第6話 私の素敵な家族を紹介します
先程、この館が帝国の皇帝から下賜されたものだと話したためか、リーナは部屋の中を見回しています。
「とっても立派な館ですけど、これだけ広い館にロッテは本当に一人で住んでいるの?
手入れも大変でしょうし、メイドの一人もいないと掃除もできないのではないですか。
何よりも、一人じゃ寂しいでしょう。」
別に、人がいなくても、私にはドリーちゃんもブリーゼちゃんもいるから寂しくはないかな。
それにね……。
「みんな、少し早いけどお茶にしましょう。
お客さんを紹介するから出ておいで!」
「「「「「はーい!」」」」」
「はあ?」
元気な声と共に現われた五人の小さな精霊たちにリーナは目を丸くしています。
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ティールームに置いた大きなテーブルの上に車座に座る六人の精霊たち。
籠に盛られたクッキーを仲良く頬張っています。
自分の顔よりも大きなクッキーを両手で抱えてカジカジと齧る姿は小動物を見るようでとても愛らしいのです。
行儀が悪いといわないで下さい、全員身の丈十インチなのでテーブルに座わらないと目線の位置があわないのです。
「紹介しますね、私の大切な家族、私の契約精霊のみんなです。」
最初から部屋にいたブリーゼちゃんに加わった五人、一人はさっきのドリーちゃんです。
そして、
レモンイエローの薄絹のドレスを纏った金髪の少女、光の精霊シャインちゃん。
腰まで伸ばした癖のない金髪をたおやかに揺らして歩く様はまるで貴族のお嬢様のよう。
いつもニコニコとした笑みを湛えていて春の陽だまりのような雰囲気を漂わせています。
ライトブルーの薄絹のドレスを纏った青みを帯びた銀髪の少女、水の精霊アクアちゃん。
ストレートロングの銀髪をハーフアップにまとめて、ちょとだけお姉さんっぽいです。
ひかえめな性格で、切れ長の目で穏やかに微笑む表情は深窓の令嬢という雰囲気です。
ゴージャスな真紅のイブニングドレスを纏った赤髪の少女、火の精霊サラちゃん。
ボリューム感のあるウェーブヘアを腰まで垂らして颯爽と歩きます。
つり目がちの目と勝気な性格が相俟って、まるで女王様のようです。
グレーのキュロットにチェックのシャツを着たアッシュブロンドの少女、大地の精霊ノミーちゃん。
庶民的ないでたちのノミーちゃんは動きやすさ重視だそうです。
快活な性格の彼女は髪も動きやすいショートヘアで、灰色の髪をポンパドールにしています。
真ん丸の目がキュートな女の子です。
私は精霊の一人一人をリーナに紹介しますが、紹介された精霊の方は無反応です。
リーナに挨拶もしないのです…。
クッキーを頬張るのに夢中で私が紹介したのを聞いてないようでした。
「か、かわいい……。」
でも、リーナの方も挨拶がないことを気にしていないようです。
夢中でクッキーを頬張る精霊たちに魅了された様でうっとりして眺めていました。
今日のところはいいでしょう、機会があったら改めて一人ずつ紹介しましょう。
「ね、この子達がいるから寂しいことはないの。
毎日がけっこう賑やかで退屈しないのよ。
それに、家事を手伝ってくれる子達もいるの。
みんな恥ずかしがり屋でお客様の前には出てこないのよ。
ブラウニー隊のアイン、このお客さんは虐めないからチョッと出てきて。
クッキーあげるわよ。」
私はブラウニー隊のために取っておいたバスケットを掲げて呼びました。
すると、私の肩の上にやはり身の丈十インチほどの少女が現われます。
「こんにちは、アインです。」
蚊の鳴くような小さな声でリーナに挨拶したのは、家につく精霊ブラウニーの代表アイン。
ブラウニーは恥ずかしがり屋で私の前以外には姿を現しません。
この子達、集団で行動していて皆同じ顔に見えるので見分けがつかないのです。
ですから、代表を決めてもらってアインと呼ぶ事にしました。
この子達、何人いるかも分らないのです。三十人までは数えたのですが……。
白いブラウスの上にこげ茶のジャンバースカートを着て、白いエプロンを着けた茶髪の家事集団、手にしたデッキブラシがチャームポイントです。
私がクッキーの入ったバスケットをアインに渡すと、自分の体よりも大きなバスケットを器用に浮かべてふよふよと仲間達の許へ戻って行きました。
「可愛いですわ、でもあの子達が家事を手伝ってくださるのですか?
とてもそんなことができる大きさには見えないのですけど。」
ええ、とっても不思議ですよね。私もそう思って覗いたことがあるのです。
「掃除しているところは見たのよ。
凄い数で横一列になってデッキブラシをかけるの。
あれ、ただのデッキブラシじゃなくて、魔法の道具みたいなの。
あんな小さな子達一拭きでピカピカになるの、驚いたわ。
ただね…。」
私が言いあぐねていると、リーナが目を輝かせて言いました。
「魔法の道具ですの、凄いですわ、それで床がピカピカなのですね。
こちらにお邪魔したときから思っていたのです、どうやってこんなにきれいに床を磨いたのかと。
ところで、どうかしたのですか、途中で話をやめたようですが。」
「いえ、それが想像するとあまり気持ちの良いモノではないものでどうしたものかと。
実は、あの子達、私が疲れていたりすると時々料理を作ってくれるのです。」
「料理ですか?」
「ええ、とっても美味しい煮込み料理を作ってくれるのです。」
「煮込み料理ですか、あの小さな体では鍋に落ちたりしたら大変ですね。」
「いえ、魔法で浮いているのでその心配はないのです。
あの子達、私に元気になってもらおうと気を配ってくれるのでしょうね。
煮込みにお肉がゴロゴロ入っているのです。
うちにお肉など置いてあったためしがないのに……。」
「はあ?」
ブラウニー隊の作ってくれる煮込み料理には、お肉がたくさん入っています。
肉の種類は、クマ、鹿、猪などですね。
あの虫も殺せないように見える気弱なブラウニー隊が血塗れになってクマと格闘している場面など想像できません。
大体、精霊は殺生を嫌うのです、クマを殺すブラウニーなど有りうるのでしょうか。
そんな事をリーナに話しているといつの間に私の肩に腰掛けていたドリーちゃんが言います。
「食べる物まで殺生するなとは言わないよ。
人は食べないと生きてけないんだよ。
私だって、ロッテが栄養失調で体を壊しそうになったら、森に行って殺っちゃうよ。」
この子のイタズラな笑顔を見ていると本当にやりそうで怖いです…。
どうやら、食べ物を得るための最低限の殺生は精霊も許してくれるようです。
「ブラウニー隊がどうやってクマを狩っているか教えてあげようか?」
ドリーちゃんが耳元で囁きます。
「やめてください。私の心の中に住んでいるブラウニーはクマなど狩らないのです。
イメージを壊さないでください。」
かわいいブラウニーが得物を持って集団でクマに襲い掛かる場面など想像したくないです。
私がドリーちゃんにそう言うとドリーちゃんはニコニコと笑っていました。
どうやら、私はドリーちゃんにからかわれたようです。
「ロッテとドリーちゃんって本当に仲が良いのですね。
確かに、賑やかで楽しそうですわ。」
私とドリーちゃんの会話を聞いていたリーナがそんな感想をもらしました。
ええ、とっても可愛い精霊達に囲まれて私は毎日がすごく楽しいです。
お読み頂き有り難うございます。