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白い魔女と漆黒の騎士(ラフレスタの白魔女 第二部)  作者: 龍泉 武
第五章 神聖国家と漆黒の騎士
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第二話 パーティ名は?


「パーティ名はどうしますか?」


 そんな言葉はプロメウスがこの部屋を去ってから発せられた。

 この部屋に残されていた特命チームの面々の中で開口一番にキリアが話題にした事がこれである。

 それを聞き・・・

 

「はあ? 莫迦な事を言ってんじゃねぇよ。この脳足リン修道女! 俺達は秘密の特命プロジェクトだと先程大司教より言われたばかりじゃねぇーかっ!」


 怒りを露わにするのは神父リュート。

 彼はチンピラ風の中年神父だが、それでも彼の指摘は尤もあり、秘密のプロジェクトにチーム名など必要ないのである。

 罵倒されつつもそれを理解したキリア。

 彼女は天然だが、頭の回る天才でもある。

 キリアは自分の失敗に気付き、顔を真っ赤になる。

 そんな天然少女をフォローするのが老練なマジョーレだ。


「まぁ、そう言ってくれるな、リュート殿。キリアも悪気があって言ったのではないぞ。我々の団結を高めるためにそう提案したまで。そうじゃろう?」

「そ、そうですよ。私達って初対面の方々もいるじゃないですかぁ」


 キリアは白々しくそう答える。

 そんな姿を見て、初めは絶対にここまで考えていなかったと思うリュート。

 しかし、それをスルーしてマジョーレはキリアに聞く。

 

「ちなみに、キリアはどんなパーティ名を考えていたのじゃ?」

「・・・私は『太陽の小鹿』。それがいいと思いました!」


 マジョーレの問いにキリアが張り切って答えたのがこれである。

 その名前に一同は目を丸くして・・・そして・・・大爆笑。

 

「うひゃひゃひゃ、なんだ、それは!」

「フッ、そうねぇ。滅茶苦茶弱そうだし」


 笑ったのはリュートと隻腕の女剣術士シエラである。

 確かに『太陽の小鹿』と言うはパーティ名としては弱々しいイメージがあった。

 キリアがどうしてこんな名前をつけたのか・・・マジョーレには思い当たる節がある。

 

「キリアよ・・・その名前、もしかすれば、『月光の狼』から文字っているのじゃろう?」

「やはり老師には解りましたか。月光から太陽へ、狼から小鹿へ。字面(じづら)も可愛いかなぁと思い・・・これは私の直感です!」


 そんなことを自信満々と述べるキリア。

 天然の彼女が『直感』と言う、信じてはいけないものを信じた結果が『太陽の小鹿』であり、そこに全くの深い意図は存在しない。

 直感だから、頭にパッと浮かんだものを述べただけである。

 

「くぅ、腹いてぇーな。凄い攻撃力だ。やっぱ、こいつらがラフレスタの英雄だってのは本当らしい。へへへ」


 リュートは笑っていたが、その言葉に他の面々の顔がハッとなる。

 プロメウス大司教が神学校ラフレスタ支部の代表としてラフレスタ解放に尽力した事実は大々的に知らされていたが、マジョーレとキリアの活躍は意図的に流布されていなかった。

 そんな自分達の事実の情報を知る神父リュートにキリアは少し警戒する。

 

「むぅ、リュートさん。我々の事を知っていたんですね」


 しかし、キリアの経歴など情報通のリュートにしてみれば、少し推理すれば解る程度のものであった。


「プロメウス大司教が連れてきた人間だから、その素性は大体予想できるってもんぜ。その齢で上級(・・)修道女になれる女なんざ、余程の功績が無いと無理っつうもんだ。少し推理すれば誰だって解る」


 そんなリュートの指摘は尤もである。

 教会として自分達は神の使途であるため、ラフレスタの乱という戦闘行為で活躍した彼らを解りやすい形で称える事はできない。

 神聖国家としての体面から現場の指揮者だったプロメウスを称え、それ以外の人間はエストリア帝国に渡さない。

 それが教会組織としての精一杯であった。

 それでも功績あった者には聖職位階で称える事にしていた。

 マジョーレは司祭から司教に、キリアは神学校卒業の後でいきなりの上級修道女に就任。

 これも階級に厳格な規則のある教会の中では異例な事である。

 

「俺はこう見えてもその手の情報には早いし、正確なんだぜ」


 そこを自慢する中年ヤンキー神父のリュート。

 因みにこのリュートの事をマジョーレも知っていた。

 

「なるほどのう。数年前に教会内で暗躍していた反乱を見事に解決できた悪童の神父がいたと聞くが、どうやら貴殿がソレじゃろうなぁ。情報収集が巧みらしいのう」

「むむ、このオッサンも、俺の事を知っていたのか!?」

「ムハハ、持つべきものは友じゃよ。儂も古くからの友人がアレグラにも多いからのう。教会の暗部いついてもそれなりに解っておるつもりじゃぞ」


 少しだけ驚くリュートに、どうだと言わんばかりのマジョーレ。

 そんな特別な人間達が揃う事実に、女剣術士のシエラが目を細める。

 

「ラフレスタの英雄に、教会の裏事情をよく知る情報通の神父か・・・こりゃ面白い面子だ」


 そんな言うシエラにリュートが言い返す。

 

「そう言うアンタからも只者じゃねぇ危険な気配がするぜぇ。何者だぁ? 俺の情報網には片腕の剣術士様と、その()さ顔の坊ちゃんの情報はねぇーんだけどよう」

「フ、私か・・・私はシエラだ。南方諸国で少し名の知れた剣術士。左腕を失っているが、侮らない方がお前の身のためだ。そして、こっちは・・・」

「僕はエイルです。南方諸国でノマージュ教の布教活動を担っていた司祭です。そこでシエラさんと出会いました」


 若いエイルは笑顔でそう言い、シエラもこのときだけは顔が赤くなる。

 リュートがふたりの関係を察するのに十分な情報である。

 

「なんだ。夫婦か」

「わっ、ま、待て。まだそこまでの関係ではないぞ!」


 大慌てに否定するシエラ。

 彼女の顔の赤さが増した。

 そこに先程まで強気の彼女の姿はない。

 シエラは果たして強い女なのか、それとも、初心(うぶ)な女性なのかが判らないところでもある。

 リュートはそんなやりとりを見せられて、脂濃い食べ物を口にしたような苦痛を胃に覚えた。

 野暮な指摘をするんじゃなかったと少しだけ後悔。

 そんな密かな苦痛と戦っているリュートを他所に、キリアが清々しく挨拶をした。

 

「それは、それは、おめでとうございます。ふたりに神の思し召しがあらんことを。あ、私はキリアです。改めましてご挨拶をさせてください」

「お前達はなぁ~、私達はまだ夫婦ではないと言っているのに。しかし、夫婦ではないが・・・」


 ゴニョゴニョと言い訳する濃い黄色髪の長身女性。

 そんなシエラが急に女性らしく見えたりする瞬間でもある。

 その影響で少しだけ威厳を失うが、気を取り直して挨拶を返すシエラ。

 

「まったく・・・しかし、お前は良いヤツだと思う。しばらくよろしくなぁ、キリア。私の事はシエラでいいぞ」


 シエラはキリアより年上だったが、礼儀は不要であるとキリアへ伝える。

 剣術士らしくサバサバした性格であった。


「それにキリアがラフレスタの乱にいたのならば、多くの戦いを目にしているだろう。ラスラスタの戦場では私としても是非、手合わせしたい剣術士がいてなぁ・・・」

「それってアクトさんの事ですか?」

「ほう、知っているのか?」

「知っているも何も、一緒に戦った仲間です。同じ授業を受けていた同窓でもありますし」

「おお! エイル。コイツはアクト・ブレッタの事を間近で見ていたらしいぞ!」


 興味津々のシエラにキリアも気を良くする。

 

「そうです。アクトさんって格好良いですからね」

「よーし、すぐに連絡を取ってくれ。是非、南方諸国一の剣術士シエラが手合わせ願いたいと・・・」

「えー? そんなすぐに連絡取れる手段はありませんよぅ」

「そんなこと言うな。気合いだ。気合いで何とかしろっ!」


 そんな茶々が続くが、ここで盛大に会話が逸れている事実を神父リュートは忘れてなかった。

 

「煩せぇ~ぞ、お前ら!! 井戸端するならふたりだけでヤレ~ッ!! 今は法王のオッサンをどうやって探すのかが先決だろうがぁっ!」


 リュートの指摘にハッとなるシエラとキリア。

 思わず女子同士の会話――天然少女と剣術バカの会話ではあるが――に無駄な花が咲いてしまった瞬間だったりする。

 

 

 

 このあとに真面目な会議が始まり、パーティ名としては結局キリアの提案した『太陽の小鹿』が採用された。

 ふざけた名前であるが、この名前から消えた法王を調査するチームが連想し難い事。

 そして、チームとしての団結効果も得られると認められた結果でもある。

 彼らの目的は法王の消息を調べる事。

 しかし、ノマージュ教の教えには『教団内に争いが存在してはならない』との不文律が聖書に書かれている。

 実際にはいろいろあるが、教団は少なくとも表面上この不文律を守る必要がある。

 消えた法王を探すのが聖堂騎士以外にも存在し、そして、その調査チームがプロメウス大司教の手駒であることが公になれば、それか教団内に新たな争いの火種(ひだね)となる懸念が大司教より指摘されていた。

 それは暗黙で教団内に複数存在している派閥の力均衡によるものではあるが・・・どとのつまり、この調査パーティは秘密で行動する必要がある。

 尚、公国の秩序を守る聖堂騎士は平和を維持する最低限の力の存在であると聖書に示されているため、問題はない。

 なんて都合の良いルールかと思うキリア。

 本当に面倒だと思うが、これも神聖ノマージュ公国のルールでもあり、ノマージュ教の教えを国是する宗教国家の誇りでもあるのだ。

 だから聖堂騎士以外の武力集団が存在してはならない。

 それ以外の調査隊も公には存在してはならないのだ。

 こうして、結成して間もない『太陽の小鹿』は隠密行動が求められる。

 彼らの次の行動としては、法王が行方不明となった現場の大図書館へ密かに向かうのであった。

 


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