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最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい  作者: アイイロモンペ
第1章 アルムの森の魔女
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第8話 怪しい人が思ったよりたくさんいます

「ただいま~!」


 その日の晩、暗くなってからブリーゼちゃんが帰ってきました。


「おかえりなさい、随分と遅かったのね。

 リーナはちゃんと帰れた?」


「ちゃんと、明るいうちに帰り着いたよ。

 あの栗毛の馬、いい馬だね。凄く速かった。

 うんでね、リーナが無事に帰ったら、凄いビックリした人がいたの。

 その人ね、『道中何もございませんでしたか?』って、リーナに訊いたんだよ。

 リーナったら、そ知らぬ顔で『ええ、大変良い狩場を紹介してくれて有り難う』って言ってた。」


 どうやら、その男が執政官のアルノーのようですね。

 リーナが無事に帰ってきたのがよほど想定外だったようです。

 リーナの返しがナイスです、アルノーには賊に襲われたことを伝えない方が良いでしょう。


 賊に襲われたのに無事だったとなると、アルノーは職務にかこつけて根掘り葉掘り状況を聞きだそうとするでしょう。

 必然的に私の話をしないといけなくなります。私の存在はまだ知られない方が良いです。


「そう、あっちの方はどうだった?」


「うんとね、ちょうど衛兵の詰め所の前に着いたところだった。

 詰め所の前で大声を上げて、自分の罪を自白しだしたの。

 野次馬が寄って来て凄かったよ。

 あいつら、人殺しとか誘拐とかいっぱいやってて、自白に凄い時間がかかったの。

 それでね、誘拐した娘達をセルベチア人の女衒に売ったと自白したの。

 女衒の名前を言ったら、衛兵達が慌てちゃって住処を言う前に詰め所の中に押し込んじゃった。

 怪しいね。」


 本当に怪しいです。これは衛兵までグルということでしょうか。

 執政官と衛兵が女衒と組んで、娘を拉致してセルベチアの娼館に売り飛ばすのを見逃す代わりに袖の下でも貰っているのでしょうか。

 ことによると、娘の拉致以外にも無法者と組んで違法な稼ぎをしているかも知れませんね。


 それであれば、領地経営に関する帳簿の確認を中心とする横領とかの監査ではわからないです。

 公金に手をつけるより、裏家業の人達に便宜を図った方がばれずにお金が懐に入ると思ったのでしょうか。


 それなら、上司に当たる領主がやって来たら邪魔でしょうね。

 特に、正義感が強い年頃の娘にコソコソ嗅ぎ回られたら、邪魔でしょうがないでしょう。


 でも、毒殺は拙いと思いますよ。

 領主の館の中で、領主が毒殺されようものなら、調理人と執政官は文字通り首が飛ぶのではないでしょうか。

 今日の拉致未遂だってそうです。

 リーナが拉致されセルベチアに売られてしまったら、リーナが出かける際に護衛を付けなかった執政官は責任を問われると思います。


 なんか、ちぐはぐな感じがします。

 アカデミーを優秀な成績で卒業した人のすることではないと思うのですが……。


 いまひとつしっくりしませんが、執政官のアルノーという人物が怪しいのは確実なようです。

 あとは、女衒と衛兵ですか。詳しくあらってみる必要が有りそうですね。


 そう考えている時でした。私の頭の中で警鐘が鳴りました。

 どうやら、招かれざる客はこんな時間でもお構いなしのようです。私、もう眠いのに……。



     **********



 峠道に仕掛けた警戒の結界の中に警戒対象が侵入したのです。

 峠道は行商人や旅人も通ります、私の敷地に仕掛けたような侵入を阻む結界は仕掛けられないのです。そんな事をしたら峠道が使えなくなります。

 そこで、仕掛けたのが一定の要件に該当する者達が峠道を進んできたら、私に警鐘が伝わる結界です。


 夜十時、流石に高緯度地方の夏でも山の中はもうまっ暗らです。

 私は峠でお客さんが現れるのを待ちます。


「隊長、本当にこんな辺鄙な場所に王女様がいるんですか?

 女衒が持ってきた情報なんでしょう、信用していいんですか。」


「馬鹿野郎、女衒じゃない、あれは女衒に身をやつした我が国の工作員だ。

 俺達より階級が上なんだぞ、口の利き方に気をつけろ。」


 そんな会話をしながらやってきたのはセルベチアの軍人さんです。十人程いますかね。

 軍のことは良く知りませんが、小隊というものでしょうか。

 全員きっちり武装し、小銃も携えています。


「ほれ、無駄口聞いてないでサッサと歩け、山の麓へ降りたところで工作員が待っている。

 俺達は、夜明け前に捕らえた姫を受け取らないといけんのだ。もたもたしている時間はないぞ。」


「へいへい、でもそんなに上手くいくんですかい。」


「十五の娘がたった一人で賊を相手に逃げ切れる訳ないだろう。

 そうなるように仕向けたはずだ、上手くいっているだろうよ。」


 ふむ、リーナが鷹狩りに行くと言ったのは今朝のようですが、そうなるようにアルノーが上手く誘導したのでしょうか。

 鷹狩りに良い場所がありますよとか、明日は絶好の鷹狩り日和ですよとか言って。


 どうやらアルノーはセルベチアに内通しているようですね。

 外患誘致とはシャレになりません、極刑は確定ですかね。



「おじさんたち、そんな物騒なモノを持って何処へ行くの。

 こんな夜中にコソコソと。」


 峠の頂に立って峠道を登ってきたセルベチアの兵士達に声を掛けました。


「誰だ!何処にいる!」


 人目を忍んで進軍してきたようでこの兵士達は松明を灯していません。

 夜目が利くように訓練してきたのでしょうが、目の前の私に気付かなかったようです。


 別に魔法を使った訳ではありません、闇に同化してしまったようです。

 流石にこの暗がりで、黒髪、黒のワンピースはやりすぎましたか。


「シャインちゃん、お願いできる?」


「はい、任せてくださいませ。」


 私が呼びかけると傍らに現われたシャインちゃんが、私と兵士達の中ほど宙空に光の玉を生み出しました。周囲が仄かに明るくなります。


「「「なんだ、なんだ……」」」


 突如として辺りが明るくなったので兵士達に動揺が走りました。

 そこで初めて兵士たちは僅か五ヤード前方に立つ私と傍らに浮かぶシャインちゃんに気がついたようです。

 

「なんだ、おまえは。

 おまえの方こそ、小娘がこんな夜中に山道で何をしているんだ。」


「おじさん達をここで待っていましたの。

 この峠は通す訳には行かないのです、引き返してもらえれば嬉しいのですけど。

 手荒な真似はしたくはありません。

 そうそう、ここへやって来た目的だけは教えて頂けないかしら。」


「夜中に一人で待ち構えていて俺達に引き返せだと?

 おまえ、気は確かか?

 だいたい、小娘一人で何が出来ると言うのだ。」


 無理もないです、この峠道は昼間でも人の往来が少なく女が一人で通るのは憚られる道です。

 ましてや、暗がりの中一人でいるなど襲ってくださいと言わんばかりです。

 気がふれた娘と思われるのも仕方のないことかも知れませんね。


 でもね、隊長さん、あなたはもっと重要な情報をスルーしてますよ。

 私はあなた達を待ち構えていたと言ったのです。

 自分達の行動が筒抜けになっていたことを驚かなくて良いのですか。


 すると隊長らしき人の横にいた三下風の兵士が言ったのです。


「隊長、この女、ヤバイです。

 昔、死んだ爺さんから聞いた『アルムの魔女』そっくりです。

 黒髪に、黒い服を着た黒尽くめ魔女、恐ろしい力を振るったって。

 爺さんはその時、追い払われたセルベチア軍にいたんです」


 大祖母様のヤンチャの被害者の子孫がこんなところにいました……。

 ですが、隊長はこの兵士の言葉に耳を貸すつもりは無いようです。


「何をこんな小娘一人に臆している。

 いい歳してそんな与太話を信じてどうする。

 こんな頭のおかしな娘は放っておいて先を急ぐぞ。

 夜が開ける前に王女を引き取らないといけないんだ。」


 そういって、前進を始めようとしました、私を無視して脇をすり抜けるつもりのようです。

 私は再度隊長の正面に移動して言いました、力ある言葉を。


『止まりなさい』


 魔力の乗った私の言葉に兵士たちはその場で静止します。

 足を一歩も踏み出すことが出来なくなり、兵士たちは狼狽しているようです。


「おい娘、おまえ、今俺達に何かしたか。」


 体の自由を奪われた隊長が声を荒げて言いました。


「だから、この峠を通す訳にはいかないと言ったじゃないですか。

 私の話を聞いていました?」


「いったいどんな手品を使ったのか知らんが、早く俺達の拘束を解くんだ。

 俺達は子供の遊びに付き合っている暇はないんだ。

 これ以上、俺達の邪魔をするなら女とて許してはおかんぞ。」


 隊長は更に声を大にして私の解放しろと命じてきました。

 自分の方が立場が上だと信じて疑わないのですね。


「ダメですよ。

 私は盟約に基づいて、セルベチアの兵が国境の峠を越えるのを防いでいるのですから。

 私、さっきそちらの方が言った『アルムの魔女』の末裔ですの。」


 さて、言う事を聞いてくれない困った人達に少しお仕置きをしましょうか。



お読み頂き有り難うございます。

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