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かりそめの仲間2

「僕たちが受けたい依頼はこれだよ、《噛み砕き岩》の討伐」


 ライルが受付嬢に手渡された依頼書をエドラスに見せる。


「《噛み砕き岩》か。知ってる魔物だな」


 凶度は十から十二程度の低級な魔物だ。

 名前の通り岩のような硬度のボディを持っているので物理攻撃を通しにくい。


 もっとも雄力二十を超えれば通せるようになるので脅威とは言えないが。


「この面子なら安全に勝てそうだろう?」


 ライルの自信ありそうな態度をエドラスは黙って肯定しておく。

 

(一人一人の雄力は十前後だろうから、まともに戦えば《噛み砕き岩》はつらそうだがな)


 わざわざ言わなくてもよいことだ。


 エドラスとしては気持ちよい態度でいてもらい、どんどん話してもらいたいのだから。


「だといいな。俺が足を引っ張らなかったら」


 エドラスは謙遜して答える。


「大丈夫、俺たちならきっとできるさ」


 ライルは胸を叩いて白い歯を見せてきた。

 昔のエドラスだったら好感を持っただろう。


 共感を覚えて親友になれたかもしれない。

 だが、今のエドラスには「根拠もなく大言壮語を」と冷笑したくなる相手だ。


「《噛み砕き岩》のいるところまで案内してもらっていいか?」


「もちろんだよ」


 エドラスのお願いをライルが快く引き受ける。


「グルートはこっちに来てまだ日は経ってないんだよね?」


 ライルの問いにうなずいた。


「そっか。何でも相談してくれよ。僕たちはもう仲間なんだから」


 まぶしい笑顔にエドラスはイラつく。

 これについてライルに責任はないだろう。


 エドラスを裏切ったアランが似た気質だった。

 だからつい彼を連想してしまうのだ。


 ただ、それでも態度には出さない。

 アランのことはライルたちには関係ないのだから八つ当たりするつもりはなかった。


 《噛み砕き岩》が確認されたのは町の北東の街道だという。

 それまで世間話をしながら歩いていく。


(めぼしい情報はないな。当然か)


 知り合って間もない相手にいきなり重要な情報を話したりはしない。

 その程度の警戒心はライルたちだって持っているのだろう。


(どうせすぐに復讐は実行できないんだ。落ち着け)


 はやる心を抑えようとする。


(あまり時間をかけていられないのは事実だが)


 同時に忠告も別なる自分が放つ。

 アランたちはヒトであり、いずれ老いて死ぬ。


 今は絶頂期かもしれないが、いつまでも絶頂期でいられるとは限らない。


(……そうだな。できればやつらが絶頂期の時にどん底に落としてやりたいものだ)


 それでこそエドラスが味わった苦しみの報いというもの。

 落ちぶれた時に復讐したって彼の心は晴れない。


「あっ、いた。《噛み砕き岩》だ」


 ライルが叫ぶ。

 エドラスが視線を向けると、そこには白くて大きな岩が二つある。

 

 手入れがされた街道に岩が二つだけぽつんとあるのは、明らかに不自然だ。


「これなら発見が早かったのも当然だね」


 ライルの仲間の戦士が言う。


「周囲に人通りがなかった。早く解決しよう」


 ライルが腕まくりをしながら言うと、


「《闇の鎌刃》」


 エドラスが闇の魔法を発動させて《噛み砕き岩》二体を葬り去る。


「……えっ?」


「……はい?」


「すご」


 ライルたちは驚きそして圧倒された。

 

「な、何ですか、今の!?」


「すごすぎじゃないですか!?」


「見たか、《噛み砕き岩》たちがあんなあっさりバラバラに!」


 我に返ったライルたちは興奮で頬を紅潮させ、早口にまくしたてる。


(……闇の魔法に対する忌避はないようだな)


 もしも強い嫌悪でも示されたら口封じを考えるところだった。


「グルートさん、すごく強いですね!」


「雄力三十から四十くらいはあるんじゃないですか!?」


 ライルたちは言う。

 なぜか敬語になっていた。


(……見る目は案外悪くなさそうだな)


 彼らに対して期待せず評価もしていなかったエドラスだが、若干認識を改める。

 たしかに先ほどの魔法はその程度の威力に調整して放ったのだ。


 魔法は消費する魔力で威力を調節できる便利な代物なのだ。

 

「あんまり計測したことがないもので」


 エドラスはとりあえずとぼける。


「こんな強いならあれだな、ザックを撃退した時も強化魔法を使っていたのかもな」


 弓兵が小声で言う。

 彼の推測は常識的だった。


 強い魔法使いが素の身体能力で筋肉隆々の戦士を圧倒したなど、普通は誰も考えないどころか思いつかない。


「しかしまずくないか、ライル?」


「そうだね。僕らの雄力はせいぜい十くらいだろうし、圧倒的な差がある」


 仲間に言われたライルは思案顔になっている。

 少しだけエドラスにとって予想外の流れだった。


「俺としては気にしないが。その分知っていることを教えてもらえるなら」


 と彼は言う。


「それでもなぁ……」


 ライルはこれ幸いと受け入れたりはしなかった。


(彼らが本当に善良な無辜の民になら、殺す理由はなくなるが)


 憐憫の情がほぼなくなったエドラスだったが、さすがに何一つ落ち度がない善良な市民を殺す気にはなれない。


 かつて勇者だった時の残滓はまだ消えていなかった。

 さてどうするかと思っていると、


「話は後にして、まずはギルドに報告しようよ」


 弓兵がそう言った。


「だな」


 依頼の達成の報告が優先されることにエドラスも異論はない。

 彼らの後をついて歩き出すと、戦士がエドラスに話しかける。


「そう言えばレグたちのことを知ってる?」


「誰だ、それ?」


 エドラスは知らないと声で伝えた。


「グルートに名前を言ってもわからないだろ」

 

 ライルが仲間をたしなめて、それから彼に話しかける。


「犯罪者まがいの素行の悪い男がいたんですけど、誰も見てないなって話題になったんですよ」


「……そんな有名な男なんですか? 何日も行方不明に?」


 何でこのような話になったのか、エドラスにはさっぱり理解できない。

 姿が見えないくらいで話題になるなら有名な男なのだろう。


 そして長いこと姿を見ていないのだろう。


(次は行方不明者を探す依頼でも受けたいってことなのか?)


 金になって知名度が上がるなら別にいいかとエドラスは思った。


「いや、昨日野良テイラーを狩ったって自慢してたんですよ。そしたらいつも姿を見せる時間、見せる場所に来ないんで、野良テイラーに逆襲されたのかなって」


 弓兵はそう説明する。


「君の説明、相変わらず下手だね。意図も全然わからない」


 ライルは仲間同士の気安さからか酷評した。


「へえ、そんな男がいたんですね」


 エドラスは態度こそ変えないが、内心で弓兵の殺意が急上昇する。

 

「テイラーいじめて逆襲されたとして、それ単なる自爆じゃないか」


 戦士が笑う。


「しっかしレグたちを倒せるテイラーなんて野良にいるのかな? みんな飼われてて反抗できないんじゃない?」


 ライルが首をひねる。

 彼だけは獣人の反撃だけじゃなさそうだと感づいているらしい。


「そもそも昨日の今日だと、本当に行方不明かどうかもわからないのでは?」


 エドラスは念のため指摘しておいた。


「それはその通りだね。ゼム、先走りすぎ」


 ライルは彼の言葉に同意し、仲間の弓兵を笑う。


「そうだよな。あいつらのことだから単に酒を飲みすぎて寝過ごしただけなんじゃないの?」


 戦士がそう言った。


「そう言われるとそんな気もしてきたな」


 ゼムは頭をかく。

 表面上は平和に彼らは町に戻ってきた。

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