Liar_3
翌朝、孤児院へはケズバロンから20分足らずで着いたと思う。
平和ボケした農道を、ひたすらダバに揺られているとあっと言う間だった。
入り口には温和そうな大男が立っていた。
「ヘイ、よく来たね~。君がララちゃんだな? いかにもおてんばだっ!」
男はビーンと名乗った。
俺達同様にそれは名前で、名字は無いそうだ。
で、でかい……。スキンヘッドのパワー系ガチムチお兄さん。
リンネだろうし、もしかすると黒人だろうか?
2メートルはありそうなその大男は子供を安心させるのが上手いのか、或いは性格の良さが滲み出ているからか、ライラはすぐに心を開いた。
「ぅおーーー! すっげー! たっけー!!」
さっそくライラを肩車しながら走り回っている。
まぁともあれ、こんなヒトで良かった。
そう思う反面、ファラのような子に育つんじゃないかと言う不安がよぎった。
チラッとファラを見ると「何よ?」と睨まれ、クギを刺されたような気がした。
実はビーンさんには、ライラの母親の本当のことを話していない。
その必要がないと思ったからだ。
それは俺とファラ、メノさんと3人で話し合って決めた事だった。
「ファラちゃん、久しぶりにウチでごはん食ってくかい?
メノ君に~……。えーと、哀れなカーズ顔のキミ、立ち話もなんだから上がって行くと良い。」
おいコラ黒豆。キサマこの野郎。
「といっても、ウチはおてんばが多いからゆっくりは出来ないがね。」
そういうと豆はガッハッハと大声で笑いながら孤児院の扉を潜ろうとした。この豆が。
「「「あ! 危ないっ!」」」
「え?」
ゴンッッッ!!!
…………。
3人、口を揃えて叫んだ。
その警告も虚しく、事件は起きた。
肩車をされたままのライラは勢いよく扉の枠にぶつかり、2メートルの高さから地面へ派手に落下した。
「て…てへぺろぉ~……。」
「なにしてんだアンタ!」
「普通気付くでしょ!」
「これは、まずいぞ……。」
三者三様、けれど思ったことは一つ。
「ヒック……。」
まずい、泣く!
沈黙し、誰もがそう思った。
「……。」
けれどライラは、泣かなかった。
嗚咽をかみ殺して、ただプルプルと震えている。
かなり痛かったと思う、訳も分からないまま凄い衝撃に見舞われて、さぞ驚いた事だろう。
けれど我慢した。
誰が見てもわかるぎこちない作り笑いを、震えたままその顔に浮かべて。
その壮絶な変顔を見た俺たちは呆気にとられ、思わず笑いそうになった。
「あーはっはっはっはっはっ!! ララちゃん! くっそブッサイクだなぁああああ!」
訂正。
「いやアンタが笑うなよ……!!」
加害者である豆は遠慮なく大笑いしていた。
「えぇ!? だって見ろよっあのペニーワイズみたいなかおーーー!
あーーーはっはっはっはっは!! 腹いってぇなぁ! まったくどうかしてるぜぇ!!」
どうかしてるのはアンタだろ。
「おいファラ、最低だなこのヒト……。」
「えぇ……。昔っからこうなの、アタシこのヒト大嫌いだったわ……。」
え。
「プッ…プッハハッ。おまえっ、それは反則だろっ!!」
そんな場所にライラを預けようと思ったファラも相当にどうかしている。
それを聞いた俺も思わず笑った。
続いてメノさんも、ファラも。
それに釣られて、ライラも笑った。
はぁ……。おかしいったらない……。
――ありがとう。
ライラのお母さん。
ファラに、メノさん。
怒りっぽいウタさん。
優しいイスタさん。
そして陽気な、豆野郎。
ライラを救えたのは、みんなの想いが一つだったからです。
だから、ありがとう。




