然る令嬢の死
どうもドラキュラです。
最近、恋愛に関する本を読んでいて久し振りに「悲恋」を書きたいなと思い、突貫工事で書いてみました。
然る貴族の屋敷において一人の令嬢が息を引き取ろうとしていた。
まだ10代だというのに哀れと屋敷の中は悲壮感に包まれているのかと言ったら・・・・差にあらず。
誰もが令嬢なんて「居ない」とばかりに普通に過ごしていた。
というのも令嬢は当主の本当の娘ではなく平民から養女となったからだ。
しかも「愛人」の子という事も合わさってか・・・・当主の息子2人は何かと令嬢を蔑んだ事から使用人達も右に倣えとばかりに令嬢に心身ともに傷つけた。
身内だけでなく使用人からも言われなき蔑みを受け、心身ともに疲労している令嬢に追い討ちを掛けたように病が襲い掛かった。
流石に病床の身となったのを哀れに当主は思ったのだろうか?
それまで無関心だったのに急いで何人もの医師に娘を診断させた。
だが誰も治療方法を見つける事は出来ず・・・・ただ死を待つのみとなったが・・・・それこそ令嬢は望んでいたのだろう。
「漸く・・・・死ねるのね」
令嬢は窓から入る光を見ながら呟いたが、その口調からは死を受け入れる覚悟があった。
そして自分の人生を思い返したのか・・・・小さく嘆息した後に・・・・最後の願望を口にした。
「どうせ死んだら何も残らないんだもの・・・・せめて墓くらいは好きな場所に埋葬されたいな」
「・・・・何処が良いんだ?」
誰も居ない部屋の中から聞こえてきた男の声に令嬢は弾かれたように天井に視線を向けた。
天井に視線を向けると暗闇の中でも輝く月色の瞳が令嬢を射抜くように見つめていた。
「相変わらず"天井裏"が好きね」
「"職業病"だ。それより・・・・何処が良いんだ?」
お前の亡骸を埋葬する場所は、と声が問うと令嬢は「その前に姿を見せて」と言った。
「・・・・契約の内容に入ってない」
天井裏に居る男は令嬢の言葉に声のトーンを落として返事をしたが、それに対して令嬢は食い下がった。
「もう直ぐ死ぬんだもの・・・・今まで姿も見せずに私を護ってくれた"影の護衛騎士"を見たいという我儘を聞いてよ」
「・・・・・・・・」
令嬢の願いを聞き入れるように天井が僅かに動いた。
そして音もなく令嬢の目の前に一人の男が現れた。
全身を濃紺色の服で固め、鼻元まで覆ったスカーフに左眼に走った縦の切り傷が特徴だったが、その縦の切り傷を見て令嬢は眼を細める。
「・・・・"あの時"から貴方は・・・・私を護っていたのね」
「・・・・仕事で傷ついただけだ。お前の言う昔話に出て来る少年じゃない」
男・・・・いや影の護衛騎士は令嬢の言葉を真っ向から否定したが、令嬢は自分の直感を信じていたのだろう。
「最後の我儘を・・・・聞いてくれる?」
薄らと涙を見せながら影の護衛騎士に尋ねた。
「同じ事を2度も言うのは嫌いだが・・・・何処が良いんだ?」
「・・・・見晴らしの良い場所・・・・辛い時や苦しい時に・・・・貴方の心を慰める場所にして」
「・・・・分かった」
「でも本当に良いの?」
令嬢は涙を滲ませたまま---しかし、グッと堪えると影の護衛騎士に自分の我儘を叶えようとする際に払う代償を暗に尋ねた。
しかし、影の護衛騎士は平然と答えた。
「お前一人くらいなら背負える。それに主人の後を追う"殉死"という風習もある」
「でも、それって・・・・・・・・」
「あくまで戦士の風習だ。俺みたいな人間にはない」
影の護衛騎士の言葉に令嬢は何も言わなかったが・・・・花も恥じらうような笑みを浮かべて影の護衛騎士に手を差し出した。
「・・・・見晴らしの良い場所に私を葬って」
「・・・・愛する姫の為に・・・・・・・・」
影の護衛騎士は恭しく令嬢の差し出した手にスカーフを外し、恭しく口付けをづけを落とした。
それを見てから令嬢は一筋だけ涙を流した。
『嗚呼・・・・やっぱり貴方は昔から変わらないわね』
心中で令嬢は呟きつつ静かに眼を閉じた。
瞬く間に訪れた「永遠の眠り」だったが、令嬢の死に顔は何処までも穏やかだった。
「・・・・・・・・」
影の護衛騎士は永遠の眠りに旅立った令嬢の手から唇を離すと流れた涙を指で拭ってから眠りの言葉を言った。
「・・・・良き夢を」
そして影の護衛騎士は暫し令嬢の亡骸を見つめ続けたが、自分を雇った「不器用すぎた父親」たる当主を思い・・・・居ないにも関わらず宣言した。
「娘の死に顔すら見れなかったが・・・・これから受ける罰は更に重いぞ」
誰が居る訳でもないのに宣言をした影の護衛騎士は用意していた布で令嬢の亡骸を自身の背中に結びつけた。
「これから少し遠出になるが・・・・心配するな。必ず届ける」
返事など出来る訳ないのに影の護衛騎士は優しい声で令嬢の亡骸に語り掛けた。
そしてドアノブが回った所で音もなく天井裏へと消えた。
「お嬢様・・・・失礼・・・・お、お嬢様・・・・お嬢様?!」
メイドはベッドに寝ている筈の令嬢が居ない事にいち早く気付くと大声を出して周囲に令嬢が居ない事を報告した。
だが、そんなメイドを「間抜け」と称するように影の護衛騎士は令嬢の亡骸を背負ったまま屋根を走り、そして飛鳥の如く屋根を・・・・門すら飛び越えて何処かへ消え去ったのである。
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然る貴族の屋敷は騒然としていた。
というのも先日、病死した令嬢の亡骸が何者かの手によって盗まれたからである。
しかも2000人の騎士達が屋敷内に居たにも関わらず・・・・・・・・
この前代未聞の噂は忽ち広がったが、誰もが令嬢の若き死を悲しんだが、如何にして消えたのかも興味を抱いた。
何せ病に侵された人間が一人で誰にも気づかれずに消えるなんて普通に考えれば到底、無理な話だ。
ところが現実に起こったのだから人々は令嬢は悪魔と取り引きしたなどと噂し合った。
だが、当主には令嬢が如何にして姿を消したのか察するものがあったのだろう。
自身が総指揮を執ると言って騎士団を総動員して然る酒場を包囲すると踏み込んだのである。
もっとも時期などは伏せられており完全に「不意打ち」を狙ったものだが・・・・酒場には誰一人として居らず、また部屋という部屋を隈なく探しても何一つ無かった。
これに当主は「・・・・これが私の受ける罰か」と独白した。
その意味は当主にしか分からないが、それから暫くして当主は床に就いた。
床に就いた当主に代わり、令嬢とは腹違いの長兄が正式な譲与を受けていないが当主の代わりとなった。
そんな当主代行が最初に行ったのは令嬢の亡骸を見つけ出す事だった。
この任務は「我が家門の誇りと名誉が懸かっている」と居並ぶ騎士団に怒声交じりで言うほどだったから並々ならぬ気持ちである。
その証拠に自身の実弟に総指揮を任せる程だった。
任命された実弟も「必ず妹を取り戻す」と高らかに宣言したから意気込みは高いと見て良いだろう。
しかし・・・・3年が過ぎ・・・・5年・・・・10年という年月が経っても令嬢の亡骸を見つける事は終ぞ出来なかった。
そして時が過ぎ去って行き・・・・然る見晴らしの良い場所に一つの墓石が名も知らぬ旅人によって見つけ出された。
墓石には誰が埋葬されたか普通なら入れる名前がある筈なのに書かれていないので行き倒れた人間を善意のある人間が埋葬したのではないかと旅人は思ったらしい。
ただ・・・・見晴らしの良い場所に埋葬されているので旅人は「良き墓」だなと思ったと酒場で誰に言う訳でもなく呟いた。
これを聞いた人間達も「そういう場所に埋葬されたんだ。生前は辛い人生だったかも知れないが、幸せな場所で眠れている事だろう」と答えたらしい。
然る令嬢の死
突貫工事なので穴は、かなりあると思いますが、何れ改めて数話か10話前後まで物語を考えて書いてみたいと思います。
ただ悲恋となるのか、或いはハッピーエンドにするかは決めておりませんが。(汗)