第三話 荒野と煉獄
銀龍によって破壊されたシロルカの花畑の対岸。
辺境内部の入口のそこはクレーターがひとつできていた。
銀龍による白銀の吐息一発は圧倒的な暴力。
そのような激しい攻撃が落ちたのは昼間の一瞬であったが、それでも今回のように大きな地形変化が残るような被害が辺境の地で起きたのは滅多にない。
元々、シロルカの花畑の周囲に魔物は生息しないが、遠くからこの破壊を目にした魔物は尚更ここへ寄り付かないようになる。
銀龍よる恐ろしい攻撃の痕跡が残っている場所には本能的に近付かないのだ。
そんな静かな破壊現場であったが、時が進み、日の暮れた夜となった今、変化が起きた。
このクレーターの中心部の土が静かに盛り上がる。
ドサッ
土の崩れる鈍い音がして、上部の岩石を飛ばすと、その下から一組の男女が姿を現した。
「・・・もういないよな? あの圧倒的な魔力と気配は感じられない」
「そうね・・・私も銀龍の力を見誤っていたわ。あんな吐息を放つなんて」
反省の言葉を述べる白魔女ハルと、姿が見えなくなったものの銀龍をまだ警戒している漆黒の騎士アクト。
「龍こそが最強の生物だとは誰かが言っていたけど。それは間違いないと思うね」
「感心しないでよ。本当に死にかけたんだから。あの時、アクトが覆い被さって地中へ逃げなかったら、本当に危なかったわ」
「ああ、そうだ。俺は魔力抵抗体質の力を最大限に駆使して魔力の気配を絶った。あの時は銀龍からの視線をいっぱい感じたから咄嗟にやった事だけど、ハルもその時にシロルカへ掛けていた魔法を解除してくれたから。銀龍は俺達が死んだと思ったんだろうね」
「偶然よ。本当に咄嗟の事だったんだから」
そう言うハルは土で汚れた白ローブをパンパンと払う。
自らを死んだように見せかけて、何とか龍の追撃を躱す事に成功したハル達である。
地中へ潜り、アクトが持つ魔力抵抗体質の力を最大限に発揮して魔力防御に徹した彼らであったから、何とか無傷に助かったのだ。
ちなみに、ハルが魔法を解除した理由の半分はアクトが発動させた最大級の魔法抵抗力。
そして、もう半分はアクトから強く抱き着かれた事で集中力が乱されてしまった。
後者の方は惚気話となるので、ここで口にするのは止めておいた。
「ともかく、早くここから離れましょう。まだシロルカも近くに居るし、もし、銀龍を呼ばれたら厄介よ」
「同感だ」
アクトも二度とこの手は使えないだろうと思っている。
それほど銀龍は甘くない。
こうして、ふたりは早速に現場から移動を開始した。
次の朝、アクトとハルの姿は荒野の中にあった。
彼らは夜通し歩き、シロルカの花畑から離れている。
一睡もしなかったのは銀龍との戦いが衝撃的であり、一刻も早くあの現場より離れたいと思ったからである。
しかし、彼らの目的は辺境を縦走すること。
辺境を南から北への移動である。
それはつまり、辺境の中央部を通る事になる。
辺境の中央部・・・それこそ、そこには銀龍の住処となっているトゥエル山がある。
つまり、彼らが前進するほど銀龍の住処に近付く事を意味していた。
「トゥエル山が見えてきたね」
「そのようね。本当に非科学的な山だこと・・・」
夜明け荒野の先に佇む一本の山。
ここで『一本』と表現したのは、そのトゥエル山があまりにも特徴的な山だったからだ。
それを例えるならば『針』である。
辺境の荒野に彼方に聳える一本の針。
ハルはそれがトゥエル山を例えるのに一番ふさわしい言葉である。
ハルが良く知る山というものは、普通ならば円錐状の構造をしている。
ハルの故郷であるサガミノクニもそうであったし、このゴルト世界でも比較的平原の多いエストリア帝国で偶に見かける山はサガミノクニと大差なく、円錐状の構造をしていた。
それが常識だと思っていたハルだが、このトゥエル山を目にした後はそんな常識を改めなくてはならない。
本当に棒のような山がひとつあるだけなのだから・・・
「まだ遠いけど、本当に特徴的な山よね。これで山頂が五二四五メートルなんてよく解ったわねぇ」
「それは神様がそう言っているからね」
「神様が?」
「そうだ。人類はまだあの山に未踏だから、山頂がどうなっているかは誰も知らない。だから、標高の情報については神様からの言葉が全てさ」
「ホントなのかしらねぇ~」
神の存在を疑っているハルだが、先程の神聖ノマージュ公国ではハドラ神の幼体を宿したマリアージュが居たので、やはり神は本当に存在しているのだろうと思い直す。
「それにしても、あの針のような山の頂上に銀龍が住んでいるなんて・・・あっ!」
そんな言葉を喋っていると、その頂上から小さい何かが飛んだのを視認する。
普通の人間ならば遠すぎて何も見えないが、白仮面の力で視覚を拡張しているハルには確かに見えた。
小さい何かが山の頂上より飛びたつと、それが地表に向かって降下する。
その様子はアクトにも同じものが見えた。
そして、周囲に漂う小さな気配も一斉に鳴りを潜める。
この辺境に生きる動物達も、最強の存在が龍であることを本能的に解っていて、龍の活動を何らかの方法で感じ取って隠れたのだろう。
アクトはそんなことを思いながら、銀龍の動向について注目する。
「銀龍が動き出したね・・・でも、こちらの方角じゃないな」
「そうね・・・北側の森に向かって・・・あら? 火を噴いた!」
遠目に小さく写る空飛ぶ点からは赤い火炎が地表に伸びるのが解った。
昨日吐いた白い吐息とはまた違う色。
今日の吐息は火炎だと思われる。
その炎がトゥエル山より北部に広がる森へ向かって吹いたのが見えた。
「これは火事になるかも知れない」
「そうね。何だか解らないけど暴れ回っているわね・・・まぁ、こちらに来ないのならば、私はそれで良いのだけど・・・」
そんな無責任な事を言ってしまうハルであったが、アクトもそれを責めない。
昨日は銀龍と遭遇し、あの生物の圧倒的な破壊力は身を以って感じている。
自分達が仮面の力で武装しているから、なんとか助かったものの、もし、これが生身の状態ならば、ひとたまりも無かった。
正に災害級の攻撃だ。
そんな厄災が自分達に向かわないのであれば、それに越した事はないと思ってしまうのは人間として同意見であった。
それほどに銀龍は動く厄災であり、天災に等しい存在だ。
今は目算で五十キロ以上離れているので、その脅威と恐怖感は昨日ほどではない
ふたりは銀龍の行動の観察をし続ける。
しばらく暴れ回った銀龍であったが、三十分ほどで気が済んだのか、元の巣穴であるトゥエル山の山頂へ戻る姿が確認できた。
「どうやら終わったようだ。俺達も行くか」
「うん」
ふたりは行動を再開し、荒野の北へ目指す。
ただし、このまま北に進めば銀龍の住処であるトゥエル山にまっしぐらだ。
それでは困るので、予定を変更し、北よりもやや西側へ進路を取り、できるだけ銀龍の根城へ近付かないようにする。
辺境の荒野を進むハルとアクト。
乾燥した大地に、枯れた草木の続く平原。
辺境南部の外苑部が沼地だった事を考えれば、これは大きな環境の変化だ。
そして、外苑部とは違って魔物との遭遇率は一気に下がった。
この荒野エリアでの魔物の襲撃は一時間に一回あるかないかである。
これでも多いと言えば多いのだが、引っ切り無しに襲われていた沼地エリア(シロルカよりも外苑部の沼地)と比べれば、雲泥の差である。
ただし、遭遇する魔物は辺境外苑部よりも強力な魔物が多かった。
「アクト、また魔物が接近してくる。今度は豹のような魔物ね」
「解った。ありがとうハル」
ハルが空中を飛んで索敵し、アクトが地上で迎え撃つスタイルは辺境に入ってからも変わらない。
本当ならば目立つこの遊撃スタイルではあるが、隠ぺいの魔法が使える彼らはこの方法が効率よく、かつ、素早い移動速度が維持できて、自分達に近付いてくる敵を往なし易いのだ。
「豹のような魔物・・・うん、こちらでも視認した。大きな牙がふたつ、これは新種かな? 『辺境大全』には載っていない魔物だ」
自分よりも大きな豹を目にして、普通ならば恐れるところだが、アクトは呑気にそんなことを言って魔剣エクリプスを抜く。
魔物が一匹ならば、アクトにとってそれほどの脅威ではない。
そんなアクトに、ハルから新たな情報が入る。
「待って、後ろからも来たわよ。えーっと・・・これは大サソリね。十匹がそちらに向かっているみたい」
ハルからの情報を心の共有で受けたアクトは後ろを振り返る。
そうすると、地面を低い姿勢で静かに疾走してくる十匹の大きな黒いサソリに気付く。
姿勢をかなり下げてこちらに向かって来るので、ハルからの指摘が無ければ、目視での発見は遅かったかも知れない。
そんな事を思い、ハルに意見を聞く。
「俺達を挟み撃ちにする気かな?」
「そんな訳ないと思うわ。奴らの知能は低いので、この襲撃は偶然だと思う。きっと、本能に従って狩りをしているだけなのでしょうね」
「解った。サソリは任した。俺は豹を殺る」
「了解」
念話で互いの連携を確認したアクトとハルは早速行動へ入る。
ちょうど豹の魔物がアクトに接近してきた。
ここでアクトは拳を突き出して闇魔法を飛ばす。
豹の魔物は天性の勘で危険を察知し、横へと飛ぶ。
サッと躱したその空間には、アクトの闇魔法の圧力が襲い掛かった。
地面が大きく抉れたが、それでも豹は無傷。
「速いな。流石にここの魔物は素早いか」
豹の魔物の素早い動きを評価しながらもアクトの視線は魔物から離れない。
ガウ!
豹の魔物が短く吠える。
ここでアクトはその音に魔力が籠っているのを感じた。
アクトは防御体制を取るが、その直後、耳を刺すような大きな音と激しい衝撃波が届く。
この豹の魔物は風系統の魔法の能力を持っているらしく、これによって衝撃波を放ってきているようだ。
その衝撃波で敵を傷付ける、もしくは、失神させるのがこの豹の攻撃だったようだ。
しかし、魔力抵抗体質者のアクトに魔法攻撃は効かない。
アクトは魔法による衝撃波をものともせず、豹に向かって駆け出すと、あっという間に接近し、その体躯の下へと滑り込んで、豹の魔物を腹から蹴り上げた。
ギャン!
豹の魔物は経験した事が無いような強い力で蹴り上げられて、短く鳴き、そして、宙を舞う。
大きな弧を描いて飛び、落ちた先が大サソリ軍団の正面であった。
シャーーーー!
大サソリにとってアクトと豹の区別はなく、同じ餌である。
高く上げられた尾の毒針より黄色の毒液が放たれて、それが豹の魔物の胴体の後ろ部分へ命中した。
ンギャーーーッ!!!
先程の咆哮とは違い、今度は悲鳴のような鳴き声を挙げる豹の魔物。
そして、その毒の効果はすぐに現れた。
ピキ、ピキ、ピキッ
そんな擬音が聞こえそうなぐらいに豹の下半身が灰色に変色して固まる。
「石化の毒・・・いや、魔法か」
そんな分析をするアクトに、次の狙いを定める大サソリ。
しかし、その毒が発射される事は無かった。
「ホーミングアロー!」
空中を飛ぶ白魔女よりそんな詠唱の完結が発せられ、十組の光の矢の魔法が空を舞う。
ヒューーー、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ!
光の矢が高速で飛び、それが次々と大サソリに命中した。
大サソリも空中を飛ぶ白魔女の存在を最後まで認識できていなかった。
白魔女の認識阻害魔法の効果が高かった事もあるが、それ以上に大サソリは自分の目前に居たアクトと豹の魔物に意識を集中していたからだ。
この『ホーミングアロー』という光の矢の魔法は、ハルが過去にアストロ魔法女学院の郊外活動にてワルターエイプと呼ばれる猿の魔物から襲われた時に開発した攻撃魔法であるが、現在は白魔女に変身しているため、その攻撃力も桁違いになっている。
百発百中で命中した光の矢は、十匹の大サソリを爆散させてしまう。
ドカーーーン
こうして、あっという間に大サソリを駆逐するハル。
ギャン、ギャン、ギャン
残って喚いているのは、豹の魔物だけとなる。
石化による傷が痛むのだろう。
これは致命的な負傷だった。
ギャッ・・・・
しかし、その悲鳴は急に静かとなる。
それはアクトからの闇の魔法を急所へ叩き込まれたからだ。
アクトは豹の魔物に向けて銃を撃つように指を構えて、そこから弾丸のような闇魔法を飛ばしていた。
「せめて苦しまずに死んでくれ」
アクトがそう言うに、放たれた砲弾の闇魔法は豹の魔物の眉間に命中。
これが魔物の脳を破壊し、一撃で完全に生命活動が停止した。
こうして、後ろ半分だけ石化した豹の魔物は絶命。
「ふう、アクトお疲れ様・・・しかし・・・」
その豹の魔物の死骸を見て、少しだけ残念な顔になるハル。
それは、次のような事を思ってしまったからだ。
(立派な毛皮だったわね・・・そして、この豹のお肉って美味しいのかしら・・・)
他愛もない思い込みであったが、それを心の共有で読んでしまったアクトは真面目だった。
「ハル、申し訳ない。次に襲撃されたときは上手く狩って、毛皮と肉を剥ぐから」
そんな言葉をアクトより聞かされたハルはハッとなる。
彼女としては少しだけ自分に欲もあり、そんな考えが浮かんでしまっただけ。
心の共有を通してそんな人間的な欲がアクトにバレてしまい、とても恥ずかしくなった。
「も、もうーーー!」
ここで、真っ赤な顔に染まるハルが、割と本気の力でアクトを突き飛ばしたのは言うまでも無い・・・
それから、アクトとハルは予定よりも西寄へ進路を取り、辺境を北上している。
それは彼らが銀龍との遭遇を懸念し、予定よりも西側のルートを選択した結果だ。
そして、その道中で遭遇した魔物も辺境の中心地であるトゥエル山に近付くほど強い魔物となる。
現在も『火炎を舞う大蛇』と『動く石造』に襲われていた。
「アクト、地面に潜ったわ。そっちから飛び出すと思う」
ハルは自分と対峙していた『火炎の蛇』が地面に隠れた事で、アクトに注意を促す。
「解った。くっそう、こいつめ、硬い!」
アクトはそう言い、エクリプスの剣で斬りつけてもまだ何ともない『動く石造』を睨む。
埒が明かないと理解したアクトは地面から飛び、石造の胴の部分を蹴って、空中で一回転する。
ドン
そのはずみで『動く石造』の胴体の部分に突き刺さったままの魔剣エクリプスを引き抜いた。
アクトは後ろ側へ飛んだが、その勘は正しい。
アクトが先程まで立っていた地面より『炎の大蛇』が姿を現す。
ブォワーーーー
圧倒的な熱を帯びたその大蛇は『動く石造』の魔物と衝突して、その石造を高温で焼いた。
石があっという間に赤熱し、その表面が崩れる。
この様子を少し離れたところから見たハルは、『炎の大蛇』がどれだけ高温なのかと思った。
「本当に高温の炎ね。ならば、逆にこれが効くかも!」
そう思ったハルは小さくて丸い氷の礫を魔法で生成し、それを『炎の大蛇』に浴びせた。
バチ、バチ、バチーッ、ドーーーーン
氷の礫が急激に熱せられて、小さく弾けるような音を発し、そして、最後には大きな爆発音が起きて、『炎の大蛇』の胴体部分が爆ぜて、ふたつに千切れた。
言わずと知れた高熱による氷の気化現象を利用した攻撃。
小さい氷の礫を炸裂弾のようにして『炎の大蛇』の胴体部分へ打ち込んだのだ。
その目論見は見事に成功し、熱せられた氷が一気に気化して体積膨張し、大蛇の肉体を内側から破裂させたのだ。
ベチ、ベチ、ベチ、ベチ
のた打ち回る『炎の大蛇』だが、やがて動きは止まり、そして、大蛇の纏う魔法の炎も消えた。
「殺ったわね」
そして、ハルが向こう側を見てみると、アクトが『動く石造』に止めをさしていた。
『炎の大蛇』に焼かれて表面が溶けた石造に魔剣エクリプスを叩き込んで、そこを楔にして上から下へと真っ二つにしていたのだ。
この石造を覆う外皮はとても固く、それまで剣が通らなかったが、その外壁の石が『炎の大蛇』による炎によって熱せられて溶けたから、ようやくできたのである。
偶然と言えば偶然だが、それを利用するのも実力だ。
そして、よく見ると、石造の身体の中心部には金色に輝く鉱石があった。
「これがこの魔物の核となっているのだろう。魔力をヒシヒシと感じる」
そう言いアクトは最期とばかりに魔剣エクリプスをその金色の核へ叩き込む。
そうすると魔剣の魔力吸収の力が働いて、核の魔力を吸い尽くした。
そして、核は唯の石となり、ふたつに割れる。
あとは早かった。
その後、石造の身体全体が崩れ去り、全てが砂に変わってしまう。
そんな崩壊を目にしたハルは納得する。
「興味深い生態よね。身体の中心に魔力を纏った核があり、その周囲の砂がまとまって意思を持つ魔物になるなんて・・・人為的に作られたゴーレムとは似ているけど、これが自然にできたと見るべきなのかしら?」
そんなハルに、魔物をやっつけたアクトが近付いてくる。
「さあね。その『魔法の炎を纏った大蛇』にしても、ここにいるのは非常識な魔物ばかりだ。しかも強力で、僕達じゃなければ討伐も難しいだろう」
「そうね・・・これも、こんな非常識な環境だから生まれるのかしら?」
ハルがそう言うのは、ここから先に広がる非常識な光景。
見渡す限りの溶岩の海である。
ここではハルの立つ岩場より先が真っ赤に赤熱した溶岩が海のように広がっていた。
そして、その先には例のトゥエル山が聳えている。
遠くからは解らなかったが、どうやらこのトゥエル山の周囲は溶岩の海が存在しているようだ。
赤熱し悪性のガスを放出しているここを表現すると、正に『煉獄』の世界。
火の地獄の一丁目と言ったところであり、「ここって凄いよね」とハルがアクトと会話している最中に溶岩の海より出現したのが『火炎を纏う大蛇』であった。
その大蛇と戦っている時、岩場の地面が盛り上がって現れたのが、『動く石造』の魔物。
こうして挟み撃ちに会う彼らであったが、なんとか倒す事ができた。
「やはり、ここは煉獄だ。トゥエル山には近付くなっていう意味だろう・・・行こう、ハル」
「ええ、そうね」
ハルもアクトの意見に激しく同意し、この煉獄の世界をスルーして、辺境北部へ進路を向ける。
こうして彼らは逃げるようにして溶岩の海の淵から歩み始めるが、その中心部であるトゥエル山の山頂より視線を感じたような気がした。
トゥエル山の山頂に住むのは銀龍である。
その銀龍から再び襲われれば厄介だ。
アクトとハルはその視線に気付かないフリをして、自分達には敵意が無い事を示すために、早々とこの現場より離脱を選択するのであった・・・