anthem_2
未改稿。
あらやだ……アナタたち、空前絶後の未改稿ゾーンに到達しちゃったみたいね。
何見てんだオラさっさと引き返さねぇとひん剥いてケツの穴ブチ掘るぞコラァ!
ウガァアァァアアアアアッ!!
♡ボーラ・ホルーゾ♡
「……悪いが帰りな。ここはあんたらみたいなガキ共が来るとこじゃねぇ。」
その筋骨隆々な緑のリザードの男は暫く俺たちを品定めするかのように睨んだ後、眉間に皺を寄せてそう言った。
まぁつまり、俺達はギルドにたどり着いて早々「賞金稼ぎに足手まといはいらない」と門前祓いを食らってしまったというわけだ。
「はぁ!? いきなりなんなの! やる気!? ちょっと表出なさいよ! キーーー!!」
ここは表ですよファラさん。
ファラはいまにもムキムキのリザードに襲い掛かりそうだったが、こんな所で騒ぎを起こすのも嫌だし、流石に分が悪いだろう。とはいえ――
「いや、俺達は賞金稼ぎではなく旅人なので、簡単なお仕事でも構わないんですけど。」
そしてよくあることなのだろうか、リザードの男は「はぁ」と呆れたようにため息をついた。
しかしこちらも事情が事情なのだ、おいそれと引き下がるわけにもいかないぞ。
「あのなぁ……。犬の散歩やゴミ拾いならあるが、そういった仕事はボランティアなんだ。
俺も別に意地悪してるんじゃないんだぜ? 当然だが報酬の出る仕事には大なり小なり危険が付きまとう。それは依頼人にだって同じことだ。」
あぁそうか……。まぁ、そりゃそうだ……。
食い下がるはずが、そう言われていきなり納得してしまう。
いやだって、だってなんだか、だってなんでなんだもん……。
「ギルドとしてもヒトの命を無暗に危険にさらすわけにはいかないのさ。
だからそれなりに腕の立つやつでないと、仕事は任せられねぇの。」
うんー……。
そうか……。言われて確かに、ギルドにとっては信用に関わることなのか……。
俺達の今の状況を解りやすく例えるなら、働いたことない学生が面接も無しにいきなり雇ってくれって言ってるようなもんなのだろう。
しかしなぁ、困ったぞこりゃ。
「なによアンタ! まさかアタシより強いと思ってんの!?」
いやそういう問題じゃないんだっての。
「上等じゃない! 腕相撲よ腕相撲! 今ここで! アタシと! 腕相撲で勝負よっ!!」
ファラはイキり立ち腕まくりしながら詰め寄ろうとする。
「おいやめろ! 腕相撲とか意味わかんねぇから! それにこのヒトの言う事にも一理ある!」
「しー君なんでこんなブサイクバカの肩持つのよ!!」
ブサイクバカ……。
「ブサ…って、俺の事か……。」
え、めっちゃ気にしてるじゃん……。かわいそう……。
そう言われて急にショックを受けたのかシュンとしてしまった。
わかるよ~。辛いよね、ブサイクブサイク言われるの……。
露骨にがっかりする辺りこのリザードのヒト、結構ナーヴァスな性格なのかもしれない。
対してキーキー!! と類人猿のように騒ぎまくるファラの怒りは更にエスカレートし、もう暴走寸前となっていた。
「キーーーー!! もうこうなったら殴り込みよ! 解体! 解体してやるわこんなとこーーー!!」
「やめろって! だからやめろっての!」
「もう! 放してよーー!」
今にも乗り込もうとするファラを羽交い絞めで押さえつけていると、リザードの男が困ったように顔をしかめて腕を組み、ため息交じりに話し始めた。
「おい、お前ら……。どうしてもっていうなら闘技場に行けよ……。
あそこで名を上げりゃギルドの門は顔パスだ……。」
「とーぎじょー?」
途端にファラの力がスゥーと抜け、老犬のように大人しくなった。
え、おい、何急に大人しくなってんだ。
闘技場?――これ、なんか嫌な予感がするぞ。
「あぁ、つっても今日はやってねぇ。大会は10日置き、月に3回だ。
参加受け付けは試合の3日前からやってる。今日が2月の19日、試合はもう明日だな。」
「あの、闘技場って言うからには闘うんですよね……?」
「ん? あぁ、そりゃそうだろ。
行くってんなら止めねぇが、まぁどのみちお前らにはまず無理だろうな。」
「やるわ。」
おい。ちょっと気を持ち直したリザードの男に対して、ファラはドヤ顔で食い気味に一歩前に出た。
今にも試合が始まりそうな空気を勝手に醸し出している。
「やるわ」って、闘技場で闘うってことだよな? こいつ意味解ってんのか?
「おい、いい加減にしろよ。意地張ると痛い目見るぞ。」
「そうだぞー、ねぇちゃん。」
ふいにリザードの男は俺の方を見ると、少し口角を上げた様な気がした。
「アンタは弱っちそうだが物分かりが良いな。」
うるさいのら。
「俺はリオ。アンタの名前は?」
リオさんか。
弱っちそうは結構傷つくが、悪気はないのだろうな。
声の調子がなんだか嬉しそうだ。
「あ、どうも。俺はシーヴです。リオさん、こっちは旅仲間のファラ。ほらファラ、いちど出直そう。」
「しー君、漢には引いちゃいけない局面てのがあるの。」
おまえ漢じゃねーじゃん。神妙な面持ちで何言ってんだコイツ。
ファラは腕を組みジッとリオさんを睨みつけていた。
リオさんは面倒くさそうに目線をファラから逸らす。
「おいおい、俺を恨んでも仕方ねーだろ? ほれ、後ろ見ろ、その怒りは闘技場でぶつけてこいよ。」
そう言ってリオさんは俺たちの後方を指さす。
その方角を振り向くと、やたら巨大なドーム状の建造物が目に入った。
おぉ、なんだあれ――って。
あれ? 俺達あんな目立つ建造物に今まで気づかなかったのか。
いやまぁ、昨日はもう夜だったから無理もないが。
つまりあれが――
「見えるだろ? あれが闘技場アンセムだ。
今日は参加受付しかしてねーけど、どんな奴が出場するのかチラッと見て来ると良い。
そうすりゃ嫌でも気が変わ――」
「そう。しー君、行こ。」
得意気なリオさんの言葉を遮って、ファラは闘技場へ向かってズカズカと足早に行ってしまった。
おいおい本気か? 闘いって、腕相撲大会じゃないんだぞ?
「あ~りゃ相当気が強いな……。シーヴ君…大変だろうが、まぁ頑張れよ。」
笑顔でグッと親指を立てたリオさん、俺はいつの間にかヒトとして認められたらしい。
「ありがとうございます……。もしまた来ることがあったら、その時はよろしくお願いします。」
俺はリオさんに見送られ、ファラの後を追いかけた。




