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最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい  作者: アイイロモンペ
第1章 アルムの森の魔女
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第12話 リーナの部屋に行きました

 衛兵の詰め所を後にした私は領主の館へ向かいます。

 肩に腰掛けたブリーゼちゃんの道案内で市街地を抜けるとリーナの住む領主館がありました。

 木造建物が多いこの町には珍しい重厚な石造りの建物、男爵領と言いつつ、ここが実際は王族の持ち物だというのを物語るようです。


「ブリーゼちゃん、リーナの部屋に行って私が来たと伝えてもらえるかな?

 今から部屋に行っても良いか訊いて来てくれる?」


「ハイな!任せて!」


 私のお願いに元気よく答えたブリーゼちゃんがリーナの部屋を目指して飛んでいきます。


 しばらくして、ブリーゼちゃんが帰ってきました、口の周りにお菓子の屑をつけて。


「リーナにお菓子をもらった!美味しかった!

 待ってるって言ってたよ。」


 そう、良かったね……。


 私は人目につかないように領主館の敷地の裏側に回りこむと、箒に乗って宙に舞いました。

 目的地は勿論リーナの部屋です。 

 都合の良い事にリーナの部屋には広いバルコニーが付いていました。


 バルコニーに降り立ちガラス窓を覗き込むとリーナが待ち構えていて扉を開けてくれました。


「ロッテ、いきなりどうしたの?

 ブリーゼちゃんが急に現われたからビックリしたわ。」


「こんにちは、リーナ。

 ゴメンね、突然訪ねて来て。ちょっと話したいことがあったから。」


「別に気を悪くした訳ではないの、ロッテならいつでも大歓迎だわ。

 急に来たので驚いただけ。

 ようこそ、ロッテ。」


 招き入れられたリーナの部屋はシックな雰囲気で落ち着いた感じのティールームでした。

 王侯貴族の部屋はゴテゴテとした装飾があったり、金ピカだったりすると物の本に書いてありました。

 そんな部屋は嫌だなと思っていましたが、リーナの部屋は良い感じです。

 かと言って安っぽい訳ではありません。

 目の前の丸テーブルもセットの椅子も共に木目の美しいウォールナット製です。

 ウォールナット製の家具はその木目の美しさから王侯貴族に愛され富の象徴とされているのです。 


 リーナに勧められて丸テーブルの椅子に腰掛けると、リーナが手ずからお茶を淹れてくれました。

 リーナが淹れてくれたのは、南方からの輸入品のため高価で中々口に出来ない紅茶でした。

 良い香りが鼻をくすぐります、さすが王族、良いものを飲んでいますね。

 ブリーゼちゃんは既にテーブルの上に足を投げ出しリーナからもらった焼き菓子を頬張っています。



「それで、お話しとはどういった件ですの?」


「ええ、実は先日の賊がリーナをさらおうとした件なのですが、黒幕が分かりました。

 目的までははっきりしないのですが、黒幕はセルベチア軍ですね。

 セルベチア側の麓にわんさかいるみたいですよ、総数四万ほど。」


「四万!そんなのが攻めてきたら手も足もでないではないですか。」


「まあ、まあ、慌てないで、セルベチアの軍にあの峠は一歩たりとも踏み越えさせないので安心してください。

 それよりも大切なことがあるのです。例の女衒、あれはセルベチアの工作員ですね。

 おそらく、この町の衛兵も殆んどがセルベチアの工作員に入れ替わっていると思います。」


「なっ、なんですって!」


「しいいぃ!声が大きいです。」


 私の話を聞き驚きの声を発したリーナに、私は口に人差し指を当て静かにするように指示ました。


「町の人から聞いた話しでは、アルノーが執政官になってから採用した衛兵は全部セルベチア人だという事なの。今は衛兵の殆んどがセルベチア人だと聞きました。

 気になって見に行ったら、確かにセルベチアの軍人と思わしき人がいました。

 それで、アルノーという執政官の方はいかがですか。何か分かりましたか。」


「ええ、あの日、私が無事に帰ったら驚き方が尋常ではなかったので、私の護衛の騎士に相談しました。それで、騎士がアルノーの身辺をあらってくれると言っていました。

 ただ、『何故出かけるなら私に声を掛けなかったのか』と騎士から酷く怒られてしまいました。」


 リーナがアルノーからこの辺りは安全だと言われたと抗弁したらこう言われたそうだ。


『例え姫でなくとも、町の外を年頃の女性が一人で出歩ける場所はこの国には存在しません。』


 そんな事を騎士が堂々と言って良いのでしょうか?この国も結構治安が悪いのですね……。


「そうそう、アルノーじゃなくて、捕まった山賊の話なんだけど。

 ここからロッテの守る峠に通じる道に最近良く出没していたみたい。

 そのせいで最近、めっきり人通りが減ったみたいよ、あの峠道。

 私、地元の情報をまったく調べないで、アルノーに騙されていたのね。

 情けないわ。」


 それに気付いただけでも一歩先進だと思います。

 これからは自分の領地の事情はよく把握するようにすれば良いでしょう。


 それにしてもセルベチアの連中、山賊を使ってあの道を事実上封鎖していたのね。

 セルベチアの軍事行動をクラーシュバルツに気取られないように。


「それじゃあ、まだ、アルノーのことは調べている最中なのですね。

 セルベチア軍は近日中に行動を起こすと思います。

 それに呼応してアルノーが何かするかも知れません。

 リーナは身の安全に気を付けてください、必ず信頼できる者を側においてくださいね。」


「わかりました。

 それで、ロッテはこれからどうするのですか?」


 そんなの決まっているじゃないですか。


「おイタをする悪い子にキツイお仕置きをしてきます。」


 私の平穏な暮らしを邪魔する人は赦しませんよ。 


「お仕置き!お仕置きするの?」


 お仕置きと聞いたブリーゼちゃんが目を輝かせて、楽しげな声を上げました。

 お仕置きに加わる気満々のようです。

 どうやら、この子もヤンチャがしたい年頃のようですね。

 いや、そんなに楽しみにしなくても……。 



     **********


 リーナの部屋を辞した後はまっすぐ館へ帰ってきました。

 さすがにリーナの部屋のバルコニーから箒に乗って飛んできたりはしません。

 そんな事をしたら目立つではありませんか、私はひっそりと暮らしたいのです。


 屋根付の橋を渡って町をでて小麦畑まで歩いてから、人目が無いのを確認してから飛んで来ました。

 私だって、ちゃんと周囲の目は気にしているのです。



 館に戻って来た私はブリーゼちゃんに、セルベチア軍の動きを監視して欲しいとお願いしました。


「はーい、わかった。

 あいつ等が動き出しそうになったら教えれば良いんだね。」


 ブリーゼちゃんは嬉々として飛んで行ったのです。

 そんなにお仕置きをするのが楽しみですか……。

お読み頂き有り難うございます。

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