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奴隷商カウフマン商会

「メイドと冒険者の両方ですね?」


 若者に確認されてエドラスはしまったと舌打ちする。

 冒険者は用がある時以外は待機してもらうとして、メイドはそうもいかない。


 身の回りの世話をする以上、彼の秘密を知られることになってしまう。


(気に入ったメイドがいなかったことにすればいいだけだな)


 とエドラスは気を取り直す。


「ではこちらへとどうぞ」


 若者はそう言って彼を二階へと案内した。

 天井まで鉄製の柵がはめ込まれていて、階層そのものが檻となっているようだ。


「まずは冒険用からご覧になりますか?」


「ああ」


 質問にうなずくと若者は言った。


「では手前からご覧ください。ヒト、ドワーフ、テイラーの戦士が揃っております」


 言われるがまま視線を走らせると首輪をつけられた男性たちがじろりとエドラスを見る。


 ヒトとドワーフは清潔で傷が少なく、獣人は傷だらけで不潔な服を着せられていた。


「……扱いが違うようだな」


 エドラスが言うと、若者はうなずく。


「ええ。テイラーは安くないと売れないので。生きてて命令に従うならそれでいいという方向けですな」


 高いと売れないので金をかけるわけにはいかないということか。

 買い手の事情に合わせているだけなら、奴隷商だけを責めるわけにはいかない。


「奥には執事をこなせる男性がおります。女性は三階になりますが、そちらをご覧になりますか?」


 若者に聞かれてエドラスは迷ったものの、結局見ることにした。


(男性を見れば女性の扱いも察しがつくが……)


 若者が当然だという顔をしたので、男性客は女性奴隷を購入するの場合が多いのかと思う。


 ならば一応見ておくのは不審さを減らせるだろう。


(俺はどうやら目立ちまくる冒険者らしいからな。他の冒険者がやらない行動は、自覚できる範囲で減らしたいものだ)


 エドラスにとってこの町の価値は減少したものの、どう思われてもかまわないという領域には到達していない。


 できれば他の町の知り合いによいうわさ話でもしてもらいたいものだ。


 いつか何かに使えたらいいなという漠然とした狙いだが、やらないよりはマシだろう。


 三階にあがると男臭さは消えて花の香りがする。


「おや?」


「お気づきになりましたか」


 若者は愛想よく言った。


「やっぱり女性は見た目もよくないといけないですし、香りに敏感なので」


 二階が不潔だったわけじゃないが、三階は真新しさを維持しているかのように清潔な空間だった。


 奴隷商の気合の入り方の違いをまざまざと感じ取り、エドラスはイラッとする。

 だが、すぐにその感情を消そうとなだめた。


(今すぐここで暴れるメリットなんてない)


 もう少し時間をかける必要がある。

 できれば配下を安心して配置できる拠点が見つかってからが理想だ。


「こちらでも手前が冒険者、奥がメイドという分け方になっております」


「なるほどな」


 エドラスは冒険者たちを見る。

 戦士らしい気の強そうな女性、ドワーフの少女、エルフの弓兵などがいた。


「エルフ?」


 ヒトに捕まえられるような相手じゃない種族がいて思わす凝視する。


「ああ。彼女はギャンブルでふくらんだ借金を返済するために、自分で自分を売ったという変わった経歴がありまして」


 若者が困惑気味に説明した。


「そういうことか」


 傷らしい傷が一つもない理由にエドラスは納得する。


 成人したエルフの雄力は個人差にもよるが二十から四十にもなるはずで、無傷で捕らえるの至難の業だ。


「お気に召しましたか?」


 若者の直接的な問いにエドラスは答えない。

 エルフだけあってずば抜けて美しいし、潜在的魔力は他の冒険者よりも豊富だ。


(推定雄力は三十から三十五ってところか)


 使える魔法次第では《熊喰い花》ですら一対一で倒せるだろう。

 興味がないと言えばウソになるが、はっきり言って彼女は強すぎる。


 今エドラスの支配下に組み込むのはリスクが高い存在だ。


(エルフが暗黒神を信奉しているなんて聞いたことがないからな)


 エルフが信仰するのは緑の神、太陽の神、あるいは大地の神のはずだ。

 暗黒神を信仰すると言えばダークエルフのほうだろう。


「ダークエルフのほうはいないのか?」


 エルフがいるのだから聞いてもよいだろうと思い、エドラスは聞いてみる。


「無理ですよ。ダークエルフを生け捕りだなんて……」

 

 若者は本気で困った顔で答えた。


 戦闘力はエルフと大差ないが、ダークエルフのほうが凶悪でえげつない魔法を使い者が多い。


 生け捕りとなれば雄力四十でも不安が残るだろう。


「そうだな。無茶を言った」


「もしかしたらグルート様ならできるのかもしれませんが」


 若者はそう言って媚びるような視線を向ける。


「俺は買うの専門だな。そもそも誰なら奴隷にしていいのかわからないし」


 エドラスは正直に言った。


 元々隠す気はなかったし、奴隷対象になる存在については誰かから聞いておきたいことでもある。


「おや、グルート様は奴隷制度について詳しくないのですね?」

 

 若者奴隷商は意外そうに目を丸くする。


「ああ。ここに来れば誰かが教えてくれるかという期待もあったんだ」


 エドラスが言うと彼は納得したように何度も首を縦に振った。


「なるほど、そういうことでしたか」


 そう言って表情をキリッと改める。


「ではお教えしましょう。生け捕りにしてそのまま奴隷にして売れるのは犯罪者か、人権のない生物のみです。人権があれば人類、それ以外が生物という分け方になるのです」


 若者の言葉にエドラスは不愉快になりながらもうなずいた。


「人権が認められているのはヒト、ドワーフ、エルフ、妖精。この国では四種類のみです。ダークエルフ、獣人、魚人、竜人、有翼人は認められておりません」


「そうなのか」


 つまり四種類以外は虐げられている可能性が高いということだなとエドラスは思う。


(ダークエルフ、竜人、有翼人は雄力三十に到達する猛者がいるはずなんだが)


 この国や近隣諸国にはいないのだろうか。

 いればうかつには手を出せない存在として見なされるはずだった。


「ですので、所有者が確認できない生物を捕獲して引き渡していただければ、買い取らせていただきます」


「わかった」


 エドラスは答えながら聞いてみる。


「魔物やアンデッドはどういう扱いになるんだ?」


「ご冗談を」


 若者は引きつった顔で答えた。


「アンデッドは再利用不可能なので、買い取れるはずがありません。一部ヴァンパイアでしたら買いたいという好事家がいるようですが……」


 いるのかとエドラスは思う。


(ヴァンパイアなんて最悪凶度五十から六十なんて個体がいてもおかしくないんだが)


 それでも欲しがる金持ちはいると言われると、嫌悪感以外の感情が生まれる。


「魔物については魔物使いとの交渉をお願いしております。魔物使いでないと、魔物を従順になるよう調教して使役することができませんからね」


 こちらの説明についてはエドラスの予想に反しなかった。


「わかったと言いたいが、この町に魔物使いはいるのか?」


 エドラスは意地悪をしたわけじゃない。

 純粋な疑問をぶつけただけだ。


「ラドフォードにはいるのですが、この町には……」


 若者は残念そうに回答する。


「わかった」


 奴隷の種類や質もラドフォードのほうが多いんじゃないか、とエドラスは思った。


(それだけ被害者が多いわけだが)


 次の目標はラドフォードかなと思いつつ、彼は言う。


「わかった。資金が貯まったらまた来るよ」


 今日ここで買うつもりはないと意思表示すると、若者はにこりと笑った。


「またのご来店をお待ちしております」


 エドラスが銅色に昇格した将来有望な冒険者だからだろう。

 少なくとも彼自身はそう思った。

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