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第九話 罪と罰 ※

 私の名はキリュス。

 エストリア帝国の闇社会で名高い犯罪者組織『闇夜の福音』に所属していた暗殺者だった。

 ここで表現が過去形なのは、私が『闇夜の福音』から抜けたからである。

 理由は明白。

 組織から処分されようしていたから逃げたのだ。

 その発端となったのが、とあるひとつの事件。

 私の中で唯一失敗した案件。

 それが組織崩壊の原因でもあった。

 

 あれは忘れる事もできない、ラフレスタの仕事である。

 『闇夜の福音』で重要な依頼人(クライアント)のひとりであるルバッタ商会の会長。

 あの時の私はルバッタ会長の闇の仕事の右腕として雇われていた。

 ルバッタ会長から与えられる仕事は警護、情報収集、暗殺など多岐に渡っていたが、私に何の不満もない。

 寧ろ、人に苦痛と死を与えるこの仕事は、私にとって悦楽であり、次にどんな依頼が来るのか楽しみにしているほどであった。

 そして、あの日の夜、私・・・いや、我々は大きな失敗をする。

 当時、ラフレスタで頭角を現し始めていた義賊団『月光の狼』。

 その義賊団がルバッタ商会に目を付けた事を察知した我々は、奴らを罠にかけて壊滅させる計画を立てていた。

 その企みはうまく行き、餌に喰いついた『月光の狼』をひとり、またひとりと殺害する。

 我々は鼠を痛ぶる猫の如く、彼の義賊団を追い詰める事に成功して、統領を含めた幹部達をあともう少しで屈服させるところまで迫っていた。

 今、思えば、あの時すぐに奴らを殺していれば、我々に厄災が降ってくる事も無かったのだろう。

 我々に降ってきた厄災・・・それが『ラフレスタの白魔女』の登場である。

 追い詰めて殺害する筈の『月光の狼』の幹部達を偶然通りかかった『白魔女』が助太刀したのだ。

 それまで無名の存在だった『ラフレスタの白魔女』。

 今思えば、奇しくも我々が彼女の名声をこの世に知らしめる第一号となってしまった。

 そんな白魔女は圧倒的な力を持ち、我々は簡単に地の底へと落とされる。

 それまでの私は自分の魔法には自信があり、それなりの誇りも持っていたが、あの化物と比べてはならなかった。

 それほどに圧倒的な力を持つ存在、それが『白魔女』なのである。

 結果、我々はあっさりと返り討ちにあい、ルバッタ商会は壊滅する。

 そして、その時、私を含めた『闇夜の福音』の構成員三名は白魔女から呪いの魔法を受けてしまった。

 その呪い魔法とは『魔法を使えなくする』魔法である。

 魔法を行使しようとすると、その身に苦痛が生じるのだ。

 強い魔法行使ほど、使用者に強い苦痛が現れるようになっていた。

 耐えがたい痛みは魔力の集中を阻害するため、魔法が成立し難いばかりか、無視できない痛みは私を気絶、もしくは、発狂させるほどの威力があった。

 こうして我々は魔法を封じられてしまったのだ。

 この瞬間から私は魔術師しての技能を失ったのも当然となる。

 そんな力を失った私・・・これを甘やかしてくれるほど『闇夜の福音』という組織は甘くない。

 私は用済みと判断され、処分されようとしていた。

 こんな私でも命が惜しい・・・だから、私は逃げたのだ。

 組織と決別して逃亡生活を選ぶ。

 勿論、組織からは追手が放たれたが、それを何とか()なす事はできている。

 三人ほどぶち殺してやったが、それ以上の追手は来ていないのが現状だ。

 普通は裏切者にそれほど甘くない組織なのだが、現在の『闇夜の福音』はこれで精一杯なのだろう。

 それほどに組織の弱体化が進行していた。

 それもこれも、あの『白魔女』のせいだ。

 ラフレスタに住むあの魔性の魔女・・・アイツにすべてやられたと思っている。

 永年、私が仕えていた悪徳商会のルバッタ会長に自白の魔法を掛けたのもヤツに違いない。

 何でも喋る魔法を掛けられたルバッタにより、我々組織の秘密はすべて公にされてしまった。

 構成員やアジト、資金の隠し場所など・・・現在、全ての要所にエストリア帝国警備隊の捜査が入り、管理下に置かれているらしい。

 これによって『闇夜の福音』は壊滅したに等しい状態。

 それは、私に追手がこれ以上来ない効果もあったが、それと同時に私は帰る場所を完全に失ってしまった。

 残された私は・・・この先どうする?

 しばらく途方に暮れていたが、それでも私は行動を再開する。

 私の当面の目的は、自分に掛けられた『魔法封じの呪い』を解除する事にある。

 魔法を使おうとすると耐えがたい激痛が走る己の身体。

 その激痛により、集中力が途切れて魔法が発現できなくなる。

 それも高度な魔法を使おうとすればするほど、この激痛が増し、最悪は気絶してしまう。

 一体どういう仕組みなのか全く理解ができない。

 私に悦楽と富をもたらしてくれた魔法という力を、あの『白魔女』は奪ったのだ。

 苦痛を我慢すれば、小さい魔法ならば使えなくもない。

 しかし、それは子供がするような簡単な魔法しかできない・・・駄目だ。

 実戦的な魔法を使う機会はこれで封じられて当然である。

 こうして、暗殺者の魔術師としてやってきた私の二十年のキャリアは一瞬にして吹き飛んでしまった。

 まったく惨めなものである。

 私に迫る災難はこれだけではない。

 自慢できる事ではないが、私はいろいろな人間から恨みを買っている。

 それは一流の暗殺者として永くやってきたので、私に命を奪われた者も数多い。

 私に復讐しようと思う存在は、そんな数多く殺してきた人間達の関係者もいたが、それに加えて自分の同業者・・・つまり同じ暗殺者からも命を常に狙われている。

 一言で言うと、私は妬まれていたのだ。

 そんな人間達に私が魔法を使えなくなった事実を知られればどうなるか。

 それは明白である。

 命を狙われる機会が増えるのだ。

 かつての仲間からも命を狙われる始末。

 私は逃げるので精一杯。

 もし、私にナイフの技術が無ければ、もうとっくにこの世から駆逐されていたのかも知れない。

 しかし、私は今のところ運良く生き残っている。

 だからこうして旅を続けられている。

 私に課せられた『魔法封じの呪い』を解いて貰うための旅は続いているのだ。

 呪いを解いて貰うのは、神聖魔法使いに頼むのが一般的で、一番良い方法でもある。

 しかし、実力ある高名の神聖魔法使いは『聖者』とも呼ばれており、私のような生粋の暗殺者と住む世界が違う存在。

 『神の使途』を自称している彼らに暗殺者の私が解呪を頼んでも、素直に応じてくれるとは思えない。

 それならばどうするか?・・・結局、私は闇の呪術師を頼る事にした。

 だから、砂漠の国に来たのだ。

 昔、仕事で付き合いのあった連中を頼り、砂漠の国の支配者である『牙王』と会うまではできた。

 年老いてもまだ覇気を持つ『牙王』は圧倒的な存在感を持っており、謁見では相当に胆力をすり潰したが、それでも彼の王は私の昔の働きを覚えてくれていた。

 その働きに免じて、砂漠の国の巫女を紹介して貰ったのだ。

 その巫女は砂漠の北のオアシス・アプルテにいるらしい。

 そして、オアシス・アプルテに行くのであればと、ついでに頼まれたのがひとつの伝令の仕事。

 それは『蜘蛛(くも)』という暗殺者に帰還の命令を伝える簡単な仕事であり、先日終わらせている。

 ただし、その『蜘蛛(くも)』と一緒にいた男の存在が少し気になった。

 その男からは『白魔女』の同系列のニオイを感じたからだ。


 ・・・まぁいい、多分気のせいだろう。


 私が『白魔女』と呼ばれる魔性の女に神経過敏となっているのかも知れない。

 そして、魔性と言えば、今、私の腕の中にいる若い女も同じだ。

 ちなみに、この女は白魔女とは少し違う系統の魔性の女であり、男を堕落させる本当の魔性の女に近い存在ではある。

 そんなことを思っていると、その女と目が合った。

 

「あら? 目が覚めたぁ?」

 

 そう言い、女は私の胸元に指を這わせてくる。

 常にエッチな魔性を放つこの浅黒い肌の砂漠美人。

 その女と三日三晩、深い関係になっていた。

 そして、この女は暗殺者としても侮り難い実力を持つと感じている。

 抱きあう合間にも私からいろいろな情報を引き出している。

 私も解っていながらにして答えてしまう。

 そんな会話の技術も彼女にあった。

 そして、彼女がその気になれば、関係を持つ中で、私は数回死んでいた。

 プロの私が解っていても、それほどに巧みな技術が彼女にあったのだ。

 そんな彼女からは延長戦の申し出がある。

 

「さっきも、なかなか良い感じだったけど、もう一回どう? 私も砂漠の男達に飽きていたところなのよ」

「い、いや・・・もう止めておこう」


 私はあっさりと拒否する。

 彼女と抱きあい続けるのも悪くはないが、暗殺者としての勘が警鐘を鳴らしていたからだ。

 

『このオンナにこれ以上本気になってはならない』

 

 根拠はないが、この直感に従った結果、私は今までなんとか生き永らえているのだから。

 

「それよりも今日は巫女に会わせて貰う約束だから・・・うっ、おい、やめ・・・ろっ!」


 私の言う事をまったく聞かない女。

 こうして身体は彼女に支配されていく・・・

 くっそう。

 

 

 

 

 

 その後、蛍と言う名の女暗殺者はなんとか満足してくれて、私をようやく解放してくれた。

 そして、今の私は巫女の館にいる。

 私の目の前には年老いた老婆がひとりいて、私がここに来ることを解っていたようだ。

 

「お前が蛍から聞いておったキリュスじゃな?」


 目の前の老婆は、あまり歓迎しない眼差しを私に向けて、そう問う。

 確かにそうだろう。

 私など、この巫女にとっては面倒事にしかならないのだから。

 そうを感じたのは蛍と言う女性も同じだったらしい。


「オババ。病み上がりで申し訳ないけど、この人のことを観てあげてよ」

「蛍は厄介事を儂に持ってくるのが好きよのう・・・んん?」


 この会話で巫女の名前がオババと呼ばれているを解ったが、そのオババは蛍の身体に残る私の痕跡に気が付いてしまった。


「お前もモノ好きじゃのう。こんなジジイと寝るとは・・・しかも異常にテカテカしておって・・・それなりに満足したようじゃがなぁ。はぁ~」


 オババは呆れた顔で蛍にそう告げる。

 私の二倍は生きていると思われるこの老婆から『ジジイ』呼ばわりされるは少々癪だと感じるが、この『蛍』と言う女が男好きである事実は否定しない。

 そして、このオババもその事実を良く理解しているようだ。


「まぁいいわい」


 オババがそんな簡単な言葉で締めくくったことから、彼女らにとってこれが日常なのだろうと察した。

 そして、そんなオババは話題を切り替えて、私の用事について確認してくる。

 

「魔女から受けた呪いを解いて欲しい・・・それがお前の望みだとか?」

「そうだ」

「あいや、解った」


 そう言うと、その直後、老婆の両手から黒い煙が沸き、私を一瞬にして飲み込んだ。

 そして・・・


「無理じゃな」

「な!?・・・そんなに簡単に結論を述べるな!」


 私は呆れるしかない。

 全てが雑だと思ってしまった。

 「とりあえず術を出しました」的な対応で、やっつけ仕事で済まされてしまった感のある私は、オババの仕事ぶりをまったく信用できないと感じた。

 

「私は白魔女という悪魔に呪いを掛けられて・・・」

「それは解っておるから、いちいち説明せんでもいいわい。お前に掛けられた呪い・・・『制約(ギアス)』は儂には解除できん。はい、終わりじゃ」

「そんな簡単に結論を出されても困る! 魔法が使えなくなった私の気持ちも察してみろよ!」

「それは十分に理解しておるぞ。儂はお前の心を直接観たのじゃからなぁ。ワハハハ。しかし、駄目なものは駄目で、無理なものは無理なのじゃ。魔法の使えぬ暗殺者の魔術師など笑い者じゃなぁ。もう引退すればいいんじゃよ。そこの蛍の相手ぐらいならば、役に立っじゃろうしのう。蛍も暗殺者を引退して儂のあとを継げばいいんじゃ~」

「ぐぬぬぬ。この似非(エセ)巫女めぇ~ 言わせておけば!!」


 私を愚弄するこの老婆に殺意さえ覚える。

 そして、その老婆の弟子に当たるらしい蛍からも私を挑発する言葉が続く。

 

「あとを継ぐかどうかは別にして、確かに私のオトコにしてあげるのも悪くないわねぇ。歳の割にはそこそこだったしぃ」

「ぐぬぬぬ。この雌猫共めぇ!」


 どうせ妊娠しない魔法を使っているから私と遊んでも問題ないと思っているらしい。

 男として非常に情けない。

 そんな余裕の蛍を後悔させてやろうかっ!?

 こんなふざけた女達に、私が怒りに身を任せていると・・・


トン、トン


 

・・・不意に後ろから肩を叩かれた・・・

 

 

「そうね。アナタは引退すべきよ」

 

 

「なっ!」

「えっ!」

「誰じゃっ!!!」

 

 ここで驚きの声を挙げたのは、私だけではない。

 オババも、蛍も、同時に驚いている。

 ここで現れた新たな人間の存在など、誰も感じられていなかった。

 全く不意を突かれたからだ。


 オババの実力は解らないが、私と蛍は一流の暗殺者だと思っている。

 そんな我々にも察知できない存在・・・果たしてそんな化物がそこに居た。


「何っ! 白魔女ーーー!」


 顔半分を覆う白い仮面と、起伏に富んだ身体に吸い付くタイトな白いローブ姿を、私は彼女の事を忘れる筈もない。

 私から魔法を奪った白魔女が、再び私の目の前に現れたのだから。

 私は慌てて白魔女から距離を取り、そして、一流暗殺者である蛍の行動も早かった。

 彼女は口に含んだ毒針を発射して、突然現れた不審者を倒そうとする。

 

プップップップッ

 

 細かい毒針は正確に白魔女の顔面へと迫るが、相手は白いローブの裾を翻す。

 それは普通の布に見えて硬質な鉄の膜のように簡単に蛍の毒針を跳ね返した。

 蛍の攻撃は暗殺者として完璧なタイミングであったのに、これだ。

 そう、この白魔女は人間じゃい。

 人間じゃないので、倒せないし、殺せない。

 ならば,取るべき行動はひとつ。

 私は自分に苦痛に苛まれるのを覚悟して、ひとつの魔法を無理やり発動させた。

 

「光よ。我が身を乗せて進めーーーー、っぐぐ、グワーー!」


 頭が割れるほど頭痛に襲われながらも、何とかひとつの魔法を発動させる事に成功する。

 これは転移の魔法。

 そう、敵わないならば、逃げるだけだ。

 私の身体が光の魔法に包まれる瞬間・・・彼女の事が目に入った。

 今朝方まで肌を重ねていた女性――蛍と呼ばれる砂漠の美女。

 そのとき、私は自分に似合わない行動をしてしまった。

 自分の必殺技を防がれて面食らう状態の蛍の腕を取り、一緒に転移する事を選んでしまう。

 ふたり分だと魔力は二倍。

 私の頭痛は強烈さを増し、意識が飛びそうになる。

 しかし、何とか奮闘して魔法は成功した。

 魔法の光が増し、それに包まれた私と蛍はこの場から脱出した。

 

 

 

 

 

 

 そして、ここはオアシス・アプルテから一キロほど離れた砂漠の真ん中。

 

「た、助かった!」


 私は玉の汗を掻きながら、それでも命がある事を喜ぶ。

 無理やり一緒に転移してきた蛍も無事なのを確認した。

 彼女は突然の展開に意思が追い付かず、呆然としているようだが、それでも無事は無事である。

 私は少しだけ安心して、重い息をひとつ吐く。

 しかし、最悪の魔女はそんな私達を赦してはくれなかった。

 

「そ・こ・に・い・る・の・は・解・っ・て・い・る・の・よ・ぉ・ー!」

 

 途切れ途切れに聞こえる白魔女の声。

 まるで地獄の底から響いてくる声だと思う。

 そして、その直後、私と蛍は首根っこを誰かに掴まれた。

 

「うわっ!」

「キャッ!」


 私と蛍が同時に悲鳴を発した直後、空間が歪んで暗転し、そして、石の床へと叩き付けられる。


ダン!


 なんと、元の巫女の屋敷に連れ戻されたのだ。

 転移先の魔法を読み、そこへ強引に手を入れて引っ張り戻されたようだ。

 

「滅茶苦茶な魔法めぇ!」

 

 私から漏れたそんな呪詛の言葉も、この白魔女には通じない。

 その直後に白魔女から睨まれると、身動きが出来なくなってしまう。

 白魔女の瞳から拘束の魔法が放たれているのだ、と頭では理解しているが、既に対抗のしようが無い。

 こうして私達三人は簡単に白魔女の虜囚となってしまう・・・

 

「まったく、手間の掛かるクズ共だわ」


 たいした手間をかけていないにも係わらず、白魔女からそんな理不尽な愚痴が聞こえてくる。

 私達は蛇に睨まれたカエルのように身動きが取れず、これで生死与奪権は完全に白魔女に握られた状況になる。

 

「さぁ、吐いて貰いましょう。私のアクトをどこにやった? ミールはどこ??」


 白魔女はえらくご立腹で、そんな彼女の最初の餌食となったのは巫女である。

 

「な、なんじゃ! この魔女は? わぁぅぅぅ」


 巫女が口で抗えたのはほんの一瞬であった。

 その直後に目がトロンとなり、顔がだらしなくなる。

 おそらく、白魔女に心を操られているのだろう。

 その白魔女の目は巫女(オババ)を貫くように観ている。

 きっと、心を読まれているに違いない。

 

「・・・なるほど。アナタがミールの育て親ね。しかも、暗黒の女神の巫女という存在。人の心と記憶と運命を視る事もできるようねぇ。それでアクトの何を視たの? ふむふむ、そうね。そりゃアクトはカッコいいからね。そして、そして・・・うーん、これは頂けないわ。『死神』なんて言い過ぎよ。それにアクトにそんな仕打ちをするなんて・・・ムカつくわね。罰を与えてやろうかしら?」


 何やらブツブツと言う白魔女であったが、それでも私刑(リンチ)には至らず、この巫女(オババ)を解放した。

 

「う、ぅぅぅ」


 呻き声を挙げる老婆は、今でも嫌な汗を掻いてびっしょりである。

 その怖さは私も理解できる。

 何せ、あの白魔女は・・・彼女の滅茶苦茶さを回想していると次は私のところに来た。

 

「アナタは確かキリュスとか言う名前の犯罪者だったわね・・・あれから心を入れ替えたの? 反省できたかしら?・・・駄目ね。悪党は死んでも直らないか・・・ん、このオンナに対しては少しだけ情が沸いているようねぇ・・・」


 なんだか、私にとって認めがたい事をひとつ言われたような気もしたが、それ以上に白魔女が蛍に注意を向けた事が気になってしまう。

 

「うぅぅぅ」


 蛍はしっかりと怯えていた。

 彼女にしてもこれほどの圧倒的な強者と相まみえた事など経験に無いのだろう。

 ブルブルと小鹿のように震える蛍を目にして・・・ん!?・・・一瞬可愛いヤツだと思ってしまった?

 そんな不思議な感覚はさておき、白魔女の尋問が始まる。

 

「アナタの名前は『蛍』ね・・・ミールとは幼馴染でフランツとも知り合いな訳ね。そして、そのフランツが密かに恐れる女でもあると・・・ん? アナタ、アクトにもチョッカイを出そうとしてしたわね! 良かったわね~ 未遂で。もし手を出していたらアナタにお仕置きしていたところよ!・・・そして、そのミールとアクトの行先は・・・くっそう! また間に合わなかったか!・・・まぁいいわ。次の目的地は牙王城ね」

 

 こうして白魔女の一方的な情報収集は完了し、我々は解放された。

 白魔女からの圧力が無くなり、ようやく息ができる。

 

「うーー、ゴホゴホッ!」


 咳き込む蛍に、白魔女の目は冷ややかである。

 

「まったく、それにしてもこの女は毎日オトコと楽しみやがってぇ!・・・私なんかがアクトなしで我慢していると言うのに。なんだか腹立たしいわ!」


 白魔女が蛍に愚痴る内容は、私との事を言っているのだろう。

 確かに、三日間も飽きもせずに・・・

 そう思っていると白魔女も同じ事を考えていたようだった。


「アナタ、やっぱりオトコと遊びまくりで本当に節度がないオンナのようだから、ちょっとお仕置きよっ!」


 そう言うと白魔女の手が光り、その光の魔法が蛍の胎を打ち抜いた。

 

「ヒャアァーーーンンン!!」


 白魔女の魔法を喰らった直後、蛍は色っぽい声を発して、口から唾液が零れる。

 そんな醜態を晒した蛍に、白魔女は厳しい言葉を告げる。

 

「これでアナタの妊娠を回避する魔法は無効化したわ。今後、魔法は効かない。それから薬の効果もなしよ。今後、アナタが異性と関係を持つときは覚悟する事ね。もしかしたら既に三日間楽しんだツケが回ってくるかも知れないけど・・・アナタが新しい命の尊さを理解すれば、異性と安易に関係を持つ事も無くなるでしょう」

 

 それだけ言い残すと、白魔女は足早に去ろうとする。

 しかし、何かを思い出したように振り返り、一言だけ言い残した。

 

「私はどんなことをしてもアクトを奪い返すわ。もしかしたらミールに酷い事をするかも知れない。しかし、今回の場合、私は被害者なのだから恨まないで頂戴。それじゃあ、私は旅路を急ぐから」


 こうして、白魔女は本当に去っていった。

 来る時も一瞬だったが、去る時も一瞬である。


 その後に私達がすぐに自由になれたかと言うと、そうではない。

 白魔女の暴力的な魔力の残滓に圧倒されてしばらく動けずにいた私と老婆(オババ)

 そして、何故か幸せそうな表情を続けている蛍の姿が・・・私には印象深かった。

 

 

さぁ、白魔女さんが追い付いてきたよ!

果たしてミールは逃げ切れるか??


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