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最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい  作者: アイイロモンペ
第2章 リーナと一緒に旅に出ます
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第28話 魔法の弟子をとりました

 さて、初歩的な精霊との付き合い方の伝授が済んだところで、私は気になることをアリィシャに聞いてみました。


「ねえ、アリィシャちゃん、あなたは何であの丘の上にいたの。

 一座はあの丘に天幕を張っていた訳ではないのでしょう?」


 あの丘は馬車で登れるようにはなっていません。近くに馬車を停めておける場所もないのです。

 当然、わざわざ丘の上まで荷物を運び上げてそこで野営するなど考えられないのです。


「うん、寝泊りしていたのは街外れにある空き地だよ。

 置き去りにされて、悲しくて、そこで泣いていたの。

 そうしたら、誰かに呼ばれた気がして、フラフラと歩いてたらあそこにいたの。

 なんか、あそこにいると温かいものに抱きしめられているようで、気持ち良かったの。」


 もしやと思いましたが、これは思わぬ逸材を拾ったようです。

 実はあの場所、大地を川のように流れる力が集まって吹き上がっている場所なのです。

 そのような場所は、世界の各所にあって『龍穴』とか、『ボルテックス』とか、色々な名称で呼ばれています。


 私達魔法使いが行使する魔法も補助的にこの力を借りています。

 大地を流れる力と私達魔法使いが魔力と呼んでいるモノは本質的には同じものなのです。

 私達が体のうちに秘めた魔力では大したことは出来ません。

 せいぜい、箒に乗ってフラフラ飛ぶとか、魔力を乗せた言葉で数人の人を従わせるとかが関の山です。


 そこで、私達魔法使いは大きな魔法を行使する時に大地を流れる力を借りるのです。

 そのため、大地を流れる力の流れを感じ取ることが出来るというのは、魔法使いの大切な素養の一つなのです。


 どうやら、アリィシャにはその素養があるようです。


「アリィシャちゃん、実は私は魔法使いなの。ほらこんなことも出来るのよ。」


 私は人差し指の先に小さな炎を灯して見せました。

 普段はしませんよ、サラちゃんにやってもらった方が楽ですもの。


「うああ、すごい。それは精霊じゃなくてロッテお姉ちゃんがやってるの?」


「ええ、そうよ。

 そして、アリィシャちゃんも頑張って練習すれば出来るようになるわ。

 どう、やってみたい?」


「うん、私にも出来るようになるならやってみたい。」


「そう、じゃあ、これから魔法の使い方も教えてあげるわね。

 こらから、あなたは私の魔法の弟子よ。

 じゃあ、まずは文字の読み書きからね。」


「今の話の文脈でなんで、まずは文字の読み書きなの?

 ロッテが手取り足取り教えるのではないの?」


 それまで、我関せずとシアンと遊んでいたリーナが疑問の声を上げました。



     **********



「だって魔法は口伝ではなく、書物で伝えられているのよ。

 魔法の中には取り扱いに注意しないと危ないものだってあるの。

 口伝で間違って伝わったら危ないでしょう。

 文書で伝えれば正確に伝わるじゃない。

 読み書きの修得には時間がかかるでしょう。

 だから、最初に始めるの。」


「えええっ!魔法って口伝で伝えるのではないのですか?

 それですと、魔法が盗まれることがあるじゃないですか。」


「ええ、そういうこともあるかもね。

 でも、魔法って、そもそも素養のある人しか使えないし。

 別に秘匿しないといけないものでもないしね。

 それに、最初に会った時に言ったでしょう、もう魔法使いは私が最後かもしれないって。

 盗んでまで修得したいという熱心な人なら、別に盗まれてもいいわ。」


 リーナの驚きはもっともな事なのでしょう。

 他人に秘伝の技術を盗まれないために口伝で残す、酷い場合は一子相伝で自分の子ですら一人にしか伝えない。

 それが、この大陸の伝統のようです。鍛冶屋とか大工などがその最たるもののようですが。  

 

「そう言えば、ロッテは読み書きが堪能ですのね。

 最初に会ったときもお茶を飲んでいる傍らに書物が置いてあったし、帝国政府宛の報告書を書いたりもしていましたわね。

 学校へ行った訳でもないでしょうに、凄いですね。」


 魔法の伝承の件に納得がいったのか、リーナは話題を変えました。


「ええ、魔法書を読むために母から厳しく教授されましたの。

 それに、名目だけとはいえ、一国の王なのですもの社会情勢を把握しておく必要があるでしょう。

 読み書きだけであれば、帝国語、セルベチア語、アルビオン語の三ヶ国語を使えますわ。」


「へえ、偉いわね。

 私も小さな頃から家庭教師を付けられたけれども帝国語の読み書きを修得するので精一杯だったわ。

 周囲の者も妾腹で女子の私に余り期待していないようで、それで良しとされたの。

 こうして地方領主になるのであれば、もう少し身を入れて勉強しておくべきだったと反省しているわ。」


 ここ、クラーシュバルツ王国は帝国の民とセルベチアの民の人口が半々だと言われています。

 王族である以上は、帝国語とセルベチア語の二ヶ国語くらいは使いこなして欲しいところです。

 現に、リーナの領地、シューネフルトではセルベチア語を話している人がたくさんいました。


「勉強を始めるのに遅すぎることはないわ。それに気付いたならこれから始めればいいわ。

 まずは、セルベチア語からかしら、シューネフルトにはセルベチア系の住民も多いようですしね。

 なんなら、アリィシャに教えるついでに、私がリーナに教えてあげても良いわよ。」


「本当に?それは助かるわ。

 出来れば、それ以外にも色々と教えて欲しいわ。

 昨日のロッテとヨーゼフさんの会話、ヨーゼフさんに解説してもらうまで全然分からなかったの。

 私、ロッテって凄いと思ったの色々な事を知っていて。

 十五年間あの森から一度も出たことが無かったのでしょう。」


 十五年間もあの森に引き篭っていると、ハーブ畑の世話以外は本を読むくらいしかやることが無いですからね。



     **********



「ロッテお姉ちゃん、わたしに文字の読み書きを教えてくれるの?

 あのね、一座に一人だけ文字の読み書きが出来るおじさんがいたの。

 そのおじさんだけ、給金が高いんだってお父さんが言っていた。

 そのおじさんがお役人に税を納めたりの仕事をしているんだって。

 『俺も文字の読み書きや計算が出来れば楽して高い給金がもらえるのに』ってお父さんが言っていたの。

 文字の読み書きが出来る人って高い給金がもらえるんでしょう。」


 アリィシャちゃんが期待に目を輝かせて尋ねてきました。


「ええ、もちろんよ。

 アリィシャちゃんのやる気さえあれば、帝国語、セルベチア語、アルビオン語を全部教えてあげる。

 それに、算術も教えてあげるわよ。

 それだけ出来れば、アリィシャちゃんが大人になって私の許を離れることになっても仕事に困らないと思うわ。」


「本当に?それなら嬉しいな。」


 この国で文字の読み書きが出来る人は半分にも満たないと言われています。

 その一方で、王侯貴族や商人は全員が読み書きが出来きます。

 また、王侯貴族に仕える人や商人の雇われ人も、下働きや丁稚を除く大半が文字の読み書きが出来るとも言われています。


 その結果が、アリィシャちゃんの一座のようなことです。

 一座の規模が分かりませんが十人以下という事はないでしょう。

 文字の読み書きが出来る人が僅か一人ということは、識字率一割未満なのです。


 大概の農村部は村長が文字の読み書きを出来れば良い方だと、何かで読んだ記憶があります。

 そんな状況ですから、村の誰もが読み書き計算が出来ないのを良いことに徴税に来た役人が、規定より多くの税を取上げて差額を自分の懐に入れる不正が後を絶たないようです。


 でも、もっと深刻な問題があります。

 この国の冷涼な気候は本来農業には向きません。常に農村部は人手が余っているのです。

 そういう人は村の外に仕事を求めますが、読み書き計算が出来ないと潰しが利かないのです。


 そうした背景もあって、傭兵がこの国の主要産業になっているのだと思います。


 リーナはその辺りのことを認識しているのでしょうか……。


お読み頂き有り難うございます。

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