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奴隷を購入

「いやー、すごかったよ、エドラスさんは!」


 シュトルたち冒険者たちはロアノークに帰還すると、熱い口調でエドラスの冒険譚を語る。


 もちろんエドラスが権能を使って記憶を改ざんした結果なのだが、誰もそんなことは夢にも思わないだろう。


「やりすぎて素材を持ち帰れなかったのは残念だが」


 というのは魔物たちを殺さなかった説明だ。


 エドラスはあまりにも強すぎて力加減を間違えてしまい、素材が残らなかったという設定にしたのである。


 力を出せば同じことができるのでボロは出ないという判断だ。


「代わりにこれを持ってきた。『スケイルスフィア』だ」


 とエドラスはギルドのカウンターに二つの大きな石を置く。


「『スケイルスフィア』!? こんな大きくて立派なものが二つも!?」


 ギルド職員たちが騒然となった。


「あんな立派なものが二つもあるなら、さぞ敵は強かっただろうな。無傷で帰ってきたあたり、エドラスさんはマジでバケモノだ」


 その場に居合わせた冒険者たちも畏怖を込めて会話する。


「いったいどれくらいの価値があるんだろうな、あれ?」


「あれだけデカいなら金貨十枚は堅いんじゃないか?」


「つまり凶度三十超えの群れを一人で一掃したのか。やばいな」


「惚れそうか?」


 なんてやり取りをエドラスは適当に聞き流しつつ、評判がよくなってることには満足した。


「査定した結果ですが」


 中年の男性職員の声にエドラスは意識をそちらへ向ける。


「金貨六十枚となりました。好事家に出せばもっと高額になる可能性が高いですが、いかがなさいますか?」


「買い取ってくれ」


 エドラスは即決した。

 彼にとって必要なのは当座の資金であり、後になって入る大金じゃない。


「ありがとうございます」


 中年男性職員が揉み手をして頭を下げ、若い女性職員が金貨が入った大きな革袋を持ってくる。


「報酬はこちらになります。後、魔物を一掃してくださった報酬金貨五十枚も入っております」


「ありがとう」


 魔物を討伐していないのに討伐報酬を受け取るのは詐欺に近いが、いなくなったのは事実だとエドラスは思う。


 そもそも今の彼はヒトから金を騙し取ることに抵抗はうすい。


(さて戻って……いや、待てよ?)


 エドラスは報酬の入った革袋を持ったところでひらめく。

 奴隷商会ならこのロアノークにもあるんじゃないだろうか。


 前の町の奴隷ももちろん購入するべきだろうが、それはここの奴隷たちだって同じなのではないだろうか。


「この町に奴隷商会はあるのか?」


 エドラスはギルド受付嬢にたずねた。


「奴隷商ならカウフマン商会の本店がございますが」


 質問されるのに慣れているのか、あるいは単純に抵抗がないのか、受付嬢は平然と返答する。


「場所を知りたい。教えてもらえるだろうか?」


「この建物を出て右に曲がって、少し歩いた右側の青い壁の建物ですよ」


 受付嬢に礼を言ってエドラスはギルドを後にした。


「あ」


 シュトルが声を出したものの、彼は聞こえなかったふりを決め込む。

 彼らもまた無理についてこようとはしなかった。


 彼らなりに配慮したのだろう。

 受付嬢が教えてくれた通りの建物が見え、カウフマン商会の看板をくぐる。


「いらっしゃいませ」


 出迎えたのは老境にさしかかった長身の男性だった。

 黒服がよく似合っているが、礼儀正しさよりも威圧感を与えている。


(けっこう強いな。雄力三十近くはありそうだ)


 護衛も兼ねていたりするのだろうかとエドラスは想像をめぐらす。


「どのようなご用件でしょうか?」


「奴隷を買いたい」


 老人が聞きたいのはもっと違うことだろうなとエドラスは思ったが、とっさに適切な答えは思い浮かばなかった。


「どのような奴隷をお求めで?」


 老人は礼儀正しい態度を崩さず再び問いかける。 

 エドラスは少し迷う。


(魔物がいるから戦闘員はいらないと言いたいところだが、この辺の知識を持っていて俺とパーティーを組んでくれる裏切らない存在はほしいな)


 と考えた。

 レフとアンナはいずれも凶度三十近くだから戦力としては申し分ない。


 だが、雄力の高い者にはアンデッドだと見破られてしまうリスクがあるので、下手な行動は慎んだほうがいいだろう。


「冒険者になれる者はいるか? あとは組織運営の経験がある者とか」


 後者は元々考えていたことだ。


 勢力を拡大していけば当然、エドラスの手には余る──すでに余っている可能性はこのさい無視する──ので、組織運営のノウハウを持つ者の補強は必須だと言える。


「前者ならばいますが、後者は難しいですな。そのような経歴の奴隷はだいたい横領といった裏切り行為を働いた者ですし、奴隷の首輪の拘束力は絶対ではありません」


 老人は頭の良い者なら抜け道に気づくだろうと話した。

 わざわざそれをエドラスに告げるあたり、良心的なのかもしれない。


(どちらかと言うと冒険者に難癖をつけられてはたまらないという、防衛意識のほうがありそうだが)


 後で知らなかったと言われた面倒な事態になるだろうし、それを回避したいという願いから出た言葉だと考えれば説明はつく。


 すっかり疑い深くなり、他人の良心を信じなくなったエドラスだった。


「そうなのか。それでもかまわない。裏切られてもこの商会のせいじゃないと約束しよう」


 彼がそう言うと、


「解りました」


 老人はあっさりと承知する。


 心配そうな態度をうわべだけでも見せないあたり、本気でエドラスのことを心配したわけじゃなかったのだろう。


 あるいはまずは説明するというのが商会のルールという可能性もある。


(面倒なやつは全部殺せばいいからな。今後商会に会わせなくてもいいだろうし)


 レフがそうであるように、《レヴェナント》という種族ならば生前の知性をある程度保持できる。


 その上で裏切られる心配がなくなるのだからよい手だと言えるだろう。

 老人が戻ってきて四人の男性を連れてくる。


 いずれも身なりはきれいで商品価値があると判断されていたのだろうなとエドラスは思う。


「剣士のガズン、弓使いのグーラ、魔法使いのレール、それから文官のズートです」


 紹介される全員がヒトというのは彼の予想を外れていた。


「ヒト以外の奴隷はいないのか?」


「ええ。あいにく売れてしまったんですよ。入荷するまでお待ちいただくことになりますが」


「そうか」


 返事を聞いてエドラスは迷ってしまう。

 彼が救いたいのはヒトに虐げられている他の種族だ。


 ヒトの中にも理不尽に虐げられている者はいるだろうという意識は、今の彼にはほとんどない。


「じゃあ文官だけもらおう。いくらだ?」


「大銀貨一枚です」


 高いのか安いのかエドラスには解らなかった。

 大銀貨を渡すと老人がズートに目配せをする。


「あんたが俺のご主人様か? 俺を飼いならせるんだろうな?」


 ズートは挑発的に青い瞳を向けてきた。

 エドラスはそれを無視して商会を後にする。


「ちっ」


 ズートは奴隷とは思えない態度をとりながらも彼の後を追う。

 

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