Failure_6
メノさんの落ち込み様ったら、それはもう凄かった。
昨晩のウタさんの介抱の後、徹夜でライラへ渡す手記の内容を考えたそうだ。
また女性らしい可憐な字を書くために何度も何度も、宿を出る直前まで書き直したという。
「アレは肝っ玉はでかいが、こういった事にはめっぽう打たれ弱くてな。暫く立ち直れんだろうな……。」
ウタさんが「可哀そうに……」と面倒くさそうにつぶやく。
そんなメノさんの心のケアをしていたのはファラだった。
もしかすると、誰よりも大人で面倒見がいいのはファラなのかもしれない。
メノさんはソファに仰向けに横たわり、胸の上で手を組み一方的に話をしている。
時折「お前に何がわかる!」とバカみたいに声を張り上げるのが聞こえた。
その度にファラは「うんうん……」と寄り添うように話を聞いていた。
カウンセラーか。
「大した話ではなかったから昨日は話さなかったが、実はこちらでも街の捜索班から報告があってな。
当たり前だが、満月の晩にはライラの母親を見かける者はいなかった。
どうやらいつもライラを残して「仕事に行く」と言っていたそうでな。
今となっては当然だが、父親も初めからいない。
ライラが幼い頃などはベンジャミンという老夫婦に預けていたそうだが、ここ最近よその町に引っ越してしまったそうだ。
調査した者の話では、ベンジャミン夫妻はとても心配した様子だったそうだよ。
まぁ、だから今更なにということでもないがな……。」
「そう、ですか……。」
ウタさんはやり切れない様子でため息交じりにタバコをふかした。
あの後ライラは泣き疲れて眠ってしまい、イスタさんに抱えられて部屋を出て行った。
恐らく託児所の寝室にいるのだろう。
実はまだやらなければいけないことがある。
もう一度ライラに会わなければいけない。
そしてそれは、果たせない約束をした、あの嘘を押し付けた俺の役目なのだと、そう感じた。
「ウタさん、どうもありがとうございました。」
お礼を言って執務室を出た。
ずっと握りしめていたそれをじっと見つめる。
幾つもの小さな宝石を並べて象られた、十字架――
十字架、元は罪人を処刑するために用いられる刑具。
重荷、苦難、贖罪の象徴。
ライラの母親が、獣に成り果てた後も肌身離さず持っていたロザリオ。
それはライラの母親の、罪の意識と悔恨の表れ。
神にすがり、許しを請い、救いを求める。
リンネの業苦に蝕まれた母親の、最後の希望だったのだろうか。




