第94話 ちょっと自慢してみました
おじいさまの許を辞した私はその足で、館を経由してリーナの執務室にやって来ました。
「ごきげんよう、リーナ。
急に来て申し訳ないわね、今時間は大丈夫?」
「あら、ロッテ、いらっしゃい。私の方は大丈夫よ。
もう、アルビオン王国の首相との会見は済んだのかしら。」
いつものことながら、急な訪問にも関わらずリーナは嫌な顔一つ見せずに私を迎え入れてくれます。
「ええ、私の役目はおじいさまから託された親書を届けるだけですもの。
何らかの交渉をする権限がある訳でもなし、半日で終わったわ。
それで、これからの日程について相談したいのだけど良いかしら?」
私は王都でのミリアム首相とのやり取りをかいつまんでリーナに話しました。
そして、アルビオン王国での訪問先はミリアム首相が用意してくださることになったと、私はリーナに説明しました。
「それで、訪問先に連絡を取って段取りを付けてもらうのに一週間ほど時間が掛かるのですって。
その間、ハーブ畑の世話をしないといけないので、基本的にはこちらに戻っているつもりなのですけど。
せっかく、アルビオン王国の王都まで行ったのだから、少し王都も見て歩きたいと思って。
それで、リーナの都合を聞きに来たの。」
「それは素敵な提案ね。
私、ズーリックや帝都に行くまで知らなかったの。
私が住んでいるところって、凄い田舎なんだなって。
今までは、私の国の王都にある離宮の中が私の生活圏の全てだったから。
これからは、機会があったら色々な街を見てみたいと思っていたのよ。
それに、私って今でも『海の女神号』から下船していないことになっているのよね。
そろそろ、ホテルに移っておかないと後々行動する時に差しつかえるわ。」
私はアルビオン王国に着くとすぐに帝国の大使館に行かねばなりませんでした。
そのため、リーナ達にはこちらに留まってもらったのです。
箱入り娘のリーナと幼いアリィシャちゃんの二人だけでホテルに滞在してもらうのは心配でしたので。
その間、『海の女神号』の貴賓室は転移魔法の発動媒体の設置場所として借りたままになっているのです。
ゲーテ船長の話では帰り荷を確保するためにしばらく王都の港に停泊するとのことでした。
なので、その間は貴賓室を借り続けることにしておきました。
「そうね、いつまでも『海の女神号』の貴賓室を借りたままと言う訳にもいかないわね。
明日の朝、一緒に『海の女神号』の貴賓室に転移して、ゲーテ船長にホテルの手配をお願いしましょう。
多分、ホテルを取るのは一週間ほどで済むと思うわよ。」
「一週間したら訪問先が決まって、王都から旅に出るという事かしら?」
リーナの問い掛けに私は得意げに話しました。
「ふふーん、実はね、王都に家を買おうかと思って首相に物件の紹介をお願いしたの。
これも一週間ほど掛かると言われたのだけど、恩を売っておいたので予算内で良い物件を紹介してもらえると思うわ。
問題ない物件であればすぐに買ってしまおうと思っているの。」
「なに?その自慢げな態度は?
リーナの事だから、ここから出て行く訳ではないのでしょう。
何のための家なの?」
「一義的には転移魔法の発動媒体を永続的に設置する場所の確保ね。
今のアルビオン王国は面白いわよ、次から次へ新しい物が生み出されているの。
そういうのをいち早く知りたいでしょう。
そのための拠点にするの。
家が手に入ったら冬場はアルビオン王国で過ごしても良いかなと思っているわ。」
島国アルビオン王国は四方を海に囲まれているためか、気候が穏やからしいのです。
私の国やリーナの領地よりもはるかに北に位置するのですが、あまり雪が降らないそうです。
一説には南からの暖かい潮の流れがぶつかっているので、比較的暖かいとも言われています。
冬になると十フィートも雪が積もって陸の孤島となる我が家に篭っているよりは良いと思うのです。
「なにそれ、羨ましい。
冬場は領主の仕事も減るし、気分転換に私も連れて行ってくれると嬉しいわ。」
「もちろんよ、まだ大分先の話だけど、冬場はみんなで王都を散策しましょう。
本当はセルベチアの二人も連れて行ければ良いのだけど…。
今はまだ駄目ね、何処に監視の目があるか分からないものね。」
アルビオン王国はセルベチアの目と鼻の先、特に今は戦争を仕掛けようとしています。
アルビオン王国の王都にセルベチアの諜報関係の人が多く入り込んでいてもおかしくありません。
あの二人を連れて行くのは難しいでしょうね。
「それにね、アルビオン王国の王都はこれからもっと栄えると思うの。
そしたら、王都の土地建物は高騰すると思うわ、その時は手放してもいいし、貸し出しても良いわ。
結構な利益が出ると思っているのよ。
別に転移魔法の発動媒体を設置するのは王都の一等地で無くても良いのよね。
その時は新たに土地を郊外に買って、ヴァイスに馬車を引いて空を飛んでもらえば良いと思っているの。」
「ロッテったら、ちゃっかりしているのね。
恩を売って紹介してもらった物件を投資の対象にするだなんて。」
リーナが少し呆れているようですが、利益を得る機会があるのであれば逃す手はないと思うのです。
私はリーナとアリィシャちゃんを伴って、翌朝に『海の女神号』に転移することに決めました。
そしてゲーテ船長にホテルの手配をお願いし、そのままその日は、一日王都を見て歩くことにしたのです。
そのことをアリィシャちゃんに伝えると、とても楽しみにしてくれました。
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