第91話 結局手の内を晒すことになりました
ミリアム首相の問い掛けに、私はアルムハイム伯国の所在地を説明することにしました。
「私の国、アルムハイム伯国はアルム山脈沿いのセルベチア共和国とクラーシュバルツ王国の国境地帯にあります。
両国に挟まれた猫の額ほどの国で、帝国の飛び地なのですよ。
ちょうど、セルベチア軍の進軍ルートに当たっていた国境の峠を越えた辺りにあるんですの。」
「へえぇ、そんな場所に国があったとは存じませんでした。
しかし、幾ら近くだと言っても、よくレディーがセルベチアの極秘作戦を掴めたものですね。」
ミリアム首相が感心したように言っていると、尋問を受けているレティーシェ提督が俯いて何かを呟いています。
「アルム山脈、国境の峠、黒髪…。」
そして、ハッとした表情で顔を上げると言ったのです。
「貴様、『アルムの魔女』の末裔か!
まさか、今でも国境の峠を守っていただなんて。」
しまった、提督ともなると結構学識があるのですね。まさか、知っているとは。
「レティーシェ提督、『アルムの魔女』とは何の事だ。」
ニルソン提督がレティーシェ提督に尋ねました。
当然、先程の魔法が効いているのでレティーシェ提督は知っていることを話します。
「百年前のことだ、ちょうど昨年と同じ進軍ルートで我が国の万を超える兵が帝国へ侵攻を図ったんだ。
その時、侵攻を阻んだのがこの女の先祖だ、たった一人で万の兵を無力化してしまったと記録されている。
与太話じゃないぞ、正式な軍の報告書に記載されているんだからな。
この女の先祖は本物の魔女だ、お伽噺なんかじゃないぞ。
我が国では『アルムの魔女』と呼んでいる忌々しい存在なんだ。
この女だって訳の分からない力を持っていやがる。
そのせいで、俺はこの女に逆らえないんだ。
『アルムの魔女』の一族が何の恨みで一度ならずも二度も三度も我が国の邪魔をするんだ。」
「別に恨みがある訳ではありませんわ。
昨年の一件は私の先祖が帝国や聖教と交わした盟約に基づいて行動しただけです。
今回の件に関しては、提督に非があるのではないですか。
提督が私の乗っている船に無法を働かなければ、私は見逃していましたわ。
提督が先に手を出してきた、私は返り討ちにした。ただそれだけのことですわ。」
まあ、こうしてアルビオン王国に恩を売れたし、私としては渡りに船ではあったのですけど。
「ちょっと待ってくれ。」
私がレティーシェ提督の恨み言に答えていると、ニルソン提督が会話を中断させました。
「では、レディーは『アルムの魔女』と呼ばれる者の末裔で、ご自身も不思議な力を使うことができるというのですか。
その力を使って提督を捕らえて、アクデニス海艦隊をせん滅したというのですか。」
チッ、これ以上の隠し立ては難しいですね。
「はい、ありていに言ってしまえばそういうことです。
私が魔法により提督の乗る旗艦を無力化して支配下に置きました。
艦隊の方は支配下に置くのが骨だったので、手っ取り早く沈めてしまったのです。
どうやったのかは内緒ですよ。」
だいぶ、手の内を晒してしまいました。
そろそろ、大分時間も経ったことですし、戦列艦を引き渡して会談を終えることとしましょうか。
「少しだけ私の力をお見せしますね。
戦列艦の引き渡しをしたいと思うのですが。
取り敢えずレティーシェ提督への質問はこのくらいでよろしいでしょうか?
後は、軍の方で詳細に取り調べてもらえればと思います。」
「ええ、レティーシェ提督については軍の方で詳しく取り調べるので、今はこのくらいで結構です。」
ニルソン提督の言葉を受けて、私はレティーシェ提督に魔力を乗せて命じました。
『アルビオン王国から逃亡することを禁じます。』
『アルビオン王国の方に危害を加えることを禁じます。如何なる形でもです。』
『取り調べに対して、嘘偽りなく、知っていることを包み隠さずに答えることを命じます。』
レティーシェ提督は苦々しい顔を見せますが、逆らうことは出来ません。
こんなところで良いでしょう、あとは…。
『しばらくの間眠っていなさい』
私が命じるとレティーシェ提督は崩れるように膝を落として前のめりに倒れこみました。
「レティーシェ提督にはしばらく眠って頂きました。
ただ眠っているだけですので、しばらくしたら目を覚まします。
国外逃亡とこの国の人に対して危害を加えることだけは禁じてあります。
ですが、まあ逃げ出されないように注意してください。
取り調べに対しても完全に応じるように命じました。
これが私の魔法の一端です。
あまり複雑な命令は出来ないのですが、私の言葉に強制的に従わせることができます。」
私の言葉にミリアム首相が反応しました。
「レディーは、私のことも魔法で従わせることができたのではないですか。」
ミリアム首相の表情には警戒の色が見えます。
そうですよね、無理やり命令に従わせられるのではないかと警戒したくなりますよね。
「いやですわ。
そんなことをしたら独裁者と同じではないですか。
それに、他人から恐れられてしまうし、他人に信用されなくなってしまいます。
この魔法はそんなに簡単には使いません。
今まで、この魔法を使ったのは罪人を問い質すときくらいです。
今回だって、レティーシェ提督は私を場末の娼婦の代わりにしようとしていたのです。
もちろん、襲撃してきた旗艦の乗組員も連帯責任で全員を従えましたけどね。
このくらいの罰は当たり前です。」
私の言葉を一応信用してくれたようで、ミリアム首相はホッと安堵の表情を見せました。
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王都の港、私はミリアム首相とニルソン提督、それに帝国の大使を伴って戦列艦までやって来ました。
私は三人を伴って戦列艦に乗り込むと兵隊を一人つかまえて、全員を甲板に集めるように命じました。
しばらくすると、甲板の上、私の目の前には乗艦する全員が整列していました。
最初に私が命じた、『今より、この艦に乗る全ての者は私の命令に従いなさい。』という命令は依然として有効です。
「これより、あなた方の身柄及びこの艦はこちらのニルソン提督に引き渡します。
これより先はニルソン提督の指示に従うように命じます。
また、逃亡すること、反抗的な態度をとること、暴力を振るうことを禁じます。」
私はそう言ってニルソン提督を乗艦する全員に紹介しました。
それに呼応してニルソン提督が全員に下船するように命じると、全員が整然と下船を始めました。
「レディー・シャルロッテ、レディーの魔法というのは恐ろしいモノですな。
セルベチアの兵がニルソン提督の指示に完全に従っている。
なるほど、手の内を晒したくないというのも道理です。
レディーを敵には回したくないものですね。
おそらく、セルベチアは我が国に侵攻することを諦めはしないでしょう。
親書の件は、私の全力を尽くして議会を説得することをお約束します。
皇帝陛下にはそのようにお伝えください。」
そう言ってミリアム首相は私に握手を求めてきました。
どうやら、私は役目を無事に果たせたようです。
この後、約一時間かけて戦列艦の引き渡しは無事に完了しました。
これで本当にお役御免です。
お読み頂き有り難うございます。




