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最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい  作者: アイイロモンペ
第2章 リーナと一緒に旅に出ます
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第24話 ヨーゼフさんのアドバイス

「シャルロッテ様は先代アルムハイム伯とよく似ておられる、特にその美しい黒髪。

 先程は規則ですのでご本人を確認させて頂きましたが、そんなもの要らないくらいです。

 私は先代様と始めてお目にかかった頃を思い起こさせられました。」


 私の顔を見てヨーゼフがしみじみと言いました。

 ヨーゼフさんは母が私くらいの歳の頃から、アルムハイム家の担当をしているとのことです。

 当時、祖母に連れられた来た母に会ったそうです。


 一通り用事が済むと、お茶が振る舞われました。

 顧客とこうしてお茶でも飲みながらコミュニケーションを取るのも担当者の仕事なのでしょう。

 どこに、儲け話が落ちているかわかりませんものね。


 私はヨーゼフさんの思い出話が一段落したところで、リーナのことに話を振りました。


「今日はリーナの後学のためにと思って、一緒に来ました。

 リーナは先日、私の領地の隣のシューネフルトの領主になりましたの。

 シューネフルトにはこうした商会が無いので、勉強になるかと思いまして。」


「これはこれは、早速私共の商会にも儲け話の種をお持ちいただけましたか。

 どうぞ、お知りになりたいことがあれば、幾らでもお答え致します。

 私共のことを知っていただくのが、良い信頼関係を築く第一歩ですから。」

 

 ヨーゼフさんの気の良い言葉を受けて、それまで一言も口を挟まなかったリーナが話し始めました。


「こちらは両替商をしているとロッテから窺ったのですが、帝国政府に対する諸手続きの代行も行っているのですか。

 今朝、ロッテからこちらに手続きに行くと聞いて不思議に感じたのですが。」


「ああ、それは私共が帝国各地に支店を持っていることとお金という命の次に大事な物を長年にわたってたくさんの顧客から預かって来たと言う信用があるからですよ。」


 クレディ・ズーリックは帝国や周辺国の各地に支店を持ち、この本店と各支店の間で頻繁にお金の輸送をしています。当然、多額のお金を輸送することになりますから厳重な警備がなされます。

 その厳重に警備されたお金と共に重要な書類を運ぶのです。

 ただ、警備が厳重なだけでは足りません、重要書類を託すだけの信頼が必要なのです。

 重要書類を運ぶ訳ですから、書類を紛失したり機密情報を漏らされたりしたら困ります。


 そこで、今まで客の資産を堅実に預かって来たということと顧客の秘密を一切漏らさなかったという実績が買われているのです。

 ですから、信用がおけるか定かではない役所や公証人ではなく、クレディ・ズーリックが帝国の諸手続きを行う機関の一つとして指定されているのです。

 もちろん、この本店の入り口にも『双頭の鷲』の紋章の入った看板が掲げられていましたが、クレディ・ズーリックは帝国政府の御用達になっています。



「先程、ロッテは何か証文を出して、お金の話をしていたようですが、あれは何ですか。

 まったく話しが見えなかったのですけど。」


 リーナは、私が帝国政府から褒賞としてもらった為替証書がどんなものか知らなかったようです。

 言われて見れば、お姫様が目にするものではありませんね。


「あれは、為替証書と申しまして、持参した方にその書面に記載された金額が支払われるものです。

 多額の銀貨や金貨を持ち運ぶのは大変でしょう。

 重いし嵩張るしで運ぶのが大変なことに加えて、警備をする者がたくさん必要になります。

 そこで、用いるのが為替証書なのです。

 あらかじめ、私共に為替証書を発行して欲しい金額を預け入れてもらいます。

 私共が発行した為替証書は、私共の本支店のどこででも額面のお金が受け取れるのです。」


「便利なものなのですね。先程のロッテの話ではないですけど他国のお金でも作れるのですね。」


「はい、私共はこの大陸のお金であれば殆んどのものを扱っておりますので。

 外国のお金での為替証書も引き受けますし、両替も行っていますよ。」


 リーナの治めるシューネフルトには、クレディ・ズーリックの支店はおろか大きな店を構えて両替商を営んでいる商会は見当たりませんでした。町の中心街に小さな両替商が一つあっただけです。


 リーナにとってはヨーゼフさんから聞く話はどれも新鮮だったようです

 ヨーゼフさんの話しにリーナが一々感心するものですから、ヨーゼフさんも興が乗ったのか色々な話しをしてくれました。


 そして、最後に言ったのです。


「カロリーネ姫、海の向こうアルビオン王国で今何が起こっているかご存知ですか?

 この国の為政者は余り関係ないと思っているかもしれません。

 しかし、時代は確実に変化してきています。

 領地をより良くしたいと思うのであれば、社会の動きに気を配ってください。

 自分には関係ないと思っていると、時代に取り残されますぞ。

 姫のお立場で、国の外にでるのは難しいかもしれません。

 ですが、もし機会があればアルビオン王国を一度見ておくことをお勧めします。

 大きな工場で、物が大量に作られるようになっています。

 いずれ、この国もそれに倣わねばならなくなるでしょう。

 もし、ご資金が入用なことになれば、私共にご相談ください。

 もちろん、こちらも儲けさせて頂かないといけませんので、相応のお利息は頂戴しますが。」


 ヨーゼフさんは大変良いことを言ってくれました。

 国民のいない私の国には関係ないことですが、クラーシュバルツ王国の王族であるリーナには十分関係することです。


 アルビオン王国では、蒸気機関というものを用いて大きな工場で紡績や織布を行っているそうです。今までのように手仕事でちまちまやっていたのでは太刀打ちできなくなるでしょう。

 現に、お隣のセルベチア共和国では追随する人達が次々と現われているようです。


 私もそれに関する記事を読んだ時に、一度見てみたいと思っていたのです。

 蒸気で動く機械に、蒸気機関車、蒸気船、いずれも私には関係ないものだとはわかっていますが興味は尽きません。

 試しに今度リーナを誘ってみましょうか。



 私はそんな事を考えていると、ヨーゼフさんが何かを思い出したように言ったのです。


「そうでした。

 この町にズーリック湖の湖畔の町を結んで渡し舟を商っている商会がありまして。

 そこの商会長が新しい物好きで、アルビオンから技師を招いて蒸気船を一隻造らせたのです。

 もし、お時間があれば見ていかれればよろしいと思いますよ。

 アルビオンで起こっていることの一端を垣間見ることが出来るかもしれません。」


「蒸気船ですか?それは興味深いです。

 ロッテ、是非とも蒸気船を見に行かねばなりませんね。」


 リーナはノリノリです。どうやら、今日のこれからの予定は決まったようです。



     **********



 ヨーゼフさんにお礼を言って、クレディ・ズーリックを後にした私達はズーリック湖にある波止場にやってきました。


「あ、ロッテ、どうやらあれみたいですよ。

 あのモクモクと煙を上げている船。」


 蒸気船を見つけたリーナがはしゃいで駆け出ししました。まるで子供のようです。

 私はのんびりとリーナの後に続きました、逃げる訳でもないし急ぐ必要もないでしょう。


 船の大きさは長さが二十ヤード、幅が五ヤードくらいでしょうか。

 船の両側に大きな輪っかが付いています。

 その輪っかは二枚の大きな円形の板を平行に置いた間に板を渡した形になっており、間に渡した板で水をかいて進むのでしょう。


 私がリーナに追いつくと、リーナはしげしげと蒸気船を観察していました。


「あんた等、この船に乗りたいのか?

 この船は完成したばかりでへそを曲げることも多くて、今はまだ渡し舟としては使っていないんだ。

 試運転も兼ねて、小銭稼ぎで物好きな連中を少しの時間乗せているんだが乗ってくかい。

 いまなら、すぐに動かせるぞ。十分かそこらだけど、二人で銀貨十枚でどうだい。」


 すると、船主らしい人が声をかけてきました。

 十分で銀貨十枚はいささかぼり過ぎの感じがします。


「三人で銀貨十枚でどうですか?どうせ動かすなら、二人乗るも、三人乗るも変わらないでしょう。」


 横から口を挟んだのは護衛のテレーゼさんです。

 やはり、護衛なしでリーナを船に乗せることは出来ないようです。


「ちぇ、しっかりしているな。まあ、それでいいぜ。」


 船主はテレーゼさんから差し出された銀貨十枚を受け取りながら承諾しました。


「うわぁ…、本当に帆もなければ、櫂で漕ぐこともないのですね。

 これが蒸気船ですか、風がなくとも進めるのが良いですね。」


 リーナが心底感心したように声を上げます。


 船主の言葉通り、船は直ぐに出航できました。

 モクモクと煙を上げて、船の両側につけられた輪っかがゆっくりと回りだすと船が前に進みだしたのです。


 波止場を離れた蒸気船はズーリック湖の水上を湖畔から余り離れ過ぎないように円を描くように航行すると本当に十分ほどで戻ってきました。

 短い時間でしたが、少しは蒸気船というものを分った気がします。

 試運転というものの結構速いです、船に乗ったのは初めてなのでこれがどの程度なのかは分りませんが。


「ロッテ、私決めたわ。アルビオンに視察に行きましょう。

 もちろん、ロッテも付いてきてくれるわよね。」


 蒸気船を降りたリーナが真剣な顔付きで言いました。

 ええ、私もリーナを誘おうと思っていたのです。

 

お読み頂き有り難うございます。

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