第34話 王様が畑仕事、そんな国なのです
日の出前の空が白々してきた頃、私は目を覚まします。
九月も半ばを過ぎて日の出はもう七時過ぎです。夜明けまで悠長に寝ていることは出来ません。
朝晩めっきり冷え込むようになって雑草の繁茂する勢いは落ちたといっても、一週間も放置してしまったのです。ハーブ畑はさぞかし大変なことになっているでしょう。
私が気合を入れてベッドから起き上がるとつられてアリィシャが目を覚ましました。
「ロッテお姉ちゃん、おはよう。
こんな早くから起きてどうするの?」
アリィシャちゃんが寝ぼけまなこで聞いて来ます。
「これからハーブ畑の手入れに行くのよ。
我が家の家計を支える大切なハーブ畑なの一緒に来る?」
「うん、行く……。」
アリィシャちゃんはまだ寝惚けているようですが、付いてくると言います。きっと、一人残されるのがイヤなのでしょう。
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「ねえ、ロッテお姉ちゃんは王様なんでしょう?なんで、お百姓さんみたいなことをしているの?」
私がハーブの間に入り込んだ雑草を取り除いているとアリィシャちゃんが尋ねてきました。
アリィシャちゃんの疑問はもっともです、王様のすることとはほど遠いですね。
「いい、アリィシャちゃん、普通の王様は国民から徴収した税で生活しているの。
でも、この国の国民はアリィシャちゃん一人しかいないのよ。
税を払ってくれる人がいないの、だから自分で稼がないといけないの。
入ってくるアテのない税を待っていたら飢え死にしてしまうわ。」
「ふーん、そうなんだ。
親方がブツクサ文句を言っていた税ってのは王様が食べていくために使われているんだ。」
まあ、正確ではないですが、子供のうちはそれで良いでしょう。
「このハーブ畑はね、私のご先祖様が長い年月大切にしてきたものなの。
薬にもなる物もあるし、香油になる物もある、お茶や調味料として口にできるものまであるの。
私の一族が作る乾燥ハーブや精油は品質が良いと評判なのよ。
帝都へ売りに出されて、これで良い稼ぎになっているの。」
そう、行商人に身をやつした帝国の監視員のハンスさんは、毎回私が預けたハーブを帝都で売却しています。
その代金を使って、大量の書物やニューズペーパー、それに衣服を私の依頼で買い付けて来てくれるのです。
それでも、余剰が出るようで毎回クレディ・ズーリックの私の一族の口座に何がしかの金貨が持ち込まれています。数ヶ月に一度、クレディ・ズーリックの受入証書をハンスさんが持参してくれます。
元々ハンスさんは私の一族に付けられた帝国の鈴なので、チョロまかしがなくて安心して大量のハーブを委託できるのです。
「ふーん、そのハーブってただの雑草に見えるけど、お金になるんだ……。
でも、ロッテお姉ちゃん、精霊さんにお願いできるのだから、精霊さんの力で草取りをしてもらえるんじゃないの?」
「どんなことでも精霊にお願いできる訳ではないのよ。
アリィシャちゃんもよく覚えておいて。
例えば、植物を司る精霊、私の契約精霊ではドリーちゃんだけど。
ドリーちゃんにとっては植物はみな友達みたいなもの、そこにはハーブも雑草も区別はないのよ。
人が雑草と呼んでいるのは、人にとって都合の悪い植物のこと。
雑草と呼ばれる植物にとってはいい迷惑だわ、元からそこに生えていたのに人に都合が悪いと言って駆除されるのだから。
でも、精霊にとっては人の都合なんて関係ない、等しく愛しい植物なの。
だから、ドリーちゃんは雑草を抜いてとお願いすると良い顔はしないわ。
私はドリーちゃんの嫌がることはお願いしたくないから、こうして自分で抜いているの。」
「難しくて良く分かんないけど、精霊さんが嫌がることをお願いしたらダメってことなんだね。」
「そのとおりよ、今はそれだけ理解してくれれば十分だわ。
精霊は私たちの友達であって、子分や家来ではないのだからお互いに尊重しないとダメなの。」
「わかった!でも、精霊さんに畑を手伝ってもらうことはないの?」
「そんなことはないわ。
昨日、アインちゃんからジャガイモと人参が冬越しに足りないと言われていました。
丁度いいから、ドリーちゃんの凄いところを見てもらいましょうか。」
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植物の精霊ドリーちゃんは、植物がすくすくと育つのをみるのが大好きです。
雑草を抜いて欲しいと言うと良い顔されませんが、野菜を育てて欲しいとお願いすると喜んで助けてくれます。
「ドリーちゃん、いる?」
私が呼びかけると、
「ハイ、ハイ!」
お気軽な声と共に、私の右肩の上にドリーちゃんが現われました。
「申し訳ないけど、ジャガイモと人参が冬越しに足りなくなりそうなの。
季節はずれで申し訳ないけど、今から大急ぎで作ってくれないかな?」
「 りょうかいだよ! 任せておいて!」
ドリーちゃんの快い返事を受けて、ハーブ畑の手入れを切り上げた私は場所を移すことにしました。
館の前にある自給自足用の小さな畑、収穫が終って今は何も植わっていません。
私は納屋から種芋と人参の種を持ってきました。
「じゃあ、これでジャガイモと人参お願いできるかしら?」
「大丈夫だよ!ジャガイモも人参もたくさん作っちゃうね。
私の愛しいジャガイモちゃんに人参ちゃん、元気に育ってちょうだいな!
大きな実りを付けましょう!」
相変わらず気の抜けるような掛け声とともに、目の前に置いた種芋と人参の種が畑に吸い込まれるように消えました。
すると、すぐさま芽がでて、すくすくと葉っぱを伸ばし始めました。
「すごい!、すごい!」
目の前でニョキニョキと育つジャガイモを見てアリィシャちゃんは大喜びです。
そして、あっという間に薄紫の小さな花を付け、それが萎れて次第に葉や茎も力を失っていきます。
「ジャガイモちゃんはもう掘れるよ!あっちの人参ちゃんも食べ頃の大きさだよ!」
ドリーちゃんがご機嫌な声で言いました、まだ植付から一時間も経っていません。
「さすが、ドリーちゃん!いつも助かるわ。
これ収穫しちゃったらお茶にしましょう、少し待っていてね。」
「ハイ、ハイ。じゃあ、私はロッテちゃんの肩の上で休ませてもらうわね。」
私は、ジャガイモの成長を見て惚けているアリィシャちゃんに声をかけました。
「どう、すごいでしょう。これがドリーちゃんの力よ。
ドリーちゃんは植物の生育を助けるのには喜んで力を貸してくれるの。
さあ、ドリーちゃんが頑張って育ててくれたのだから、早いところ収穫してしまいましょう。
これが私達の冬越しの食べ物になるのよ、アリィシャちゃんも手伝ってちょうだい。」
「うん、すごい!ビックリした!
わかった、わたしも頑張ってお手伝いするね。」
結局、ドリーちゃんが一時間足らずで実らせたジャガイモも人参も凄い数で、私とアリィシャの二人では収穫に半日もかかってしまいました。
おかげで、今度の冬はジャガイモと人参は不足しないで済みそうです。
収穫を終えたら既に二時過ぎ、私もアリィシャもお腹が空きました。
アインちゃんを呼んで、収穫したジャガイモと人参を食料庫に保管してもらうようにお願いしました。
「立派なジャガイモ…。
お腹が空いているなら、これを茹でて食べたらどうです?
食べるなら作ってくる。」
アインちゃんがジャガイモを食べさせてくれるそうです。
収穫で疲れて動く気になれなかった私は一も二もなくお願いしました。
館のティールーム、約束通りドリーちゃんに甘い焼き菓子を振る舞っていると。
「お待ちどうさまです。」
アインちゃんが皿にのせたジャガイモをふよふよと浮かせて運んできました。
大きなジャガイモが二つ、ほかほかの湯気を上げていてとても美味しそうです。
それぞれ、真ん中に切れ目が入れてあり、間に大きなバターが挟んでありました。
熱々のジャガイモでとろりと溶けたバターの良い香りが鼻をくすぐります。
「「いただきます!」」
お腹を空かせた私達は我慢できず、すぐに目の前のジャガイモに飛びついたのです。
出来立てのジャガイモはとても幸せな味がしました。
お読み頂き有り難うございます。




