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《花無蛇》討伐

 エドラスは独りで《花無蛇》が目撃された場所に到着した。

 

「あれだな」


 体長はおそらく家三軒分くらいある細い緑色のヘビが何か植物を食べている。

 

「雑草を食べてるんだな」


 人間にとって不要な植物だけ食べてくれるなら、益獣ならぬ益魔物として好かれただろうなとエドラスは思う。


 エドラスが接近しても《花無蛇》は特に気にした様子はない。

 基本温厚で自分から他の生物を襲うことはない魔物なのだ。


 それでも食事の邪魔をされるのはいやなのか、間近になると食べるのを止めて頭部をエドラスに向ける。


 次の瞬間、エドラスは《闇の鎌刃》ですっぱりその頭部を切断した。


(できればここでアンデッド化させたいところだが……)


 試験ということは試験官がいるんじゃないかとここで気づく。

 だとすると今すぐアンデッド化させるのはまずい。


(どうする?)


 変に思われないようにするためには何をやればいいのかとっさには思いつかなかった。


(俺としては死骸さえあればいいんだし、土の中に埋めておけばすぐには狙われないか?)


 そう思うがあまりいい考えじゃない気もする。

 魔物の死体は焼却するか、分解して持ち帰るのが一般的だった。


(炎系の魔法は使えないという設定でいくか?)


 別に冒険者としては使えない設定にするのは問題なさそうである。


 特にデメリットがないならいいと判断して、エドラスは《闇の手》という魔法で土を掘り返して《花無蛇》の死骸を埋めた。


 《花無蛇》のように凶度二十を超える魔物の死骸だと盗まれるリスクもある。

 誰もそんなことをしないことを祈るほど、エドラスは他者を信じていなかった。


 周辺に認識阻害の魔法をかけてからギルドに帰還する。

 戻ってくると受付嬢が笑顔で立ち上がった。


「おかえりなさいませ、グルート様! 聞きましたよ。《花無蛇》を一撃で倒したそうじゃないですか!」


 彼女のこの発言でエドラスはやはり見られていたなと思う。


 いちいち確認したりしなかったので魔法で監視されていたのか、尾行されていたのかまではわからないが。


(認識阻害魔法を選んで正解だったな)


 と自賛する。


「《花無蛇》を一撃ってやばすぎるな」


「雄力三十どころじゃないんじゃないか?」


 驚く声が多い。


「そのうち銀色くらいにはあがっちゃいそうだな」


「銀色はこの町じゃ昇格試験できないだろ。もっとデカい町に行かないと」


 そしてエドラスが知らない情報を教えてくれる者もいた。


(まあこの町そこまで広くないしな)


 とエドラスは納得する。


 そもそも町長が殺されて騒ぎになっているので、それどころじゃないという可能性もあった。


 冒険者ギルドはいつも通りだが。

 騒ぎを聞いたのかディルクが奥から姿を見せる。


「よく戻った、グルート殿。おぬしを新たなる銅色冒険者として認定しよう」


 彼はそう言って銅色のプレートを掲げる。


「すげえ! 銅色のプレートだ!」


「初めて見た!」


「私も!」


 興奮した叫び声が建物内のあちらこちらで起こった。


(誰も見たことがなかったのか)


 エドラスは少しだけ呆れる。


「何を隠そう。私も初めて扱ったよ。ギルド長になって十年でようやくか」


 ディルクは笑いながら言った。 

 そのせいで最後の一言のいやみ成分が何割か減じている。


「仕方ねえよ。強い奴はもっと大きくて報酬が高い町に行くんだから」


 一人の男が大きな声で実情を話す。


「そうだよなー」


「ラドフォードとかがおススメだぜ、グルートさん」


「ちょっと、何言ってんのよ?」


 エドラスに街を進めた青年が隣にいた女性に叩かれている。


「グルートさんなら黙ってても情報は集まるだろうし、早いか遅いかの違いにすぎないって」


「それはそうかもしれないけど」


 何やら言い合いがはじまった。


(昔の俺なら止めに入ったんだろうな)


 今のエドラスにしてみれば、自分が原因で目の前で言い争いがあろうとどうでもいい。


「銅色となったことで受けられる依頼って何かありますか?」


 エドラスは場の状況を無視してディルクに問いかける。


「あー、今はないな。申し訳ないが」


 ディルクは心苦しそうに答えた。


「そうですか」


 エドラスは銅色になれるレベルの冒険者がいない理由が、改めて理解できたように思う。


「かわりというわけじゃないが、《花無蛇》討伐報酬ならある。金貨五枚だ」


 金欠のエドラスはありがたく受け取って、


「では今日のところは宿に戻りますね」


 断りを入れてギルドを去る。


(本当は捜査協力したり、人脈を作ったりしたほうがいいんだろうが)


 銅色冒険者がおらず、それ用の依頼もないとなると話は別だ。

 エドラスがほしいのは強い冒険者と、貴族とのツテである。


 何もこの町にこだわる必要はなく、ラドフォードとかいう大きな街に移っても実践できることだ。


「……何というか、一気に価値がなくなった気がするな、この町」


 誰にも聞こえないようにつぶやく。


 正確にはこの町に暮らす普通のヒトたちだ。

 一向に愛着がわいてこず、どうでもいい存在なままである。


「いや、待てよ」


 収入があったということは奴隷を買えるということだ。

 虐げられている奴隷たちを見に行くのはいいかもしれない。


 少なくとも奴隷商の位置やどんな奴隷がいるのか知っておくのは悪いことじゃないはずだ。


 そうと思えばと通りすがった男性に奴隷商の場所を聞き、エドラスはそちらへ向かう。


 教えてもらった『カウフマン商会』は堂々と表通りに看板を出している。

 奴隷売買は後ろ暗いところがない合法商売なのだ。

 

 エドラスが中に入ると若い男性が揉み手をして近づいてくる。


「いらっしゃいませ。おや、話題のグルート様ですね」


「知っているのか?」


 名乗る前に冒険者名を言い当てられたエドラスは眉を動かす。


「ええ。圧倒的な闇魔法を使う期待の新人冒険者で、銅色昇格試験を受けるということは。察するに見事合格して、その帰り道ではありませんか?」


「……まるで見ていたかのようだな」


 ずばり言い当てられてしまったエドラスは驚くよりも感心が上回る。


「商人は情報が武器です。またお客様のほしいものを察する能力も要求されますから」


 若者はぺらぺらと話す。

 

(事実なんだろうが優秀すぎるな)


 エドラスは感心を超えて警戒する気持ちが起こってくる。


 彼が暗黒神だということはバレなくても、何らかの疑惑を抱かれる可能性は低くない。


「おっと、不愉快にさせてしまいましたか?」


 若者は探りを入れているような青い瞳を向けてきた。


「正直困惑している」


 何でもないと言うのは無理があると思い、エドラスはウソじゃないことを告げる。


「失礼しました。信頼を得るためには能力を見せるのが一番と思っているのですが、まだ上手とは言えないようで」


 若者は一応反省しているらしいのでエドラスは本題に入ることにした。


「奴隷を見せてもらいたい。俺がほしい奴隷が何なのか、わかるか?」


 試してみることにする。


「奴隷ですね。エドラス様がお求めの商品は……一緒に冒険する者でしょうか? それとも身の回りの世話をするメイドでしょうか?」


 さすがに読めなかったらしく若者は困り顔で聞いてきた。


(これは本心だな。同時に安心したよ)


 これでエドラスがほしいものを当てたら、もはや特殊能力持ちだと断定できる。

 そうなればこの場で殺すことを検討する必要があった。


「両方だな」


 とエドラスが答えて若者は命拾いしたと、本人にはわからないことだろう。


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