第74話 館にお持ち帰りすることにしました。
「今、あなたが言った事に嘘偽りないのであれば私はあなたたち姉妹を救うことができます。
もう一度聞きます。
あなた方は、セルベチアに王制を取り戻すことを諦め、今後一切王政復古運動と関わらないことを誓いますか。」
念のため、私はもう一度フランシーヌさんに確認しました。
万が一にも帝国に戦争の火種を持ち込む訳には行きませんから。
「シャルロッテさんに本当に私達姉妹を救うすべがあって、それが条件であるのであれば私達は誓いましょう。
神と自分の良心に誓って今後一切王政復古運動に関わらないことをお約束します。」
フランシーヌさんの瞳に偽りは感じられませんでした。
まあ、人生経験の浅い私に人の嘘など見抜けはしないのですが…。
「良いでしょう、でもその前に…。」
私はソファーから離れて部屋の扉を開け放ちました。
「盗み聞きなんて、お行儀がよろしくなくてよ、ゲーテ船長。」
そこには、扉に耳を寄せて聞き耳を立てていたゲーテ船長の姿がありました。
不意に扉を開かれたため、耳を寄せたままの間抜けな姿勢で硬直しています。
「いや、これは、…。」
ゲーテ船長は気まずそうに声を途切れさせました。
まあ、船長としては身元の分からない人が乗ってきたのですから事情が知りたいのは当然のことだと思います。
ちょうどいいので口止めをしておきましょう。
『この船に乗っている方全員を甲板に集めてください。』
私は魔力を込めた言葉を使いゲーテ船長に命じました。
それからしばらくして甲板に集まった船乗りさん達全員に向かって告げます。もちろん、強制力をを持つ魔法の言葉で。
『私が海賊船から連れてきた二人について他の人に告げるの禁じます。いかなる手段であってもです。』
『もし、二人のことを尋ねてくる者があれば、知らないと答えるのです。』
これで、セルベチアからの捜索があっても二人のことが漏れることはないでしょう。
私はゲーテ船長を伴って、貴賓室に戻りました。
貴賓室のソファー、私の目の前に腰掛けるのはゲーテ船長です。
フランシーヌさんには妹さんが眠る寝室に行ってもらいました。
「あの二人の少女は政治的に非常な高度な問題を抱えておりますので、詮索は無しにしてください。」
「いや、お嬢様、そんな訳ありの人を乗せるのであれば尚更事情を知らない訳には参りません。
どんな火の粉が降りかかるか分からない人物など危なくて乗せておけません。」
「船長の立場であれば、おっしゃることはもっともだと思います。
ですから、あの二人はこれから私が帝国にある私の館に連れて帰ります。」
「はい?」
「船長、この部屋に入って何か気が付きませんか?」
「そう言えば、さっき海賊がこの部屋に押し入った時も思ったのですが。
お嬢様のお連れの方が見当たらないのですが。」
「ええ、私の同行者は、今は帝国にある私の館へ戻っております。
私は転移の魔法が使えるのです。
これから二人を転移魔法ので、帝国へ連れて帰ります。」
「まさか、そんな事まで出来るとは…。」
『転移魔法のことを他者に告げることを禁じます。いかなる手段をもってもです。』
「分かっておりますとも。お嬢様がそんな便利なモノを使えると知れたら、厄介な連中が寄ってきますからね。」
ゲーテ船長は、二人が速やかに船から立ち去るのであれば一切詮索しないと言って部屋を出ていきました。
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私はフランシーヌさんの妹を寝かしている寝室に赴き、ベッド横のスツールに座るフランシーヌさんに告げました。
「この船に乗る人達に、あなた達二人について一切外に漏らさないように口止めをしてきました。」
「それで、私たちはこれからどうなのでしょうか?」
不安げに言うフランシーヌさんに安心させてあげられるように、私は優しく微笑んで話しかけました。
「安心してください。
お二人はこれから帝国にある私の館にご案内します。
その後、最終的に何処にお連れするかは、他の帝国の方と相談して決めることとなります。
ただ、私の館に着けばもうセルベチアには手が出せませんので安心して結構です。」
「今から、帝国へですか?ここはシャルロッテさんの領地の近くなのでしょうか?」
「いえ、ここからですと、ゆうに千マイルは離れていますね。」
「では、どうやって?」
「フランシーヌさんは先程私が負傷者の治療をするところをご覧になったでしょう。
私は魔法使いなのです。今からお二人を転移魔法で私の館までお連れします。
その前に妹さんを起こしましょうか、抱えて転移するのは大変ですから。」
私の言葉に頷くとフランシーヌさんは妹さんに優しく声を掛けました。
「シャル、起きなさい。シャル。」
妹さんはシャルちゃんというお名前ですか。私と似た名前で親近感が持てますね。
「うん…、おねえさま、ここは…。」
「ここは私達を保護してくださったシャルロッテさんの寝室よ。
あなたをベッドに貸してくださったの。」
寝ぼけていたシャルちゃんでしたが、フランシーヌさんの言葉を耳にし、次第に頭がはっきりしてきたようです。
私に向かって頭を下げて言いました。
「初めまして、シャルと申します。あぶないところを助けていただき有難うございました。」
あら、まだ十歳くらいに見えるけど礼儀正しいのですね。公爵令嬢というのですからもう少し横柄かと思いました。
「海賊船で名乗ったと思うけれど、改めて、シャルロッテ・フォン・アルムハイムです。よろしくね。
さて、これからシャルちゃん達二人を私の館で保護します。
あなた方を保護するにあたり、あなた方二人が今後一切セルベチアの王政復古運動に関わらないことを条件としました。
フランシーヌさんは同意してくださいましたが、シャルちゃんも異存ありませんね。」
十歳の位の子供に言っても解らないかもしれませんが念のためです。
「私はお姉さまの言うことに従います。もう、怖いことも、逃げ回るのもイヤです。
シャルロッテ様の条件を受け入れれば安全な所へ行けるのであればそれに従います。」
シャルちゃんは今までずいぶんと怖い思いをしてきたようです。
まあ、セルベチアの内戦で陣頭指揮をとる人の娘に生まれて、敗北して逃走、あげく海賊に捕らわれれば無理はないですか。
「わかりました、それではこれより、お二人を私の館にお連れします。」
その前に…。
『私が魔法使いであること及び私が使う魔法に関する一切のことを他者に伝えることを禁じます。如何なる手段であってもです。』
転移魔法のことは親しい人以外には絶対に漏らすわけにはいきません。きちんと口止めしておかないとなりません。
そして、私は二人を連れて私の館に転移したのです。
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「ここは?」
シャルちゃんを寝かしていたベッドの横に敷いておいた魔法の発動媒体に二人を立たせ、背後から二人を抱きしめる形で転移魔法を発動させました。着いた先はアルムハイムの館の寝室です。
目の前のベッドがいきなり天蓋付きの大きな物に変わったことで、否が応でも違う場所にいることが理解できたのでしょう。
周りを見回したフランシーヌさんの口から発せられたのが今の一言です。
「私の館へようこそ。ここは私の寝室です。
これからリビングへ行ってあなた方をみんなに紹介しましょう。」
いつまで寝室にいても仕方がありません。
私は場所を移して、リーナ達に二人のことを紹介することにしました。
お読み頂き有り難うございます。




