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白い魔女と漆黒の騎士(ラフレスタの白魔女 第二部)  作者: 龍泉 武
第五章 神聖国家と漆黒の騎士
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第十七話 ドキドキの初夜? ※


「俺達も結婚式を挙げたい!」

 

 勢いでそんな事を言ってしまうフィッシャー。

 フランチェスカが羨ましがるのを察しての言葉であったが、結局この願いは法王に聞き入れられた。

 そればかりか、エイルとシエラもここで一緒に結婚式を挙げる事となる。

 アクトとハルの大いなる愛の影響を受けた結果ではあるのだが、彼らは後世になってこの時の事を思い出して、「勢いって怖いよねぇ」と笑い話になったのは余談だ。

 主礼拝堂は神が降りる聖なる場所としての効果もあったが、よくよく考えてみるとここはマリアージュが起こした大量殺人の現場であり、死体や血が残っている場所。

 しかし、この時の彼らは盛り上がっており、そんな事など気にしなった。

 それよりも、彼、彼女達は、今、自分達の事しか見えていなかったのかもしれない。

 そんな人間のひとりとなっていたハルはアクトから指輪を貰うだけでは拙いと思い、ここでアクトへの指輪を急ごしらえで準備する事にした。

 彼女は再び白仮面を被り白魔女へ変身すると、魔法袋の中身をひっくり返し、手当たり次第に高級な素材を手でギュッとやり、一瞬で指輪へ加工してしまう。

 ついでとばかり、一緒に結婚式を挙げることになったフィッシャー、フランチェスカ、ヘレーナ、エイル、シエラの分も作ってしまう。

 どれもが銀色に輝いた素敵な指輪であり、法王が立ち会う結婚式に用いても全く恥ずかしくない品質。

 実は魔法素材的にとんでもない価値になっていたりするが、そんな事などまったく気にしないハルだ。

 そして、折角ならばと白いウェディング衣装と男性用の礼服も作ってしまう。

 魔道具師のハルに掛かれば、衣装を準備するなど造作ない事であったし、ハル以外の分――男性陣も含めて――をあっという間に用意してしまう。

 正に暴走気味のハルである。

 そして、彼らはこれらの装備品を装着して正式な結婚式を挙げる。

 指輪も法王が神聖魔法を用いて宣誓時の正式な刻印を施した。

 これが法王立ち合いの元で、正式な結婚式を行った証しとなる。

 こうして、あっという間に三組の夫婦が誕生し、幸せムードとなる。

 初めはアクトの心を取り戻す治療の筈だったのだが・・・気が付けば本気の結婚式になってしいた。

 そして、結婚すれば・・・その夜は初夜。

 法王の計らいで、三組の夫婦に別々の豪勢な客室が用意され、現在はそのひとつの部屋にアクトとハルが入る。

 

「嗚呼、アクト、好き!」


 部屋に入るなり、いきなりキスするハル。

 幸せモード全開のハルはかなり暴走気味だが、それでもアクトそんなハルを可愛いと思う。

 いつも気を張り、強い女を演じているハルを、彼女の実はそれではないとアクトは知っていたからだ。

 そんなハルが自らの姿を素直に見せてくれるこの瞬間は、自分の事を深く信頼し、そして、愛してくれていると思っていたし、何よりもそんなハルが大好きなアクトである。

 そんなアクト自身の素直な感情を正しく思い出させてくれたハル。

 『美女の流血』の模倣品による毒を解除してくれたハルには感謝と愛情の両方がアクトの中で渦巻いていた。

 そして、現在のハルは彼女の身体のラインを強調した純白ドレスを纏う美女。

 普段のダボダボローブ姿の彼女も好きだが、偶には女性らしいドレスも良いとアクトは思う。

 アクトはハルから浴びせられるキスを受けながらも、彼女をベッドに押し倒した。

 ボヨンと、ハルの大きな乳房が波打ち、アクトを誘う。

 

「また大きくなった?」

「何を言っているのよ。もう!」


 真っ赤な顔でそんな抗議してみるハルであったが、拒否している訳ではない。

 今更になるかも知れないが、アクトとハルの深いふれあい・・・それはほとんど経験していない。

 デルテ渓谷のあの場所。

 ハルが白魔女の正体だと言う事がアクトにバレて、そして、その後の勢いで深い関係となったのはあの夜のみの営みだったりする。

 あれ以来ふたりの心はひとつになれたが、意外とそれで満足してきていたのだ。

 深い愛情とつながりを互いに感じる事のできる『心の共有』。

 それを果たした彼らには態々(わざわざ)、身体の触れ合いを通して愛情を確かめる必要は至らなかったのである。

 しかし、今のハルはそんな自分を深く後悔していた。

 もっとアクトと触れ合っておくべきっだったと激しく後悔。

 だから彼女は抵抗しない・・・いや、アクトに自分の女性らしいところをアピールするように身体をくねらせて誘う。

 そして、互いに深いキス・・・

 幸せに満ちた感情が脳内に響き渡り・・・

 

ジリリ・・・


 もっとアクトが欲しい。

 そう願うハル。

 

ジリリリ・・・

 

 アクトもハルの誘いに反応して、ハルがそれを喜んで受け入れている。

 

ジリリリリ・・・


 ああ、もっと、と願うハル。

 彼を受け入れる準備は万端だ。

 

ジリリリリリリ・・・


「・・・」

「・・・」


ジリリリリリリリッ


「わーーん、この馬鹿野郎ーっ!」

 

 ここで、ハルは自分に装着していたXA88を腕から外し、そして、それを激しく投げつけた。

 XA88はフカフカの絨毯の上をバウンドして転がるが、その程度で壊れる機械ではない。

 そして、明滅を繰り返しているのはその表示部。

 その意味は解っている。

 誰かからの着信を示す動作だ。

 

「ハア、ハア、ハア、ハア」


 興奮から冷めやらぬハルの息は荒いが、その中の何割か――いや半分以上はアクトとの愛の行為を止められた事に対する怒りである。

 そんな怒りのハルに、アクトは優しく毛布を掛け、ゆっくりと歩き、ハルの投げたXA88を取り戻ってくる。

 ハルは観念して、それを受け取り、着信に応えた。

 そうすると、XA88から光が投影されてエレイナが姿を現す。

 

「ハルさん、夜分に申し訳ありません」

「・・・私。今、とーーっても取り込み中なんだけど!」


 不機嫌を隠そうとしないハル。

 赤い顔のその姿と視界の影にアクトが居るのを確認したエレイナは、ハル達が愛の営みの最中であった事を察する。

 しかし、今の彼女はそれ以上に焦っていた。

 

「お取込み中のようでしたね。しかし、それは以前の私達の時も同じで・・・いや、そんなことを今言っている場合でないのです」

「何よ! 早く行ってよ。用事は早く済ませたいの」


 そう急かすハルに、ひと呼吸したエレイナはこの通信の目的を話す。

 

「大変です。先程、隣国のボルトロール王国より宣戦布告の通知がありました。戦争になります!」

「「えっ!?」」


 エレイナからのその情報に、驚きの声を挙げたのはハルとアクトの同時であった。

 

 

 

 

 

 

 ハルから緊急招集が掛かり、太陽の小鹿とプロメウス大司教が再び集る。

 因みに、ここに法王の姿はない。

 法王は結婚式までは健全な姿で職務を全うしていたが、その後に疲れを見せた。

 高齢でもあったし、一週間束縛されていたので体調も万全ではない。

 そんな事から法王は療養に入った。

 そういう訳で、この場で一番の上位者はプロメウス大司教となる。

 彼の口からハルが全員招集した理由を再確認する。

 

「ボルトロール王国との戦争が始まったのは、本当なのだな」


 その言葉を肯定するハル。

 そして、彼女は持っていたXA88を使い再びエレイナを呼び出すと、エクセリア国の美妃が姿を現した。

 夜遅くでも関わらず、エレイナは気品ある格好をしていて、彼女の真面目さが透けて見えた。

 そんなエレイナからはエクセリア国の現状が伝えられる。

 

「我がエクセリア国は、先刻、ボルトロール王国より宣戦布告を受けました。相手国側の言い分としては不当に拘束した自国民の解放。不正を得て統治を始めたエクセリア王族の排除。一方的に設定した国境の解除を要求・・・つまり、我がエクセリア国のすべてをボルトロール王国に明け渡せというものです」


 そのあまりに身勝手な主張に怒りを露わにするのは太陽の小鹿達だ。

 

「ふん。盗人猛々しいとはこの事じゃのう」

「本当です。クリステを散々に破壊したのはボルトロール王国の秘密部隊イドアルカに所属していた『獅子の尾傭兵団』なのに・・・腹立ちますよね」

「こいつが、ボルトロール王国のやり方ってヤツか。気に入らねぇーな」

「そのようです。我ら神聖ノマージュ公国だけではなく、ゴルト大陸全土をすべて敵にして力で解決しようとするとは愚かな人達です」

「そうさ。奴らにとって戦争とは日常なんだろうさぁ。でも、他人から奪うのが奴らの信じる正義だというなら、私は赦せないねぇ」


 順にマジョーレ、キリア、リュート、エイル、シエラである。

 これに加えて、フィッシャーとフランチェスカ、ヘレーナも同じぐらい怒っていた。

 彼らはラフレスタでの件の当事者だったから、ボルトロールの行いに怒りを覚えるのも当然だ。

 そして、アクトとハルも同じ気持である。

 皆の気持ちを再確認したハルは全員を代表してエレイナに返す。

 

「解ったわ。今すぐそちらに駆けつける。助太刀するわ」

「ハルさん。ありがとうございます。アナタにそう言って頂けて私達は嬉しい」


 エレイナが言う私達とは、自分の夫であるライオネルの事を示している。

 本来ならばライオネルも同伴してハルとアクトにこのようなお願いをするべきなのだろうだが、今のライオネルは自国の防衛を固めるために指示を飛ばしている最中であるようなので、それは実現できていない。

 その事をエレイナより事前に説明受けたハルであったが、別にそんな形式に拘らないと、ライオネル不在である事をハルは全く問題にしなかった。

 

「それはそうと、今、居るところがアレグラだから、エクセリア国に向かうのも直ぐって訳にはいかないわ」

「そうですね。ここからだと一度、南岸街道を通り、エストリア帝国の西に入って、ユレイニを経由して、そこからスタムに行ってと・・・これは二箇月掛かるかもです」


 キリアは簡単な地図を紙に書いて、今回の旅程を予測する。

 その地図はゴルト大陸の的確な街道と主要な国家や街が描かれたものだが、ボルトロール王国に「憎っくき」とか、中央の辺境の地にトゥエル山とドラゴンの絵が描かれていたりと、余計な情報も多かったりする。

 それでもそんな地図をあっという間に書いてしまう無駄な才能があるのも、天才キリアらしかった。

 

挿絵(By みてみん)


 その地図を眺めるハル。

 ゴルト大陸を西回りにぐるりと半周するコースは、確かに二箇月かかる旅程なのは妥当だと思う。

 しかし、そうすると、戦争そのものが終わってしまう可能性も考えられた。

 どうにか早くエクセリアへ辿り着く方法はないものか・・・そう考えたハルは、キリアが書いた地図に赤い線を一本加える。

 それは、アレグラとエクセリアを一直線で結ぶ最短ルートである。

 

「こうすれば旅程を短縮できるわ」

 

 そんな宣言をするハルに、キリアを始めたとした一般人はイヤイヤイヤと否定した。

 

「確かにハルさん、これは距離的に最短ですが、この『辺境』を通ると言うのは・・・」

「知っているわよ。『辺境』って、凶悪な魔物が闊歩していて、中心のトゥエル山には伝説の銀龍が住んでいるのでしょう?」

「そりとおりです。ここを踏破した人類はいませんよ!」

「ならば、私達がその第一人者となるわ。皆には無理でも、私とアクトだけならば・・・」

「そんなの無茶ですよ、と言いたいところですが・・・」


 キリアも白魔女に変身したハルと漆黒の騎士アクトの滅茶苦茶さはもう十分に理解できていた。

 この人達ならばもしかしてと、その可能性を信じられるかもと思えてしまう。

 そんな可能性を考えているキリアの様子を見て、ハルは自分の意見に納得してくれたと理解した。

 

「じゃあ決まりね。私とアクトは仮面の力で変身して、このルートを踏破する。早ければ一箇月、いや、二週間でエクセリアに着けると思うわ」


 そんな宣言をするハルに、エレイナは多少に呆れる。

 

「本当にハルさんは滅茶苦茶ですね。でも、こちらから援軍を頼む手前、早く来てくれるならば非常に助かります」

「ええ、そうするわ。私もアクトもボルトロール王国のやり方にそろそろ我慢できなくなってきたからね。私達が到着するまで負けないで」

「そうします。そして、命がけのルートを選んで貰い感謝するしかありません。こんなこと言うのも変な話なのですが、どうかご無事で」


 そう述べて通信は切れた。

 エレイナとしてもエクセリア国側でやらなければならない事は山積みなのだ。

 現在のエレイナにとっても時間は貴重である。

 そして、それはハル達も同じであった。

 

「私達も今すぐに・・・とは無理ね。一度休息を取らせて頂戴。明日の朝から速攻で出発するわ。アクト、残念だけどエクセリアに到着するまでは夜のアレはお預けにする。ゴメンね」

「ハハ、それはとても残念。しかし、俺だってボルトロール王国のやり方には怒っている。だから、今は休息を取り、力を溜めて、エクセリア国へ駆けつけることは最優先さ」


 アクトは敢えて自分の口から言葉に出す事で、決意を新たにした。

 そうしないと、ハルの身体を味わうのに、自分の未練が残っていたからである。

 今日の夜は優しく彼女を抱くだけで我慢しよう。

 いろいろ燃えて寝不足になるなど、以って外である、と思う事にする。

 そんな彼らを見て、プロメウス大司教は、これで漆黒の騎士と白魔女がここから旅立つ事を確信する。

 実はここでプロメウス大司教の心にはとある感情が芽生えていた。

 それは・・・

 

(法王になれる・・・)


 そんな野心だ。

 昨日までの彼はどんなに頑張ろうとそれは無理な話であった。

 公国の法王は世襲制ではないとしても、聖職位階が大きく影響する。

 上位の者が次の法王の座を引き継ぐのだ。

 そして、現在、プロメウス大司教より上位の者はすべてがマリアージュによって殺されてしまった。

 現法王もその座を退くと言っている。

 白魔女の存在についてはプロメウス大司教が緘口令を布いたので、まだ広まっていないが、昨日の大聖堂の郊外で堕天使と激しい戦闘をした漆黒の騎士は公国に現れた聖戦士として市井の人々に噂が広まっていた。

 もしかしたら、漆黒の騎士はこの公国で聖人として奉られる可能性も高い。

 そんな彼が次代の法王として担ぎ上げられるもの無い話ではない。

 しかし、その彼らが明日この公国から出て行く。

 つまり、彼らが公国の英雄・聖人として称えられるよりも早く、いなくなってしまうことは法王を目指すプロメウス大司教にとって好都合なのだ。

 そして、次の自分のライバルとなりそうなのが、太陽の小鹿・・・その中のエイルである。

 彼が法王ヤコブの孫である秘密は先程知ったばかりだが、それもその事に着目して調べれば、いずれ他の誰かよって解ってしまうもの。

 そうなると、このエイルが成長して、彼に信奉が集まるのも厄介だと思ってしまう。

 しかし、今のエイルならば立場はいち司祭であり、言うなればプロメウスの部下のひとり。

 そんな状況で、プロメウスは自分の立場を利用してひとつの命令を下す。

 

「よし。これはゴルト大陸の一大事だ。我々もノマージュ教徒として友人であるライオネルの危機に立ち上がろうじゃないか。『太陽の小鹿』のお前達に命ずる。明日早々にこのアレグラを発ち、エクセリア国の救援に向かえ。例え、旅程が二箇月掛かろうと構わん。もし、戦いに間に合わなかったとしても、我々ノマージュ教は治癒の役割もある。戦後のエクセリア国の立て直しにも協力するのだ。そして、彼の地にノマージュ教を広めよ。神の御名においてエリセリア国に教会と神学校を造るのだ。よいな!」


 そんなプロメウス大司教の必死の熱弁。

 太陽の小鹿の中でも神父リュートは目を白黒させていたが、それでもエイルは襟を正して、この命令を素直に応じた。

 

「解りました。これもノマージュ神の思し召し。僕の生涯に代えてこの仕事を全うします」


 そんな決意を言葉するエイル。

 時の権力など全く気にせず、自分の信仰だけを真直ぐに貫く言葉であった

 伴侶になったばかりのシエラがエイルの権力とは関係ない凛々しい姿を見て、何故か誇らしげな気持になったのは言うまでも無い。

 

 

メインストーリとしての第五章はこれで終わりとなりますが、この章はもう数話続きます。引き続きお楽しみください。


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