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【超工事中!】てんさま。~転生人情浪漫紀行~  作者: Otaku_Lowlife
第一部 1章 グッドシャーロット
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家路

2024/3/19_改稿済み。




 アラタさんが休憩室を去った後、俺は着替えることさえ億劫で、泥で汚れた作業着を着たままグッドシャーロットをひっそりと抜け出した。

分厚い雲に覆われた空の下、俺の身体は急に足元を這う虫のように小さく収縮したようで、歩みは普段より何倍も軽く感じるものの、帰り道はやけに果てしない道のりに思えた。


 陽の光をまとわない冷たい風が吹くたび、薄黒い影をまとった草木が大声で唸るようにザワついて耳障りだ。

いつもより少しだけ風の勢いが強く感じるというそれだけで、目に入る異物ゴミの量が多く感じ、また異物自体も巨大で、やたらに刺すように不愉快であり、向かい風の度に顔を逸らして目を細めなければならずイライラする。


「俺は一体、いつまで歩き続けなきゃいけないんだよ。」


 風が止み、顔を上げるたび先ほどとなんら変わらない不毛な景色を見て、俺は恨めしくこの世界を呪った。

そして俺は、味気ない(モノクロの)家路を辿りながら、得体のしれない罪悪感(あくむ)に苛まれていた。




――いつも、ありがとう。




――わたしたちは、あなたたちが、だいすきです。




 俺の意識の中枢へ、人馴れした飼い猫のようにどこからともなくスルリと迷い込み、そのまま寄生した、包み込むような暖かな声。

子が母の頭を撫でるような柔らかな温もりは、無性に懐かしくも寂しく物憂げで、どこかもどかしくもあり、けれど俺が絶対に持ちえないと断言できるほど、純粋に無垢で神聖で高貴な、シンプルに眩く力強い圧倒的な光の感情。


 俺の精神の外側から土足で上がり込んできたその猫のような気まぐれの感情は、嫌でも俺の気持ちにベッタリと身を寄せるように干渉し、むしばむように折り重なって、荒々しくぐるぐると撹拌し、俺のささくれた感情との間に強い拒絶反応を引き起こす。

あまりに綺麗な御心みこころにギュッと強く心臓を鷲掴わしづかみにされて、影を堕とした俺の灰色の魂は逃げ場を亡くし、惨たらしく十字架に張り付けられて、跡形もなく浄化されてしまいそうだった。




――いつも、ありがとう。




――わたしたちは、あなたたちが、だいすきです。




 深くは考えまいと、思考を明後日の方向に逸らせども、気が付くと再び慈悲深い幻聴が脳裏に降りてきて、後ろめたい俺の自意識は別の憂鬱な誰かのこころに、感情ごとコントロールを乗っ取られてしまう。




――”殺したくなくても殺さなければならない命”




――”幸せになる権利”




 嫌に逆風の重苦しい帰路を辿る僅か数歩の間に、何度も何度も、目まぐるしく、いくつもの知らない人格と俺の自意識とを頭の中に巡らせる。

永久に終わりの訪れない無限の時の中で、俺の精神はボロボロに疲弊し、やがて朽ち果てるも、息をつく間もなくまた同じ地獄めぐりを繰り返した。


 ふと気が付くと、俺の身体は村の広場にいた。

どうやら俺は広場の隅にあるベンチに力なく腰掛けているらしく、粗いレンガ作りの地面に項垂れていた。


 村の人達が俺の座るベンチの近くを横切る靴音と、俺の前を通り過ぎる時だけ意味ありげに空白ちんもくの生まれる話し声が、精神を病んだ俺の存在を邪険に煙たがっているようで腹立たしく、くらくらと眩暈がして気持ちが悪い。




――右の方からせかせかと慌ただしい靴音が近づいてくる。




 ここからならチーさんの家まで、ものの数分も掛からない。

居ても立ってもいられず、逃げ場を失くし身を隠すように俯いていた俺は、家路に最後の希望を見出すも、しかし自らの意志で”あの家に帰りたい”という気持ちも全く起こらず、こうして膝に腕を置いて項垂れて、悩まし気な石像のように病的に重苦しく鎮座するに留まった。


 下を見てレンガ作りの地面が生み出す目玉のような模様をジッと凝視している時間が長ければ長いほど、その分だけ俺の身体と精神は重力を受けて深い泥沼の底へと沈んでいくような気がした。




――左の方からゆったりと重苦しい靴音が反響してくる。




 けれど、ここから這い出そうにも、平気を装って平穏無事にあの家に逃げ込む為の手段が浮かばない。

俺を道化にして茶化す、気の良いチーさんや、優しくて子供のように純粋なファラさんを前に、どんな愛想笑いで、どんな気の利いた受け答えをするべきか、当たり障りの無い会話の糸口サクセスを、この病的な憂鬱を振り切ったまま演じるすべが俺には解らない。


 自然で気楽な笑い声が溢れる食卓に、どんな気持ちで寄り添い、今の俺の何を話せばいいのか、この絶対零度ぜったいれいどの温め方が解らない。


 素直な距離感が測れない。

素直な笑い声が出てこない。

素直な自分の顔が思い出せない。




――素直さとはなんだ。




――俺の”感情すなおさ”は、今までどうやって笑っていた。




 肥大して傾いた頭の上を横切っていく靴音が遠ざかるのを今かと盗み見て、思考と気持ちをぐらりと持ち上げて、まっすぐと空を見上げてみる。

昨日まであんなにも輝いていた太陽も、今は行方をくらましている。

よどんで太った醜い化け物じみた雲は長年蓄積された体脂肪や老廃物のようで、行く当てもなく怠惰でズングリと頭上を埋め尽くしているだけ。


 再び項垂れると、視界には乾いた泥まみれの黒い長靴が映る。

こんなに疲れてても、明日も仕事があるんだな――そう思った時、グッドシャーロットの面々の顔が次々と浮かんで、自責の念から起こる罪悪感と後ろめたさに吐き気にも似た無気力を覚えた俺は、いよいよ立ち上がる気も起きなくなる。

ただポッカリと"もう何もかも投げ出して消えてしまいたい"そう思った。




――左の方からカツカツと景気の良い靴音が近づいてくる。




 陽気な死神めいたその足音は、束の間に自死を予見した俺の目の前で不自然に静止した。

まるで"迎えに来たぞ"と嘲笑うように、それはいつまでも俺の正面から動かず、ひしひしと重苦しい沈黙のに押し潰されそうになっている俺の影を、罪深げに凝視し続けていた。


 チリチリと焼けるような地獄の息苦しさに耐えきれず、息継ぎをする(ゆるしをこう)ように顔を上げると、そこにいたのは、俺の良く知る"寝イビキ発狂地獄の獄卒"――寝室鬼没(デスボイス)のファラさんだった。


「あ、デスボの……ファラさん……。」


 俺と目が合うなり、皆が寝静まるまで非番のファラさんは、不思議そうにちょこんと首を傾げた。


 その時、カナヅチ同然の俺の疑心暗鬼は、純粋無垢で誠実な彼女の、青く光る瞳の色彩の波に、為すすべもなく飲み込まれ、どこまでも深く溺れていくように感じられて、俺は呼吸も忘れ、ゾワリと全身の毛が逆立つのだけを感じ、ただただ圧倒されていた。





ピルバーグ作、キャラクタープロフィール



ファラ

20歳(精神年齢不明)

身長 169tm(およそ169㎝)

体重 56tg(およそ56㎏)

利手 右


異性のタイプ

自分より料理が上手でレパートリーも豊富でたくさん作ってくれるヒトなら誰でもウェルカム。専属シェフ大募集。



好きなもの、食べること、寝ること、暴飲暴食、仮眠、一日三食、ふて寝、間食、二度寝、おかわり、おかし、街の屋台、あじまん、お肉、お魚、食べられる虫、虫ゼリー、お酒、お祭り、フードファイト、食べ放題、自分の手料理、賑やかな食卓、ベッド、抱きまくら、ふかふかのお布団、横になれるソファ、かわいいパジャマ、家族、おじいちゃん、しーくん、お母さん、ヒケコイの映画



嫌いなもの、食べ物を横取りされること、起こされること、食べものを量で配られること(自分でよそりたい)、ダイエット、ご飯を残すこと、ごわごわのまくら、寝る時に話しかけてくるヒト、自分の悩みを話すこと、色恋、ケンカ、卑屈な大人、差別的なヒト、レラレラとお金にうるさいヒト

※なお、これら全て嫌いではなく「苦手」である。



ピルバーグのインタビューと見解

ファラというヒュムの姉ちゃんは、いつも明るく、ちょっとおバカだ。

ケズデットの村にいた頃は喋れなかったというが、”マジカルコトバナナ”という世にも珍しい果物を食べたお陰で喋れるようになった……らしいのだが、そんな果物、俺は見たことも聞いたことも無いぞ……ホントか?

インタビューの間、終始にこにこと子供のように笑い、うちの近所で飼われているしつけのなっていない小型犬のように落ち着きがなく、とにかくピーキー。

彼女の好きなものは実に欲望に真っすぐで、特に食べ物と睡眠への執着が異常に強い。

そんな中でも、家族と過ごす時間の大切さを忘れなかった部分を想うと、彼女の心根はとても澄んだものと解る。

嫌いなものは意外と細かいが、それもやはり食う事と寝る事に重きが置かれており、こう言っちゃなんだが、ちょっと能天気すぎだろ、大丈夫か。

そして、俺の大ファンだ。

インタビューの最後に握手をせがまれたが、差し出した手をもぎゅっと熱く握られ、普段はあまりファンサービスに応えない俺も、まぁ悪い気はしなかったなぁ。


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