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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第一部 1章 グッドシャーロット
24/402

女帝

2024/07/20_改稿済み。




――パンッッ!!!




 突然、ポップコーンか何かが景気よく弾ける音が鼓膜を刺激し、俺の意識は、波の音さえ届かない深い海の底で目を覚ました。

どこまでも真っ白に染まる、床も天井もない無限の世界。

その中心に、四角い食卓が一つ。

椅子が四つ、向かい合わせに二席ずつ。

その一つに、俺の視点は腰かけている。


「■■■、誕生日おめでとう。」


 共に食卓を囲んでいるのは、顔に霞の掛かった、俺の父、俺の母、俺の姉と思しき名も知らぬ見知った三人と、何者かを祝おうとする光の讃美歌と、ほのかな火薬の香り。

つづき、夕飯時を思わせるやたらと懐かしい香りがして、俺の意識は、より強く香ってくる手元の料理に集中する。




――まただ。




――また俺は、”深層心理の海(ここ)に帰ってきた”。




――なんで、俺はまだ、この暖かな食卓に、当然のように座っているのだろう。




 自らの意識のうしろで戸惑い、成す術もなく傍観している俺をよそに、俺の向かいに座る父親と思しき軽率な男が俺に向けて冗談交じりに、大声で品の無い笑いとツバを飛ばす。

俺の右隣の姉らしき女の子は、呆れ気味に目を細め、手元のマグカップに満たされたスープを飲むのをやめた。


 中学生くらいの小柄な姉の向かいには、やはり俺の母親と思われる女性が座っていて、大声で笑う男を無視して黙々とトマトソースのスパゲッティを大皿からよそって人数分に取り分けている。

母親が取り分けているトマトソーススパゲッティの暖かな色彩は、またも懐かしく、いつかみた黄昏時の夕焼けを彷彿とさせ、あまりに尊く、一際俺の意識を引きつけた。


 しばしの間、談笑が続く。

向かいに座る父親が俺の年齢を間違え、呆れるを通り越してうんざりと顔をしかめた姉は、いよいよ声を荒げ、フォークの先端で男を刺すように叱責し始める。

母親はひたすらにそのやり取りを眺めつつ、真顔でスパゲッティをちゅるり。

仲が良いのか悪いのか、良くも悪くも奇妙な家族だと思い、滑稽で、何故だか愛おしく思った。 


 父親に対し、バカだバカだと怒る姉。

喚く姉をよそに、あっという間にスパゲッティを平らげた父親は、大皿からスパゲッティを山のようによそりつつ、なぁなぁに娘を宥め、まぁいいじゃないかと笑う。


「例え誕生日を忘れても、俺は死んでも生まれ変わってもお前たちの存在を忘れない自信があるッ!」


 呆れる姉とスパゲッティ真顔ちゅるちゅるの母親をよそに、何故だかすごいドヤ顔で腕を組んで深く頷き、ひとり満足げな父親であった。

姉が深いため息と共にガックリと項垂れる。

父親は見事に滑り散らかした事実に納得がいかないのか、俺、姉、母の顔を順繰りに確かめて反応を待っている。

母親はようやく口を開いたかと思うと、いい加減にして、と冷たくあしらうだけだった。


 そんな低温度(クール)な母親が、父親を右ひじで軽く2回小突くと、父親はハッと何かを思い出したようで、自分の足元から、白の包装紙と赤いリボンを施された小さな小箱を取り出した。


「おっといけねぇ、子供の歳を忘れても、プレゼントを忘れちゃいけねぇよなぁッ!」


 性懲りもなく男がボケる。

当然滑り、今度こそ隣に座る母親のひじ打ちが男の鳩尾みぞおちにクリティカルヒットするものと思われたが、母親は突然吹き出し、鼻からスパゲッティを垂らして大声でゲラゲラと笑い始めた。

姉は心底つまらないものを軽蔑する目で、声を揃えお互いの肩をバシバシと叩き合う両親の様子を眺めていた。

どうやらこの家族でまともなのは、この姉だけらしい。 


「ほら、■■■、開けてみろ。ずっと欲しがってたヤツだぞ。」


 ヘンテコな家族と共に食卓を囲む、他愛のない和やかで居心地の良い風景。

今日は俺の誕生日。

顔の見えない血の繋がった人たち。

記憶にはないはずの、懐かしく暖かい、名残惜しくてあまりにも尊い、母の手料理。

そして、父親から俺へと手渡された小さな箱(プレゼント)




――ひょっとするとこれは、俺の深層心理が描き出した夢で、俺の不安や悔恨が生み出した何かの暗示なのではないだろうか。




 自意識の後ろの方でボンヤリとそんなことを感覚的に思うも、すぐにその疑問の発端が、俺の思考ではなく、俺の感情たましいに起因した刹那的なものであることを悟る。

ただの夢(そう)であって欲しい”と、無意識に目を逸らしている自分が、確かにここにいる。




――そして俺が誕生祝いに父親から貰ったのは、暖かくて、柔らかくて。




――まるで、満天の星空の下、満ちた月の明かりに消えてゆく蛍の光を追いかけているような、懐かしき黄金ホンモノの感情だった。




***




 意識を取り戻した時、俺の視界はぼんやりと木の天井をみつめていて、俺の身体はベッドの上で仰向けに寝転がっていた。

まばたきひとつ、ふんわりと風に膨らむカーテン、のんびりとたなびく遮光、小鳥のさえずりは無邪気で、それらが朝の訪れをこの神経いっぱいに巡らせる。


 いったい何度目だろう――恐らくここは、ファラさんの寝室だ。


「ま~た、ぶっ倒れたのかよ、俺は……。」


 目覚めて早々、繰り返される正体不明の夢遊感で憂鬱になった俺は、無意識にため息を漏らした。

発作的に引き起こされるあの異常現象に対して、徐々に心理的動揺も薄れてきてはいるが、相変わらず気持ちの方は灰色に濁ったかすみのようにモヤモヤと薄暗く、あまり目覚めの良いものではない。


 左目が痒い。

俺は瞼の上からむしょうに左目を掻いたが、何故だか病的に左目が痒かった。

 

 やがて自分の肉体と自意識とがじんわりと接続すると同時、右手のひらに、何かしっとりと柔らかな暖かい感触を覚えた。

むにむにふにふにと、軽く揉んでみる、よくわからない。

いったい何を握っているのかと掛布団の上に放り出された自分の右手を見ると、どうやら誰かの左手が俺の右手を握っているらしいことがわかる。

良く知るであろう何者かの柔らかい左手を辿り、俺の視線がその人物の枕元まで行くと、くかーっとヨダレを垂らして気持ちよさそうに爆睡している野犬みたいなファラさんの顔が見え、なんだか虚しくも懐かしい気分になった。


「やれやれ。」




――記憶がない。




 昨日の出来事を思い出そうとしてみたが、”服屋のお兄さんから小包を預かってお店を出たあとの記憶”が、俺の中からスッカリぽっかり失われてしまっている。

何がきっかけとなって、いつ意識を失ったのか、断片的にすらも思い出せない。

強制的にあの白い夢の世界に引きずり込まれるだけの何かが”一体なんだったのか”が解らない。


「誕生日……おめでとう……か。」


 天井を見つめ、時間の流れに逆らって、ゆっくりと深く、中枢ちゅうすう神経をさかのぼる記憶の回路。

脳裏に鳴り響く景気の良いクラッカーの破裂音をきっかけに、白昼夢のようなあの場所での出来事が印象的に呼び起こされる。

賑やかな食卓、未だ名前も声も顔すらも知らない家族の笑い声。

そして、幼き俺の誕生日には、家族からの惜しげもない祝福と――。


「父親からの……誕生日……プレゼント。」


 脳裏を駆け巡る、群れを成した真っ白なパズルピースの輝きの中に、時折浮かび上がる黄金の色彩のカケラがある。

いつまでも纏まりを作らない幾億の輝きが散り散りに巡る中、一際強い光を放つ、”誕生日おめでとう”という、思い出なきキーワード。


「あぁ、そうか。」


 痒すぎる左目を掻きながら、闇雲に求め、或いは夢中で手繰り寄せるように、無意識に室内を見渡すと、ベッド脇の小さな円卓の上に、この度の引き金となったであろう証拠品(それ)が置いてあった。

こげ茶色の包装紙に包まれた、”質素で退屈”な細長い小箱だ。


「”これのせい”で……俺はまた、あんな夢を見たのか……。」


 眠るファラさんに握られた手をそっと静かに解いて、円卓の上に置かれた小箱へ手を伸ばす。

穴まみれで継ぎ接ぎの俺の記憶が仮にも確かなものならば、これは、昨晩チーさんが、”俺への誕生日のプレゼント”として、俺に手渡したものだったろうと思う。


 ぴっちりと丁寧に包まれたこげ茶色の包装紙。

恐る恐る金色のリボンを解く時、これを包んでくれた名前も知らないお兄さんの気さくな笑顔が脳裏にちらつく。

そうして、一皮むけた途端に急にズッシリと重厚感を帯び始めた軽い木箱の中身は、何の変哲もない、ただ質の良いというだけの茶色い革の手袋だった。




――負けんなよ、”リンちゃん”。 




 不意に、再びこの魂にポッと灯る、故郷ふるさとの蛍みたいな暖かな朧火おぼろび

裏表のない、あまりに真っすぐなその想い(プレゼント)に、俺の感情は震源の極浅い縦揺れにさらされ、燃え盛ることなくプスンとくすぶり、息も絶え絶えに押しつぶされそうになっていた。




***




 時刻は朝の8時を少し過ぎ――地球の感覚では、大体早朝の6時を回った頃だろう。

むしょうに左目を掻きながら、ファラさんを起こさないよう寝室を忍び足で抜け出ると、相も変わらずチーさんが食卓で茶を啜っていた。

さっそくチーさんの向かいに腰を下ろした俺は、昨日、お使いから帰ってからの記憶がないことを伝え、空白の時間を記録として補完させてもらうこととなる。


「なるほど。すると昨日、俺は飯食ってケーキ食って、失神したわけですか。」


「まぁだいたいそんなとこ。」


 昨日、どうやら俺は、帰宅して小包をチーさんに渡すと、病み上がりで三日ぶりに体を動かしたこともあって、疲れてすぐに眠ってしまったらしい。

夕飯時に目を覚まし、香しい匂いを辿ってリビングへ顔を覗かせると、食卓にはファラさんの手料理が幾つも並べられていたことをぼんやりと思い出した。


 クリームシチュー、ステーキ、ピザ、フライドチキン、ポットパイと……パッと見ただけでも、いつにも増して腕によりをかけて作ったであろうことが解る豪華な顔ぶれ(ラインナップ)を前に、その時点で奇妙に思った俺は、寝ぼけ眼をこすってキョトンと首を傾げたのだ。

俺が寝ぐせの一つも直さず不格好のまま当たり前のようにチーさんの向かいに腰を下ろし、チーさんからの心無い罵声にテキトーな相槌を打つと、平常運転な俺たちのやり取りをキッチンの方から見ていたファラさんがくすりと小さく笑っていた。


 食事はどれも本当に美味しかった。

どの品もファラさんが手塩をかけて張り切って作ってくれたという、その温もり(まごころ)の大きさが何故だかむしょうに懐かしく感じられて、未だ顔も名前も思い出せないはずの母親の手料理を彷彿とさせ、手を付ける度、口に入れる度、喉元を過ぎる度、俺の涙腺の温度を僅かに高ぶらせたことを、より強く思い出す。


 するとやはり、俺が失神した後に夢の中で訪れた”見知らぬ家族の団欒”が酷く懐かしいものに思えたのは、直前にファラさん達といつになく賑やかな食事を囲っていたからなのかもしれない。

やたらめったら左目を掻きながら、ボンヤリとそんなことを思った。


「昨日は鼻からクリームシチューが垂れてたよ。見開かれたままの目にはハエが止まってな、目玉の水分を吸っててウケた。」


 こういう時、ウン・チーはいっつも嬉しそうだ。


「要らんこと言うな。いきなり気分悪いわ。てかやたら目が痒いと思ったらそーゆーことかよ、クソ。」


 俺は急いで左目を洗いに風呂場へ走った。

鬼より鬼気迫る形相で左目をかっぴらいて姿見の鏡を覗き込む。

大丈夫、まだ腫れてはいない、炎症で多少赤くはなっているが、たぶん大丈夫だ。

俺は桶の水で左目をしっかり洗った。


「まったく、油断も隙もねぇカラクリ屋敷だな。」


「はっはっは、恐れ入ったか。」


「威張るんじゃねぇ。」


 タオルを左目に当てながら、うんざりとリビングに戻るとダンディの不敵な笑い声が聞こえて、俺はイラっとした。


「それで、じゃぁ昨日は俺の、つまりは”誕生日パーティ”だったってことですか?」


「うん、ケーキもあったろ、ほとんど食えなかったけど。」


「ケーキ……あったか、そんなの?」


 チーさんの話ではファラさんの手作りスペシャルケーキもあったというが、俺はぜんぜん思い出せなくて首を傾げた。

9割がたファラさんに蹂躙された食卓、その最後に現れたのは、大皿に乗った三段重ねの巨大なショートケーキのお城だったそうで、なんとなーく、うつらうつら、思い出せそうな気はした。


「あー、ケーキか。そーいえばあったかもな、そんなのも。」


 食卓のど真ん中に要塞みたいな重厚なシルエットが着地すると同時、俺の向かいに座っていたチーさんの姿をもスッポリと覆い隠し、俺たちの他愛ないいびり合いも遮断された。

幅80㎝x高さ50㎝に及ぶだろうか、ドラシルイチゴがふんだんに盛られたタワーのてっぺんには、楕円形の茶色いチョコプレートが刺さっている。

プレートには、不吉に溶けた目の焦点があっていないニコちゃんマークと、気味が悪いほど歪つな文字の羅列がホワイトチョコで描かれており、文字の方はどうやらスチャラカ語で”誕生日おめでとう(ハッピ~バ~スデ~)"と解読できた。


 より印象的だったのは、小粋に鼻をさすったファラさんがキリっと勝気に眉を吊り上げた時だ。

彼女は満足げに口角を上げた強気な表情で鼻をフンと鳴らし、芸術的な完成度を誇るケーキの塔を熱心に眺め、百点満点(パーフェクト)まばゆいドヤ顔をしていた。


 ちなみに、チョコプレートのでろでろニコちゃんと呪われたハッピーバースデーは、恐らく、ファラさんが慣れないながらも一生懸命にチョコレートで直筆したものだろう。

そうと解ると微笑ましく思えるが、しかしよくよく考えるとファラさんはデフォルトで純粋に字が汚く、また絵心もほぼ皆無なので、仮にこれが普通の筆で麻紙に書いていたのだとしても、同じくらい歪つで不気味な雰囲気になるのは間違いないので、その時の俺はさぞ反応に困ったことだろう。


 なお、そのケーキの99%は、ファラさんの胃袋に納められた。


「だから、キミとわしはひときれずつ、それも麓の僅かな部分を二人ではんぶんこ。」


「あぁ、だからだ、ケーキ食った覚えがないの。そういえばファラさん、主役の俺がケーキのおかわり貰おうとしたらナイフとフォークを喉元と目玉に突き立ててけん制してきましたね。アイツどういう神経してんだ。」


「うーん。少なくともあれは、ヒトじゃない。」


「失礼を承知で言いますけど、チーさんの育て方が悪かったんじゃないですか? 可愛い孫くらいに思ってさぞ甘やかしたんでしょう。しつけは大事ですよ、将来的に社会に適合できなくなる。」


 俺がうんうんと頷いて見せると、チーさんは重苦しくダンディに唸った。


「あれの素行の悪さは生まれつきじゃ。わしのせいじゃない。」


「生まれつきも何も、それを調教していくのが教育……もとい、飼い主の義務というものでしょう。」


「黙れ小僧、追い出すぞ。」


 目を伏せてウォッと吠えたチーさん。

今追い出されてはたまらぬと思い、俺は自粛する。


「ともあれ、大体の出来事は思い出せました。ところで、誕生日って言いましたけど、俺、自分の誕生日なんて解らないのに、一体どういう風の吹きまわしなんでしょうか。」


 俺はズボンのポケットから、茶色い革の手袋を取り出し、テーブルの上に置いた。


「昨日は戸惑っていたようだけど、どうやらちゃんと自分でプレゼントを開けられたんだね。」


 革の手袋を見て、チーさんは優しく落ち着いた声で呟くと、ダンディに茶を啜った。

その様子から、先ほど寝室で俺がこの手袋に触れた際に覚えたトラウマともいうべき胸騒ぎが、チーさんにも筒抜けだったように思われ、俺はまた何も応えられずに視線を落として黙り込んだ。


「そもそもの話、リンネは記憶を持たず、すべてがからっぽ(ゼロ)のままこの世界に放り出される。それは紛れもない不条理で、あまりにも”ドン底(むごいこと)”だ。だからせめて、この世界では、キミたちがこの世界で目覚めた日を、キミたちリンネにとっての”誕生日”としている。そして恐らく、キミが洞窟で目を覚ましたのは、龍星期3029年の”6月30日”、つまり去年の暮れだ。だからキミの誕生日は、6月30日になる。正にキミに相応しき”女帝《エンプレス》の加護”を授かっていることになるわけだね。本来なら村に来たその日にホームパーティーとか盛大にやるんだけど、キミぼろ雑巾みたいになって瀕死で気絶してたし、それどころじゃなかったからな、昨日まで延びた。」


「まぁ、そいつはどうもすいませんでした。」


「それで、実はわしもキミの奇跡について色々対策を考えていたんだけどね、恐らくキミの奇跡は、キミの感情の高ぶりに起因しているんじゃないかと思い当たってね。」


「感情の高ぶり、ですか?」


「というのも、生物の持つ五感の中でもっとも原始的な感覚が”触覚”なんだけど、この”皮膚で触れる”という直接的な行為が、研ぎ澄まされた感覚神経から新鮮な刺激として脳に伝わって、キミの奇跡の引き金になってしまっている可能性がある。」


「マジでなに言ってるんですか?」


「うーむ、これでもだいぶ解り易く紐解いているつもりなんだがね。まぁ、脳みそのキャパがわしらドルイド族のハナクソ程度しかない愚鈍なヒュム族では、到底解らぬ話よな。」


「あーもーそーゆー腹立つのいいから、もっと解り易く話してくれよ。」


「とにかくだな、キミの意志に反して、キミが触れた対象のたましいを、キミのからだが自動で精神に読み込んで(インストールして)同調シンクロさせて、再生しているのかもしれないってことだよ。わしらドルイドの魔法学的に説明するなら、”テレパシー”が感覚的には近いかな。もっとも魔法学におけるテレパシーは自発的なもので、キミが今朝その小箱から、自分の意志とは無関係に想いを掬い出したりは出来ないし、また、無機物には一切作用しないものなのだがね。」


「最初っからそう言えよ。けど、なるほど……”操作不能のテレパシー”ですか。つまり、日ごろからこの手袋をしていれば、あの”超能力テレパシー”が暴発する心配もなくなるってことなんですかね。」


「さてな、キミのテレパシー(それ)が魔法ではなく”奇跡”である以上、色々と実験的に試していかないことには解らんね。しかしいずれにせよ、キミの奇跡ちからが上手く適合ベストマッチするかどうかは今後のキミ次第だろうな。まぁ、その辺りは別に心配してないけど。」


「どういう意味です?」


「それも、いずれ解る。あぁ、あとそれからキミの名前……。」


 チーさんが何かを言い足そうとしたその時、キィッと、木の扉が素朴に開かれる音と共にチーさんの視線が俺の背後に流れ、ファラさんが起きてきたのだと解った。


「あ、ファラさん、おはようございます。」


 振り向くと、ファラさんは辛そうにやたらと左目をこすっていて、俺は変な病気が感染したんじゃないかとちょっと心配になった。


「おはようファラ。ところで”シーヴ君”、今日はお仕事行くんだろう。なにげに結構良い時間だけど。」


 おもむろにチーさんは時計を指さす、時刻はいつのまにか10時(地球時間の朝7時頃だ)を回ろうとしていた。


「あ、そうですね。そろそろ準備しないとだ。ファラさん、すいませんけど朝食の準備お願いしてもいいですか?」


 俺が慌てて席を立ってファラさんに呼びかけると、少しの間の後、ファラさんはボーっとした面持ちでコクっと頷いて(頷いたというより立ったまま寝落ちした様にも見えたが)、左目を掻きながら夢うつつな千鳥足でトボトボとキッチンへ歩いて行った。


「大丈夫かな、目。」




物語を描き続ける事、物語を描くための人生を彩り続ける道を模索することが、今は生き続ける理由の手がかりになっています。


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