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かりそめの仲間

 エドラスは朝になると灰色の冒険者グルートとして冒険者ギルドに顔を出す。


「あら、おはようございます、グルート様」


 昨日対応してくれた受付嬢がカウンターの向こうから笑顔で彼に声をかけてくる。


「おはようございます」


 エドラスは愛想よく答えた。

 愛想よいほうが好感度を稼ぎやすいと彼は知っている。


 昔は得意じゃなくて注意されることもあったが、今は自然と出た。

 心が死んでいるからだろうかと思いながら目の前の受付嬢に集中する。


「本日はどのような依頼をお探しですか?」


 受付嬢に聞かれたのでエドラスは試してみるつもりで聞き返す。


「盗賊団討伐の依頼を受けることはできますか?」


 灰色だから受けられないというのは想定している。

 どのランクになれば受けられるのかだけでもわかれば幸運だ。


「盗賊団……依頼は出ておりますが、本拠地がわからない組織ばかりですよ? 期限だって設定されてません」


 受付嬢は困惑を浮かべて返答する。

 

「なるほど。サーチ&デストロイ……遭遇した時に倒せということか」


 別に盗賊団に限ったことじゃない。

 存在は確認されてるが居場所がわからない魔物たちも同じ扱いだ。


「灰色ですと対応できる奴らも少ないしね」


 と横から若い金髪の男性が入ってくる。


「グルートさんだっけ? あんたちょっと話題になってるよ。手ぶらで魔物討伐に行ったのに無傷で帰ってきたヒトってね」


「どうも」


 エドラスは馴れ馴れしい男にとりあえずあいさつした。


(目立つ予定だったが、意外な目立ち方をしてしまったな)


 まさか手ぶらでゴブリンとコボルトを討伐したことで目立つとは、彼にとって計算違いもいいところである。


「よかったらお試しに俺たちと組んでくれないかな?」


 いきなりずばりと彼は提案してきた。


「組む?」


「ああ。あんたたぶん魔法使いなんだろ? 俺たちのパーティーには魔法使いがいなくてさ」


 そう話す若者は腰に剣を下げていて、胸に光るプレートの色は青色だった。


「俺は灰色だけどかまわないのかい?」


 エドラスは聞いてみる。


「ああ。たぶんあんたは冒険者になりたてなだけで、実力的には青色くらいありそうだ。俺たちは全然かまわないぜ」


 若い男は気持ちいい笑みとともに右手を差し出す。


「それじゃお言葉に甘えよう。俺はグルートという」


 エドラスは握手を避けてそう名乗った。


「俺はライル! よろしくな!」


 ライルと名乗った若者は元気よく言う。

 常に光が照らす道を歩んできたであろうまぶしい笑顔だった。


「ああ。ところで君の仲間はどこに?」

 

「後ろにいる」


 ライルは右手親指をくいくいと後ろに動かして、仲間の位置を知らせる。

 

「彼らか」


 見たところ戦士に僧侶、弓兵の三人だ。


 これに剣士のライルが加わるとすれば、前衛後衛のバランスはともかく魔法という点はたしかにネックになる。


「よろしくー」


 四者四様に笑みを向けていた。

 

(軽いな)


 とエドラスは思う。

 命をあずけられるかどうか、探るような感じがない。


 お試しとは文字通りの意味で彼らは真摯に考えているわけじゃなさそうだった。

 もっともそっちのほうが彼にとって好都合に違いない。


(情報を集める必要があるからな。知り合いは作っておくべきだ)


 エドラスがこの地域に関して持っている情報は少しだけだ。 

 増やしたいなら一緒に冒険をする相手を作るというのは、一つの手段だろう。


 ライルたちは無理だろうが、上のランクの冒険者となれば貴族とのツテを持っている者だっているかもしれない。


(面倒だが一つずつステップアップしていくか)


 とエドラスは内心息を吐き出す。


 暗黒神の力を抜きにしても彼がその気になれば金級の冒険者になることはそんなに難しくないだろう。


 だが、それではダメだと彼の直感が告げている。

 身元を怪しまれるリスクはできる限りでいいので減らしたいのだ。


「依頼はどうする? 何かアテはあるのか?」


 グルートはさっそくライルにたずねる。

 リーダーとしてのアイデアを持っているなら聞いておきたいところだ。


「ああ。青色の依頼をこなしたいと思っている。魔法使いなしだと難しい案件で、これに成功すれば君も青色と認められるだろう。お互いメリットがあると思うけど、どうだろうか?」


 ライルの提案は納得できるものだった。

 エドラスにしても青色に昇格できるなら早いほうがよい。


「そうだな。ありがたい話だと思うよ」


 エドラスは意識して友好的な笑みを作る。

 普通の笑い方など思い出しにくくなっていたが、何とかできた。


「決まりだな」


 ライルはエドラスが握手に応じなかったことに気を悪くした様子はない。


「ところで一つ聞きたいんだけど」


 ライルは一度言葉を切って、じっとエドラスを見つめる。


「何だ?」


 彼が聞くと、ライルは笑みを浮かべながら言った。


「探している盗賊団でもいるのかい? 立ち入ったことを聞くようだけど、はっきりさせておきたい点なのでね」


「私怨で暴走する危険を警戒する必要があるからか?」


 エドラスが思いつくのはその程度のことだった。

 質問で返されたライルは笑みで表情を固定したまま肯定する。


「そうだ。独断で動かれると困るからね。協力できることはすると約束するので、君も独断で動かないことは約束してほしいんだよ」


「当然の要求だな」


 エドラスはうなずいた。


 仲間に入れてもらうのは彼のほうだし、ライルたちはその程度は要求する資格を持っている。


「盗賊団を倒したいとは思っているが、お前たちに迷惑をかける気はないよ」


 エドラスはしっかりと約束した。


 はっきりと言っておくほうが彼らも不安を払しょくできていいだろうという配慮である。


(彼らにどの程度利用価値がまだわからないんだからな。把握するまで潰すのはもったいない)


 エドラスはわりと貧乏性に、そして彼なりに慎重になっていた。


(ないとは思うが、万が一貴族出身がいるかもしれない。友達とかに)


 交遊関係もある程度教えてもらえるのが当面の目標にしようと思う。


「理解してもらえたならうれしいよ」


 ライルはさわやかな笑顔を崩さない。

 一周回ってエドラスは彼を褒めたくなる。


 素でやっているのか努力の成果なのかまでは知る由もないが、ここまで貫けるのは立派なものだ。


「お互い少しずつ理解し合っていこう」


 エドラスも彼に笑みを向ける。

 まずは理解し合うことだ。


 ……殺すのはそれからでも遅くない。

 エドラスは頭の片隅でそんなことを考えていた。 

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