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最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい  作者: アイイロモンペ
第5章 渡りに船と言いますが…
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第86話 とても素晴らしい歌声でした 

 先ずは、この船に接舷している旗艦の処理からですね。

 私は、ゲーテ船長に提督を預けると貴賓室を出て甲板に向かいました。


 甲板には十人ではきかない人数の兵隊がマスケット銃を構えて船乗りさん達を威嚇していました。

 私は、移動中に風の精霊ブリーゼちゃんと打ち合わせしていた通り、魔力を乗せた言葉を発します。


『武器を捨てろ』


 私の言葉はブリーゼちゃんの拡声の術に乗って、この船と接舷している軍艦に響き渡りました。

 二つの船に乗っている者が一斉に武器を投げ捨てたため、あちこちでガチャガチャと金属同士がぶつかる音が聞こえます。


「ノミーちゃん、お願いできる?」


「喜んで!」


 私は、私の肩の上に現れた大地の精霊ノミーちゃんにお願いしました。


「この船と隣の船の中に投げ捨てられている武器、ナイフやらマスケット銃やらを一ヶ所に集めて鉄のインゴットにして欲しいの。持ち運べるように一つの重さを一ポンド位にしてもらえるかな?」


「合点承知!」


 気風の良い返事で軍艦の方に飛んで行ったノミーちゃんが術を振るいます。


「いらなくなった武器を集めましょう~♪マスケットさん、ナイフさん集まって~♪」


 気の抜けるような鼻歌を歌いながらノミーちゃんが術を行使すると軍艦の甲板に四方からナイフやマスケット銃が集まってきます。

 武器を手放した軍人さんはその様子を呆然と見つめています。

 武器を取り戻したくても、私の使った魔法のせいで武器を持つことができません。

 さぞかしもどかしいことでしょう。


「集まった武器を鉄の塊に戻しましょう~♪、形と大きさ揃えましょう~♪一ポンドの大きさに~♪」


 集まった武器は勝手に柄や銃床が外れ鉄の部分が融合していきました。


「で~きた!」


 ノミーちゃんがそう言った時には、甲板にはそれなりの量の鉄のインゴットが積まれていました。


 さてと、軍人さん達が信じ難い光景を目にして固まっている内に…。


『この船の甲板にいるセルベチアの軍艦の乗員は軍艦に戻れ。』


 魔力の乗った私の言葉に従い、甲板でこの船の船乗りさんを威嚇していたセルベチアの軍人達は軍艦に戻っていきます。

 そして、私はブリーゼちゃんに拡声の術を使ってもらい軍艦全体に響くように命じました。


『今より、この艦に乗る全ての者は私の命令に従いなさい。』


 これには絶対的な強制力を持たせるように強い魔力が込めておきました。


『海の女神号に危害を加えることを禁じます。』


『これより、アルビオン王国まで海の女神号を護衛しなさい。』


 せっかくですので、この軍艦は私の支配下に置きアルビオン王国まで護衛してもらうことにしました。

 軍艦が護衛についていればここから先の航海が安心できますものね。


 私はセルベチアの軍人が渡ってきた渡し板を使ってセルベチア艦隊の旗艦に乗り移ると、いつも持ち歩いている簡易の転移魔法の波動媒体となっている布切れを甲板に敷きました。


 勿論、護衛としてついて来たゲーテ船長以外は人払いをして誰にも見られないようにしています。

 ノミーちゃんが作ってくれた鉄のインゴットを館に転送するのです。

 一ポンドのインゴットがざっと見て、千本はくだらないと思います。


「お嬢様、そんな鉄の塊なんかどうするのですか?

 言ったら何ですが、鉄なんてそんなに価値のあるものではありませんよ。」


 ゲーテ船長が私の行動をみて不思議そうに言います。


「ええ、金銭的には大したものではないですね。

 でもね、これからの時代、鉄をどれだけ量産できるかが国の将来を決めることになると思いますよ。

 例えば蒸気機関、あれって鉄の塊なのですよね。

 紡績機だってそう、鉄はいくらあっても困る物ではないのです。

 マスケット銃やナイフみたいなくだらない武器にしておいたら勿体ないではないですか。

 大切な鉄を武器や兵器に使うのは大馬鹿者です。ましてや戦争でそれを浪費するのは最も愚かなことです。」


 私はそう言いながらも手は休めず、せっせと鉄のインゴットを館に送り続けたのです。



     **********



 この船に接舷している軍艦の処理が済んだので、私はセルベチア海軍の艦隊百隻を処理することにしました。

 ゲーテ船長に通常通りの航海に戻すようにお願いし、接舷している軍艦の乗組員に『海の女神号』から離れてアルビオン王国まで先導するように命じました。


 私は船乗りさんからデッキブラシを一つ借りて箒の代わりにします。


「アクアちゃん、マリンちゃんを連れてきてもらえるかな?」


 空に舞い上がった私はアクアちゃんにマリンちゃんを呼んでもらえるようにお願いします。


「お待たせしました、マリンちゃんを連れてまいりました。」


 それから程なくして、私の傍らにアクアちゃんがマリンちゃんと共に現れしました。

 ちょうど眼下にはセルベチア海軍の艦隊が見えてきたところです。

 さすがに百隻と言うのは圧巻です、まるで大海原を埋め尽くすようです。


「マリンちゃん、お願いがあるのだけど聞いてくれるかな?」


「は~い、何でしょうか~?」


「下に沢山の船が見えるでしょう。

 あの船に乗っている人にマリンちゃんのきれいな歌声を聞かせて上げて欲しいの。

 みんなに届くように魔力をたっぷりと乗せてくれると嬉しいな。」


「わたし~、歌っていいんですか~?全力で~?

 嬉しいです~!わたしのうたをみんなに聞いてもらえるなんて~!」


 マリンちゃんは歌を歌うのが大好きですが、マリンちゃんの歌声には強烈な催眠効果があるので普段は歌わないで欲しいとお願いしています。

 今日は、思う存分歌って良いというのですこぶるご機嫌のようです。


 マリンちゃんは私達から離れて少し艦隊に近づくと…。


「~♪~~♪~♪~♪~♪~~♪~♪」


 とても楽しそうに歌い始めました。

 非常にスローテンポの強烈に眠気を誘う歌に強い魔力を乗せて…。


 マリンちゃんが歌い始めてから小一時間が過ぎました。マリンちゃんは上機嫌でまだ歌い続けています。

 そろそろ、軍艦の搭乗員はみんな寝入っているはずなのですが、艦隊って不測の事態が生じても容易に衝突しないため十分な間隔を開けています。

 中々事故は起こらないのです。

 そして、もう一時間が過ぎようかという時、先頭を行く一隻が速度を落とし蛇行したかと思うと後に続いた一隻がそれに衝突したのです。


 それが大惨事の引き金になりました。

 次から次へと軍艦同士が衝突したのです、玉突き事故というものですね。


 幾ら船と船の間隔が開いていると言っても百隻もの船が限られた海域にいるのです。

 しかも操船している人はみな寝入っていてコントロール不能な状態に落ちっています。

 事故が起こらない訳がないのです。

 たいがいの人が衝突した衝撃で目を覚ましますが、その時は後の祭りです。


 更に三時間ほどのち、昼食の時間もとっくに過ぎて、お腹が空いたのでそろそろ帰りたいと思ったころ…。

 眼下に浮かんでいるセルベチア海軍の軍艦は二十隻にも満たないものでした。

 しかも、その中には航行不能なものもあるようで、比較的損傷の少ない軍艦に乗組員が移動しています。

 また、沈没した軍艦の乗組員の救助、収容も粗方終わったようです。

 見ていると、一隻の軍艦が進路を反転し、北東の方角、セルベアの陸地の方へ進路をとりました。

 すると後に続くように、一隻、また一隻と引き返していきます。


 結局、引き返した軍艦は十隻ほど、損傷のひどい軍艦は破棄されるようです。


 これで、一件落着です。

 九十隻からの軍艦を失ったアクデニス海艦隊の再編には相当な時間を要するでしょう。

 好戦的なセルベチアも少しは大人しくなるかも知れません。


 思う存分歌うことができたマリンちゃんはそれはそれは上機嫌でした。


 その時、私は沈みゆくセルベチアの軍艦を見て思っていたのです。

 鉄、勿体ないことしたかな…と。

お読み頂き有り難うございます。


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