第79話 可愛いモノが好きなのは女の子とは限りません
「おじいさま、何をおっしゃっているのでしょうか?」
「今更隠すことはあるまい。
一緒に暮らすのであれば、どうせその二人には紹介するのであろう。
私にも紹介してくれても良いだろう。
私だってアンネリーゼが小さい頃によく聞かされたぞ、可愛い同居人のことを。」
「私もアンネリーゼ姫様からよく聞かされましたよ、可愛いお友達の話。」
ベルタさんもおじいさまに相槌を打ちました。
どうやら、母が情報源だったようです。
精霊のことは外ではなるべく話さないようにと私には躾けておきながら自分では結構漏らしていたようです。
まあ、仕方がないですね。どのみち、フランシーヌさん達には紹介しようと思っていたのです。
「おじいさま、分かってらっしゃると思いますが、他の人には絶対に秘密ですよ。」
「分かっておるわ。こちらとて手札を易々と他人に晒す訳がなかろう。」
手札とか言っているし…。完全に私の一族を身内だと思っていますね、この方。
「みんな、出ておいで!」
「「「「「「はーい!」」」」」」
私が呼びかけると元気な返事と共に精霊たちが宙に姿を現しました。
「ほう、これは…。」
「まあ、可愛らしい。」
「「えっ、なに?」」
おじいさまとベルタさんは予め話を聞いていたため精霊たちを見て相好を崩しました。
おじいさまは精霊たちの愛らしさに、目を細めて言葉を失っています。
一方のフランシーヌさん達は突然現れた精霊たちに自分の目を疑っているようで、目を凝らしています。
すると、水の精霊のアクアちゃんがおじいさまを見て言いました。
「これは、ずいぶんと懐かしい方がいらっしゃいますね。
帝国の皇帝ではないですか。」
意外な言葉に私は思わず尋ねました。
「アクアちゃん、おじいさまを知っているの?」
「知っているもなにも、この方、よく赤子の時のロッテちゃんを抱いてらしたのですよ。
よくボヤいてましたよ、ロッテちゃんの一族は自由で羨ましいって。」
アクアちゃんは、契約を交わす前、私が赤子の時から私の傍にいてくれたようです。
アリィシャちゃんにとってのリアのような存在だったのですね。
おじいさまは赤子の私を抱いては、色々と愚痴をこぼしていたようです。
他の子や孫と違い煩い閨閥を持たない母や私を構っている時が一番気兼ねしなくて良かったようです。
まさか、聞いているモノがいるとは思っていなかったのでしょうね。
そのことを暴露されておじいさまは気まずそうな顔をしていました。
**********
「しかし、聞きしに勝る愛らしさよのう。」
昔の話に気まずくなったおじいさまが露骨に話題を変えるように言いました。
もちろん、私は空気が読める子なので素直にその流れに乗ります。
「ええ、可愛いでしょう、あげませんよ。」
そう言って私は六人の契約精霊を一人ずつ、みんなに紹介しました。
紹介された精霊がペコリとお辞儀をするたびにおじいさまが相好を崩します。
「精霊って、お伽噺によく出てくるあの精霊ですよね。
本当にいただなんて、こうして目にしていても信じられません。」
フランシーヌさんは未だに目を疑っているようですが、シャル君は目を輝かせて精霊達を見つめています。
「可愛いです、こんな小さいのにみんな個性的なんですね。」
「決まっているでしょう。
あなた達人間が十人いれば十人とも違っているように、アタシ達精霊も十人いればみんな違うのよ。」
シャル君の言葉にサラちゃんが薄い胸を張って偉そうに言っています。
ブラウニー隊のことも紹介しておかないといけませんね。
「アインちゃん、新しい住人を紹介するから出てきてもらえないかな。」
「はい」
私の呼びかけに応じて目の前にアインちゃんが現れました。
「紹介します。
この館の管理や家事をしてくれている家付き精霊、ブラウニーのアインちゃんです。
ブラウニーはこの館にたくさん住んでいるのですけど気が弱いのであまり姿を現しません。
ですけど、この子たちがこの館を住み易い状態に維持してくれているので感謝の気持ちをもって接してください。
アインちゃんがブラウニー隊の代表で時折こうして姿を見せてくれます。
アインちゃん、この三人が今日からここで暮らしますのでよろしくお願いね。」
私は、アインちゃんに対しフランシーヌさん、シャル君、ベルタさんを順に紹介しました。
「アインです。よろしくお願いします。」
アインちゃんがか細い声と共にぺこりと頭を下げるとベルタさんが言いました。
「あなたがブラウニーちゃんなのですね。
アンネリーゼ姫様から良く伺いました、たくさんのブラウニーたちが館を守ってくれているって。
私はベルタ、今日からここにお仕えするのでよろしくね。」
全員の紹介が済んだところで、おじいさんがベルタさんに向かって指示しました。
「あれは用意してあるのだろう、ここで出したらどうなのだ。」
おじいさまの指示を受けたベルタさんは部屋の隅に置いてあったトランクの中から何かを抱えてきました。
「これ、皇帝陛下のご指示で精霊のみなさんにお近づきの印に持ってきました。
どうぞ、召し上がってください。」
精霊たちの前に差し出されたのは、ベルタさんが抱えるほど大きな紙袋いっぱいに詰められたお菓子でした。
「アンネリーゼがよく言っていたのだ、精霊たちは甘いお菓子が大好物だと。
せっかく、ロッテの館に行くのだから手土産にと用意させたのだ。
遠慮せずに食べておくれ。」
「「「「「「「いただきま~す!」」」」」」」
おじいさまの言葉を受けて、精霊たちがお菓子に群がりました。
先にブラウニー隊の分を取り分けるのだったと反省していたら、ベルタさんがもう一袋抱えてきて私に差し出しました。
「これ、ブラウニーの皆さんの分ね。人前に姿を現さないと聞いていたので、別に用意しておきました。」
本当に用意周到ですね……。
お菓子を食べている精霊を見て驚きました。
精霊たちが口にしているそれは、焼き菓子全体に貴重なショコラーデを厚くコーティングしたお菓子でした。
私ですら、滅多に口にできない高級品です。
そんなものを惜しげもなく持ってきてくださるなんて、さすが皇帝、太っ腹です。
もちろん、初めて口にするショコラーデの味に精霊たちは上機嫌です。
「これ、とても美味しいわ。
あなた、皇帝だっけ。気が利くじゃないの、気に入ったわ。
これからもよろしくね。」
サラちゃんが偉そうに言いました。口の周りがショコラーデで汚れていて様にならないことこの上ないです。
どうやら、サラちゃんはさっそく餌付けされてしまったようですね。
美味しそうにお菓子を頬張る精霊たちを見ておじいさまは終始相好を崩したままでした。
その目はまるで可愛い孫を見るような優しい目をしていました。
可愛いモノが好きなのは何も女の子だけではなかったのですね。
お読み頂き有り難うございます。




