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最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい  作者: アイイロモンペ
第1章 アルムの森の魔女
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第9話 ここに何の御用ですか?

 私は自分の立場を明かしました。

 名前は名乗りませんよ、口止めするつもりですが何かの間違いで漏れてしまうかも知れませんから。

 名前が知られてセルベチアから付け狙われるようになったら厄介です。


「おまえが、『アルムの魔女』の末裔だと。

 じゃあ、俺達が動けないのは魔女が使う魔術というモノのせいか?」


「ええ、そうよ。やっと私の話を聞く気になったかしら。

 さて、おじさん達はそんな物騒なモノをもってクラーシュバルツ王国に何の用かしら。」


 私はセルベチア兵が抱える小銃を指差して尋ねました。


「作戦行動の秘密を敵対行動をとる者に明かす訳がないだろう。」


 それはそうか、軽々しく機密情報は話さないものね。

 ここは、時間を掛けずにチャッチャと話してもらいましょう。

 私も眠いですし、明日も朝から草取りをしないといけないのです。


『隊長以外は眠れ』

 

 私は、声に魔力を乗せ力ある言葉を発します。


 隊長以外の兵が糸が切れた操り人形のように力なく倒れていきました。


「おまえ、いったい何をした。」


「うるさいから眠ってもらっただけよ、私が起こさないとその人達は永遠に眠ったままね。」


 兵がいきなり倒れて驚く隊長に私は命じました。


『私の質問に正直に答えよ。』


 何かの質問に強制的に答えさせたいときはこれが楽です。

 これだけを魔力込めた言葉で言っておけば、あとは普通に質問しても相手は抗うことが出来ません。


「あなた達は何の目的でクラーシュバルツ王国へ侵入しようとしたのですか。」


「俺達は我が国の工作員が捕らえた王女の身柄を引き取るためにやって来た。

 この山の麓で夜明け前に引渡しを受けて、人目がない時間の内に我が国の領土内に連れ帰るつもりだった。」


 さっき聞いた話の通りですね、ちゃんと魔法は効いているようです。


「王女を捕らえて何に利用する積もりなのですか。」


「俺は知らねえ、俺達下っ端には知らされていないんだ。

 俺はただ、工作員が王女を捕らえているはずだから引き取りに行けと上官から命じられたんだ。」


 リーナを捕らえて何に利用しようとしているかは本当に知らないようでした。

 私は彼らが何処からやって来たのかを訊きました。

 するととんでもない答えが返ってきました、何百マイルも離れた地名です。

 そんな場所からここまですぐに来れる訳ありません。


 魔法は効いています、嘘を言える訳がないのです。

 不思議に思って詳しく聞いていくうちに、驚くべきことを知りました。


 確かにこの部隊は隊長が言った場所から来た部隊のようです。

 その方面からやって来た大軍に混じって。


 今、この峠のセルベチア側の麓にある街や村には全国各地から兵が集結中なのだそうです。

 この部隊は全軍が集結するまでの待機中に、拉致した王女護送の任務を与えられたようでした。


 そして、ほぼ集結が完了し間もなく、セルベチア軍は進軍を開始する予定のようです。

 自ら下っ端を自認する隊長が知っていることは僅かでしたが、貴重な情報が手に入りました。


 どうやら、元々セルベチアの行動にリーナは関係なかったようです。

 セルベチアはこの時期に軍事行動を起こす準備を着々と進めていました。

 そこにリーナの領主就任があり計画に狂いが生じたようです。


 セルベチアは私が守る峠を越えてクラーシュバルツ王国に侵入しますが目的はクラーシュバルツ王国ではなかったのです。

 隊長が招集されたとき上官から聞かされた攻撃目標はロマリア半島にある小国家群だそうです。


 リーナの治めるシューネフルト男爵領は西と南北をアルム山脈に囲まれた盆地のような場所にあります。

 そして、北側が私が守る峠でセルベチアとシューネフェルト領が接しています。

 他方、南側にあるアルム山脈の峠道を通るとロマリア半島に抜けることが出来るのです。

 ちなみに西側もセルベチアとシューネフェルト領が接しているのですが、標高五千ヤードを越える峰々に阻まれ人の往来が出来るような道がないのです。


 セルベチア軍は北側の峠を越えてシューネフルト領へ入り、そのまま領内を抜けて南側の峠道を進軍する計画だったようです。


 なんと、以前目にしたセルベチアが戦争を始めたという記事が、私に関って来るなんて思いも寄りませんでした。まったく関係ないことと油断していました。


 さて、隊長が知らされている断片的な情報を整理すると……。

 戦好きのセルベチア共和国に数年前誕生した皇帝はこれまた大の戦好きのようです。

 自由と民主主義を謳って王制を打破したと言うのに、皇帝を戴くと言うのは訳がわかりません。

 それはともかく、この皇帝は小国が分立しているロマリア半島を自身の手で統一して、セルベチアの支配下に置こうと画策して戦争を始めたのです。


 現状はというと戦線が膠着してしまい、皇帝の望むような成果は出せていないようです。

 そこで、皇帝が膠着状態を打破すべく考えたのがアルム山脈を越えてロマリア半島に背後から攻め入ろうとする今回の作戦です。


 ロマリア側はアルム山脈を越えて敵が侵攻してくるとは考えていないでしょう。

 ロマリア半島がアルム山脈越しに接するのは永世中立国のクラーシュバルツ王国なのですから。

 いえ、それ以前にシューネフルトからロマリア半島に抜ける峠は標高三千ヤードもあるのです。

 私が守る千ヤード程の高さの峠とはモノが違います。

 そんな難所を大軍が越えてくるなど夢にも思っていないでしょう。


 ただ、その作戦を実現するためにはクラーシュバルツ王国を進軍する必要があります。

 永世中立国であるクラーシュバルツ王国には、兵を進めないとした条約を結んでいるのです。


 あとは私の憶測になりますが、シューネフルト領が領主不在なことに目を付けたのでしょう。

 基本、領主は国に忠実な者が多く、永世中立を冒すような真似はしないでしょう。

 しかし、執政官は所詮雇われの身、鼻薬を嗅がせればなんとでもなります。

 執政官のアルノーを抱き込んで、セルベチア軍の進攻を見逃すように仕向けていたのでしょう。

 その役割が、例の女衒だったのですね。


 そして、いよいよ計画を実行に移そうという時になって、彼らに予定外なことが起きました。

 そう、リーナが新領主に就任してしまったのです。


 リーナもしくはその周囲の者がセルベチアの企みに気付いて王宮に報告されたら計画は水の泡です。

 とすると、リーナの拉致は保険ですか。

 リーナを人質にとって、クラーシュバルツ王国を黙らせようという事ですかね。


 ただ、毒殺は解せないのです。

 そんな事をすれば、アルノーの企みが発覚し易くなるだけだと思うのですが。


 これ以上、憶測を重ねても仕方がないですね。

 今確実なのは、セルベチア側の麓に大軍が待機しているという事と目的がロマリア進攻ということですか。

 それがわかっただけでも、十分な成果です。睡眠時間を削った甲斐がありました。



     **********



 さて、訊くことは全部訊いたし、目の前の兵隊十人をどうしましょうか。

 眠りから目を覚ました兵達を前にして私は考えます。

 私の睡眠時間を削った分程度の報いを受けてもらわないと割に合わないですね。


 少々思案した私は、幾つかのことを彼らに命じました。

 さて、上手くいくでしょうか。


「ブリーゼちゃん、お願いしても良い?」


「ハイな!」


 私は、呼びかけに元気良く答えてくれたブリーゼちゃんに、手持ちのクッキーを一枚渡します。


 「わーい!」と喜ぶブリーゼちゃんに私はお願いしました。


「今私がこの兵達に命じたことは聞いていたでしょう。

 ちゃんと命令を守ったか確認してもらえるかな。

 それと、麓の村や町にどのくらいのセルベチア軍がいるか確認してきて。

 司令官が何処にいるかわかると凄く助かるのだけど。」


「お安い御用よ!」


 クッキーを食べ終えたブリーゼちゃんは、麓へ引き返した十人の兵の後を追っていきました。

 私は帰って一眠りしましょうか。



 翌朝、睡眠不足の目をこすりながら、いつもの時間に起きて草刈をしていると。


「ただいま~!」


 ブリーゼちゃんが元気良く帰ってきました。


「どうだった、あの人達ちゃんとやってくれた?」


「うん、バッチリだったよ!

 花火みたいで、綺麗だった!」


 そう、それは良かったね。


 私が命じたのは、所属する部隊に戻って部隊が保有する弾薬、食料、その他の補給物資に火を放つこと。

 警備の兵がいたら失敗して銃殺されちゃうかなと心配したのだけど上手くいった見たいね。


「あいつら、田舎だと思って弛んでいるのか、警備兵がいないんだよ。

 十人が帰り着いたの夜明け前だからみんな寝てたの。

 火薬の爆発で飛び起きたみたいで凄く慌ててた。」


 ブリーゼちゃんが兵営の混乱振りを身振り手振りをしながら教えてくれます。

 とても楽しそうです、私もブリーゼちゃんの仕草に癒されました。


 あの十人は無事、駐屯地から逃げおおせたようです。

 補給物資に火を放ったら逃亡するように命じておいたのです。

 補給物資を灰にしたら、間違いなく銃殺刑です。

 私の命令に従ったために処刑されたのでは寝覚めが悪いですからね。

 そのまま、逃げ延びて欲しいものです。


「でも、あそこは凄く小さな駐屯地だったの。たぶん、大した足止めにはならなかったよ。」


 ブリーゼちゃんがセルベチアの地図に駐屯地の場所と大体の兵数を書き込みながら言いました。

 あの十人がやってきたのはここから一番近い小さな駐屯地でした。

 でも、その直ぐ後ろには大きな駐屯地があり、司令官らしき人はそこにいるようです。


 大変貴重な情報を持ち帰ってくれたブルーゼちゃんの頭を撫で撫でしながら私は考えました。


「さて、どうしましょうか。」


お読み頂き有り難うございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 共和国が共和制から皇制になったのなら、それはもう共和国じゃなくて帝国と記載するべきでは?
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