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最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい  作者: アイイロモンペ
第4章 アルムの冬
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第51話 我が家の秘伝です

 今日は朝からスペアミントの刈り取り作業です。

 スペアミントは多年草で地上部を刈り取ってしまっても来春には元気な芽を出します。

 冬枯れする前の元気なうちにすべて刈り取って、精油を作るのです。


「シャルロッテ様、朝かずっとこの作業をしてますけど……。

 こんな雑草みたいなもの大量に刈り取ってどうするんですか?」


 朝からずっと一緒に作業しているカーラがげんなりとした表情で尋ねてきました。

 カーラにはスペアミントは雑草にしか見えないようです。

 実際、ミントの仲間は繁殖力が強く、畑に入り込むと邪魔者以外の何物でもない、まさに雑草なのですけど。


「雑草なんて失礼な。我が家の家計を支える重要なハーブなのですからね。

 ミントの仲間は清涼、解熱、健胃などの効果がある大切なハーブなのですよ。

 今収穫しているのは甘い香りがするスペアミント、これから採れる精油は高く売れるのです。

 もうシーズンも終わりだから、全部刈り取って精油を採ろうと思っているの。」


「へぇー、そうなんですか。

 じゃあ、精油ってのを作ってカローリーネ様の治める町まで売りに行くのですか?」


「ああ、カーラには言ってなかったわね。

 もうすぐ、行商人のハンスさんが冬越しのための物資を持ってやってくるの。

 今まで作り貯めておいた乾燥ハーブや精油をまとめてハンスさんに引き取ってもらうのよ。」


 アルム山脈の麓に当たるこの辺りは毎年冬になると十フィートを超える積雪があります。

 冬の間は吹雪く日が多く、除雪などまったく意味を無しません。精々集落の中を隣家に移動できるようにするのがやっとです。

 結局、各々の集落は冬の間孤立した形になるのです。


 ですから、冬の間の食料や暖炉の薪を十分に確保しておかないと、文字通り冬が越せなくなるのです。食料や薪が冬の途中でなくなると命にかかわります。


 我が家の場合、薪は裏山で拾い放題ですし、ジャガイモ、人参といった保存の利く野菜も十分備蓄してあります。

 不足しているのはパンやお菓子を焼く小麦が中心になりますが、その他にも蜂蜜やら細々とした物が結構な量になるのです。なにせ、一冬分ですので。


 冬越しの物資を行商人から買うのは我が家に限らず、この辺りの風物詩のようなものです。

 これが結構な出費になるので、十分な蓄えがないと秋口に娘を売りに出すことになるのです。


 そして、我が家の場合は最大の出費が前回ハンスさんが訪れたときに依頼しておいた大量の書籍の購入代金です。本は非常に高価なのです。

 ですが、雪に閉ざされる冬場に読む本がないと退屈で死んでしまいます。


「じゃあ、冬越しのために必要な色々な物はそれを売ったお金で買うのですね。」

 

「厳密には違うのですが、そのようなものです。」


 ハンスさんに引き渡す乾燥ハーブや精油は、ハンスさんに売るのではなく、ハンスさんに委託して帝都で売却してもらっているのです。

 その売却代金で次に私の所を訪れる際に運んでくる物資を購入してもらうのです。


 我が家の出荷する各種ハーブ製品は品質が良いと帝都の上流階級に評判で高値で買い取られていくようです。

 なんでも、アルムハイム産のハーブと言うとすぐに買い手がついてしまうそうです。


 そのため、次に私の許を訪れる際に運んでくる物資の購入代金に、委託手数料やら運搬手数料やらのハンスさんの各種取り分を加えても余剰が出る形になっています。


 余剰分はクレディ・ズーリックの我が家の口座に預け入れられる仕組みになっています。


「えええっ、じゃあ、渡す乾燥ハーブやら精油やらは先払いのようなものじゃないですか。

 持ち逃げされるんじゃないですか?」


 ハンスさんに対して、一回に委託するハーブ製品はかなりの高額になります。

 カーラの疑問はもっともなことでしょう。


「その心配はないわ。

 だって、ハンスさんが行商人というのは仮の姿だもの。

 実際は帝国の草なのよ。私の一族に対する監視係なの。

 帝国だって私の一族との関係を壊したくないわ。

 お金を持ち逃げするような人間を遣す訳ないでしょう。」


 私は今まで詳しく説明していなかった、帝国と我が家の関係を掻い摘んでカーラに説明しました。


「へー、アルムハイム家って凄いのですね。

 帝国から監視がつくほど重要な家なんだ。

 私はここに雇われてから、勉強をする以外は畑の手伝いしかしていないので、農家と変わらないものだと思っていました。」


 カーラは今更ながら、我が家のことを見直したようです。

 面倒だったので詳しく説明をしなかった私のせいでもあるのですが。



     **********



 午前中いっぱいをハーブに収穫に費やした午後、いつもならカーラとアリィシャちゃんに勉強を教える時間です。


 ですが、せっかく収穫したハーブですので、新鮮なうちに処理してしまうことにしました。

 アリィシャちゃんとカーラも今日は勉強はお休みで、作業を見学させることにします。


「ロッテお姉ちゃん、勉強をお休みにして何をするの?」


「ふふ~ん、これから二人に我が家の秘密の一端を見せようかと思ってね。

 これから、帝国で高級品として定評のある精油を作るところを見せてあげるわ。」


 そう言って二人を連れてきたのは、館の隣にある作業小屋。

 作業小屋といってもそこにあるのは、素朴な木製の大きな作業台だけ。

 その作業台には大量の薬瓶が並べられています。


 まとまった量の精油を作るためには、結構大きな蒸留設備が必要になります。

 大きな蒸留設備を利用して大量のハーブを投入しても出来てくる精油はほんの僅か、精油とはそういうものなのです。

 また蒸留するのにけっこうな時間を要します。

 大掛かりな設備に、大量の原料と多くの時間を要すること、それ故に精油は高価なのです。


「ドリーちゃん、お願いできるかな。」


 私の呼びかけに応じて、私の右肩の上に身の丈十インチほどの少女が現われました。

 白いブラウスに緑のジャンバースカートを着た元気な女の子、植物の精霊のドリーちゃんです。


「ハイ、ハイ!」


「ここに刈り取ったスペアミントから精油を採りたいのだけどお願いできる。」


 元気な返事と共に現われたドリーちゃんに、私はお願いをします。

 そうです、実は我が家の精油は代々植物の精霊に抽出してもらっていたのです。


「りょうかいだよ! ませておいて!

 んじゃ、私のミントちゃん、香り高いオイルをくださいな!

 せっかく大きく育ったのです、一滴の無駄なく頂戴ね!

 あなたの持ち味を損なわないでくださいね!」


 ドリーちゃんの掛け声と共に作業台の横に積まれたスペアミントの山が仄かな光に包まれました。

 すると徐々にスペアミントの葉が瑞々しさを失っていき、代わりに薬瓶の中に液体が溜まり始めました。


 やがて、スペアミントの山を包み込んだ光が消えると、作業台に置かれたたくさんの薬瓶は全て精油で満たされていました。


 通常、この量のミントを蒸留しようとしたら一昼夜かけても終らないでしょう。

 でも、ドリーちゃんにかかればものの一時間もかかりませんでした。


 しかも、精油の蒸留というのは実は非常に効率が悪く、得られる精油は植物が蓄えた油のほんの一部に過ぎません。

 実は通常の製造方法では作業台に並べた薬瓶全てを満たすのは無理なのです。


 しかも、蒸留で得られる精油に含まれる薬効成分は、ハーブ本来の成分の一部に過ぎないです。


 一方で我が家の作る精油にはハーブ本来の薬効成分が損なわれることなく溶け出しています。

 ドリーちゃんが、あなたの持ち味を損なわないでくださいねって、掛け声をかけていましたね。


 これが、帝都で上流階級に人気のアルムハイム産のハーブ製品の秘密です。


 代々の当主が契約している植物の精霊が、ハーブの成分を損なうことなく製品を作ってくれるので品質が良いのです。

 精油の場合、同じ量のハーブから得られる量も格段に違います。


 えっ、ずるいって?


 良いのです。

 高品質のモノを効率的に作ると言っても、所詮小娘が一人で育てているハーブ畑で収穫できるハーブなどタカが知れています。

 我が家のハーブ製品は一部の王侯貴族が楽しむもので、市場の秩序を乱すようなものではないのです。


 さて、これでハンスさんに引き取ってもらう製品の準備も出来ました。


お読み頂き有り難うございます。

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