You Are All I Have_9
「うぅ……。大丈夫ですか……?」
「はぁ、一体なにが……。」
ま、聞くまでもねっぺが――気が付くと広場の噴水に寝かされていた。
広場の時計が目に入る、16時か。
大分日も陰って来たなぁ。
心配そうなシルフィさんに介抱されて目を覚ました俺は、シルフィさんから大方の事情を聞いた。
どうやら俺の頭部にハンガーが直撃した途端、俺の膝から上が無残にも爆散したらしい。
理屈? しらねー。大方「頭の中にダイナマイト」とかだろ。
店内は血みどろとなり一時騒然、お陰で先ほど買ったばかりの「ニャンニャンスリープウォーキング・ゆるふわ森のクマちゃんタイプ」は見る影もなく木端微塵となってしまったようで「気が付くとニャンニャンスリープウォーキング・ホワイトイエティタイプ」をいつのまにか着させられていた。
なんでだよ、爆散ついでにあの店で服買っといてくれよぉ。気が利かねぇなぁ。
「ひっく……。本当に……ごめんなさい。」
シルフィさんは伏し目がちにシュンとしていて、またもや涙目だ。
だが泣きたいのはいつだって俺の方だ。
そうでなかった事は一度もない。
「謝らないでください。どうにもならない事ですので。」
いやホントにな。
「ところで、ボーラさんとあの2人は?」
「あ、それなら……。」
シルフィさんが嘘くさい泣き顔を上げ、嘘くさく涙を拭いながら指をさした先にボーラさんはいた。
相変わらず建物の陰から、2人の様子をジロジロと伺っているらしい。
端からこうしてみていると、明らかに不審者にしか見えないし、ここが地球で国が国なら(以下略。
そんなボーラさんの見守る2人はというと――
「よぉねぇちゃん、なかなか可愛いじゃねぇか? 俺はケズグンマーから来たデンスケってんだ。 そんなモヤシといないで俺と遊ぼうぜ?」
調子の良いゴロツキに絡まれて困っている最中だった。
まずい――今デートの邪魔をされたら……。
「そうはさせるか……!!」
「待ってシーヴさん、今はまだ、様子を見ましょう。」
俺は体を起こして急いで助太刀に行こうとしたが、シルフィさんに宥められるように止められた。
何か考えがあるのか、その目はいつになく真剣そのものだったが、しかし――
「おいっ! 失礼なヤツれらっ! ファラさんとの一日デートの権利は僕が買ったれら! それも100万レラで買ったれら?
へへん! ど~ぅれらっ! もし一日デート権が欲しいなら100万と1レラ出してみろれらっ!」
うん、そのゲスモードと謎の語尾さえ無ければ100点満点なんですがねぇ。
「ははははははははははっ!!!」
ゴロツキを見下すように笑みを浮かべたホロさんが両手を腰に当てて高笑いを決めていた。
ファラは腕を組みそれを後ろから不機嫌そうに黙って見ている。
そんな挑発的なホロさんを前にゴロツキは直ぐにでも殴り掛かるかと思っていたが、フンッと不敵に鼻で笑うとズボンのポケットを弄って何かを取り出し……まさか――ナイフか!?
「あ? ほらよ。」
ポイッ。
躊躇いもなくホロさんの前に投げ捨てられた分厚い札束。
なんだかやけに見覚えのある100万レラだなぁ。
あ、100レラだからか。
え? 100万レラ?
「えっ、あ。はい……。」
流石のホロさんも動揺を隠せない模様。
というかあのゴロツキ何者だ?
100万レラってあんなポイポイ出てくるもんなのか?
どう考えてもアイツの全財産なんだが、少なくともあのアホウシに100万の価値はねぇぞ。
なんならその100万は。保護者である俺にくれよ。
「えっと……。じゃあ、どうぞ。れら……。」
ダメだこりゃ。
「ちょっと! なに普通に譲ってのよ!! てかなんなの?! アンタの方が失礼よ!!」
ファラの言う「アンタ」というのは勿論ホロさんの事である。
地団太を踏んでキーキーといつものように怒っていたが、まぁ無理もない。
普通にゲス――いやゲスの極み。
「ん? あーーーー!!」
喚くファラをよそに暫くホロさんは無言でその札束を見つめたまま動かなかったが、ふいに何かに気付いたようにゴロツキを指さして叫んだ。
「おまえ! よくみたら1レラ足りないれらぞぉっ!」
「ちぃ、バ、バレたか……。ちょうど1レラ足りなかったぜ……。
まさかそこに気づきやがるなんてな……。今日の所は見逃してやる。
せいぜい1レラの悪夢にうなされやがれ!! このデコハゲがっ!」
「お前が言うなれらっ! この貧乏ハゲめっ!!」
醜い言い争いだなぁ。
「ヘッ! 金持ちはっ! 必ず勝つ!! れらあっ!!」
いや胸張って勝ち誇っているところ悪いけど、普通にかっこ悪いぞ。
ファラのあの何とも言えない表情、今のでアンタ大分減点されただろうな。
ゴロツキは100万レラの札束を渋々と悔しそうに拾うと、妙に説得力のある捨て台詞と共に去って行った。
うん、あれは必ず戻ってくる男の顔だった。
「ふぅ、危ないところでしたれら。でもファラさん、大丈夫ですれらよ。アナタは誰にも渡しませんれら。
もし僕からファラさんを奪えるヤツがいたとしたら、それは100万と1レラ持ってるやつだけですかられらね。ま、そんなやつ絶対現れませんがれらね。へへっ。れら。」
ホロさんはかいてもいない額の汗を拭いながらファラに向き直ると、紳士らしく一見すると抱擁感のある笑顔でそう言った。
なにやら残り1レラにすごい自信を持ってるらしく、格の落ちるゲスい事を平気で言ってのけるのだが、落ちた株というのはそう簡単には上がらないものだ。
「あれは、アウトですね……。」
ふいに隣に座るシルフィさんがようやく夢から覚めたらしく、ボソッと吐き捨てるようにそう呟いた。
もうすぐ日が暮れる。
こりゃ望みは薄いかな。
というかもう帰るか。いいよな。




