Idøtlen_1
「これは……?」
家に火を放ったのは、デプレーさんだった。
いや、正確には、フレーニアに火を放ったのが、デプレーさんだった。
コロ君が組みかかって、俺達が去ったあの後、疲れて眠ってしまったデプレーさんの代わりに、モダルさんは買い物に行っていたという。
そして家に帰ると、既に火を放った後だったという。
心中のつもりだった。
治療に当たったフーさんの話では、そう言う事らしい。
「見ての通り、ペンダントですよ。」
家は、ほぼ全焼。
けれど幸い、街も2人も、大事には至らなかった。
なにしろ大樹で出来たこんな街だ。
家に使われる木材も燃えにくくて火の手が広がりづらい、更に燃えても有害物質のほとんど出ないものが使われているらしい。
けれどそれにしたって2人が無事なのは、かなりの幸運だったと言える。
と、フーさんは言っていた。
そして2日後、俺はコロ君と2人で、デプレーさんのいる病室を訪れていた。
病室に入ると、デプレーさんは落ち着いた様子でベッドに座っているのが見えた。
「中に入ってるコレは……。…種?」
「はい。」
いまは意識もしっかりしており、落ち着いてデプレーさんとも話が出来ている。
そしてウタさんが俺に託したもの。
それがこの、カプセル状のペンダントだった。
「これをデプレーさんにと。…ウタさんから、預かってきました。」
「……。」
俺がそれを掲げると、デプレーさんは不思議そうにその中身をみつめている。
このカプセルの中身は、フレーニアの種だ。
フレーニアは、その身を焼かれる時に、根っこ部分に緑色の真珠のような種を残すらしい。
それは火に強く、燃やしても簡単には殺せないという。
「そしてそれ故に、価値がある。」
ウタさんはそう言って、俺にコレを託した。
初めから、そのつもりだったんだ。
だから、俺の力が必要だと、そう言っていたのだろう。
このために、俺の力はあるのだから。
「受け取って、貰えますか。」
「……。」
俺の言葉に、デプレーさんの眉間に皺が寄る。
口角が下がり、口元をキュッと結んで、細めたその眼は潤んでいた。
「……。」
今このヒトは、どんな気持ちでいるのだろうか。
ただ無言で、そしてゆっくりと、デプレーさんは俺の手から、その種を受け取った。
ー 母さん、僕を、ぶたないで ー




