第十三話 ドラゴン・スレイヤーズ
「・・・う」
銀龍は目を覚ました。
起き上がり、何故自分がここに倒れていたのかを考えてみる。
「我は・・・そうだ・・・ニンゲンと戦っていた・・・」
それを思い出して首を振る。
未だ呆けている頭だが、それでも銀龍は気分が良かった。
まるで頭の奥に溜まっていた何かが流れ出たように明瞭である。
そう思っていると近くには人の集団が居て、彼らは銀龍が意識を取り戻したのに気付く。
「あら、ようやく目覚めたようね。気分はどうかしら?」
「白仮面の女・・・ハルか」
自分を昏倒させた人間の名前を思い出す銀龍スターシュート。
だが、そこに大きな恨みや憎しみは無い。
どうして、あんなに怒っていたのかも解らない。
そして、そのハルの周りを見渡してみると、彼女達は火を焚き、そこで肉を焼き、食事を摂っている最中であった。
これは実に呑気な光景であり、先程まで死闘を繰り返していた現場とは思えない雰囲気である。
どうしてかと、しばらく考える銀龍であったが、自分が『時を進める咆哮』を使った事を思い出す。
そのため、彼らは飢餓による栄養不足となり、動けなくなってしまったのだろうと推測した。
エルフや人間にとって水や食料の摂取は必要な事。
何よりもそれを優先して、ここで食物を摂取しているのだと理解した。
そして、彼らの様子を再び見る。
そこには、片腕を失ったスレイプにローラが食事を食べさせる光景と、ソロがアクトと何かを話している最中であったが、銀龍が目覚めると各々は行動を中断していて、銀龍に着目している。
そして、その脇にちょこんと座る女性。
アクトから上着を貰い、裸一枚にそれを羽織り、文字どおり小さく反省している女性がサハラである。
彼女の姿は龍人のままだったが、それでも銀龍による心の支配からは脱しており、自分がスレイプとローラの子である事を思い出している。
そして、親であるスレイプを傷つけてしまった事を深く反省している様子であった。
「ほら、サハラも食べなさい」
スレイプは健在な左腕で肉と野菜の混ざったスープをサハラに差し出す。
しかし、当のサハラは中々これを食べない。
「駄目・・・だって、私、お父さんの腕を・・・」
「それはもういい。あの時は仕方なかった。サハラがサハラじゃない時に起こした事だ。お前のせいではない」
そう赦すスレイプであったが、後悔の気持ちを脱せないサハラ。
そんなサハラに声を掛けるのはローラ。
「サハラ。もう、スレイプが良いって言っているのだから食べなさい。私達は生物よ。食べなければ死んでしまうわ。反省するならばその後にすればいいの」
「だって、お母さん・・・」
涙目のサハラ。
姿形は成人の女性になってしまったが、それでも心は五歳児のまま。
そんなやりとりを目にした銀龍は成程と思う。
自分に生じた『ニンゲンを憎む』心。
サハラを龍人に変えた時、それを彼女の心にも強く植付けようとした。
銀龍スターシュートを自分の親と思い込ませて、絶対服従としたのだ。
支配は容易だったが、その結果、家族関係――特にサハラ――にしこりを残す結果となってしまった。
実の親であるスレイプの腕を落としたのもサハラの意思。
しかし、それは現在のスターシュートにとって不本意な結果。
彼が本来持つ誇り高き心からして、今回の顛末は受け入れ難い屈辱でもある。
「これは・・・すまない事をしたな」
いつも不遜な態度を取る事の多い銀龍スターシュートにしては珍しく反省の言葉を口にすね。
そして、彼は魔法を行使した。
その魔法は優しい風を運び、サハラへ注がれた。
そうするとどうだろう。
サハラの身長は縮み、身体も五歳児のエルフへ戻る。
「わ、わわわっ!」
突然の変化に驚くサハラであったが、これで元どおり・・・では無かった。
「目が銀色なのは赦せ。それ以外は元に戻したから」
銀龍のそんな言葉に首を横に振るサハラ。
「銀龍様・・・私こそ謝らないと。最後までお守りすることができませんでした」
「・・・まだそんな事を。アレは不本意ながら私が其方を支配して植付けた偽りの心だ。気にする事はない。それよりも・・・ハル・・・お前達が私を助けくれたのだろう?」
そんな言葉を聞き、ハルは銀龍が本当の心を取り戻せたのだと確信する。
「その様子ならば、もう正気に戻ったようね。これは私達で廃棄したから」
彼女が指差す先には一本の折れた銛が壁に立て掛けられていた。
その銛を目にした銀龍は一瞬だけ怒気を高める。
自分を不当に支配していた魔道具に対する怒りだ。
しかし、それも一瞬のこと。
怒りが周囲に発散する前に鎮めたのはこの銀龍が悠久の時を生きて得た経験によるものなのだろう。
少なくともハルはそう評価して、この銀龍を人格者として扱う事にした。
「忌々しい銛め・・・よもや、この私が支配されようとはな」
「そうみたいね。この銛にはいろいろと仕掛けがあって・・・と、今はもうアクトが魔力を飛ばしちゃったから無害なんだけどね」
ハルはそう言い、立て掛けられた銛をツンツンとする。
今は人が触っても反応しないこの銛だが、銀龍に刺さっていた時は人を呪い殺してしまいそうな怒りの魔力に溢れていた。
ハルは解析も程々に早速この魔道具を廃棄する事を決め、アクトの魔力抵抗体質の力を全開にして魔力を飛ばして、呪われた銛を無害化したのである。
「なるほど、無害か・・・ならば恐れる事もあるまい。そして、我の姿もこのままではお前達とも話し難かろう」
銀龍はそう言うと魔法を行使する。
そうするとその姿が光に包まれて縮み、そして、その光の中から人の姿が現れた。
人間化の魔法である。
人間化した銀龍の姿は銀色の長髪に銀色の瞳を持つ男。
黒いマントのような衣服を纏い、美形で長身な男性。
その姿に畏怖と羨望を感じているのはエルフ達。
エルフの伝承でも銀龍が人間化することは知られているが、その姿を見た者はエルフ史上で数名しか居ないらしい。
龍が人となった姿を見る事は大変名誉な事と思っている。
そんな背景もあり平伏してしまうエルフ達。
先程まで娘を取り返すために対決していた姿からは想像できないが、それがエルフの文化であるため、アクトとハルは特に口を出さない。
そんな人間化したスターシュートはスレイプに近付き、魔法をひとつ発動させた。
サハラの時と同じ優しい風の魔法。
そうすると、斬られたスレイプの腕部分に光が集まり、そして、その光の中から健全な腕が現れた。
「おおすごい!! 腕が元どおりだ」
驚いたスレイプは元どおりになった自分の腕を目にして、掌を開いたり閉じたりしている。
「迷惑をかけた償いだ。腕は元に戻してやった」
「銀龍様。ありがとうございます!」
スレイプは大げさに平伏するが、銀龍は「気にするな」と短く返すだけである。
銀龍スターシュートにとって人間の腕を再生するなど然したる苦労では無い。
そして、彼の興味は別のところにあった。
「そんなことよりも、この銛の事だが・・・」
「ええ、これは人間によって作られた支配の魔道具よ。思い当たる節があるんじゃない?」
「ある! あの者達め!」
ここで銀龍は怒りを示し、口から犬歯が覗く。
これは魔法が作用して怒りを表現しているのだとハルは思うことにする。
「その人間とは、もしかしなくても、あそこで亡骸になっている連中よね?」
ハルの中ではこの犯人がほぼ確定していたが、敢えてここで銀龍に聞いてみる。
「お前の予想どおりだ。彼らは『ボルトロール王国の親善大使』と名乗っていたが・・・」
「それは半分正解で半分嘘よ。少なくとも彼らがアナタと会った目的は友好じゃないと思うわ」
「・・・そのようだ」
銀龍が怒りと共に視線を移した先には部屋の片隅に残る亡骸。
シャムザとは別の死骸である。
その死骸は風化が進んでいたが、それでも衣服や持ち物が整然と並べられている。
銀龍が気絶している間、ハルとアクトが彼ら事を調査していたからだ。
そして、銀龍はこの人間達の事を話し始める。
「近年、私は外の世界に住む人間と『閉じられた土地』の亜人達が交流を持つべきなのかと悩んでいた。それは・・・」
ここで銀龍スターシュートの話は彼の悩みから始まる。
その悩みとは、ここに住む亜人達の将来性についてであった。
銀龍はゴルト大陸に住む種族の繁栄や衰退に深く関わる事を偉大なる方より禁じられていると言った。
そして同時に、その偉大なる方からは種族を滅亡させる事も禁じられていると言う。
この両者の相反する要求に銀龍はジレンマを感じつつも、銀龍はゴルト大陸の管理者を自負しており、『閉じられた土地』に住む亜人達が年々緩やかな人口減少傾向にある事実を見抜いていた。
これは銀龍が永き時間を生き、状況を観察している事で気付けた事実である。
この事実に関して、当の亜人達の中で気付く者は少ない。
一部はその事実に辿り着いた者も居たが、その声は族長に届いていないようであった。
それはこの『閉じられた土地』に住む亜人達が、内向き思考である事に関係している。
保守的で現状維持を最良とする思考が、種族全体を緩やかな滅亡へと導いているのだと銀龍は考える。
このままでは絶滅してしまう・・・
そんな結論に至った銀龍は対策について考察してみる。
過去に外の世界に住む人間との隔離を決断した銀龍ではあるが、その方法が本当に良かったのだろうか・・・
もっと良い方法はないのか・・・
三百年前にもエストリア帝国の開拓団が現れたが、その時は人間の欲深さを看破して、追い返す行動をした。
あの時は恐怖と言う名の制裁を与えてやったつもりの銀龍であったが、人間とは『よく忘れる種族』である。
人間がこの『閉じられた土地』に再び興味を示す事は長い歴史でまた起こると思う。
そもそも、そんな貪欲な開拓心があるからこそ、人間は種族として繁栄しているのだろう。
ならば、亜人達も人間達と積極的に交流させるか・・・そんな方針転換を考えていた。
その一環として、魅惑の華『シロルカ』の防壁を部分的に解放してみるかと思っていたところに、自分を訪ねてきた人間の一団と出会う事になる。
この人間一団についてハルは思い当たる節があった。
「それは、きっとボルトロール王国の特殊部隊『イドアルカ』の構成員ね。並みの親善大使がシロルカの花畑を超えてこの『閉じられた土地』に入れる事なんてできないと思うわ」
「ハルの言うとおりだろう。私は油断していた。人間が我を意のままに操る魔道具を持つなど、その時は考えもしなかったからな」
銀龍スターシュートが言うとおり、使節団は銀龍を油断させて接触を謀ったボルトロール王国の間者であった。
辺境の土地に侵入した彼らを察知した銀龍。
早速、様子を見に行った銀龍であったが、ここでの相手はとても友好的に接してきたと言う。
彼らから献上された旨い酒を銀龍が気に入ったのも理由のひとつらしい。
心を観る魔法を用いても、彼らが悪い事を考えているとは思わなかった。
実は、ここで相手は心を偽る魔道具を使っていたのだが、それを見抜けなかったのは銀龍の落ち度である。
こうして、銀龍は彼らを本当にボルトロール王国の親善大使だと信じてしまう。
荒野エリアで彼らを拾った銀龍は、このトゥエル山の塒に招き入れる。
そして、ここで本格的な開国の交渉を進める中・・・あの犯行が行われた。
隙をつき、首の延髄に呪われた銛を刺されてしまう。
こうして、その後の銀龍の意識は曖昧になり、人間に対する怒りの感情が広まった。
「・・・私は人間、いや、生物の心を読む事ができる。よもや、あ奴らが私に危害を加えようと思っているなど、探る事はできなかった」
「そうね。しかし、私でも銀龍の心読みを封じる事はできるのよ。他の誰かができても不思議ではないわ」
そんなことを淡々と述べるハルであったが、ここで「それは滅多な事ではできない」と他のエルフ達が思っていたのは蛇足である。
「だから、それを利用して、彼らは表面上で友好的な態度を見せていたのね」
「ふむ・・・残念だがそれが正解であろうな。そして、ハルは突き止めているのだろう? 私にこのような恥をかかせた愚か者の正体を・・・」
「ええいいわ。私の心を観て」
ハルはそう言って自分の心を守る魔法を無効にした。
そこに、遠慮なく銀龍スターシュートの魔法が入り、ハルの心の中を観る。
「・・・・・なるほど。イドアルカ・・・研究所・・・ボルトロール王国の野望か・・・彼の国の運命は決まったな」
そう言い今すぐここから飛び立とうとする銀龍スターシュート。
しかし、それをハルは止めた。
「待って。今は行くべきではないわ」
「何故、止める? お前は奴らの肩を持つのか!?」
銀龍の目がギラリと光る。
自分に屈辱を与えた人間や国家に制裁を与える気満々の彼ではあるが、それを止めるならば赦さないと言う意味である。
「そんなつもりは無いけど。今はやめて。アナタならばその王国ごと滅亡させるのでしょう?」
「そのつもりだ。過去、我に無礼を働いた国を滅ぼした事もある。アマダール、ギラニア、パランドゥールなどだ・・・今回もそれと同じ事をするまで」
「そんな国の知らないわよ。私達、産まれてないもの」
「だから、人間は罪深い存在なのだ。制裁を与えてもすぐに忘れてしまう。私の鉄槌など利いて百年ほどだ。人間は代替わりが早い。時間が経つと共に恐怖は忘れられ、新たな野望を持つ者が現れる。その度、私が出張ってと・・・」
「いや、私が言いたいのはそういう事では無くて、罪の無い人を巻き添えにしないでと言う意味よ。今、アナタが腹いせにボルトロール王国に入って、白い咆哮をブンブンと吐けば多くの人が死ぬわ。でも、それって本当に悪い人を殺しきれるかしら?」
「・・・」
「悪い人達は、きっと生き残る。アナタの住むこの辺境の内側まで来る事のできる人達よ。きっと銀龍に対する防衛手段も準備していると思う。そうすれば、アナタのする事は単なる無駄撃ち。本当の復讐にはならないの」
「・・・それは上手い事を言って、私の怒りを逸らそうとしているのか?」
「否定はしないわ・・・でも私の言う意味も理解できるでしょう?」
「・・・」
銀龍はしばらく考えて、そして、少し息を吐く。
「・・・解った。ここはハルの論理的な思考を尊重する事にしよう」
ここで銀龍が素直に納得した事に、もう少しごねるだろうと思っていたハルは少しだけ意外に思う。
「解ってくれて嬉しいけど・・・」
「我がハルの言葉を聞いて、素直に従ったのが意外だったかな?」
「ちょっとだけね」
「フフフ。それは、今のハルの言葉に重みがあるからだ」
「私の言葉に?」
どうしてそんな事を言うのか理解が及ばないハル。
そうすると、銀龍は次のように答えた。
「何故ならば・・・其方達は『龍』と言う最強の存在を倒した証がある。龍殺しの称号を得たからだ」
「ええ?? 私達って、アナタを殺してなんかいないわよ」
「そ、そうです。ハルさんとアクトさんは確かに強かったですが、銀龍様も負けていませんでした!」
ここで言葉を挟むのは銀龍の使徒であったサハラ。
そんなサハラに、ヨイヨイと言うのは銀龍。
「サハラよ、それは違う・・・私は先程ハルの心の中を観た。私が気絶していた時に、もし、ハル達が私を本気で滅せようと思えば、それはできた話である」
その指摘にハルとアクトは否定する。
「そんな事はしないわよ」
「そうだ。銀龍は呪いの銛で支配されていたのだろう。そして、銀龍の支配を目論んだ奴らも既に死亡している・・・おそらく彼らは呪いの銛で銀龍を支配してやろうと思っていたようだが、百パーセント支配できずに暴走状態へ陥ってしまった。その時、暴れた銀龍によって彼らは殺されてしまった。そして、その呪いの銛が抜けた今、人間への憎しみはもう無い筈・・・そうならば、銀龍は俺達の敵では無くなった」
アクトがこれほど自信を持ち、『敵ではない』と結論を述べたのは、この塒に残った死骸を調査して得た結果である。
殺されてからそれなりの時間が経過していた死骸。
その死骸を調べてみると、彼らがボルトロール王国の人間である事が解り、所持品からは彼らがイドアルカ機関に所属している可能性が非常に高い事も解っていた。
だから、彼らが自国の為に銀龍スターシュートを陥れ、意のままに操ろうとした事が容易に想像できたのだ。
しかし、最後の最後で支配に失敗し、暴走した銀龍に殺されてしまった。
ハルとアクトはそう結論付ける。
そんな失態を受けた銀龍から、今回のように屈辱の言葉が出るのも当然だと思った。
「アクトも優しい男だ・・・確かにそのとおり。もう人間を滅亡させようとは思わない。寧ろ、人間はしばらく優遇してやろうとも思う」
「優遇?」
「うむ。我の命を助け、不当な支配から救ってくれた礼もある。ハルとアクトに仕えてやろうじゃないか?」
「ええ? 私達に!?」
「そうだ。我は決めていた。我を破るほどの存在に出会えば、生涯に於いて仕えてやろうとな」
「生涯って!?」
「人間の生涯など長くても百年弱の短い時間。それぐらいの時の流れは、私にとって遊戯のようなもの。さあ、これから世話になるぞ」
そう言った銀龍は焚火の輪の中へと入り、旨そうに焼けた肉をひとつ取る。
「人の姿になると腹が減るのでな。この肉は旨そうだ・・・うん、やはり旨い!」
舌鼓を打つ銀龍。
大胆、かつ、自由に行動するこの人の姿の銀龍。
多少に愛想を尽かすハルであったが、エルフ達は一気に距離が近付く銀龍に興奮気味である。
特にソロからはこんな嬉しい言葉が出た。
「今回、俺は銀龍様に感謝しなくてはならない」
「ん、どうしたのだ。ソロよ」
何らかの嬉しさを噛みしめたソロに、どうしたのだと銀龍は聞く。
別にソロの心の中を観れば解る事ではあるのだが、どうでも良い事については聞く方が早い。
「それは・・・孫のサハラちゃんの成長した姿を見ることができた事です! あんな美人に成長するのを見られただけで親冥利に尽きます。果たして、あの裸は誰に抱かれるのだろうか? それを考えただけで、あーーっ、腹立ってきた。俺がもう七十年若ければっ!」
その言葉に顔が真っ赤になるサハラ。
サハラは龍人だった時、惜しげもなく全裸を晒してしまったのだ。
あの時は気にしなかったが、今は恥ずかしさ一杯である。
そんな全裸姿のサハラを思い出して、嬉し涙を流して絶賛を続けるソロ。
「あーー、サハラちゃん。おじちゃんがキスしてあげよう・・・うがーーーっ!」
ここでソロを思いっきり殴ったのはローラである。
スレイプよりも早く手が出てしまった。
ソロを女の敵として認定したのだろうか。
勿論、ソロとしてもこれは冗談のつもりである。
ソロに折檻を与えるローラも、彼女が『森の巫女』の立場であった時からは決して他人には見せない砕けた姿であった。
そんなやりとりを喜劇としてニコニコと笑うアクトであったが、横のハルから抓られた。
「イテテテ」
「ア・ナ・タ・は・女・の・子・の・裸・を・見・ら・れ・て・・・本当に良かったわよね~」
ニコニコしているが、ハルの目の奥が座っている。
男の直感でこれはヤ・バ・イと思うアクト。
「い、いや・・・全然・・・見てないから」
アクトはそう全否定してみたが、視線を微妙に逸らす。
ハルの迫力には勝てない。
確かにアクトが役得だったと思う事もゼロではない・・・偶にそれぐらいは良いじゃないか・・・と、心の中でそんな言い訳してみた。
その後、ハルから二、三の追及はあったが、それを何とかやり過ごそうとするアクト。
その表面上、彼は冷静を保っている。
しかし、その心内は・・・
龍より怖い存在が隣に居る事をマジマジと感じてしまうアクトであった。