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ひとの気まぐれで滅びない世界に

 夜明けまでに作戦は終了した。


「少しは気が晴れたか?」


 エドラスは荒廃した町を見せたうえでパルに問いかける。


「はい」


 町の中にいた生き物すべてが死に絶えた様を見て、パルはうなずく。

 同胞たちは助けられなかったが仇はとった。

 

 それがパル自身と同胞たちに対するせめてもの慰めだった。


「では誓いを守ってもらうぞ」


「えっと、何をすればいいんですか?」


 パルは問いかける。


「そうだな。俺の目的は勢力を拡大しヒトの支配を打倒し、ヒトの気まぐれで滅びる森、里、種族が生まれない世界を目指す」


 エドラスは答えた。


 なるべく詳細に言おうとしたが、実のところそれを実現させるためのプランは大して練りあがっていないと自覚する。


「ヒトの気まぐれで滅びない世界……」


 パルは目を見開いて神妙につぶやいた。

 何かが彼の琴線に触れたらしい。


「そんな世界、見てみたいです」


 パルは涙ぐみながら言った。


「一緒に作ろう」


「はい!」


 エドラスの語りかけにパルは感極まった顔で何度もうなずく。

 

「そのためにお前に確認したいことがあるんだが」


 エドラスが言えば、


「何でしょうか? 何でもおっしゃってください」


 パルは彼のためなら何でもできるという顔で応じる。


「たとえばだがヒトに変身したとしたら、どこまで再現できる? 対象の頭脳まで再現できるか?」


 エドラスとしてはぜひとも確認しておきたいことだった。


「思考方法を再現することは可能ですが、知能を再現するのは難しいかと。特にヒトは賢い個体は賢いので」


 パルは悔しそうに返答する。


「よほどの相手じゃないかぎりはそれなりに再現できるか?」


 エドラスはさらに質問を重ねた。

 パルは何か重要な事柄なのだろうと思い、慎重に応じる。


「それなりでかまわないのなら、何とかできるかと」


「よろしい」


 エドラスは満足して、


「性格や話し方については問題ないな?」


 と次の確認をした。


「ええ。そちらは問題ないと思います」


 パルは答えながらエドラスが何者かに化けさせたいと考えているのだなと気づく。


 誰に化ければよいのか興味があるが、自分から聞く勇気はなかった。

 

「では一度ルメイ湿原に戻り、次に俺のアジトへ案内しよう。そこには俺の眷属たち、お前の先輩もいる」


「わかりました」


 パルは自分の先輩がどのような存在なのか思いを馳せる。

 ルメイ湿原に戻ってエドラスは簡単に告げた。


「パルの仇討ちをすませてきた」


「本当だよ。誰も助からなかったけど、ヒトどもは全部やっつけてもらった」


 パルは涙目になりながらうれしそうに報告する。

 それを聞いた魔物たちは鳴き声を発した。


「よかったなと言ってくれてます」


「ああ。そう言えば《ル・フェイ》はいろんな魔物の言語が理解できるんだったな」


 エドラスは思い出す。


 暗黒神なのだからその辺の権能を持っていてもいいように思うのだが、実はそんな便利なものはなかった。


 理解能力のある眷属を作れということなのだろうかと内心首をかしげる。


「さてお前たちは俺の配下となってもらうわけだが、異論がある者は?」


 エドラスが問いかけると全員が平伏して誰もいやそうな反応はしなかった。


「少し問題がある。この後俺は冒険者として評判を高め、奴隷を買いたいと思っていたんだ」


「奴隷ですか?」

 

 聞き返したパルに向かってエドラスは説明する。


「そうだ。ヒトどもに奴隷に貶められた存在と言えば、察しはつくか?」


「は、はい。僕ら以外にもひどいめにあってる種族がいるのは知ってます」


 パルはこくこくとうなずいた。


「ヒトどもを皆殺しにして救うという手もあるんだが、現在ではまだ早い。残念ながらもっと勢力を増強してからになるな」


 エドラスはいら立ちと悔しさをにじませて話す。


「は……」


 パルは目を伏せた。

 本当はできるだけ早く救ってほしいのだが、自分にはそんな力がない。


 エドラス頼みになるのだから彼の意志に従うのが筋だと彼は考える。


「戦力を増強して行けば本拠地が必要になるんだが、どこか心当たりはないか?」


 エドラスの問いに回答はなかった。


(魔物たちには難しかったか)

 

 と思ったが落胆はない。


 ヒトに知られにくく多数の魔物が暮らせる場所など、エドラスだって簡単には思いつかないものだからだ。


「さて……金が足りればいいんだが」


 シュトルたちの記憶を操作すれば魔物たちのごまかしはできるが、報酬を受け取ることができない。


 それをどうするかまでは考えてなかったのがエドラスのミスだった。

 彼のつぶやきを聞いた魔物たちは視線をかわし合う。


 そしてパルに何事か話しかける。

 彼らの話を聞き終えたパルはうなずいてエドラスに話しかけた。


「エドラス様、申し上げたいことがあります」


「何だ?」


 エドラスが質問という形で続きをうながず。


「《ポイズンアリゲーター》と《ロックリザード》が持つお宝を献上したいそうです」


「お宝? 何だ?」


 エドラスとしては無下にするつもりはないが、今彼が欲しているものかどうかはかなり気になる。


 彼の質問を聞いた《ロックリザード》と《ポイズンアリゲーター》が一頭ずつ湿地の奥へと姿を消す。


 そしてそれぞれ青色と緑色の大きな石を口にくわえて持ってくる。


「もしかして『スケイルスフィア』か?」


 エドラスは驚きを隠せなかった。


 『スケイルスフィア』はリザード系の魔物たちの体内で精製されるという石で、好事家たちの間では高値で取引される。


「二つしかないのですが、お役に立てるなら。あなた様の庇護を受けられるのならと申しております」


 パルが彼らの心情を通訳した。


「そうか。ありがたく受け取ろう。俺ができる限りの庇護を与えることを約束しよう」


 『スケイルスフィア』は彼らにとって大切なものに違いなく、それを差し出すことの意味をエドラスは汲み取る。


 袋に『スケイルスフィア』を入れた後彼は言った。


「ではまずお前たちを本拠地へ案内しようか」


 冒険者たちの記憶改ざんはその後でもよいだろう。

 エドラスは権能を使って魔物たちを例の森へと転移させる。


 少し離れた場所からレフがやってきた。


「エドラス様、その魔物たちは?」


「新戦力だ。いきなり仲よくするのは無理だろうが、味方という認識は持ってくれ」


 アンデッドたちとトカゲ系の魔物たちじゃ何もかも違う。

 最初から上手くいくとはエドラスは思わない。


「はい」


 レフとアンナがうなずくと、エドラスは彼らとパルを引き合わせる。


「このパルは《ル・フェイ》という種だ。今後俺の役に立ってくれるだろう」


「頑張ります。よろしく」


 パルはレフとアンナにあいさつをした。


「こちらこそ。私はレフ。こっちは孫娘のアンナです」


 三名は握手をかわす。


「よろしく」


「俺は戻ってヒトどもへの対処をおこなう。何か要望があれば今言うか、それとも後で言うかだな」


 エドラスが言うと、


「彼らの住む場所はともかく食料はどうなさるおつもりですか?」


 レフが問いかける。


「彼らは何を食べるんだ?」


 エドラスがパルに聞いた。


「魚や虫が多いですね」


「しまったな」


 エドラスが舌打ちすると、レフが微笑む。


「川魚でよければこの森にも住んでおりますよ」


「それで問題ないはずだよ」


 パルが言うとレフは首を上下に動かす。


「では案内しますよ」


「よろしく」

 

 彼らは何とか上手くやれそうだなと思い、エドラスは再び権能で移動する。


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