第27話 おともだちも増えました
よっぽどお腹が空いていたのでしょう。
私の目の前ではアリィシャが一心不乱に料理をかき込んでいます。
今まで余り良い物を食べてはいなかったのでしょう。
ルームサービスで供された料理を見て本当に食べて良いのかと心配していました。
ですが、一口食べたら空腹が勝ったようで、そんな遠慮は吹き飛んだようです。
私がそんなアリィシャを微笑ましく見ている傍らでは、リーナが早速、リアを餌付けしていました。
「あ~あ、羨ましい。
ロッテもアリィシャもこんなに可愛い精霊ちゃんがいつも傍に居てくれて、楽しそうで良いな。」
リーナがリアに焼き菓子を与えながらこぼします。
焼き菓子をもらったリアは両手でそれを抱えてもしゃもしゃと齧っています。
いつもながら、自分の頭よりも大きな菓子を無我夢中で食べる愛らしい精霊の姿には癒されます。
リーナもだらしなく顔が緩んでいます。
リアを愛しげに見つめるリーナを見ていて、不意に一つのイタズラ、いえ、実験を思いつきました。
ふだんなら、そんな事を思い浮かべても実際にやろうとはしなかった思います。
アリィシャを保護したことで今日予定した街並み見物が中止となって時間を持て余したこと、旅に出て気分が開放的なったこともあったのかも知れません。
私はほんの軽い気持ちでした、ちょっとやってみようという。
私は傍らにアクアちゃんを呼び出しこっそりとあるお願いをしました。
私の願いを聞いたアクアちゃんは、ニッコリと笑って消えてたのです。
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食事を終えたアリィシャには体を洗いにバスルームに行ってもらいました。
旅の一座ではロクに体も洗っていなかったようで、大分臭ったからです。
さすが、貴族御用達の高級ホテル、部屋にバスルームがありました。
ルームサービスの係に頼むとお湯を運んでくれるとのことです。
女給さんにより、お湯の入った大量の木桶が持ち込まれバスタブにお湯が張られました。
ヘレーナさんにアリィシャちゃんを隅々まで洗うようにお願いしたのですが……。
「承知しました。ごちそう様です、グヘヘ…。」
返ってきた返事がこれです。私は不安になりました、この人に任せていいのだろうかと。
ヘレーナさん、守備範囲広すぎませんか……。
アリィシャをバスルームに行かせて、私とリーナがお茶を飲んでいるとアクアちゃんが帰ってきました。お願いしたとおり、ノラの精霊を二人連れて。
さて、実験開始です。
「リーナ、掌を上にして手を前に出してみて。」
私が自分でも掌を前にかざすとリーナは私を真似て掌を出しました。
上手い具合に一人の精霊がリーナの掌に乗ってくれました。
「リーナ、よく聞いて。
今、あなたの掌の上には水の精霊が一人います。
自分がその子に相応しいと思う名前をつけてあげてください。
掌を見て、そこにいる子を慈しむように名を告げるのです。」
私が真面目に告げると、リーナはそれが偽りのないことと理解したようです。
リーナは少し思案すると掌を見つめて優しい表情で呼びかけました。
「あなたの名前はシアン。私はリーナ、友達になってもらえると嬉しいな。」
すると、ポンっとリーナの掌の上に身の丈十インチほどの少女が現われました。
水の精霊です。
半袖のブラウスに膝丈のスカート、水色の髪をショートにした快活な感じの精霊でした。
「はじめまして、リーナ。私はシアン、素敵な名前を有り難う。これからよろしくね。」
「こちらこそよろしく!」
ぺこりと頭を下げたシアンに、リーナはとても嬉しそうです。
今にも、頬ずりを始めそうなはしゃっぎっぷりです。
今まで、ノラの精霊を視認出来る者しか精霊と契約できないと私達の間では伝えられてきました。
さっき、ふと思ったのです。本当だろうかと?
リーナは私の契約精霊に懐かれています。さっき出会ったばかりのリアもリーナを警戒している様子はありませんでした。あんなに懐かれるリーナなら、契約できるのではないかと思ったのです。
もしかして、そこに精霊がいることを認識できないから、契約出来なかっただけではないかと。
誰かが、契約できる状況を整えてあげて、精霊と相性があえば契約できるのではないかと考えたのです。
精霊の力を悪しきことに利用されるのを防ぐため、敢えて精霊を視認出来ない者にまで拡げようとしなかったのかも知れませんが。
どうやら、私の思った通りのようでした。
早速シアンにお菓子を上げて相好を崩していてるリーナをみて、試して良かったと思いました。
もう一体の水の精霊はどうしたかって?
決まっているではないですか、アリィシャの契約精霊にと思って連れて来てもらったのです。
この町は水がとてもきれいなズーリック湖の湖畔にある町です。
清らかな水を好む水の精霊がいるのではと思って、アクアちゃんに探してもらったのです。
リーナと契約できるか試してみたいと言ったら、アクアちゃんも乗り気で探しに行ってくれました。
ついでに、アリィシャの護りにもう一人異なる属性の精霊をと思ったのです。
バスルームできれいに体を洗われて戻って来たアリィシャは、すぐにその精霊の存在に気付きました。
そして、精霊に『クシィ』と名付け無事に契約を済ませたのです。
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無事に精霊と契約を済ました二人には幾つか注意しておかねばなりません。
「普段、人前で精霊を実体化させてはいけません。
それは、あなた達自身を危険に晒すことになります。」
「えー、こんなに可愛いのに連れて歩いたらダメなの?」
アリィシャが黙って頷いたのに、リーナの方が年甲斐もなくブーたれました。
「誰も連れて歩くなとは言ってないわ。
契約を済ましたから、シアンが姿を消してもリーナにはちゃんと認識できるはずよ。
会話も口にださなくても、頭の中で呼びかければ通じるはず。
シアン、試しに姿を消してみて。」
私がシアンに指示すると、パッとシアンが姿を消しました。
「あっ、本当だシアンが透けて見える。それに会話も出来るのね。
普段、人前ではこの状態で一緒にいてもらうのね。」
リーナは納得してくれたようです。
人前で精霊を晒すのは危険です。
好事家が精霊を手に入れようとリーナやアリィシャを誘拐するかもしれません。
好事家はまだ良いです。もっと危険なのは、権力者と聖教の悪魔祓いです。
なんと言っても、僅か三人の精霊で四万の軍勢を撃退してしまうのです。
いえ、あれは私が人を傷付けるのを忌避したからであって、人的被害に目を瞑るのであればサラちゃんの火の魔法だけで片付いたのです。
精霊の持つ強力な力を知ったら、権力者はそれを手にしようとするかもしれません。
リーナやアリィシャを拉致して強制的に精霊の力を使わせようとするかもしれません。
最悪、精霊との契約には相性があうことが必要と知らない者が、リーナやアリィシャを殺害して精霊を奪おうとするかも知れないのです。
そして、一番手に負えないのは聖教の悪魔祓いです。
こんな可愛い精霊達を見ても、私を悪魔憑き扱いするのです。
聖教の連中には、自分達の教義に相容れない未知の存在はみな悪魔なのかもしれません。
寛容さに欠けるとしか言いようがありませんね。
私は聖教の公認でお目こぼしをもらっているので危険はありませんが、この二人は別です。
聖教の悪魔祓いに見付かったら、問答無用で襲い掛かられる心配があります。
私の説明で、精霊を人前に出してはならない理由を二人は納得してくれたようでした。
この後も、私は精霊との付き合い方を色々と二人に説明して時間を過ごすことになりました。
お読み頂き有り難うございます。




