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最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい  作者: アイイロモンペ
第1章 アルムの森の魔女
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第5話 女の子は誰しも、可愛いモノが大好きです

「そんなことがありましたの…。」


 ここが国として認められた経緯を聞いたリーナが呟きました。

 それは、私の話を鵜呑みにして良いのか判断に困ったような呟きでした。


 まあ、一人で万を超える大軍を撃退したと言われてもにわかには信じられないですよね。


「ええ、本当の話ですよ。

 それ以来、セルベチアでは『アルムの魔女』として恐れられているのです。」


「へえー」


 なんか反応が薄いです、トンデモ話を聞かされたとでも思っているのでしょうか。


「ブリーゼちゃん、ちょっと良い?」


「ハイな!」


 テーブルの上に現われたのはやはり身の丈十インチほどの少女。

 白銀のウェーブヘアはハーフロング、それを自然に風にたなびかせています。

 身の纏うのは白のサマードレス、レースの付け襟と前身のフリルがとてもお洒落です。

 

「その子も精霊ですか?」


「はい、私の契約精霊の一人、風の精霊ブリーゼちゃんです。

 可愛いでしょう。」


「もうロッテちゃんたら、可愛いなんて言われたら照れちゃうわ。」


 リーナの問いに答えてブリーゼちゃんを紹介すると、ブリーゼちゃんは頬に両手を当てて首を振ります。

 照れている仕草なのでしょうか、とても愛らしいです。


「ブリーゼちゃん、悪いけど書斎に行って帝国貴族名鑑を持ってきてくれないかな。」


「お安い御用よ!」


 私の頼みを快く聞いてくれたブリーゼちゃんが書斎へ飛んでいきます。


「ロッテって、凄いわね。精霊とあんなに仲良くして。

 私、精霊って初めて見たわ。本当にいたのね。」 


 ええ、そうでしょうとも。

 精霊はよほど気を許した人の前以外には現われません。

 殆んど目にした人はいないのです。

 そのため、一般には精霊はお伽話の中の存在、架空の生き物だと思われています。


「ええ、私の一族は太古の昔から精霊と共にあるの。

 精霊は対等な友達なのよ、だからちゃんとお願いしてきちんとお礼もしているの。

 彼女たちは甘いお菓子が好きなので午後のティータイムには甘い焼き菓子を振る舞うの。」


「へー、精霊って可愛いわね。」


 大祖母様(おおおばあさま)の話は喰い付きがイマイチでしたけど精霊の話は乗ってきました。

 やはり、私と同じ世代の少女です、可愛いものは好きなのでしょう。


 そんな話をしているうちにブリーゼちゃんが戻ってきます。

 自分の背丈よりも大きな本と抱えてよたよたと飛んでくるの姿も愛らしいです。


 誤解しないで下さい、重労働で虐待している訳ではないですよ。

 あれ、本も精霊の術で浮かしているので、重くてよたっている訳ではありません。

 体に対して大きすぎるのでバランスが悪いだけです。


「ロッテちゃん、お待たせ~。」


「ありがとう、ブリーゼちゃん。

 今日のおやつはアンズの砂糖漬けを練りこんだクッキーと蜂蜜たっぷりの紅茶にするね。」


「わーい、ロッテちゃん、大好き!」


 私は帝国貴族名鑑を受け取りながらブリーゼちゃんを労うとブリーゼちゃんは両手をあげて喜びを表現します。

 その仕草が可愛かったようでリーナの顔が綻んでいます。


 そんなリーナに私は帝国貴族名鑑の一ページを指し示しました。


「ほら、ここをみて。私の家名と国名が記されているでしょう。」


 帝国貴族名鑑の最後のページの更に一番最後にアルムハイム伯国の国名と王家の家名がしっかりと記されています。


「本当だ……。」


 今度こそ、驚きの表情を見せました。やっと信じてくれたようです。 



     **********



 目的を達したので帝国貴族名鑑をしまおうとしたとき、ページが一枚捲れました。

 そこには奥付が有り、……。


「あら、いけない。

 これ、再来年が改定年じゃない、今年中に貴族名簿の書き換えをしないといけないわ。」


 帝国貴族名鑑は十年に一度改定され、訂正がある場合は改定年の二年前の末日までにその事項を届け出なければなりません。

 母が亡くなって私が爵位を相続したのでその旨の届出をしないといけないのです。


「どうかされました?」


「いえ、この本の改訂があるので、私が母の爵位を相続したことを届け出ないといけないのです。

 それ自体は大したことではないのですが、書き換え代理人の所へ出向かないといけないので大変だなと思ったのです。」


 帝国の各所には指定された名義書き換え代理人が居ます。

 そうでなければ、一々帝都まで出向かないといけなくなります。

 しかし、この辺鄙なアルムハイムからではその代理人のところまで行くのも大変なのです。


「まだ冬まで時間は有ります、暇を見つけていってきます。」


「何処まで行かれるのですか?」


「ここから一番近い名義書き換え人はズーリックにいます。

 祖母の代からお世話になっているのですよ。」


「まあ、ズーリック!王都より大きいのですよね。私も一度行ってみたいですわ。」


 このお姫様は結構好奇心旺盛のようです。

 そうですね、一人で行くよりは楽しいかもしれません。


「もし、都合があえば一緒に行きましょうか、ズーリック。

 雑草がはびこる夏が終ったら、冬までに帰ってくるように行こうと思うのです。

 まだ、二ヶ月以上先のことになりますね。」


「よろしいのですか?」


「ええもちろん。」


「素敵ですわ、一度いってみたかったのです。王国一番の大都市、賑やかなのでしょうね。

 楽しみにしていますね。」


 私の誘いに一度は遠慮がちに確認してきましたが、私の快い返答にリーナは大喜びです。

 王宮の外に出たことがないと言っていました、外の世界に対する憧れが強いのでしょうね。

 実は私もこの森の外に出るのは初めてなので楽しみです。



     **********



 ひとしきり秋口のお出かけの話をした後に、思い出したようにリーナが尋ねてきました。


「先程、ロッテが聞かせてくれたこの家の歴史が本当なら、ロッテもセルベチアの侵攻から国境を守っているのですか?」


 今頃、その話に戻ってきますか。

 いえ、帝国貴族名鑑を見て私の話を信じてくれたので気になったのでしょう。


「ええ、もちろん。一歩たりともセルベチアの兵に国境は越えさせませんよ。

 もっとも、かつての約束は有名無実化していますけどね。

 大した手間でもないので続けているのです。」


「有名無実化ですか?」


「ええ、そうです。わかりませんか?

 リーナのお父様が治める国クラーシュバルツ王国が出来たからですよ。」


 私の大祖母様が帝国の枢機卿たち聖教徒と交わした約束は国境を守り、神聖帝国にセルベチアの軍勢を入れないこと。


 約束を交わした当時、クラーシュバルツ王国は帝国を構成する領邦国家の一つでした。

 しつこいようですが、神聖帝国とセルベチアは犬猿の仲です。

 当然のことながら、帝国の民とセルベチアの民も仲が良いとは言えません。


 ところが、クラーシュバルツ王国の領域内は帝国の民とセルベチアの民が混在して居住し、お互い仲良く生活していたのです。

 歴代のクラーシュバルツ王は、度重なる帝国とセルベチアの戦いに苦悩していました。

 帝国の領邦国家である以上、セルベチアと帝国が交戦すれば帝国に組して戦わなければなりません。

 それでは国内に住む帝国の民とセルベチアの民が不和が起こると懸念したのです。

 実際、国内のセルベチアの民に不満が高まっていたようです。


 そして、五十年ほど前のことです。

 当時の王が国内貴族の支持を得て帝国からの離脱を宣言したのです。

 勿論、すんなり離脱が認められた訳では有りませんでした。

 武力衝突をはじめ、ゴタゴタはあったようです。

 

 しかし、クラーシュバルツ王国は独立を勝ち取りました。

 その独立のとき、クラーシュバルツ王国は帝国とセルベチアに対して永世中立を宣言したのです。

 中立宣言は両国に認められ、両国もクラーシュバルツ王国には侵攻しないと約しました。


 そう、クラーシュバルツ王国の独立により、国境の峠は帝国とセルベチアの国境ではなくなったのです。

 セルベチアの兵が国境の峠を越えて()()()()()()()()()()()と言う盟約は意味を失ったのです。



「そうなのですか。

 でも、リーナは相変わらずここで国境の峠を守っているのですよね。

 どうしてなんですか、もう意味がないのではないですか。」


 リーナは私が何故峠を守っているのかを尋ねてきました。

 そんなの決まっているじゃないですか。



「だって、騒がしくされて昼寝の邪魔をされたら嫌ですから。」


 私はここで平穏に暮らしたいのです。



お読み頂き有り難うございます。

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