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拠点づくり(仮)

 気絶させた少女たちと奪った金品を抱えてエドラスは一気に林へと戻る。


「おかえりなさいませ」


 レフとアンナがうやうやしく彼を出迎え、彼が持ち帰った者を見て一瞬固まった。


「助けてきた。それと戦利品だ」


 少女たちを見たアンナが急いで大きな布を地面に敷く。


「布は作ったのか?」


「ええ。エドラス様よりいただいた力を使えば大いに時間を短縮できました」


 レフが誇らしげに答える。


(そんな力を与えた覚えはないんだが……)


 エドラスは内心困惑した。


 <デュラハン>は戦闘型のアンデッドとも言うべき種族で、植物の繊維を使って布を作成するような能力はない。


 <レヴェナント>も同様だった。

 考えられるとすれば眠っていた潜在能力が目覚めたくらいだ。


「特殊能力に目覚めたか」


「はい」


 レフはうなずく。

 正解だったことに安心しながらエドラスは言った。


「報告してもらおうか」


「御意」


 レフは特に疑いもせず彼に話す。


「まずアンナの能力は《植物操作》です。植物を成長させたり、操ったり、繊維を抽出して布を作ったりできるようです」


 エドラスは一つうなずいた。


私の能力は『時間加速』です。手に触れた物に流れる時間を増加させられます」


 レフの能力を知ってそうなんだろうなとエドラスは思う。

 植物や繊維にまつわる能力と、時間に関係した能力。


 そうでもないと目の前の現象を起こした理由が説明できない。

 

(後は何でも布に変えられる能力とかだが……)

 

 思いかけてエドラスは中断する。


 レフの説明を聞いただけだとアンナの能力だけでも実現できた可能性は否定できないが、それは後でもよかった。


「この三人に食わせるものはあるか?」


「ええ。水源についても心当たりはございます」


 レフの回答はエドラスにとって心強かった。


「それは助かる。面倒を見てやってくれ」


 獣人同士のほうがありがいだろうと判断して指示を出す。

 エドラスの言葉にレフとアンナはうなずく。


「さて何か俺に報告することはあるか?」


「報告と言うか、許可をいただきたいのですが」


 エドラスの言葉にレフが応える。


「許可? 何のだ?」

 

 エドラスは聞いた。

 

「この娘たちが暮らすための生活空間を作る許可です」


 レフの要求に彼はなるほどとうなずく。


「それはかまわない。水と食料を確保し、当面の拠点を作るのはな」


 いざとなれば神の力で丸ごと引っ越せばよいだけだ。


 移動先で一から用意するよりある程度ここで作っておくのは悪い話じゃない。


「ありがとうございます」


「林についてうかがたいたいことがあります」


 礼を言って引き下がったレフにかわり、アンナが手を挙げる。


「何だ?」


「魔物を何体か配下にするというのはいかがでしょう? すべての魔物を配下にしてしまうと、ヒトどもに違和感を与えてしまう可能性がありますが」


 アンナはじっとエドラスを見た。

 ヒトに気づかれるような変化を出してもよいものか。


(聞いてくれるのは助かるな)


 なかなかいい判断だとエドラスは感心する。


「凶度二十を超えてそうな魔物は配下に入れよう。移動はさせないが」


 戦力を増やすという意味で魔物を傘下に入れるのは彼もやりたいことだ。

 ナワバリから移動はさせなければヒトはおそらく気づかない。

 

「ありがとうございます」


 アンナは尻尾をうれしそうに揺らしながら礼を言う。


「他には何かないか?」


「特には……一度にできることには限界がありますので」


 エドラスの問いにレフが遠慮がちに答える。


「たしかにそうだな」


 ヤークトとラームは戦力としてはともかく「組織作りに必要な作業」をこなす能力は持ってない。


 つまりエドラス自身を入れてもわずか三名しかいないのだ。

 獣人少女たちを仲間に引き入れて六名にしたいところだった。


「彼女たちの説得はレフとアンナに任せようか」


「私たちがですか?」


 エドラスの提案にレフが驚く。


「俺がやるよりはいいだろう。同族同士で、テイラーとさげすまれていた者同士だからな」


「そういうことでしたか」

 

 レフはそっと目を伏せ、アンナは唇を噛んでうつむいた。

 二人にとって虐げられていた時の記憶はまだ新しい。


 少女たちの境遇に対しても思いやれるだろう。


「俺は魔物たちを支配して来よう。ここは任せた」


 とエドラスは言った。

 何かあっても林の中にいるならすぐにでも駆けつけることができる。


 お互い心配はいらないだろう。

 


 エドラスが林に戻って動きはじめていた頃、町長の屋敷で惨殺された遺体が発見されていた。


 第一発見者は町長夫人つきのメイドで、彼女の半狂乱の叫びを聞いた夫人が執事を走らせたというのが正しい。


 通報を受けてやってきた治安維持を担う警備隊の隊長カールは困惑する。

 彼にしていれば唯一自分の上に立つ町長が死んでしまったのだ。


 これから誰の判断をあおぐべきなのかわからない。


「それにしても『ヨゼフ盗賊団』とは……」


「聞いたことがある盗賊団ですね」


 大量に来ていた部下たちの一人がつぶやく。


「知っているのか、グリース?」


「ええ。金貨二十枚の賞金首ですよ。冒険者ギルドに行けばもっと情報が集まるでしょう」


 グリースと呼ばれた若者が答える。


「金貨二十枚……家を買える額じゃないか」

 

 カールは顔をしかめた。

 大金貨を懸けられる賞金首というのは強くて凶悪な賊ばかりだ。


「一応冒険者ギルドと連携をとったほうがいいんだろうな。上役が死んでしまったので、連携できるかわからんが」


 冒険者ギルドは上に都市長や国家権力しか認めていない、独立心が強い組織である。


 町の警備隊に非協力的な支部はいくらでもあるし、この町の冒険者ギルド支部も例外じゃなかった。


 町長が健在だった頃は彼の要請に従う形で一応協力してきたのだが、それができる人物が殺害されたのだ。


「ヨゼフ盗賊団め、それが狙いなのか? だとしたらまだまだこの町で何かを企んでいるということになりかねないが」


 とカールは独りごとをぶつぶつ言う。


 指揮系統のトップを最初に片づけて、混乱しているところに二撃めというのは戦術の常識だ。


 今回の犯人がそれを狙っているのか彼にはわからないが。


「隊長! 冒険者ギルドからヒトが来ました!」


 部下の報告に視線を入り口に向けると、いかめしい顔だちをした初老の男性が若い女性を連れていた。


 冒険者ギルドのトップだとカールは知っている。

 あいさつをそこそこにさっそく情報を共有した。


「おそらく犯人はヨゼフ盗賊団だと思うんですが」


「それはどうかな?」


 冒険者ギルドのトップはいきなり否定する。


「町長と息子が惨殺され、金品を奪われ、若いテイ……女性獣人がさらわれているのですよ?」


 カールが指摘すると、


「伝え聞く奴らの手口とは違う。それに奴らのしわざなら夫人や令嬢、若いメイドたちが無事なのはおかしい」


 冒険者ギルドのトップは冷静に切り返す。


「そうなるとどうなりますか?」

 

 カールはムッとして問いかけた。


「難しいところだな……」


「怪しいと言えば最近この町で冒険者になったグルートという男も怪しいですよ?」


 と言ったのはグリースだった。


「闇の魔法の使い手ということなので、屋敷に侵入する闇魔法を使えたでしょう。夫人や若いメイドが無事だったのは、ヨゼフ盗賊団に罪を着せたかったからだというのはどうです?」


「それもおかしな話だ。理由は説明しよう」


 冒険者ギルドのトップはゆっくり口を開き、グリースとカールを納得させた。



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