第105話 この馬(?)を信頼して大丈夫でしょうか?
さて、紡績工場を見学させていただく約束の日が五日後に迫りました。
船で一日かかるそうですので、船の手配をしないといけません。
『海の女神号』がまだポンテス海へ戻る航海に出ていなければチャーターしてしまうという手もありますね。
取り敢えず港に行って船の手配をしてきましょうか。
そう思って、ヴァイスに港まで馬車を引いてもらうようにお願いしたところ。
「なんだ、船だと。
せっかく、我がここまで来たのだ。
その何とかという町まで我が馬車を引いてやろうではないか。」
「いえ、引いてやろうと言っても、あなた、目的地の場所もわからないでしょうに。」
私だってやっと地図を手に入れて、それで大まかな位置を把握している状態なのです。
それにこの地図、見るからにいい加減そうで、方位や縮尺がどの位あてになるのか分かりません。
そんな状態の私達だけで馬車で行こうというのは余りに無謀だと思います。
船なら定期便が出ており、丸一日の乗船で港町まで到着するそうです。
そこから、今回の視察の目的の一つである蒸気機関車に乗れば、終点が約束した紡績工場のある町だそうです。
船を使った方が道に迷う事無く確実に目的地に着くことができると思います。
私がそんな風に話すとヴァイスは言います。
「そんなの、取り敢えず適当な方角へ飛んでから、その辺を飛んでいる風の奴ら聞けばいいだろう。
あいつら、そこら中を勝手気ままに飛び回っているから何処かで遭遇するさ。
好奇心旺盛だから、我のことを見かけたら寄ってくるに決まっている。」
その辺を飛んでいる風の精霊をつかまえて聞けと…。
ヴァイスは風の精霊をそんな風に思っているのですね。まるで根無し草のような言い方です。
「うん、ロッテ、その馬に乗って何処かへ行くの~?
その馬はいいよ~!すごく早いし、乗り心地も良いと思うよ~!」
噂をすればなんとやらで、私とヴァイスが話をしていると風の精霊ブリーゼちゃんが現れました。
「まだ一度も行った事のない場所に、ヴァイスが乗せて行ってくれると言っているの。
でも、誰もどう行けば良いのか分からないし、ヴァイスだって場所が分からないでしょう。
だから、定期便の船に乗った方が確実かなと思っていたところなの。」
「我は、お前の同族をつかまえて道を聞けば良いと言ったのだがな。
お前らはそこら中にいるだろう、あっちフラフラ、こっちフラフラしているのだから。」
「なにそれ~!酷い言い方ね!
そんな落ち着きのないモノみたいに言わなくてもいいじゃない!
でも、まあ、実際にその辺を飛んでいるから、つかまえて聞けば良いとは思うよ。」
私は、ヴァイスをなだめすかして船で行こうと考えていました。
そこに、ブリーゼちゃんからヴァイスに思わぬ援護射撃が入ってしまいました。
「ほれ、我が言った通りであろう。
船なんか乗らずに我が引く馬車に乗っていけば良い。
快適な空の旅を約束するぞ。
我も久しく大空を飛んでなかったので、思う存分空を駆け巡りたいのだ。」
ほら、すっかりヴァイスがその気になってしまいました。
まあ、いざとなったらまっすぐ西に行って、海に突き当たったら海岸線を北上すれば良いですか。
何でも、鉄道の起点になっている町はこの国の西岸で一番大きな町らしいですから。
そこから鉄道に沿って終点まで進めば目的の町です。
結局、私はヴァイスの申し出を断り切れず、ヴァイスの引く馬車で約束した紡績工場がある町まで行くことになったのです。
そのことをみんなに告げると、アリィシャちゃんは目を輝かせました。
「ヴァイスの引く馬車で行くの?
じゃあ、お空を飛んで行くんだ。
今度は人目に付かない様に大空高く舞い上がるのでしょう。楽しみ!」
そうですね、空を飛んでいくとなると低空を飛んだら人目に付いてします。
飛んで行くのなら相当高く飛ばないといけないでしょう。
「空の旅ですか、素敵ですね。
一度、ロッテに空へ連れて行ってもらった時は胸が高鳴りましたわ。
今度はもっと長い時間、空を飛べるのですよね。
異国の地の風景を空から眺めることができるなんて楽しみですわ。」
リーナも期待に満ちた目をしています。
確かに景色は良いでしょうね、でも…。
二人とも目的地の場所を知らないヴァイスに任せて空を飛ぶことに不安を感じないのでしょうか。
私はとっても不安です。
そんな私の不安な気持ちを察したのでしょうか、肩に座っていたブリーゼちゃんが言いました。
「ロッテ~、そんなに心配しなくても大丈夫だよ~!
いざとなったら、私が地図を見てヴァイスを誘導してあげるから。
任せておいて~!」
そう言えば、ブリーゼちゃんは地図が読めるのでした。
以前、セルベチア軍の野営地を正確に地図に書き込んでいましたものね。
ブリーゼちゃんがお気軽な口調で話すのを聞いているとそこはかとなく不安になります。
ですけど、これでいてブリーゼちゃんは結構頼りになるのです。
今回もブリーゼちゃんを信頼することにしましょうか。
こうして、私は一抹の不安を感じつつもヴァイスの引く馬車でアルビオンの地を旅することになったのです。
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