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最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい  作者: アイイロモンペ
第5章 渡りに船と言いますが…
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第85話 噂をすれば影と申しますが…

 さて、大聖堂で見せた奇跡の演出にラビエル枢機卿は甚く満足して頂けたようで、執務室に戻ると手ずからお茶を入れて振る舞ってくださいました。


「明日にはアルビオン王国へ向かって旅立たれるのですか。

 それは残念です、ごゆっくりされるのであれば近辺の名所旧跡などをご案内したのに。」


 最初に顔をあわせた時とはまるで別人のような愛想の良さです。


「ええ、この町には船の補給のために立ち寄っただけですので。」


「そうですか、機会があれば是非今度はこちらの観光にでもいらしてください。

 その時は、歓待させていただきます。

 しかし、この時期にアルビオン王国まで行かれるとは、またずいぶんと勇気のあることです。」


 ラビエル枢機卿が今何か、聞き捨てならないことを言った気がします。


「あの、勇気のあることとはどういう意味でしょうか。」


「いえ、ここから先のアクデニス海はセルベチア共和国の勢力圏になります。

 今にも、セルベチア共和国と帝国の間に戦端が開かれようとしているのに、その中を旅するとは勇気があると思ったのです。」


 そのことでしたか、確かに、ここから先アクデニス海の北岸はセルベチア共和国の領土が続きます。

 でも、そのためのリーナの国の船主さんの船です。

 何と言っても、補給のためにセルベチアの港町にも立ち寄る予定ですので。


「はい、それは承知していますわ。

 ですから、今回私達がお世話になっている船は中立国であるクラーシュバルツ王国の方のものなのですよ。」


「ほう、それは如才ない。

 確かに、如何にあの皇帝であっても中立国の船には手を出さないように指示しているでしょうしね。

 まあしかし、この機に乗じて私腹を肥やさんとする輩がいないとは限りません。

 セルベチアにはくれぐれも注意を怠らないようにしてください。」


 やめてください、そんな噂をすれば影となるようなことを言うのは…、縁起でもない。


 こうして、私達の教皇庁訪問は終わりました。ラビエル枢機卿と懇意になれたので一定の成果があったと言って良いでしょう。

 リーナも枢機卿に大聖堂や礼拝堂を案内してもらい大満足のようですので、立ち寄った甲斐がありました。



     **********



 そして、船はロマリアの港を出てアクデニス海を西に進みます。

 何事もなければ、あと十日もすればアクデニス海を抜けて大洋に到達する予定なのですが…。


 何事も無い訳ないですね…。


 ある朝、朝食を取りに船に転移すると窓の外は何も見えませんでした。

 いえ、正確に言うと先般海賊船に接舷された時と同じで、他の船の側舷が窓から見える視界を覆っているのです。


 何でしょうか、海の上でまさか行商をしている船がある訳ないですね。

 ただ事ではないのは確かなようです。


 取り敢えず、みんなには館に戻ってもらいました。

 面倒ごとに巻き込まれるのは私一人で十分です。


 やがて、部屋の扉がノックされたので扉を開いたのですが…。

 そこには、マスケット銃を背中に押し付けられたゲーテ船長と海賊にしては身なりの良い男が立っていました。


「なんだい、黒い服を着た黒髪の女って、御伽噺に出てくる魔女みてえだな。

 縁起でもねえ。

 おい船長、本当にこいつしか乗客はいねえのか?」


「ですから、この船の客室は貸し切りになっていると申し上げたでしょうが。」


 さすがゲーテ船長、うまく話を反らしました。この船の客室は貸し切りになっている、嘘ではありません。

 私しかいないとは言っていませんが。


「けっ、せっかく客を乗せた船がいたかと思えばこれか。

 こちとら、男ばかりの艦隊行動で女日照りなんだ。

 しょうがねえなぁ、こいつでも場末の娼婦の代わりくらいにはなるか。」


 どうやら、軍人のようですが、勝手なことばかり言っていますね。

 人の事を場末の娼婦の代わりくらいにはなるかですって、失礼な。


「勝手に人の部屋に入ってきて、いったいあなたは何者ですか。」


「俺か?俺様はセルベチア海軍アクデニス海艦隊の提督さ。

 喜べ、貴様を俺たちの艦隊の世話係として使ってやる。」


 世話係っていったい何の世話をさせるつもりやら…。


「あなた、この船が中立国の船と知ってこんなことをしているの。

 このことが周辺国に知れたら、セルベチアは大陸中の国から爪弾きにされるわよ。」


「そんなことを恐れていたら民間船なんか襲えるかって。

 他に知られる心配なんかする必要ないだろう、この船はここで沈んでもらうんだから。

 船員はみんな海の藻屑になってもらうさ、死人に口なしって言うだろうが。」


 この口ぶりでは、民間船を襲うのは今回が初めてではなさそうです。

 セルベチアの海軍は人材不足のようですね。

 軍規も守れない海賊のような人を提督にしないといけないなんて。


「セルベチアの皇帝はあなたが民間船を襲撃することを認めているのかしら。」


「皇帝だと、あの小男が認める訳ねえだろうが。

 あの野郎、やれ軍規を守れだ、やれ民間船を襲うなだと煩くってしょうがねえ。

 まったく、士官学校出は、規則、規則ってやりずれえったらありゃしない。

 こちとら、数代前までは海賊稼業だったんだ。お行儀良くなんてできねえぜ。」


 意外でした、戦好きのセルベチアの皇帝でも民間人に危害を加えることは禁じているのですね。

 どうやら、民間船の襲撃はこの提督の独断のようです。

 この提督、海賊のようなではなく、海賊崩れだったのですね。



 まあ、あまり茶番に付き合っている暇もございませんし、とっとと片付けてしまいましょうか。


『武器を捨てろ!』


「何を言って…。」


 私が魔力を乗せて発した言葉に提督は疑問を口にしようとしましたが、それより先に手にしたマスケット銃を放り投げました。

 そして、腰に差した大振りのナイフと懐に忍ばせたマスケットの短銃も放り出したのです。


「え、俺は何を…。」


 自分の意に反して身に着けた武器を全て手放した提督は戸惑いの表情を見せています。


『この船の船員及び乗客に一切危害を加えることを禁じる。』


『この船の船員及び乗客の指示に逆らうことを一切禁じる。』


『私の質問に正直に包み隠くさず答えることを命じる。』


 私は続けて、魔力を乗せた言葉で三つの命令を提督に下しました。


 そして、


「提督は艦隊行動をとっていると言いましたが、現在艦隊が受けている指示及び作戦の内容を正確に教えなさい。」


 私は、先ほど言っていた艦隊行動中というのが気に掛かっていました。

 一体、何の目的で何処へ向かっているのかと。


「俺たちは司令部の命令でアルビオン王国と海峡を挟んで対岸にある軍港に向かっている。

 そこで、大洋艦隊と合流してアルビオン王国へ奇襲をかける作戦なんだ。」


「艦隊の規模はどのくらいなの。他の軍艦はどこにいるの?」


「この船に接舷している俺の船が旗艦で艦隊規模は全部で百隻、他の艦は大洋に向けて西に進んでいる。

 俺がこの船を襲撃するまで、一緒に艦隊行動をとっていたのでそんなに距離は開いていないはずだ。」


 提督の話では、艦隊行動中にこの船を見つけて下の世話をする若い女性を手に入れようと自ら乗り込んで来たようです。

 作戦行動中にそんなことをするなんて、なんて好色な男なのかしら。


「あなたの艦隊に捕らえられている若い女性はいるのかしら。」


「俺の艦隊は数日前に母港を出港したばかりで、この船が初めて遭遇した客船だったんだ。

 憲兵がいるんで軍港から女を乗せる訳にはいかねえんだ。

 航海の途中で客船を襲って女と金を頂こうと思っていたのでまだ捕らえた女は一人もいねえ。」


 そうですか、では遠慮なく全艦沈めてしまっても問題ないですね。

 捕らえた女性がいたら救出してから沈めないといけないので手間が掛かるなと思っていたのです。

 しかし、この提督、最初から艦隊行動の途中で遭遇した民間船を襲って金品と女性を奪うつもりだったのですね。

 本当にやっていることは海賊と同じですね。


 その後、幾つか細かいことを提督から聞き出した私は、ゲーテ船長に指示しました。


「この提督を空いている部屋に閉じ込めてください。

 私の魔法による命令が効いているはずですので、部屋から出るなと指示すれば逃げ出すことはないと思います。

 念のため、外から鍵を閉めて見張りを立たせておいて頂けますか。」


 この提督はアルビオン王国へ連れて行って、軍の上層部の前で作戦内容を洗いざらい白状させようと思っています。


 しかし、飛んで火にいる夏の虫とはこのことですね。アルビオン王国に恩を売る良いお土産ができました。


 さてと、では百隻の艦隊を処理しに行くとしましょうか。


お読み頂き有り難うございます。

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