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報復

 エドラスは権能に教えられるがまま、夜のとばりが落ちた町の中を歩いてく。

 人通りはめっきり少なくなったが、酔っ払いの声が酒場から聞こえている。


 平和で何もない田舎町とでも言うべきなのだろう。

 

「一応外装は変えておくか」


 エドラスは一度物陰に姿を隠し、魔力を用いて全身を黒装束で覆う。

 顔も目以外を黒い布地で隠して目的地の一軒の家に到着した。


 そこでは五人の男が酒盛りをしている。

 全員、レフとアンナの記憶に出てきた彼らを踏みにじった男たちだった。


「いやー、さっきは面白かったな」


 一番体格のいい男が楽しそうに言うと、


「そうか? ジジイとガキだったじゃん。ストレス発散にはなったが、それだけだろ」


 彼の右隣に座る男が不満をこぼす。


「どうせなら若い年ごろのメスがいいぜ。殴る蹴る以外にも『使い道』があるんだからよ」


「それはそうだが」


 一番体格のいい男は否定しなかったものの、現実を指摘する。


「そんなの誰かの所有品になってるか、奴隷商ががっつり抱え込んでるだろ。そんなメスに手を出すのはリスク高すぎだぜ」


「所有者がいるテイラーにそんなことしたら、『窃盗』と『器物損害』の罪になるんだ。俺たちは犯罪者じゃないはずだろ?」


 続いて最も若く華奢な男が冷静に諭す。


「そうだな」


 不満をこぼした男は納得してうなずいた。

 そう彼らは犯罪者なんかじゃない。


 彼らの感覚では何一つ悪いことなどしていないのだ。

 優れた聴覚でそれを聞いたエドラスは吐き気を覚える。


(胸くそ悪い……)


 客観的に見れば彼も同類かもしれない。


 知り合ったばかりで、法律で守られていない相手のために報復するなんて、理解されないかもしれない。


(だが、だからどうした?)


 もはやエドラスはよりたくさんの人のために、周囲の理解を得るために動くことは止めたのだ。


 言わばこれは過去の自分と決別するための大きな一歩だった。


「こういうのはどうだ? 俺らで金を貯めてメステイラーを買うんだよ。そうすりゃ何をしても俺らの自由だろ?」


「そりゃそうだがちょっと金がもったいないよなぁ」


 彼らの会話は相変わらずエドラスにとって胸くそが悪すぎる。

 これ以上は聞くに堪えない。


「《闇の天幕》」


 まず周囲に音や悲鳴が聞こえないよう、家を闇の結界で覆う。

 彼らは何も気づかずゲスな会話を続けている。


 エドラスは床を蹴って部屋に侵入し、まずは一番近くにいた男を狙う。


「《闇の鎌刃》」


 を使って腕を切り落とす。


「ぎゃあああ!」


 突然の激痛と襲撃に男は悲鳴をあげ、残りの面子はぎょっとしてエドラスを見る。


「な、何者だてめえ?」


 無言で襲ってきた相手にそんな質問をするとはマヌケだなと思いながら、彼は行動を続けた。


「《闇の穿針》」


 彼らの足をいっせいに闇の針で刺し、機動力を奪う。

 逃げ回られたら面倒なので、その可能性を最初に潰したのだ。


「いてえよおおお」


「な、なんなんだよお」


 男たちは悲鳴をあげるか、苦痛の声をあげるかの二種類に別れる。

 そんな中、体格のよいリーダー格の男だけではまだエドラスをにらむ。


「こ、こんなことをしてただとすむと、思ってんのか」

 

 まだ脅かす気力があるのかとエドラスは感心する。

 即死しなかったアリの意外なタフさを見たような気持ちで。


「お前こそ、これで終わりだと思うのか?」


 エドラスはそう言ってもう一度《闇の穿針》で彼らの肉体を抉る。

 

「なぜ俺がこんなことをするのか、お前たちには理解できまい」


 エドラスはつぶやく。

 怒りがにじんだ声に怯えの視線が向けられる。


 誰も心当たりにハッとしたりはしない。

 突然通り魔に理不尽に狙われた一般人のような表情だった。


「だから俺はお前たちに何も言わん。お前たちも黙って苦しんで、そして死ね」


エドラスは宣告する。


「い、いやだ」


「たすけてくれ!」


 男たちは誰も黙って自分の死を受け入れようとはしなかった。

 必死に命乞いをしたり、助けを求めて叫ぶ。


(不愉快な)

 

 エドラスにとって彼らの行動は実に目障りで、耳障りだ。


「お前たちがテイラーと呼ぶ存在が、助けを求めたらお前たちはどうした?」


 問いはない。

 みんな激痛のさなかぽかーんとする。


 テイラーが助けを求めて、それを無視するのが悪いのかと言いたそうな顔だった。

 

「お前たちはそうなんだろうな」


 分かり切っていたことだとそっと息を吐く。

 男たちはゾッとして体を震わせる。


 エドラスのことは何も分からないが、自分たちの危機だけは理解できる。


「助けてくれ!」


「頼む!」


「改心するから!」


「金なら払うから!」


 次々に聞かされる命乞いの言葉にエドラスは不快感を刺激された。

 憐憫の感情は一切浮かんでこない。


「俺から言えることは決まっている」


 エドラスはそう言って、少しの間を置いて告げる。


「慈悲はない。苦しんで死ね」


 彼らの脳と心に沁み込ませるように暗い言葉をつむぎ、


「《闇の鎌刃》」


 彼らの体を切り刻み、突き刺していく。

 苦しめることが目的じゃないが、楽に死なせてやるつもりもなかった。

 

 彼らを始末した後、エドラスはさらに権能を使う。


「《屍血吸引》」


 死者の肉体と血を取り込むことで、自分の糧にすることができるのだ。

 そうやってラスターも不幸をまき散らして力を蓄えていたのだろう。


 これを実行するとエドラスの力が微妙に増えるのと同時に、男たちの死体を消せる。


 死体さえ見つからなければ行方不明扱いになることが期待できた。


 最後に《闇の天幕》を解除してエドラスはその場を立ち去って眷属たちの下へ戻る。


「おかえりなさいませ」


 レフとアンナは青白い顔で彼を出迎えた。


「何か変わったことはなかったか?」


 エドラスは問いかける。

 彼らは黙って首を横に振った。


 このまま何事もなく朝まで待つ予定である。

 暗黒神となったエドラスは睡眠が不要になってしまった。


 もっともそれは眷属となったレフとアンナも同じだ。


「せっかくだ。知ってることを朝まで話して聞かせてくれないか?」


 とエドラスはレフに頼む。

 まずは情報を集めることが大事だろう。


「はい」


 レフはうなずいて聞いた。


「まずは何からお話ししましょうか?」


「そうだな。この林にいそうな魔物についてだ」 


 この林を当面の拠点にしてもよいのか、それともよそを探すべきか。

 そこから聞きたかった。


「この林にいる魔物の中で危険なのは《熊喰い花》と《刻む松》という植物型の魔物です」


 レフはまずそう話す。


「他の危険な魔物はたいてい、この二つの魔物のどちらかに殺され養分にされてしまうので、我々はこの二つの魔物の生息エリアにさえ近寄らなければ安全です」


「なるほどな」


 植物型の魔物となると自分の意志で自由に動いたりできないのだろう。


 ならば戦闘力のなかったレフたちでも気を付けていれば危険はなかったのも納得できる。


「番犬がわりにそいつらを支配しておきたいな」


 暗黒神としての顔を見せれば服従する魔物は多いだろう。


 手駒がほぼゼロと言えるエドラスにしてみれば、一定以上の強さの魔物はいくらでも欲しいところだった。


「案内できるのは二か所ですが」


「ああ、頼もう」


 レフの申し出にエドラスはうなずく。

【読者の皆様へ】


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