと思いますがね。」


「むっ、失礼ですね。僕はちゃんとガン爺を呼びました。何が不服だったんです?」 


「全部だよ! あとガンジーな! ガンジー! アクセントちげーの! わかる?」


「ガン爺――か……。懐かしい名だ……。惜しいヒトを亡くしたな……。」


「えぇ……。本当に……。」


 チトさんは突然先ほどとは別物の重い空気を押し付けてきた。

それに相乗りするようにすかさずナツがノリノリに乗り込む。

が、正直よく解らなかった。


「え、と。え? なんです……?」


「あぁ、あれはもう5年も前になるな……。」


「はい、5年……。懐かしいな。昨日の事のようだ……。」


あ、これ長くなる系のクソ展開だわ。

思えばこの手の展開で面白かったこと一度もねーし、みんな、飛ばせ飛ばせ。巻きでいこーぜ。


「まだアスとナツが元気に野山を駆け回っていたころ、ガン爺はよく一緒に遊んでくれておった。ガン爺は――」


「あ、あの。おトイレお借りしてもいいですか?」


「ん? あぁ、構わんよ。………。ガン爺は――」


 俺は不毛な思い出話から上手く逃げ出した。

何が「野山を駆け回っていたころ」だよ、ウサギか。

てか、ガン爺……実在していた……。

え、じゃああの兄者の腹話術人形はガン爺の……。

うわっきもちわる!

トイレの扉越しに会話が聞こえる。


「そういえば、タケ=ダシンゲンさんもあの頃はまだ一緒でしたね。本当に懐かしい。」


 タケ=ダシンゲンさんも!?

実在していた……。 

いやでも、「あ、ふぅりんかざんん~。」はねーだろ……。

ン、待てよ。

てことはガン爺の言う通り、ふたりは兄弟……!?

うわっきんっもちわるっ!!

チトさんとアスはそんな不気味なやり取りを一時間ほどはしていたと思う。

俺はシリ――ではなく、頃合いを見て席に戻った。


「おぉ、随分長かったの。モリモリか?」


 うるせぇジジィ。

とは言えないが……。


「ははっ、モリモリですっ。」


 アイスを食べていたファラがそれを口に入れる直前、眉をひそめて怪訝な目で俺を見た。

あ、ごめんね。


「あの、お爺さん。そろそろ日も傾く時間ですし――

 久しぶりに……。久ぶりに、一緒に晩御飯でもどうですか。」


「む、もうそんな時間か。そうだな、たまには賑やかな食卓と言うのも良いだろう。

 どれ、お菓子の残りは後でもよかろう。ではお前さん方、すまないが食材をこうて来てくれたもう。」


 チトさんがそういうと、微かにアスが笑ったように見えた。

何故だろう、やはり感情がある――そう感じた。


「では、ナツ食料調達班、買い出しに行ってきます。」


「うむ、良い報告を期待しておる。」

 

「ラジャです。」


 そういうとアスは左手で敬礼した。

コラっそれはダメよッ。

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