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第十三話 死神の怒り ※


「ミーーーーール!」


 俺はなんとか黒い剣の力を解放し、敵の最後の砦となっていた鋼鉄の扉を破壊する事ができた。

 何かをごっそりと持って行かれたが、そんな事など構うもんか。

 今の俺には焦燥感しかない。

 俺の大切なアイツが奪われてしまう。

 そんな焦りしか考えられない。

 そして、その犯行現場を目にしてしまう。

 謁見で玉座に座るやたら眼力の強い老人が、ミールに手を出していた。

 されるがままのミール。

 ここで、俺の怒りは沸点を越えて爆圧した。

 

「くっそーーーう!! ミールを!!」


 俺は怒りに身を任せて、ミールに襲いかかろうとしている老人の胸へ黒い剣を力一杯叩き込む。

 

グシャーッ!


 そんな柔らかい感覚が伝わり、老人の心臓を一突きにした。

 多分、即死だろう。

 

「えっ!? 牙王様!」


 そんな間抜けな声を出したのは、その老人の近くにいた女。

 目の細い蛇のような女だ。

 

「この悪めぇぇぇ!!」


 俺は相手を一度『悪』認定すると容赦はしない。

 何も迷うことなく、黒い剣を一閃。

 そうすると、この女の首が簡単に飛んだ。

 

「キ、キヨーーっ!」


 そんな叫び声を挙げたのは首を飛ばした奴の隣の女。

 この女も知っている。

 生前ミールの実母に嫌がらせをしていた女で、確かメニヴェとか言う名前だったか。

 ミールとのリンクにより情報は共有済み。

 お前も、ミールを虐める仲間だな。

 

「お前も悪だっっっ!」


 黒い剣を横に薙ぎると、その女の胸から上は胴体と永遠に別れた。

 

「ヒギャーー!!」

 

 恐怖に染まる絶叫を発し、大量の血を流して死んでいく。

 ザマァ見ろ。

 ここで、残された女達がようやく俺の存在に気付いようだ。

 しかし、突然の凶行で、まだ誰も反応できていないらしい。

 結構な事だ。

 その方が俺も仕事が早く終わるだろう。

 

「俺はお前達全員を『悪』と認定した。以降、命を以ってミールに謝罪せよ!」


 そう短く宣言し、俺は処刑を執行する。


「ギャーー!」

「イヤーーー!」

「止めてぇーー!」


 女たちの悲鳴が聞こえたが、俺はまったく容赦しない。

 ミールを辱めた罪を、報いを、受けるがいい。

 黒い剣を振るい、彼女達の命を飛ばす。

 ある者は急所を突いたり、ある者は斬ったりしたが、全て一撃で絶命させている。

 せめて苦しみを与えないのが俺の唯一の慈悲。


「ひ、ひぃーー、止めて。私は反対したのよ。こんな事をしても、ぐばっ!」


 最後に年長者の女が命乞いをしていたが、俺はこれも容赦しなかった。

 頭を真っ二つにして黄泉の国へ旅立たせてやった。

 こうして、この部屋に入ってから十一振りで全ての悪を退治した。

 仕事は終わったが、ミールを見てみると、彼女は震えている。

 悪鬼に染まった俺に怯えているのだろう。

 

「ミール・・・すまない。お前が辱められていると思うと、俺はアイツらを赦せなかった・・・俺が怖いか?」

 

 そんなことを問う。

 鮮やかに殺したと言え、それでも敵の返り血を大量に浴びている俺。

 これでは偽りなき死神の姿に見えただろう。

 しかし、彼女は健気だった。

 

「ううん、アークは怖くない。それに私を絶対救ってくれると思っていたから」


 そう言い彼女は俺の首に手を回してくる。

 これは彼女から接吻を求めてくる仕草である。

 俺は彼女に安心を与えてやるため、彼女の接吻の要求に応えてやろうと思った。

 しかし・・・

 どうやらそれは無理だと、その直後に悟る。

 

「・・・アーク、どうしたの? どうして私を抱いてくれないの?」

 

 ミールもそこまで言って、言葉を止める。

 彼女も一流の暗殺者である。

 俺達に接近するこの存在を解らない筈は無い。

 

カツーン、カツーン、カツーン


 硬質な石の床をゆっくりとした歩調で近付いてくる底の硬い長靴(ブーツ)の音。

 その音は初めて聞くが、それでも俺の記憶のどこかにある音。

 

カツーン、カツーン、カツーン、カツーン


 その音は近付いて、やがて止まり、そして、鋼鉄のドアの隙間から美しい白い仮面の魔女が姿を現した。

 その女は俺達を見て、ニコっ笑いかけてくる。

 とても可憐で、友好的な笑顔、美しい銀髪の女の姿なのだが、俺はその時、何故か自分の背筋に冷たいモノが走る。

 俺には経験がないが、昔、友達から聞いた話に、浮気現場を彼女に観られた時、背中が寒くなったというのを聞いた気がする・・・

 今回それと似ているような気もした。

 そんな白い魔女は俺に向かってこう述べる。

 

「やっと追いついたわね。アクト、さあ、帰るわよ」


 そう言って俺に手を出してきた。

 俺は反射的にその美しい腕を取りそうになったが、ここでミールに止められた。

 

「アーク、駄目!」


 その言葉でハッとなる。

 何だ、この魔女!?

 俺に魔法でも掛けているのか??

 俺にはこんな白い仮面を被った怪しい魔女なんて知り合いにはいないぞ。

 そう自分に言い聞かせて、この魔女の甘言に一瞬でも心が支配されてしまったのを恥じた。

 

「そうだな。ミール・・・すまない。そして、お前は誰だ? こいつ達の仲間か?」


 俺の視線は牙王とその周りを固めていた十人の妻達を指す。

 一瞬だけそちらに視線を移す白い魔女であったが、惨殺死体を見て「うっ」と口を押さえる。

 

「仲間ではないけど・・・アクト、これはやり過ぎね」

「アクトだと? 誰だ、それは? 俺の名はアーク」


 俺は否定するが、白い魔女はチッチッと指で認めない。

 

「いいえ、アナタは誰が見てもアクト。アクト・ブレッタで、私のアクトよ。ねぇ、そうでしょ? ミールさん(・・)!」


 白い魔女からのそんな念押しに、ミールは「ひっ!」と恐れた声を挙げる。

 どうやらミールは、この白い魔女の正体が解っているようだ。

 そして、話の脈絡からすると、俺も知っている・・・そんな気もする。

 そう思っていると、白い魔女はこう続けてきた。

 

「まあ、美女の流血の模倣品で支配されている今のアクトにとっては、自分の事をアークだと信じさせられているのだろうし、仕方がないのかもねぇ?」

 

 余裕たっぷりの白い魔女と、ドンドン顔色が悪くなるミール。


「そんな事だから。アクトは返してもらうわね」


 そう言い、再び俺の腕を取ろうとする白い魔女だったが、ここでミールが反論した。

 

「ふざけんな。彼は返さない! 何故なら、もう私のアークだからよ。この国の悪者も彼が全部倒してくれたの。私の為に倒してくれたのよ。アークはすべてを犠牲にして私を選んでくれたのよ。どう? 羨ましいでしょ?」

「ふーーん。それはロマンチックね」

「くっそう! もっと悔しがれよ。余裕の表情をしやがって!」


 ミールは悪態をつくが、当の白い魔女は大人の対応を続けているようだ。

 そんな白い魔女は不敵に笑う。

 

「それにしても汚い言葉で話すようになったねぇ。ミールさんの本性ってそんな下品だったの? それならば、私ったら帝都大学ですっかりと騙されちゃっていたみたいよねぇ~」


 そう言うと白い魔女は指をパチンと鳴らす。

 するとどうだろう、ミールの身体が宙に浮いた。

 

「わっわわ? なんで!? 私に魔法は効かないはずなのに!」


 ミールの身体が宙に浮き、三メートルぐらいの高さでグルグルと回転させられていた。


「ヒャーーー!」


 そんな悲鳴を発したミールに、白魔女は「泥棒猫は、そこで反省でもしていなさい」とそれほど本気では怒っていないようだった。

 

 どうしてだろう・・・

 

 何だかそんな風に少しホッしている俺が居た。

 そんな俺を他所に、白い魔女はミールに話しかける。

 

「貴女、魔力抵当体質者でも全く魔法が効かない訳じゃないでしょう? 失礼かもしれないけど、ミールさんぐらいの中途半端者ならば、私ほどの魔法の腕にかかれば余裕なのよねぇ。それに魔法を使わなくても魔力抵抗体質者に魔法を作用させる方法は他にもいろいろとあるわ。何せ、私は世界一の魔力抵抗体者の研究者よ。魔力抵抗体質者の事なら、よーく知っているのだから」


 白い魔女はそう宣言をすると、俺に向かってウインクを投げてくる。

 まったく緊張感のないヤツめ。

 そう思うが、何故か俺の心は軽くなった。

 この爽快感は何だろうか??

 しかし、駄目だ。

 ミールを放っておけない。

 

「ミールを降ろしてくれ、お前とは戦いたくないが、それでもミールに危害を加えるならば、俺も黙っちゃいない」

「あらら、どうしてそんな事を言うの? そんなにミールさんの事を好きになっちゃった?」


 白い魔女はここでやや不機嫌になる。

 だが、俺は言っておかなくてはならない。


「・・・ああ」


 何故かそう答えるのは怖かった俺だが、それでも言わなければならない事は言っておく。

 しかし、これが間違った回答であったのは、すぐに理解させられた。

 

「そう・・・それならば、ミールにお仕置き追加ね」


 ここで白い魔女からミールに『さん』付けが無くなった。

 そして、彼女がもう一度指をパチンと鳴らすと、ミールの回転が速くなってしまう。

 

「ひぎゃーーっ! 止めてぇ~! 降ろしてぇ~! 気持ち悪いーっ!」


 ミールの悲鳴が増す。

 これは明らかな敵意。

 ここから先は俺も実力行使して止めるしかないと判断する。

 

「止めろ!」

「嫌よ。私に意地悪したあの女にお仕置きをしているのに、一体何が悪いと言うの?」

「何が悪いか、誰が悪いかではなく。俺はミールを解放しろと言っている。もし、(いじ)めを続けるならば、俺もお前を赦せない。これが最後の警告だ。ミールを解放しろ」

「イ・ヤ・よ」


 駄々こねる幼女のように応対してくる白い魔女。

 俺の脅しはまったく利き目無かった。

 俺はしようがなしに黒い剣の刃を白い魔女に向ける。

 その敵対行為を見た白い魔女は、眉毛をひとつビクンと上げる。

 

「魔剣エクリプス。もうひとりの主人に歯向かうつもり?」


 そんな魔力でも籠っているような言葉を彼女が放つと、黒い剣はプルプルと独りで震え出し、そして・・・

 

カシャン!

 

 黒い剣は鞘へと戻ってしまった。

 もう抜けない。

 

「くっ!」

「まだやる?」


 白い魔女は挑戦的に俺を睨む。

 剣を封じられた俺は大幅な戦力ダウンだ。

 しかし、引く訳にもいかない。

 無手の戦いでも、多少の自信と勝算が俺にはある。

 

「ハァーーーッ!」


 俺は発奮し、そして、白い魔女に飛びかかった。

 白い魔女もそうなる事を予想して横に飛び退くが、俺は逃がさない。

 彼も彼女と同じ方向に飛んで、ひらひらと揺れる彼女の白いローブの裾を掴む事に成功する。

 

「わっ、止めてよ。破れちゃうじゃない!」


 ローブの裾を掴まれた事に焦る白い魔女は急に立ち止まるが、そこで足を(くじ)かせて転んでしまった。

 可愛くてお茶目だと思うが、その転んだ姿は少々破廉恥でもある。

 転んだ拍子にローブが(めく)れてしまう。

 そして、彼女はローブの下にズボンは履かず、ブーツと細くて白い足が覗いていた。

 そのブーツの上部から覗く白い御身脚と肉付きの良い太腿が衝撃で僅かに揺れたのが見えた。


ゴクリ


 俺は盲目の筈だが、それでもハッキリと見えるものは見えたのである。

 思わず生唾を飲み込んでしまったが、その姿に見惚れてしまったのも否めない。

 しかし、これはまずい。

 俺は紳士だ。

 掴んでいた彼女のローブの裾を解放してやった。

 これはアンフェアだと思ったからであり、決して彼女の色香に惑わされた訳ではない。

 それだけは言っておこう。

 そんな白い魔女は少しだけ涙目になり、そして、俺を強く睨み見返してきた。

 

「まったく・・・どうやらアクトを連れ帰すためには、少々本気にならないといけないようね。覚悟しなさいよ!」


 どうやら、俺はこの魔女を本気にさせてしまったらしい・・・

 

 

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