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忠誠を誓う者

 エドラスはパルを連れて町の外に出た。


「ひどいよ。ひどい……」


 ヒトの目がなくなったことでパルは我慢の限界に達して泣き出す。

 エドラスは黙って見守る。


 気が済むまで泣けばいい。


 エドラスだって自分が仲間と信じた相手に裏切られた時、同じような心境だったのだから。


 パルの涙はやがて止まって、怨念の声が漏れはじめる。


「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう」


 呪詛と言うには可愛らしいものの、よい変化だとエドラスは思った。


「俺に忠誠を誓うなら仇を取ってやる」


 タイミングを見計らってパルに告げる。

 パルは泣きはらした顔をエドラスに向けてひざまずいた。


「誓います」


「いいだろう」


 エドラスはパルの肩に手を触れて彼を眷属化する。


「これでお前は眷属となった。引き続きパルと名乗れ」


「はい」


 パルが返事をしたところでエドラスは町へ視線を移す。

 その瞳には激しい怒りが燃えている。


「これから報復をするが、手段は考慮しなければならない。どんなことがあっても不満は聞かないぞ?」


 復讐者となったパルをエドラスは牽制した。

 

「はい」


 パルは暗く静かに燃える復讐の炎を目に宿してうなずく。

 エドラスは彼の目つきに満足する。


「では森に行こう」

 

 エドラスはパルを連れて森に行った。


「何をするのですか?」


「お前たちにチャンスを与えるのさ」


 質問に答えたエドラスは荒野となった森の跡地で立ち止まると、権能を発動させる。


「《さまよえる魂たちよ、踏みにじられた怨念よ、我に従い今ひとたびこの地に甦れ》」


 暗黒神の権能の一つ【死者蘇生】だ。


 もっとも完全な蘇生ではなく、土などで作ったかりそめの肉体に魂を入れたもので立派なアンデッドである。


 土があるかぎり、そして魔力を使えるかぎりはいくらでも肉体を用意できるので物量作戦向きの権能だ。


 エドラスの権能によって生まれたアンデッドたちは五千を超える。


 《ル・フェイ》、《ポイズンアリゲーター》、《ロックリザード》だけじゃない。


 シカのような魔物《雷角鹿》、《鎖蛇》、《剥苦鳥》といった森ならではの生物たちもいる。


 それだけの悲劇が起こったという意味でもあり、エドラスは改めて憤りを覚えた。


 もしかしたら罪もない者だっているかもしれないという考えは、彼にはまったく浮かばない。


「これからあの町を滅ぼす。こいつらでな」


「おおお……」


 パルは大きく目を見開く。

 彼にとってエドラスが見せた力はあまりにも圧倒的だった。


(この戦力だけで足りるか?)


 おそらくエドラスが呼び出したアンデッド戦力とダーラムの町の人口は大差ないだろう。


 夜に小さな町を奇襲するのだから大丈夫な気はするが、漏れが出るのは避けたいところだ。


 まだエドラスは自分たちの存在に気づかれたくはないので、誰かに話をされるような展開はまずい。


「俺が外への出口を封鎖すればいいか」


 要するに逃げ道をなくしてしまえばいいのだ。

 

「【闇の結界】」


 エドラスはダーラムの町を地下を含めてすっぽりと暗黒の球体状の結界で覆ってしまう。


「これで俺の許可なく外には出られない。ヒトどもの逃げ道は潰した。あとは攻め滅ぼすだけだ」


 エドラスはパルに説明した後、アンデッド軍勢に指示を出す。


「行け。町を攻め落とせ」

 

 アンデッド軍は四手に別れ、それぞれ町の入り口を目指してゆっくりと進んでいく。


「も、もし冒険者に負けたら?」


 パルはおそるおそるエドラスに問いかけた。


 冒険者たちは上位となれば今回エドラスが用意したアンデッド軍を倒せる者たちがいるだろう。


「何度でも作りなおせばいい。それが奴らの強みだ」


 とエドラスは答える。


「冒険者がいくら優秀でも不眠不休で戦い続けることなどできない。一方のアンデッドたちは違うからな」


 アンデッドはエドラスが供給する魔力があるかぎり、何度でも復活できるのだ。


 神官やエクソシストが魂を祓っても、エドラスの権能なら再度呼び戻すことだって可能だ。


 ある意味エドラスは「アンデッドキラー殺し」とでも言うべき存在だろう。

 アンデッドたちは閉ざられた門の前にたどり着き、力任せに殴りはじめた。


「最初は俺もやったほうがいいか」


 門の扉を壊すのはすぐにはできないし、物音が大きくなれば起きてくる者が増えるだろう。


 それはいいのだが、省けるところは省きたい。


「【闇の穿針】」


 エドラスは魔力を飛ばして四つの門を同時に破壊する。

 そしてアンデッドたちはいっせいに町の中へとなだれ込む。


 惨劇のはじまりだった。


 多くの人々が寝静まっていて、鍵をかけていたが門の扉ほど頑丈なものじゃないくアンデッドたちのパワーなら簡単に壊せる。


 寝込みを襲われた人々は噛みつかれ、腹を殴られ、押し倒され、悲鳴をあげながら死んでいく。


「何だこいつらは!?」


「アンデッドか!?」


 冒険者たちはさすがにやられっぱなしではなく、武器をとって応戦する。


 非常事態ということで剣や槍で、あるいは斧や魔法を使って屋内を壊しながら外に出た。


 そして彼らは町全体が襲撃を受けていて、悲鳴と破壊音があちこちから聞こえてくるという事実に直面する。


「ま、町が襲われてる!?」


「くそ、何でまた……」


 彼らにとって運がないことに強い冒険者たちは不在だった。

 金を支払う能力がないと町長に追い払われたのだ。


 それをいい気味だと思っていた冒険者たちは今、心底後悔していた。

 緑色以上の冒険者たちがいればもっと楽に戦えただろう。


 赤色や銅色がいれば千や二千の雑魚アンデッドなんて軽々と片付けたかもしれない。


 だが彼らはおらず、アンデッドの群れに対して有効な攻撃手段はない。

 肉体を破壊されただけだとアンデッドたちはすぐに立ち上がってくる。


 そのことに気づいて冒険者たちは愕然とした。


「こいつら死なねえ!?」


「アンデッドだからな!」


 別の誰かが叫ぶ。


「皮肉を言ってる場合か!」


 たしかにそれどころじゃなかった。

 町の建物は次々に破壊され、人々は次々に殺されていく。


 殺された人々がアンデッドにならないのはせめてもの幸いだが、状況は最悪に近い。


 この日、強い冒険者を追い出したことを最も悔いたのは町長だった。


 異変に気付いた時、すでにアンデッドの群れが近くを徘徊していたし、ほどなくしてドアを破壊して侵入してくる。


「防げ!」


 雇っていた護衛たちにそう命令した町長は夫人と子どもたちを連れ、自分だけは助かろうと馬に乗って逃げ出す。


 子どもたちも夫人も自力で馬に乗れるのが幸いだった。

 

「町長、まさか自分たちだけ助かる気か!?」


 必死に戦ってる冒険者たちの叫びを、町長一家は聞こえないふりをする。


 そしてアンデッドの姿が見られない門を選んで出ようとして、エドラスが展開した結界に阻止された。


「何だ!? 外に出られない!?」


「出られない!?」


 町長の叫びを聞いた冒険者は愕然とし、そしてその隙を狙ったアンデッドに首を噛まれた。


「な、なぜだ!?」


 町長はパニックになる。


 町民が殺されている隙に自分と家族だけは助かりたかったのに。

 

「あなた」


「お父さん」


 妻子を声をかけられて町長は冷静になった。


「そ、そうだ。きっと幻覚か何かなんだ。みんなで力を合わせればきっと壊せる!」


「そんなはずがないだろう、卑怯者め」


 嫌悪感たっぷりに声をかけたのはエドラスだった。

 結界に触れた者がいることに気づいて転移でやってきたのである。


「誰だ!?」


 にらみつける町長の服装が上等なことから、貴族かそれに近い存在だと推測した。


「守るべき民を見捨てて自分たちだけ助かろうとした者たちに名乗る名はない」


 エドラスはそう言って闇の剣を作り出して、町長の首をはね飛ばす。


「俺は貴様らと違って弱者をなぶる趣味はない。安心して全滅しろ」


「ひっ」


「た、たすけ」


 残された妻子の悲鳴と命乞いを最後まで聞かず、エドラスは彼らを始末する。


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