第64話 祖母も母も無茶苦茶です
カーラを回収した翌日、私は最低限の荷物を持って帝都へ行くことしました。
母を亡くしたことは大変悲しいことでしたが、今日ばかりは母の喪中で助かったと思っています。
何故かって?
だって、皇帝陛下の前に上がるのに、黒のドレスに、黒のベールで良いのですもの。
通常であれば正装をする必要があります。
ゴテゴテしたドレスに、黒のタスキをかけてそこに伯爵を示す記章をつけます。
更に頭には皇帝陛下から賜ったティアラを着けなければなりません。
着替えだけでどんだけ時間をとるって……。
生前、母が使っていた部屋に設置してある転移魔法の発動媒体、その一つ帝都の皇宮と結んだ物の上に立ちカーラにしがみ付けさせます。
「いいこと、私と離れると移転できないからしっかりと掴まっているのよ。」
カーラに注意をして、発動媒体となっている敷物に魔力を流します。
そして、瞬時に目の前の光景が変わり……。
真っ暗です…。
随分以前に母が使ったままにしてあると言うのです、灯りがないのも想定のうちです。
すぐさま私は指先に光の玉を生み出し天井近くに放りました。
「これがシャルロッテ様のお母様が使われていたお部屋でございますか。
ずいぶんと生活感があるお部屋に見受けられるのですが。」
カーラが感想を漏らします。
私もそう思っていたところです。
転移魔法の発動媒体を置かせてもらうだけの部屋にしては色々揃い過ぎています。
ベッドやソファなどはわかります。
母は帝国から仕事を請けて数日帝都に滞在することがありましたのでこの部屋に泊まったのでしょう。
しかし、そういった数日の滞在用の部屋とは思えない生活感があるのです。まるで長期間ここで生活したかのようです。ベビーベッドとかあるし……。
私は部屋の内鍵を解錠し、テーブルに置かれたハンドベルを鳴らしました。
しばらくして、扉がノックされたのでカーラに扉を開けさせます。
「シャルロッテ姫様でございますか。
私はアンネリーゼ姫様のお世話をさせて頂いておりましたベルタと申します。
これより、シャルロッテ姫様のお世話をさせて頂きますのでよろしくお願い致します。」
部屋に入ってきた侍女のベルタさんがそう言って私に頭を下げました。
アンネリーゼとは母の名です。
母が生前帝都へ行くときに誰も付き人がいなかったのは、皇宮側で用意してくれたからなのですね。
しかし、たまに仕事の依頼を受けて訪問するだけの母に専属の侍女がいたなんて破格の対応を受けていたのですね。驚きです。
しかし、何故に母や私は姫様と呼ばれているのでしょうか?
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私達はベルタさんの案内で皇帝に謁見すべく謁見の間に向かいます。
「私室?」
ベルタさんがノックをして開いた部屋はどうみても何方かの私室です。
私が戸惑っていると部屋に置かれたソファーの方からこちらに手を振る老人の姿がありました。
「おーい、こっちだ。良く来たな。そのまま侍女を連れて入ってくるが良い。」
見ると私達を先導してきたベルタさんが深々と頭を下げていました。
もしかして、この老人……。
私がカーラを従えて呼ばれた方に歩いていくと老人は立ち上がり笑顔で迎えてくれました。
「よく来たな、私は皇帝のフランツだ。
そなたが当代のアルムハイム伯かな。」
やはり、この方が皇帝陛下ですか。
「お初にお目にかかります。
お召しにより参上いたしましたシャルロッテ・フォン・アルムハイムにございます。
皇帝陛下におかれ…。」
「そういう、堅苦しい挨拶は抜きでよい。
そのために、私室に招いたのだからな。
だいたい孫娘にそんな挨拶されても嬉しくないぞ。
初めましてお祖父ちゃんと言われた方が、私はよっぽど嬉しいわ。」
「????」
いったい何の話をしているのでしょうこの方は?
「シャルロッテ、そなた、何も聞かされておらんのか?
そなたの母アンネリーゼは紛れもなく私の娘であるぞ。
私が若い頃、そなたの祖母に仕事を依頼したことがあってな。
大変骨を折ってもらったゆえ、金品に加えて何か褒美を取らそうと申したのだ。
すると私の種が欲しいと言うのだ。
我が一族が多産なのは有名であろう、私の種なら百発百中だろうと申してな。
そなたの祖母は魔法の研究以外に全く興味がない女での。
丈夫な子供が生まれる種なら誰でもよかったと言うのだ、それで私に白羽の矢が立った訳だ。」
衝撃の事実でした。
我が家に男性が住んでいた形跡がないと思ったら、こんなところで摘んでいましたか。
確かに、皇帝の一族は多産でかつ種が強いと世間の評判です。
この一族には世に有名な家訓があります。
「戦争なんてほかの連中にやらせておけ、うちらは結婚して一族の根を伸ばせ」
この一族が帝国を構成する領邦貴族と婚姻を結ぶと何故か都合よく本家が途絶するのです。
別にこの一族の人が暗殺している訳ではありません、本家に子が生まれないだけですから。
一方で、この一族から嫁に行った娘や養子に行った息子はきっちり子をなすのです。
婚姻と本家の途絶を繰り返した結果、今や帝国の三分の一はこの一族の物になっています。
きっと、魔法使いの血筋を途絶えさせたくない祖母はこの一族の種の強さを取り込もうとしたのでしょう。
「では、先程私が転移して来た部屋は?」
「あの部屋はそなたの祖母がアンネリーゼを産んだ部屋だ。
それ以来、アンネリーゼの部屋になっている。
アンネリーゼがそなたを産んだのもあの部屋であるぞ。
子供用の小さなベッドがあったであろう、あれは生まれたばかりのそなたが使っていたものだ。」
どうりで生活感があったはずです。あの部屋はうちの一族が間借りしているようなものでした。
うん?私が産まれた?ここで…?
「皇帝陛下、陛下はもしや私の父が誰かご存知で?」
私がここで生まれたのなら、この方は私の父が誰かを知っているかもしれません。
長年の疑問が解決するかも知れないです。
「それが解らんのだ。私の甥っ子三人の内の誰かであることは間違いないのだがな。」
この方は、また訳の解らないことを言い出しました。
「アンネリーゼは、魔法使いの一族が私の一族に取り込まれるを避けたかったのだと思う。
私がアンネリーゼ可愛さにちょくちょく呼び出すものだから、取り込まれると思ったのだろう。
しかし、私の一族の種の強さはアンネリーゼも欲したのだ。
あやつは従兄弟三人を夜ごと順番に褥に引き入れたのだ、父親が誰かわからなくする為に。
おそらく、アンネリーゼ自身もそなたの父親は分からないと思う。」
祖母も母もやる事が無茶苦茶です。
魔法使いの血筋は絶やしたくない、でも一族に他から干渉されたくない。
その結果がこれですか……。
「そなた、それは喪服であるな。アンネリーゼは本当にもういないのであるな。
あいつは本当に親不孝な娘だ、そなたを産んだあとはとんと姿を見せなくなった。
仕事を依頼しなければ私に顔も見せてくれなかった。
挙句の果てに、まだ四十にもならないで逝ってしまうなんて……。」
皇帝陛下はそう言って涙を零しました。
私は気の毒でいう事が出来ませんでした。
多分は母は皇帝陛下のことを父親だと思っていませんでした。
単なる種の提供者程度にしか思ってなかったと思います、ごめんなさい。
涙を拭いた皇帝陛下は言いました。
「シャルロッテ、そなた、ベールを取って顔を見せてくれぬか。」
私は皇帝陛下に請われるまま喪中の黒いベールを外しました。
「アンネリーゼの若い頃にそっくりだ、そなた、美しく育ったな。」
そう言って皇帝陛下はしばらく私に顔を見つめていたのです。
母の若い頃を偲んでいるようでした。
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「それで、皇帝陛下、私をお召しなったのは孫娘の顔を見るためではございませんですよね。」
皇帝陛下の表情が少し改善したので、私は召喚状の用件を尋ねました。
「勿論だ。
その前に、皇帝陛下は止めてもらえないか、孫娘にそう他人行儀にされると悲しいぞ。
お祖父ちゃんと呼んでくれまいか。私にもロッテと呼ばせてもらえんだろうか。」
祖母や母が迷惑をかけてきたのです、そのくらいの願いは聞かないといけないでしょう。
「おじいさま、きょう私をここに呼んだ用件をお聞かせ願えますか。」
「先日、ハンスからロッテがアルビオンに行きたいと申しておると耳にして、丁度良いと思ったのだ。
ロッテ、私の使者としてアルビオン王国の首相に親書を届けてくれないだろうか。」
「はあ?」
なんか本当に面倒なことになったようです。
お読み頂き有り難うございます。




