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最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい  作者: アイイロモンペ
第5章 渡りに船と言いますが…
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第88話 ここでカードを切りました

 一日両日中には首相に面談する手筈を整えると言われ、大使館の中に滞在する部屋を用意してもらいました。

 大使館の部屋で過ごすこと二日、大使の言葉通り王都について三日後の午前中に首相と面談が実現したのです。


 大使館が用意してくれた馬車に乗って会談場所となった首相官邸に降り立った私を一匹のネコちゃんが迎えてくれました。

 茶虎で丸々とした可愛いネコちゃんですが、侮ってはいけません。これでも彼は国王陛下に仕える立派な官吏なのです。


 出迎えてくれた首相官邸の職員がこのネコちゃんの紹介をしてくれました。

 恐らく世界中でたった一匹でしょう、官吏を務める猫なんて、しかも役職付きです。

 彼は、首相官邸のネズミ捕獲長なのだそうです。「長」と言いながら彼しかいないところが、また笑いを誘います。

 猫を正式な官吏にしてしまうアルビオン人のユーモアに好感を抱きながら私は首相官邸の扉を潜ったのです。



「初めまして。レディー・シャルロッテ。

 遠路はるばるアルビオン王国へようこそ。私はレディーを歓迎いたします。

 私は、この国の首相を務めさせて頂いております、ミリアム・ポットと申します。」


「お初にお目にかかります、閣下。

 私は、神聖帝国で伯爵位を賜りますシャルロッテ・フォン・アルムハイムと申します。

 本日はご多忙中のところ、急な申し出にも関わらずお時間をお取り頂いたことに感謝申し上げます。」


 愛想良く私を応接に迎え入れてくれた首相は、挨拶を交わした私が対面に座ると、間をおかずに話し始めました。


「帝国の大使館から、女伯が火急の用件で面談したいと希望されていると聞いた時にはもう少しご年配の方かと考えていました。 

 まさか、娘のような年頃のレディーがいらっしゃるとは思いもしませんでした。

 して、事前に内容もお知らせ頂けないような、火急の用件とはどのようなものでしょうか?」


 ミリアム首相は友好的な笑いを浮かべながらも戸惑いの表情を隠し切れていませんでした。


「申し訳ございません。

 万が一にもミリアム閣下以外の方に今回お時間をお取り頂いた目的が漏れる訳にはいかなかったものですから。

 実は、皇帝陛下から内密に親書を預かってまいりまして、直接閣下にお渡しするようにとの指示でしたので。

 親書の目的は知らされていますが、細部までは私も知らされていないのです。」


 私はおじいさまから託された親書をミリアム首相に手渡しました。一応、これで役目は無事終了ですね。


 ミリアム首相は、受け取った親書をその場で開封して目を通し始めました。

 しばらく、無言で親書に目を落としていましたが、私に顔を向けて尋ねてきました。


「内容は拝見しました。

 これから、周りの者と良く相談してどうするか決めることといたしましょう。

 ところで、レディーはこの親書の目的はご存じだと言いましたね。

 今のところ大陸で起きている小競り合いは我が国にとっては対岸の火事なのです。

 帝国と同盟を結ぶというのは火中の栗を拾うにも等しい行為です。

 正直申し上げて、この親書の提案に議会が是と言うかは難しいところだと思います。

 どの道、この場で結論が出ることではありません。

 検討の結果は後日、機密が守られる形で皇帝陛下にお届けできるように致します。」


 それは、メッセンジャーとして、おじいさまに同盟を結ぶのは難しそうだと伝えろということでしょうか?

 まあ、そういったことになるのも想定の範囲内なのですけどね。


 この国は王国となっていますが、実際の政治に国王は殆ど口を出しません。

 この国の政治は、貴族階級による議会と裕福な市民階級による議会の二つの議会の議決に基づいて行われています。

 議会の決めたことを執行するのは目の前にいるミリアム首相が率いる内閣です。

 しかし、戦争に結び付く同盟を結ぶことは議会の承認なしには出来ないのだと思います。

 今のところ、セルベチアの皇帝がちょっかいを出しているのは、大陸の中だけです。

 何の関係もない戦争に介入してセルベチアの皇帝に目をつけられたら堪らない。

 そう考えている人の方がこの国では多いのではないでしょうか。



     **********



 ここで私は手札を切ることにしました。


「閣下、実は閣下への手土産として面白いものをご用意させて頂いたのですが。」


「ほう、面白いものとは如何なものでしょうか?」


 突然話を変えた私に少し怪訝な顔をしつつも、そこは政治家、不愉快な表情を見せずに私にあわせてくださいました。


「昨日、私がこの王都の港に入港した時、どのような陣容だったかはご存じですか?」


「すみません、そこまでは耳にしておりませんが。」


 私が巨大な戦列艦を護衛に付けて来たことはミリアム首相の耳には届いていないようでした。


「私が乗船している客船を一隻の軍艦が護衛する形で参りましたの。

 護衛について来た軍艦を貴国に友好の証として差し上げようかと思いますの。

 私は軍関係には疎いので詳しくは存じませんが、王都まで先導してくださったこちらの沿岸警備隊の方の話では戦列艦級の軍艦だそうですよ。

 百門くらい大砲を積んでいましたね。」


 さすがに、聞き捨てならないと思ったようで、ミリアム首相の表情が真剣なものに変わります。


「百門の大砲を持つ戦列艦ですか?そんなものをくださるので?

 ちょうど昨年、議会の承認が得られて今建造中の戦列艦が大砲を百門くらい備えているのですが。

 ソブリン金貨七万枚の予算を計上しているのですよ、それをくださるというのですか?」


「信じられませんか?

 どなたか、そちらの方面に詳しい方にお聞きしてみたらいかがですか。

 昨日、この王都の港に入港した大型の軍艦を見た者はいないかと。」


 私の申し出を信じられない様子のミリアム首相は部屋の隅に控える事務官に向かって言いました。


「誰か、軍艦に詳しい者で、昨日、王都に港に戦列艦級の艦が入港したのを見た者がいればここへ連れてきてくれ。」


 そうして待たされること数十分、沈黙を破るように部屋の扉が開かれました。


「こちらに、あの戦列艦を率いてきた方がいると伺ったのですが?」


 いかにも軍人さんという雰囲気の精悍な中年男性が部屋に入ってきました。


「ニルソン提督、君が王都にいるとは珍しいね。」


「はっ、閣下。

 沿岸警備隊に配属している者から我が国でも珍しい巨大な戦列艦を護衛に伴っている貴人が来訪していると耳にしまして。

 是非とも、その戦列艦を拝見させて頂こうかと思いやってまいりました。

 沿岸警備隊の者がその貴人は閣下に御用があると申しておりましたので。ここに訪ねて参った次第です。」


「なんと、ではレディー・シャルロッテがおっしゃっているのは本当のことでしたか。

 今、こちらのレディーがその戦列艦を我が国に寄贈してくださるとおっしゃられているのです。」


「なんと豪気なことで、私も船で王都まで来ましたので港でその艦の外観を見て参りましたが、まだ真新しい艦ではないですか。

 それを我が国にくださるというのですか。

 あれは見たことろ現在建造中の新鋭艦と遜色のない艦なのですが。」


 二人がそんな会話を交わした後、ミリアム首相は私をニルソン提督に紹介してくださいました。


「初めまして、神聖帝国にて伯爵位を賜りますシャルロッテ・フォン・アルムハイムと申します。

 今お話になっていた戦列艦ですが、内陸国の我が国には無用の長物ですのでお気になさらないでください。

 それに本当に価値があるのはあの軍艦そのものではございませんのよ。」


「これは、ご丁寧に。

 私は、提督のニルソンと申します。

 レディー・シャルロッテは非常に興味深いことをおっしゃる。

 それで、あの艦よりも価値のあるものとは何でしょう。」


「実は、セルベチア海軍のアクデニス海艦隊の提督を捕らえたのです。

 私には、あの軍艦と共にその者を引き渡す準備があります。」

 

 私の言葉に、ミリアム首相とニルソン提督は鳩が豆鉄砲を食ったような表情となったのです。


お読み頂き有り難うございます。

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