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最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい  作者: アイイロモンペ
第5章 渡りに船と言いますが…
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第96話 王都の環境悪化には首相も困っていました

 見る聞くとでは大違いと良く言いますが、アルビオン王国の王都は確かに繁栄はしているようですが相応に幸せとは言い難いようです。

 私は王都の観光をしてから数日、漠然とそう感じていました。


 その日、大使館の中に用意された逗留していることになっている部屋に行くとミリアム首相から呼び出しのメッセージが届いていました。


 指定された時間に首相官邸を訪れると、待たされることなくミリアム首相の許に通されました。


「お待たせしましたレディー・シャルロッテ、これが見学先への紹介状です。

 レディーの訪問については話は通してありますので、これを渡せばすぐに見学させてもらえるはずです。

 ただ、残念なことにレディーの希望に沿う見学先はこの付近には無いのです。」


 そう言って、ミリアム首相は四通の封書を手渡してくださいました。


 現在完成して営業している鉄道はこの国の中西部にある港町から内陸部に向けて敷設されたものしかないそうです。

 その鉄道の終点になっている町が織物の産地で、紡績工場や織布工場が多数あるそうです。

 幸いその町にミリアム首相のツテがある工場があるとのことで、紡績と織布の工場を一件ずつ紹介してくださいました。


「港町から蒸気機関車に乗って終点の町まで行けば丁度良いでしょう。

 三十五マイルの距離を二時間ほどで走るそうですよ。

 王都から港町までは船で行くのが便利です、頻繁に出ていますので。

 一日ほどで着く航海ですが、余裕を見て最初の工場見学は十日後に約束を入れてあります。」


 ミリアム首相の立ててくれた予定では、十日後に紡績工場を見学して、翌日が織布工場、その翌日に港町まで戻って鉄道の本社で話が聞けるとのことでした。


 そして、紹介状の四通目は蒸気船の運航会社に宛てたもので、それはこの王都にありました。

 ミリアム首相の話では、蒸気船はまだ外洋を航行するほどの信頼性はなく、現在は王都と外洋を結んでいる大河で運航されているそうです。

 今、『海の女神号』が停泊している港と川沿いの周辺町を結んでいるそうです。

 注意して見ていれば海から王都まで川を遡る間に見ることができたのではないかとミリアム首相は言いました。

 実際のところ川を行く他の船を見ている余裕はありませんでした。

 王都に着く寸前までアルムハイムにいましたし、転移してきてからは窓越しにみる王都の風景に圧倒されてしまいましたから。


 蒸気船の運航会社には訪問日の約束は入れていないそうです。

 紹介状を持っていけば、どなたかが対応してくださるような段取りになっているとのことでした。



     **********



 そして、この王都に構える家の話に移ります。


「土地の所有権付きで現在売り出されている土地建物で、レディーのおっしゃった予算に見合う物件はこれだけありました。」


 ミリアム首相の話では王都の土地の大部分は王室の個人財産になっていて、殆どの人は王室から借りた土地の上に建物を建てているそうです。


 王室以外の土地の所有者は王室から土地の下賜を受けた貴族やその土地を転売で手に入れた人達でごく僅かだそうです。

 土地の所有権付きの物件は大変貴重なのです。

 それでも、ミリアム首相から提出された物件は十を超えていました。


「あたりまえの事ですが、王都の中心に近いほど敷地、建物共に狭くなります。

 ただし、どれも元々貴族の邸宅ですので、それなりの広さはありますし、みすぼらしい建物はありません。」


 更に、元々貴族の邸宅であったものでも、周辺の環境が悪化して貴族が転出したために売りに出された物件は除外してくださったそうです。

 王都ではこの十年来人の流入が多く、貴族階級の住む街区のすぐ近くに風俗街や移民街ができて住環境が悪化した場所があるそうです。そういう場所は貴族が次々と転出して売りに出される物件が多いのだそうです。


 アルビオン王国の恩人である私にそんな物件を紹介する訳にはいかないと、厳しく出入りの不動産業者に言い付けたそうです。


「すみません、このようなことを聞くのは少々憚られるのですが…。

 この物件の中でおトイレが完備していないものはありますか?

 できたら、その物件は除いて欲しいのですけど…。」


 馴染みの不動産業者から物件を取り寄せただけの首相にこんなことを言うのは難しいかと思いつつ尋ねてみました。

 もしかしたら、不動産業者が側に控えているかもしれませんし。


 すると、ミリアム首相は十数枚の物件の説明資料に目を通して、機械的に紙を左右に分けて片側を私に差し出しました。


「こちらの物件でしたら、まず間違いなくトイレは使えるはずです。」


「えっ、失礼ですが、なんで閣下がおトイレの有無などを即座に判断できるのでしょうか?」


「こちらこそ、そこに目をつけるとはレディーの慧眼には驚かされます。

 ここ十年来王都への人口流入が凄まじく、都市インフラの整備が全く追いついていないのです。

 その最たるものが下水関係なのです。

 特に、汚物をキチンと下水に流さないで、路上へ捨てる輩が後を絶たないものですから街が大変なことになっています。

 道端の彼方此方に汚物が溜まっており安心して歩くことは出来ないし、何より悪臭がひどい。

 これが世界に冠たる我が国の王都かと情けなくなります。」


 ミリアム首相は汚物の処理と下水道の整備の問題に頭を悩ませているそうなのです。

 貴族の館には一つくらいはトイレはあるそうですが、下水道があふれてしまう状態でトイレが使えない地域があるそうです。

 その地域及びその周辺の物件を住所を見て取り除いてくださったのです。


 取り除いてくださった物件が紹介されていたのは嫌がらせではありません。

 この国の貴族たちですら、それが当たり前になってしまい、トイレが使えなくても瑕疵があるとは思っていないそうです。


 あまり、尾籠な話題は聞きたくなかったのですがつい聞いてしまいました。


「そういう邸宅に住まわれる貴族の方はおトイレはどうされているのでしょか?」


「とても立派な椅子の形をしたオマルがあるのです。

 そこに溜まったものを下働きの者が汚物の捨て場に捨てに行くのです。」


 聞かなければよかった…。とても、そんな家には住めません。


 最初に十数枚あった物件の紹介はトイレという条件を付けただけで半分に減ってしまいました。

 更に、悪臭がする場所を除けてもらうと残った物件は三つしかありませんでした。


「どれも、王都の中心からは多少離れていますが、ここ数十年の間に計画的に整備された区域です。

 実際に業者の立ち合いのもとで確認していただくことになると思いますが、上下水道ともに使うことができると思います。」


 一番近い所ではこの首相官邸から一マイルも離れていないところでした。

 首相官邸よりやや北に王都で最大の巨大な公園があります。

 その西側に王家が新たに離宮を作ったそうです。

 離宮を建てるのにあわせて農村地区であった周辺を貴族向けの住宅地区に整備したそうです。


 ただし、この物件は王都の中心に近いだけあって土地が高く三つの中では一番狭い物件です。

 この地区は、王都の中心部の環境悪化に伴い逃げ出してきた貴族の方に人気があり、広い敷地を確保するのは中々難しいようです。 


 後の二つは偶然にも先日観光に訪れた近くでした。

 一つは博物館のすぐ近く、もう一つはサクラソウの丘のすぐ近くの物件です。

 

 私はサクラソウの丘に近い物件の案内を見て惹かれました。

 王都の中心より四マイルも離れていることから、ゆったりとした広い敷地を持った物件です。

 もとは伯爵家の持ち物だったそうで、建物も非常に手入れが行き届いていると書かれています。


「閣下、よろしければこの物件を見てみたいのですが、不動産業者を紹介して頂けますか?」


「おお、お気に召したものがありましたか、それは良かったです。

 しかし、それは王都の中心から大分外れていますが、よろしいのですか?

 元の持ち主の伯爵は王宮に近い方が良いとこの近くに移ってきたのですよ。

 私として、レディーが最初に手にした離宮の側の物件がお勧めだったのですが。

 あの地区は、今一番貴族の中で評判の良い場所なのですが。」


「ええ、サクラソウの丘は先日行きましたが、とても素晴らしいところでしたわ。

 王都に家を買う目的は情報収集で、商売をしようというのではありません。

 何も中心街である必要はないのです。

 確かに、閣下が勧めてくださる物件も心惹かれますが、こちらの方が田舎者の私にはあいそうです。

 大変失礼な言い方になりますが、劣悪な環境の中心部よりあの丘の近くの方が過ごし易そうです。」


「これは、耳が痛い。

 確かに、今の王都は住み易いとは言い難いですな。

 私も何としてでも早急に解決しないといけない問題だと思っているのです。

 この状態ですといつ性質の悪い流行り病が蔓延しても不思議ではないですからね。

 分かりました、では業者を控え室に待たせてありますので、早速ご案内させましょう。」


 やはり、業者を控えさせていたようです。

 私は、このまま、現地に物件を見に行くことなったのです。


お読み頂き有り難うございます。

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