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ロアノークとルメイ湿地

冒険者は他の町に行く時、別に断りを入れなくてもよい。


 居場所を教えておく必要があるので、移動先の冒険者ギルドに顔を出しておくほうがいいが。


 そのルールを思い出してエドラスはさっそく森を出てロアノークへ向かう。


 あまり怪しまれないように本気は出さず、「魔法を使ったなら現実的」と判断される時間をかけた。


 ロアノークの町はルメイ湿地という魔物の発生源が存在しているからか、頑丈そうな石の壁が築かれていて、見張りと門番がいる。


 槍を持った門番に銅色のプレートを見せた。


「銅色……手ぶらで旅ができているあたり、ただ者じゃねえとは思ったが」


 驚愕し、うなりながら門番は通してくれる。


「あんた何しに来たんだ? やっぱり魔物の間引きか?」


「ああ。ここなら湿地の魔物を間引いてるだけで、定期収入になると思ってね」


 質問にエドラスは正直に答えた。

 違っていれば訂正してくれると期待したからだ。


「その通りだな。ここの魔物は凶度二十も出るぜって言いたいが、銅色なら何とかなるか」


 笑いながら彼はエドラスを見送る。


(凶度二十もいるのか。いい補強になるな)


 正直、彼が想定している未来だと、凶度十五以下の魔物はほとんど数合わせにしかならないだろう。


 もちろん数は力だ。

 一般人を蹂躙するなら凶度十程度でも充分だと考えられる。

 

 要は優先順位の問題だった。

 エドラスはきょろきょろしながらやがて冒険者ギルドにたどり着く。


 こちらの建物のほうが横の面積も高さもある。

 それだけの金が動いているという証拠のようなものだろう。


(単なる見栄の可能性もないわけじゃないだろうが)


 エドラスの考えだとそれは必要な見栄だ。

 なぜなら全員が相手の力を正しく見抜けるわけじゃないからだ。


 強者は強者だという態度をとったほうがよい場合は少なくない。


 この考えを応用するなら、「金があって強い冒険者を集められるギルドは、そんな外観をしていたほうがいい」となる。


 中に入ると白髪に赤目という変わった見た目のエドラスに視線が集まった。

 

(単に見慣れない顔だからかもしれないが)


 とエドラスは思う。


 人々の視線はまずは彼の顔、そして次に首から下げている銅色のプレートに移る。


「銅色?」


「あんな弱そうなのに?」


「はったりじゃねえの?」


 冒険者たちが漏らす声はいずれも辛らつだった。

 高位プレートを持つ者に対する負の感情が見え隠れしている。


「ウソだと思うなら試してみるがいい。勇気があるならな」


 とエドラスはいきなり彼らを挑発した。


「いい度胸じゃねえか、おら!」


 一人のドワーフがいきり立って立ち上がる。

 胸には赤いプレートが輝いていて、銅色のすぐ下の実力者だと示していた。


「おい、相手は銅色だぞ?」


 仲間らしき若者がたしなめる。


「だから何だ? 俺は赤色だぞ? すぐに銅色になってやらぁ!」


 ドワーフの言葉に仲間は黙った。

 あるいは一理あると思ったのかもしれない。


 ランク差が一つなら挑む資格はあるという空気ができあがる。

 ドワーフはエドラスをにらむように見上げた。

 

 ドワーフの身長はヒトより頭一つ分小さいことが多く、彼も例外じゃない。


「どういう勝負がいい? 弱い者イジメをしたと言われるのは心外だからな。あんたの得意分野で勝負しよう」


 エドラスが挑発的に笑うとドワーフの顔が真っ赤になる。


「上等だ、オラァ! なら腕力勝負しようぜ!」


 彼の提案に周囲はざわめく。

 ドワーフは剛腕で有名で、腕力勝負ならヒトじゃまず相手にならない。


 一方的に有利な勝負を申し込んだように思えたのだ。

 それを感じ取ったドワーフは周囲をにらみつける。


「何だ、オラ? 俺の得意分野でいいって言ったのは、この白髪野郎だぞ?」


「それはそうだが……」


 仲間がそれでもなという顔をするが、エドラスが口を開く。


「俺はかまわないぞ。弱い者イジメにならないか不安だが」


「この野郎!」


 ドワーフの顔の筋肉が怒りで痙攣する。

 エドラスがすっと右手を出すと彼は怒りに任せて握り返す。


 勢いそのままに握り潰してやろうとドワーフはたくらんだ。

 しかし、結果は逆になる。


「がああ!?」


 苦悶の声をあげたのはドワーフのほうだったのだ。


「どうした?」


 エドラスは涼しい顔で問いかけ、彼を挑発する。

 ドワーフの顔から冷や汗が浮かび、仲間があわてて叫ぶ。


「降参だ! 降参する! 許してくれ!」


 エドラスはそこで手を放す。


「仲間想いのいい奴がいるんだな」


「く……く……」


 ドワーフは膝から崩れ落ち、声を発することもままならない。

 

「何なんだ、あんた、いきなりよぉ……」


 誰かがうめくように抗議する。

 もっともな発言だったがエドラスは悪びれず言った。


「前の冒険者ギルドだといきなり絡まれたんでね。今回は自衛を兼ねて先んじておいただけさ」


 彼の返事にギルド内は沈黙に包まれる。


 珍しい見た目のよそ者に絡む輩がいないとは言えないのが冒険者という生き物だった。


「それで俺が銅色だということに疑問は?」


 エドラスの問いにみなが首を横に振る。


「ならよかった」


 銅色冒険者にふさわしいと認められたらトラブルは減るだろう。

 エドラスはそう言ってぽかんとしてる受付嬢に話しかける。


「銅色のグルートだ。依頼を探したいんだが」


「は、はい」


 受付嬢はびくっと震えた。


「グルート? たしか隣町に現れた白髪のすごい男がそんな名前って聞いた気が」


 受付嬢の後ろにいた男性職員がつぶやく。


「たぶん俺だな」


 エドラスが答える。


「言われてみれば、見た目が一致する……」


 ギルド職員たちの間で納得の感情が広がっていく。

 

(冒険者ギルド同士で情報交換しあっているのか?)


 だとしたら手荒な真似をしなくてすんだかと一瞬だけエドラスは後悔する。

 

「こちらに移動なさったのですね。もしかして『ルメイ湿地』目的でしょうか?」


 受付嬢が少し希望を抱いているような顔で聞いてきた。


「ああ。強い魔物を間引いて稼げると思ったので」


「ありがとうございます! 心強いです!」


 受付嬢はなぜか大いにうれしそうに礼を言う。


「……???」


 エドラスは不審そうに眉をひそめる。

 

「心強い?」


 さっき彼が負かしたドワーフは雄力二十くらいはありそうだった。

 そんな冒険者がいるのにもかかわらず言われるとは、きっと何かある。


「ええ。実は昨日、凶度二十五の《ロックリザード》、凶度三十の《ポイズンアリゲーター》が確認されました」


 説明する受付嬢の顔色は悪い。

 

「そう言えばルメイ湿地に出現する魔物の平均凶度っていくらなんだ?」


 エドラスはふと気になって聞いた。

 

「平均は十で、まれに十五から二十が出るくらいです」


「なるほどな」


 返事を聞いてエドラスは納得する。


 いきなり想定の上限よりも十を超える魔物が出たなら、騒ぎになっていてもおかしくはない。


「しかしロアノークなら雄力三十の冒険者はいるんじゃないか?」


 雄力三十の冒険者一人で凶度三十の魔物といい勝負だ。

 仲間たちがいれば充分倒せるだろう。


「そ、それが……《ポイズンアリゲーター》が四頭もいまして」


 受付嬢が泣きそうな顔になった。


「さらに六頭の《ロックリザード》と連携するような動きを見せたので、依頼したパーティーは戦わずに撤退してきたんです」


「それは逃げるだろうな」


 《ロックリザード》と《ポイズンアリゲーター》が併せて十頭。

 雄力五十の英雄が六人くらいいないと安心できない戦力だ。


「現在、銀色や金色パーティーの出動を要請すべく、他のギルドに連絡したところなんですよ」


 他の職員もそう言う。


「なるほど」


 エドラスはうなずいた。


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