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今後の展望

 一度宿屋に戻り、それから林へと移動したエドラスは神の権能を使い、《花無蛇》の死骸を回収する。


「殺した相手の死骸は離れていても呼び寄せられるのか。便利だな」


 さすが神の権能だと思う。

 さらに権能を使って《花無蛇》をアンデッドとして復活させる。


 殺してから時間が経っていないので蘇生させることは可能なのだが、それだと食料が必要だ。


(林を丸裸にされたら堪らないからな)


 林を選んだのは人目から配下を隠すという狙いもあるし、植物型の魔物も多い。

 《花無蛇》を放つとすべてを台無しにされてしまうリスクがある。


「これからの件だが」


 エドラスは独りつぶやく。


 『ヨゼフ盗賊団』の耳には入っただろうし、自分たちの名を騙った存在に激怒するはずだ。


(問題は本人たちまで情報が届くまで何日かかるかだが)


 どこにいるのかわからないのだから、正確な予想なんてできない。

 そのことに思い当たってエドラスは舌打ちする。


 もしかしたらかなり時間がかかるかもしれず、悪手になりそうだった。


(俺は不老になったし、おそらく殺されない限りは死なないからいいんだが)


 待っている間、獣人たちへのひどい仕打ちはなくならないだろう。

 何もせずじっと見ているだけなのは、果たして耐えられるだろうか。


(……無理だろうな)


 その場合自分がどんな行動に出るのか、エドラスはまったく自分を信用できなかった。


 少しでも多くを助けるために行動していると認識できることをやっているほうが、よっぽど安心できる。


 エドラスは迷った末少女たちの面倒を見ているレフのところに行った。

 少女たちは彼を見てホッとする。


 どうやら彼に救われたという認識は持っているようだった。


「レフ、少し聞きたいことがある」


「何でしょう?」


 レフはすぐに彼のそばに寄ってきた。


 <デュラハン>となったことで飛躍的に身体能力は向上し、ほとんど一瞬で移動している。


 少女たちがその速さにぎょっとしたほどだ。


「俺は銅色冒険者になったわけだが、強い魔物を仕入れに行きたい。どこが適当な場所か、知らないか?」


 とエドラスが聞く。

 魔物を仕入れるという意味を理解したレフは、少し考えてから言った。


「ラドフォードかロアノークでしょうか。ラドフォードは大きな都市で高額の依頼が入るそうです。ロアノークは『ルレイ湿地』の魔物を定期的に間引きするための都市だとか」


「『ルレイ湿地』?」


 初めて知った名前をエドラスが聞き返す。

 レフはうなずいて説明する。


「原因は不明ですが『ルレイ湿地』では多くの魔物がわき出るのです。時々凶度三十の魔物が出るという情報もあり、エドラス様の目的に合致しているかと」


「そうなのか。いい情報だ」


 エドラスは彼を褒めた。

 多くの魔物がわき出るなら、すなわち多くの戦力を補強できるということ。


 ついでに原因を突き止めて解決できれば、冒険者グルートとしての名声も得られるだろう。

 

「お役に立てて幸いです」


 レフが一礼すると、獣人の少女たちの一人が声をあげる。


「あのう、私たちはこれから何をすればいいのですか?」


 怯えではないにせよ、エドラスの顔色をうかがっていることはわかった。


「別に何も」


 とエドラスは言う。

 助けたかったから助けただけで、彼は彼女たちに何かを求めるつもりはない。

 

 せいぜい敵対行動をとらないでいてくれたら殺さなくてすむな、程度だ。

 自発的に協力してもらえたらうれしいが、強制する気もない。


 少女たちは困惑している。

 何らかの要求があって当然と思っていたのに、何もされないのだ。


「エドラス様」


 彼女たちの心情を察したレフが主に話しかける。


「差し支えなければ彼女たちに仕事を与えてはいかがでしょう?」


「仕事……何かあるのか?」


 エドラスは具体的な計画は何も考えていなかった。

 彼女たち以外は魔物やアンデッドである。


 彼女たちが何の役に立つのかという意識があった。


「その点について、今後の方向性についてうかがえれば幸いです。配下を増やした後、エドラス様はいかがなさるおつもりでしょう?」


 レフは意を決した顔で直接的に問いかける。

 

「今後の展望か……勢力を拡充して虐げられる者をできるだけ救う。虐げてきた者たちに報いを受けさせる。今はその土台作りだな」


 エドラスはそう説明した。

 国を滅ぼすとは言わない。


 レフにしろアンナにしろ一般の獣人に過ぎない存在に、いきなりスケールが大きな単語をぶつけなくてもいいんじゃないか。


 彼は何となくそう考えたのだ。


「ラームとヤークトがいるのですから、すべての配下を飲み食い不要のアンデッドにするつもりはないのですよね?」


 レフに確認されエドラスはうなずく。


 アンデッドが扱いやすいのは事実だが、彼はまだ生物すべてに絶望しきっているわけじゃない。

 

 勇者だったころの甘さが完全に消えてわけじゃないのだが、本人はまだ自覚していなかった。


「でなると彼女たちには今後、エドラス様の配下となっていく者たちの受け入れを担当していくことになるのではないかと」


「そうだな」


 新しい組織に放り込まれたのに、その組織について教えられる人員が誰もいませんというのは控えめに言ってひどい。


 頭脳労働が苦手なエドラスでもそれくらいは想像ができる。


「俺は組織運営について明るくないんだが、レフは得意なのか?」


 もしそうならとんでもない掘り出し物だと思いながらエドラスは聞いた。


「いえ、残念ながら。今後、組織運営に長けた者の勧誘をご一考いただければ幸いです」


 レフの忠告をもっともだとエドラスは思う。


(単に数を増やしていけばいいってもんじゃないんだな)


 と実感して反省する。

 組織運営について知っている者の加入は、優先順位をあげるべきだろう。


(教育や指導もできる人材ならなおよしか)


 そうなってくると彼が興味を持てなかった奴隷の執事、メイド、冒険者といった面子も利用価値が出てきた。


(執事は主人を補佐して使用人たちを束ね、家全体を管理するのが仕事だと聞いたことがある)


 おそらく王子だったアランからの情報だろうが、有益なのでこの際私怨は抑える。


 要するに執事なら下の者を教え育て、管理する経験があるということだ。

 

「ひとまず三人には人材が補充されるまで、そういう心がまえを持ってもらったり、魔物たちに慣れてもらうことでいいか?」


 エドラスは三人娘の当面の目的について悩む。


「他にできることはないですな」


 レフはそう言って賛成した。


(問題は人材だな……買った後、行方不明になったら不審に思われるしな)


 物資は使った、あるいは壊れたと言えるが生き物はそうもいかないのだ。


 買った奴隷がすぐ行方不明になっていたらどんな噂が流れるのか、わかったものじゃない。


(悪評自体は別にかまわないが、計画に影響が出るのは困るな。……うん?)


 途中まで考えてエドラスはふと思いつく。


「悪評は他の誰かにかぶってもらえばいいか」


 たとえばヨゼフ盗賊団だ。


 少なくとも一度は彼らの名前を騙ったのだから、もう一回やってもかまわないだろう。

 

 証拠さえ残さないように気をつければ試してみる価値はある。


「目的を達成できるし、彼らを挑発できるし、いいアイデアじゃないか」


 エドラスは次の計画を整理した。

 

(ロアノークのルメイ湿地に行って調査し、魔物を配下に増やす。原因を突き止めて名声を得たら奴隷を買う。そしてヨゼフ盗賊団に罪をかぶってもらう)


 その後のことはまた考えればよいと判断する。

 

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