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最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい  作者: アイイロモンペ
第5章 渡りに船と言いますが…
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第78話 いきなり現れたら普通は驚くと思います

「おじいさま、何をされているので?」


 私は転移魔法の発動媒体の上に立って私の手を取るおじいさまに尋ねました。


「決まっておるであろう、マリア姉上の孫達に顔を見せに行くのだ。

 顔も見せないで、ロッテに預けたら私がその二人を歓迎していないように思われるであろう。

 一度会って、事情を説明してやらんといかんかと思うてな。」


 おじいさまはもっともらしいことを言いました。


「それで、本当のところはどうなのです?」


「いや、私も一度転移魔法というものを経験してみたくてな。

 それに、ベルタではないが、私も一度アンネリーゼの住んでいたところを見てみたい思っていたのだ。

 マリア姉上の孫に会うという建前もあるし、良い機会だと思うてな。」


 おじいさま、今、あの二人に会うことを建前とおっしゃりましたね。そっちがついでなのですか…。

 

 おじいさまは梃子でも動きそうではない様子でしたので、仕方なくアルムハイムの館へ案内することにしました。

 この押しの強さ、母が皇室に取り込まれるのではと警戒した気持ちが良く分かりました。

 ただ、母のことが大好き過ぎるだけとも思え、今のところ判断が付きかねています。



     **********



 転移魔法を発動し、二人と大きなトランクを伴ってやって来たのは生前に母が使っていた寝室です。

 光の魔法を灯し部屋を明るくすると、…。


「あれは、アンネリーゼがまだ幼い頃に私が与えた人形ではないか。

 まだ持っていてくれたのか、大切にしてもらえて嬉しいことだ。」


 寝室のキャビネットに置かれたアンティークな人形を目敏く見つけたおじいさまが感極まった声を漏らしました。

 どうやら、単なる親バカのようでした。母も私もおじいさまを警戒し過ぎていたようです。


 ただ、…。

 あの人形、非常に高名な人形職人の手によるもので相当の値が付くものだとは聞いていましたが、おじいさまから頂いたものだとは聞いたことがありませんでした。

 おじいさまとの血縁関係を内緒にするとしても、あの母なら皇帝陛下から頂いた物だと自慢したと思うのです。

 憶測ですが、母はあの人形をおじいさまから頂いた物ということを忘れていたのではないでしょうか。

 もちろん、おじいさまが不憫なのでそんなことは言いませんが。


 感動に浸るおじいさまを何とか動かして、三人でリビングルームに向かいます。


「姫様、その浮遊の魔法というのは便利なものですね。

 アンネリーゼ姫様は良くソファーに腰掛けたまま本棚の本を手元に引き寄せていたのですが。

 まさか、こんな重い物まで運べるとは思いもしませんでした。」


 ベルタさんの大きなトランクを浮遊の魔法で浮かして廊下を歩いているとベルタさんが呟きました。

 当面の生活に必要なものが詰め込まれているせいかとても重く、ベルタさんが運ぶのでは気の毒だと思い、魔法で運ぶことにしたのですが思いの外感心しているようです。



 リビングルームに入ると隅に控えていたカーラがすぐに私に気づきました。


「お帰りなさいませ、お嬢様。」


 カーラの言葉でリビングルームにいる人の目が私の方に集まります。

 リーナはすぐにおじいさまに気が付き緊張した様子でソファーから立ち上がりました。


「ああ、皇帝陛下だ!皇帝陛下、いらっしゃい!」


 リーナが声を発するより早く、アリィシャちゃんがおじいさまに挨拶をしました。

 まるで、近所のおじさんを迎えるように。

 やはり、そろそろ、礼儀作法を教えないといけませんね。


 私が気まずい顔をしていると、


「良い、良い。子供は元気が良いのが一番だ。

 礼儀作法なんてものはもう少し大きくなってからで十分だ。

 アリィシャと言ったかな、こんにちは。

 そっちのクラーシュバルツの姫もそんなに固くならんで、肩の力を抜いておくれ。」


 おじいさまは気を悪くした様子も見せずに、二人に声をかけてくださいました。


 アリィシャちゃんの言葉で、私の横に立つ人物の正体がわかったフランシーヌさんとシャル君が、慌てて起立します。

 まさか、皇帝陛下自らがここを訪れるとは考えてもいなかったのでしょう、フランシーヌさん達は目を丸くしています。


 そんな二人におじいさまは優しく声を掛けました。


「そなた達がマリア姉上の孫であるか。遠いところ、良く来たな。

 ロッテから話は聞いておる。

 カンティ公爵には気の毒であったが、そなた達が無事で何よりだ。

 私はそなた達を歓迎する、そなた達の安全と今後の生活は私が保証するので安心するが良い。」


「お初にお目にかかります、皇帝陛下。

 私はフランシーヌ・ド・ベルホン=カンティと申します。

 横に居りますは弟のシャルル=ルイ・ド・ベルホン=カンティでございます。

 皇帝陛下自らご足労いただいたうえ、寛大なお言葉を頂戴し恐悦至極に存じます。」


 おじいさまの言葉を受けてフランシーヌさんが慌てて返答しましたが、その声は緊張で震えています。


「そんなに緊張しなくても良い。ここは謁見の間でもなければ、皇宮ですらないのだ。

 親戚のおじさんと話すと思って気楽にすれば良い。

 立ち話もなんだし、座って話をすることにしよう。

 今後についての説明もしないといかんからな。」


 おじいさまは、緊張した様子のフランシーヌさんに席を勧め、自らもその向かいに腰を落ち着けました。


「だいたいの事情はロッテから聞いておる。

 マリア姉上が残した大事な孫を粗末に扱う訳にいかない。

 ただし、そなた達を公然と保護することができないのは、そなた達自身が解っていることだと思う。

 私はそなた達が安心して暮らせる場所を用意するつもりであるが、すぐにというのは難しい。

 それで、良い場所が見つかるまでの間、ここロッテの領地で二人を保護してもらうことになった。

 後でロッテから説明があると思うが、ここは世界中で最も安全な場所なのでな。」


「はい、皇帝陛下のご配慮に感謝いたします。

 だだ、こちらは余り人気がない様子ですが、私達がお世話になるとご迷惑をお掛けするのではないでしょうか。」


 フランシーヌさんは周囲を見回して不安そうな表情で言います。

 何せこの館に来てから私達以外の人に会わないのですから当然ですね。


「それについては、そなた達の世話をするために、皇宮から一人侍女を遣わした。

 私の後ろに立つ者がそうだ、名をベルタという。

 ベルタはロッテの母親の侍女をしていたのでこの家の事情にも明るいから頼ると良い。」


 おじいさまはベルタさんを紹介して、二人を安心させて言いました。


「ところで、私にはこの館の可愛い住人たちを紹介してはくれないのかい?」


 おじいさま……。


お読み頂き有り難うございます。

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